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第二章 騎士学園編
037「待ち伏せ」
しおりを挟む——放課後
「よぉ~、カイト・シュタイナー」
「⋯⋯イグナス・カスティーノ」
寮に帰る最中、俺とザックはイグナス・カスティーノと手下連中に待ち伏せをされた⋯⋯⋯⋯予想通りに。
「ち~と⋯⋯面貸せや」
そうして、俺とザックはイグナスの手下に囲まれながら校舎の奥へと歩かされた。俺たち騎士団入団希望の生徒が学ぶ校舎⋯⋯『騎士棟』を抜けると、奥には魔法や魔道具などの研究者を目指す生徒が学ぶ『研究棟』や、国の行政機関で働く役人を目指す生徒が学ぶ『文官棟』がある。
さらに、その校舎を抜けると森が広がっており、この森もまた騎士学園の敷地となる。ちなみに、この森で訓練や演習などを行ったりする。
そんな学園の敷地内の森の中に俺たちは入っていった。しばらく歩くと、いきなり開けた場所が出現する。
「ここは一体?」
「ここは、昔の生徒が人目のつかないところで秘密特訓をするために作った更地だそうだ」
「へー、ザックって結構いろんなこと知ってるんだね」
「ま、まあ、単にいろいろな話を聞いたりするのが好きなだけだけどな」
「おい、うるさいぞ。黙って歩け!」
ドン。
俺たちの後ろにいたイキがった手下の一人がザックの肩を押した。
「さーて、じゃあ、この辺でいいだろう⋯⋯おい、カイト・シュタイナー」
イグナスが俺に声を掛ける。すると、
ドン。
「オラ! イグナス様のところに歩け!」
「⋯⋯」
さっきのイキがった手下が今度は俺の肩を強く押した。こいつ、後から殺す。
そうして、俺はイグナスの正面に立った。
「とりあえず、一度だけお前にチャンスをやろう、カイト・シュタイナー。今朝の教室での一件を土下座して詫びろ。そうすれば許してやる」
「え? 今朝の件って何?」
「お前が奴隷になるのを嫌と言って、俺に恥をかかせた件だよ」
「え? なんでイグナスが恥をかくの?」
「⋯⋯何?」
「奴隷になるのが嫌って言っただけだよ? 別に何も問題はないかと⋯⋯」
「そうか。なるほど、わかった。もういい⋯⋯」
「あ、わかってくれた? よかっ⋯⋯」
「身体強化⋯⋯」
キーン。
「ふっ!」
「っ?!」
バキっ!
イグナスは身体強化をするや否や、突然俺に殴りかかった。しかし、俺はすぐに腕で防御する⋯⋯が、
ズザザザ⋯⋯!!!!
イグナスの身体強化した拳の威力は思っていた以上にあったため、俺は予想以上に体を後方に流された。
「⋯⋯いきなり、殴るなんて非道いじゃないか」
「な、何っ?! 俺の身体強化した拳を受け止めた⋯⋯⋯⋯だとっ!?」
イグナスは俺が拳を受け止められないと思っていたようで、かなり驚いている。
「⋯⋯イグナス。もしかして、僕のことリンチしようとしてる?」
「当たり前だ! 前にザックたちにやられたようにもう一度、俺自らお前に身の程を分からせてやるっ!」
「あ、ちなみに言っておくけど⋯⋯」
「あぁんっ!!!!」
「⋯⋯僕、ザックにリンチなんてされてないし、お前にもリンチされるつもりなんてないから」
「っ?! な、なんだと⋯⋯?」
「ちなみに、この包帯も全部⋯⋯ブラフだから」
そう言って、俺は包帯やガーゼを剥がした。
「ところでイグナス⋯⋯学園ルールって知ってる?」
「学園ルール?」
「うん⋯⋯『騎士学園に生徒として学ぶこの三年間、生徒同士は身分に関係なく平等に扱うものとする。また、その生徒間の問題に親が介入する事は許されない』てやつ」
「はんっ! それがどうした! そんなのはな、ただの飾り。ただの建前に過ぎん!」
「え? そんなことないよ? だって、僕、さっき学園長に確認したもの」
「何? 学園長に?」
「うん。この学園ルールの効力は今も変わらないってさ。だから、イグナスが上級貴族で僕が下級貴族であろうと、僕は敬語を使わなくていいし、同級生ということで対等に接しても何も問題ない。いや、むしろ、対等に接するのがこの学園のルールだ」
俺は今朝、レコに職員室に呼ばれた後、その足で学園長室にその言質を取っていた。
ちなみに、それ以外の言質ももらったが⋯⋯。
********************
——今朝 学園長室にて
「学園長! 学園ルール⋯⋯『この学園にいる間は身分に関係なく平等に接すること、また親の介入は許されない』というのは、今でもちゃんと効力はあるのでしょうか?」
「ああ、もちろんじゃ。この学園ルールは今も効力は健在じゃ」
「じゃあ、例えば⋯⋯身分の低い生徒が身分の高い生徒に敬語を使わなかったり、ケンカになってもそれがリンチといった卑怯な手段での暴力でなければ親が介入することは許されないって認識で合っていますか?」
「うむ。その認識で良いぞ」
「わかりました。ありがとうございます! では失礼しま⋯⋯」
「カイト・シュタイナー君」
「! はい?」
俺は学園長から言質を取れたので教室に戻ろうとしたら学園長に止められた。
「⋯⋯今、君が学園ルールの効力を私から確認を取りにきたということは、何か面白いことを考えているのかな?」
「!」
見ると、学園長はニコニコしながら俺の返事を待っている。頬染めんなっ!
