22 / 145
第一章 幼少編
022「幕間:アシュリー・シュタイナーはかく語りき(4)」
しおりを挟むお兄様が突然、周囲を見渡し始めた。
すると、ここから少し離れたところにそびえる大きな岩山をみつけると「お? あの山とかいいな」とか言い出した。私はそれを見て「何をするのだろう?」とふと思っていると、
「アシュリー⋯⋯ちょっとごめんよ」
「ひゃっ!?」
お兄様が突然私の肩をグッと掴んだ。すると、
「はぁぁぁぁ⋯⋯」
「っ?!」
お兄様のかざした右手から『火の弾』がいくつも無数に出現した。そして、
「⋯⋯火炎弾」
ドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!
「きゃあああああああ!!!!!!!!!!!!」
「「「「「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」」」」
お兄様の右手から無数の『火の弾』が岩山に向けて放たれた。そのあまりの轟音と衝撃に私もそこにいた男の子たちも悲鳴をあげる。
モウモウと立ち込めた煙が収まり、視界がよくなったとき、私と男の子たちは衝撃的な光景を目の当たりにする。
「や、山が⋯⋯無くなってる⋯⋯」
そう。あのさっきまでそびえ立っていた岩山が跡形もなく消えて無くなり、岩山が塞いで見えなかったその先の森が剥き出しになって表れていた。
「い、今の⋯⋯火炎弾って⋯⋯中級の火属性魔法じゃ? ど、どうして、そんな中級魔法がここまで威力あるの⋯⋯?」
確かに、お兄様が今放ったのは間違いなく中級魔法の『火炎弾』だ。でも、こんな威力は見たことがない。お母様の火炎弾もすごい威力だったけど、お兄様のは威力がまるで違い過ぎる。
私はさっきまでのいじめられたことはすっかりと忘れ、お兄様の尋常じゃない魔法に呆気に取られていた。でも、お兄様は私の様子など特に気にすることもなく、男の子に話を続けた。
「これでわかったかな? 君たちがもし約束を破ったら⋯⋯⋯⋯容赦しないからね?」
「は、ははははははいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!」
「うん。じゃあ⋯⋯⋯⋯ここからさっさと立ち去れ、ガキども!」
「「「「「う、うわぁぁぁぁ!!!!! ご、ごめんなさいぃぃぃ!!!!!!」」」」」
こうして、五人組のいじめっ子は一目散に逃げていった。
*********************
「お兄様⋯⋯あの⋯⋯」
「ああ⋯⋯ごめんね、アシュリー。ついカッとなって⋯⋯僕のこと、怖かったでしょ?」
「そっ!? そんなことないですっ!!!! す、すごく⋯⋯⋯⋯カッコよかったです」
「え? ホント? あ、ありがとう⋯⋯たはは」
——帰り道、お兄様はいつもどおりの口調に戻って、いつもの優しいお兄様に戻っていた。
「あ、あの⋯⋯お兄様⋯⋯助けてくれて⋯⋯ありがとうございます」
「ううん。僕の方こそ、ごめんね。アシュリーを見失ってしまって⋯⋯」
「ち、違いますっ! あ、あれは、私が勝手に⋯⋯私が勝手にお兄様の前から姿を消したんです!!」
「え? そうなの?」
「ご、ごめんなさい。それと⋯⋯」
「?」
私はお兄様にこれまで自分がお兄様に抱いていた心の内を打ち明けた。
「そうだったんだ⋯⋯」
「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
「いいよ、別に。だって、あんまり家にいなかったしね、僕。たはは⋯⋯」
「お、お兄⋯⋯様⋯⋯」
お兄様はいつもの優しい笑顔で私に気遣った言葉をかけてくれた。
「お、お兄様⋯⋯」
「ん? なんだい?」
「お兄様はどうして⋯⋯まだ八歳なのにあれだけの魔法が使えるのですか? しかも、さっき放った魔法は中級魔法の火炎弾ですよね? 私、同じ魔法をお母様が見せてくれたのを覚えていますが、お兄様のは正直⋯⋯お母様とは比べ物にならないほどの威力でした。どういうことですか?」
「ん? んん~⋯⋯」
お兄様は私の質問に答えようかどうか一瞬悩んだ。
「⋯⋯そうだね。アシュリーは家族だし、僕の大切な妹だから話そうかな」
そう言うとお兄様は、少しはにかみながら私にすべてを話してくれた。
「え⋯⋯? う、うそ⋯⋯?」
「たはは⋯⋯。まあ、にわかに信じられないよね」
「い、いえ! 大丈夫です、信じられます! だ、だって⋯⋯さっき、この話が本当だと証明するだけの魔法を見せてもらいましたから!!!!」
「あ、そっか。そうだね⋯⋯たはは」
そう言って、お兄様は照れ臭そうに笑った。
す、すごい⋯⋯っ!
お兄様はとんでもない人だった!
この話を聞いた時、私は前にお父様とお母様が言っていた言葉を思い出した。
——————————————————
「ああ⋯⋯カイトはいいんだ。カイトは私たちの手には負えないから。我々にはアシュリーくらいの天才がちょうどいい」
「ええ。だからお兄ちゃんは気にしなくていいのよ、アシュリー。あなたは私たちでしっかりと強くしてあげるわ」
——————————————————
あの二人の言葉はお兄様を見限って言った言葉なんかじゃない。
お兄様は、今の私と同じ五歳のときにはすでに⋯⋯⋯⋯お父様とお母様を超えていたんだっ!!!!
「アシュリー⋯⋯僕がアシュリーにこの事を教えたことは内緒だよ。父上、母上には『まだアシュリーには言わないで』って言われているから」
「は、ははは、はい! お兄様っ!!!!」
こうして、お兄様の秘密を知った私はそれ以降⋯⋯⋯⋯お兄様を世界一愛するようになりました。
*********************
——後日談として
ちなみに、あの五人組は約束どおりこの時の出来事を誰にも話すことはありませんでした。
ていうか、その後、なぜか私のところにきて「アシュリー様!」と言い出して、行くところ、行くところ、ついて来るようになった。そして、気づいたら『アシュリー親衛隊』なるものが発足され、領内の子供教室の最大勢力となっていた。
あと、その頃から私はお兄様と一緒に騎士学園に通いたいと思うようになったので、飛び級制度を利用するため、剣術・武闘術・魔法はもちろん、勉学にも力を入れるようになった。
あと、なぜだかあの五人組も「僕たちはアシュリー様の親衛隊ですからっ!」と言って、私と一緒に飛び級で騎士学園に入学するべく一緒に勉強に励むこととなる。
いずれにしても、私はお兄様のおかげで今のような楽しい環境を手に入れた。
そんな、カッコよくて優しいお兄様に私は少しでも恩返しをしたい。いえ、どうせなら⋯⋯お兄様の『生涯の伴侶』として側に居続けたい!
こうして、その日から私の『お兄様の生涯の伴侶として側に居続けるにはどうすればいいか計画』を考える日々が始まった。
1
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる