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第二章 騎士学園編
040「幕間:それぞれのside」
しおりを挟む【イグナスside】
「カイト・シュタイナー⋯⋯何者だ、マジで?」
昨日、下級貴族のくせに上級貴族の俺の命令を無視する生意気なカイト・シュタイナーを懲らしめようと、手下を連れて待ち伏せをした。
待ち伏せして奴を連れ出すことに成功した俺は、森にいるある『秘密訓練場』でカイト・シュタイナーにヤキを入れようと思ったら⋯⋯返り討ちにあった。
正直、俺は上級貴族で魔力量も豊富にある。おまけに中級魔法もいくつか習得している。
俺のように魔力量が豊富であればそれに乗じて魔法の威力も高くなるので、そう簡単に負けることはあり得ない。ましてや下級貴族に負けるなんぞ断じてありえん!
おまけに、俺は得手不得手はあるものの三属性の初級・中級魔法を習得している。
まあ、複数属性が使える魔法士ならではの特徴である『すべてが平均レベルの魔法しか扱えない』という点は俺もご多分に漏れないのだが、それでも騎士学園入学時点であれば一回生の中では、ほぼ敵なしといっても過言ではないだろう。
そんな俺様がまさか下級貴族の聞いたこともない奴に負けた。実際はあいつの魔法を見て「勝てない」と一瞬で思い知らされ、自分から負けを認めたのだが⋯⋯。
それだけカイト・シュタイナー⋯⋯カイトの魔法は異常で別格だった。しかも全然、余力を残していた。
正直、カイトの魔力量はやばいと思う。そんな豊富な魔力を持つ奴が一体どんな魔法を習得しているのか⋯⋯。ま、まさか! その上の上級魔法も習得しているとか?! そんなこともあり得るのだろうか?
わからん。わからんが、少なくともあいつはまだ『全然、力を隠している』ことだけははっきりしている。上級貴族で魔法量の多い俺でさえ相手にならないほどに。
もしかして、あいつ下級貴族ではないのか? いや、そんなはずはない。そんな身分を隠すようなフシはなかった。ということは、あの力はたまたま生まれつき備わった才能ということか。
いずれにしても奴は謎が多い。ていうか、そもそもあいつ自身『猫かぶり』をしていたわけだし。そして、それに対して俺たちは誰も気づけなかった。
「奴の目的は一体、何だ? あ、いや、目的⋯⋯言ってたな。たしかハーレムとかなんとか⋯⋯?」
わからん。まったく、わからん! カイト・シュタイナー。
そして、あれよあれよと俺は奴の『シャテー』というものになった。『シャテー』というものは、ザックが言うには『仲間みたいなもの』だと言っていた。
少し癪だがまあいいだろう。おかげでザックとも仲直りできたし。ていうか、ザックが俺のことであんなに思い悩んでいただなんてショックだ。
ザックとは物心ついた時からの親友だ。子供時代も一緒に過ごしていたし、あいつも俺のことを一番の友達だと思っていたと思う。だって、あいつは他の下級貴族と違って何かと俺に近づいて話しかけたりしていたから。
俺はザックのことが大好きだ。話をすれば真面目で素直だし、俺の質問には何でも答えるほど頭も良い。それだけじゃない。あいつの笑顔はいつもキラキラ輝いて素敵なんだ。俺が親父や兄貴に理不尽に殴られ痛めつけられたときも、子供教室に行ってあいつの笑顔を見ればそんな嫌なことはすべて吹き飛んだ。
そう言えば、ザックが『一生、何でも言うことを聞く俺の奴隷になるのだと思っていた』なんて言ってたな。馬鹿だな、あいつ。俺がザックのことをそんな『何でも言うことを聞く奴隷』になんてするはずがな⋯⋯い、いや待てよ? それはそれで⋯⋯けっこう⋯⋯。
そ、そそそ、そうだ! いや、そうではない!
と、とにかく! そんな、純真で笑顔の素敵な頭の良いザックをカイトに良いように利用されるのは我慢ならん!
だから、俺は奴の『シャテー』となり、ザックの側から離れず、常に寄り添いながらカイトからザックを守るっ! 絶対にだっ!
********************
【ザックside】
「カイト⋯⋯すごかったな」
俺は、ついさっきまで目の前で起こっていた信じられない『光景』を思い出していた。
「あ、あの、イグナス様の一番得意な風属性中級魔法猛襲風刃を⋯⋯まさか同じ中級魔法の氷結爆砕で一瞬にして凍らせるなんて⋯⋯」
あり得ない。あり得ないことが幾つも重なり過ぎて『あり得ないが渋滞を起こしている』⋯⋯そんな感じだ。
「ちょっと、書き出して整理してみよう」
——————————————————
『あり得ないが渋滞を起こしている件』
1.下級貴族のカイトが中級魔法を使えていること
2.下級貴族のカイトの中級魔法の威力が、上級貴族のイグナス様の中級魔法の威力を凌駕していたこと
3.カイトは誰から中級魔法を教わったのか?
4.カイトは誰から魔力コントロールを教わったのか?
5.そもそも下級貴族が上級貴族の魔法量を上回っている謎
——————————————————
「うわぁ⋯⋯引くわ~」
書き出した内容を改めて見直すと、カイトのあまりの非常識っぷりに俺は引いた。
「本当にカイトって何者なんだろう?」
彼は猫をかぶっていた。そして、その『猫かぶりカイト』は今後も継続するらしい。
なぜ、わざわざを猫をかぶるんだろう?
謎だ。まったくの謎だ。
「それにしても、イグナス様が俺のことを親友だと思っていてくれてただなんて⋯⋯」
俺はイグナス様がどういう思いで接していたのかを知らされて愕然とした。そして、俺が今まで悩んでいたことは全部、ただの勝手な妄想に過ぎないこともわかった。
よくよく考えてみれば、確かにイグナス様は俺に気さくに話しかけてくれてたし、優しくもしてくれていた。なのに俺は勝手に、イグナス様が俺を一生奴隷にしてただの捨て駒のように理不尽に弄ぶ⋯⋯もしくは、俺が何でも言うことを聞くことを良いことに『イグナス様の玩具』として一生飼い殺すつもりなものだとばかり思っていた。
俺はなんて歪んだ目でイグナス様を見ていたのだろうっ!
イグナス様は俺のことを『一生の友達』だと言ってくれた。だから俺も、これからイグナス様のことを『一生の友達』として、大切に、大事に、付き合っていくっ!
これまでの無礼も含めて、これからはイグナス様と仲良くやっていくと俺は心に強く誓った。
********************
【カイトside】
「いやだから! 俺の物語に『BLタグ』とか入れないからっ!」
それぞれのside/おわり
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