「え? あ、いや、特には⋯⋯」
「カイト・シュタイナー君。前にも言ったが、私は君の味方だ」
「! 学園長?」
「君の好きなようにやりたいことをやってみなさい。何かあったときは私が⋯⋯⋯⋯手助けしてやる」
「っ?!」
学園長が最後の言葉を発したその一瞬——俺の背中にゾクッと悪寒が走った。この学園長⋯⋯ただものじゃない。
「よ、よろしく、お願い⋯⋯します」
「うむ。苦しゅうない」
********************
「つまり、お前はその学園ルールに効力があるから俺に身分をひけらかして命令するな、と言っているのか?」
「そうだ」
「じゃあ、もし俺がお前をムカつくと言って、仲間を使ってリンチするのも学園ルールでダメだと言っているのか?」
「いやいやいやいや⋯⋯その前にリンチ自体やっちゃダメなやつだから。学園ルールがどうこうとかそれ以前の問題だから。ていうかさ、お前、上級貴族で魔法も使えるはずなのに俺みたいな下級貴族にタイマン張ることもできないのか?」
「何⋯⋯だとっ!?」
「だって、そうだろ? お前、下級貴族や平民に比べれば魔力量もあって魔法も使える上級貴族なのに、自分の手は汚さずに手下にリンチさせるって⋯⋯お前ケンカするのが怖いのか?」
「っ!?⋯⋯て、てめえ」
「あ、もしかして図星か? それで、もしケンカに負けたら今度は裏家業やっている親父さん呼んで、俺や俺の家族を非道い目にあわせるってか? は~⋯⋯カッコ悪っ!」
「親父はカンケーねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
ビリビリビリビリ⋯⋯っ!!!!
イグナスが急に血相を変えて大声で叫ぶ。すると、体内から魔力を発散させたのか、周囲の空気を振動させた。
「あービックリした! いきなり怒鳴るなよ。でもお前、どうせ、いま口約束してもすぐに破って親に報告するんだろ?」
「しねーよっ! ていうかお前、さっきと違って口調も雰囲気も変わったな。猫かぶってやがったのかっ!?」
「さて、何のことやら⋯⋯?」
「おもしれー⋯⋯お前、おもしれーよ。いいだろう、お前のケンカ⋯⋯タイマン買ってやるよ! 親も身分もカンケーねーっ!!!!」
「本当だな?」
「ああ。て言うかお前、タイマンなら俺に勝てるとでも本気で思ってんのか? 仮に下級貴族のお前が魔法を使えたとしても、上級貴族の俺の魔力量に遠く及ばない下級貴族のお前では魔法の威力の差は歴然としてるぞ? ていうか、絶対に勝てないぞ? わかってんのか?」
「知らん。ていうか、下級貴族でも上級貴族に勝る魔力量を持っているかもしれないだろ?」
「何⋯⋯っ!?」
「正々堂々、タイマン勝負してくれるかわりに手加減してやるよ。さあ少年、ドーンとかかってきなさい!」
前世、四十歳の俺が顔を出しました(チラっ)。
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