85 / 145
第二章 騎士学園編
085「予選トーナメント三回戦(9)」
しおりを挟む「それでは、第八試合⋯⋯⋯⋯はじめーーーっ!!!!!」
ゴーーーーン!
「先程の試合の余韻が残っていて何ともやりにくいですが、早々にカタをつけさせてもらいます。観客にもあなたにも『変』に期待を持たせるのはよくない⋯⋯」
「⋯⋯闇属性下級魔法『隠密』」
「え? 今、君なんて⋯⋯⋯⋯っ!?」
開始早々、サラがボソッと小声で魔法を展開。すると、サラの体から『黒い霧』が発生し、サラを包み込んだ。
「こ、これは⋯⋯まさか! 闇属性魔法っ!?」
ジェヌスが闇属性魔法を見て、動きを止める。
「っ!? あ、あれは、闇属性魔法っ!!!!」
レイア姫はサラが展開した魔法を見て身を乗り出す。すると、観覧席や舞台周囲で見ている試合を終えたBクラスやCクラスの一回生も、目の前のサラの闇属性魔法にレイア姫と同様驚きを示していた。
「レ、レイア姫様。やっぱり闇属性魔法は珍しいんですか?」
「あ、ああ。闇属性魔法は光属性魔法同様使える者は少ない。それにもっと言えば、光属性よりも闇属性のほうがさらに使役できる者は限られる。それに⋯⋯」
「?」
「それよりも、何よりも驚きなのが、それを使役している者が一回生で、しかも平民の生徒という点だ。この目の前の事実に私も含め、この会場の皆が珍しさとその使役者の出自に驚愕している」
「⋯⋯なるほど」
要するに、滅多に拝めない『闇属性魔法』を一回生の平民の生徒が使ったもんだから、二重、三重の意味で度肝を抜かれている皆さん⋯⋯という図式のようだ。
Aクラス配属の上級貴族ジェヌス・ピレリが魔法を放とうとした瞬間、先にサラが闇属性魔法を展開し、サラの周りを黒い霧が包んだため、一旦、動きを止めていた。そして、霧が晴れると、
「え? さ、さっきまでいた彼女は一体⋯⋯どこに?」
ジェヌスは舞台上でキョロキョロと周囲を見渡すが、対戦相手であるサラを見つけられないでいた⋯⋯⋯⋯目の前にいるにも関わらず。
「ん? あのAクラス配属の奴は、何をキョロキョロしているんだ?」
「あれが、闇属性初級魔法の『隠密』の効果だ。効果対象は相手のみだが、視界から術者の姿と気配を希薄にさせるというものだ。しかし、初級魔法の『隠密』であの距離で、しかも目の前にいる相手を認識できないということは、それだけこのサラの魔法威力が高いのだろう。信じられん。彼女は本当に平民なのか?」
レイア姫が横で説明している間に、舞台ではジェヌスがサラをみつけられずにオロオロとする中、サラはジェヌスの背後に立ち、手をかざし魔法を発動する。
「『炎球』」
「がっ!?」
ドサ。
サラの放ったのは火属性の初級魔法とはいえ、背後からの『不意打ち』であれば、さすがの上級貴族であるジェヌスも意識を刈り取られるのは自明の理。そのまま失神して倒れ、決着がついた。それは、呆気ない幕切れであった。
「試合終了! しょ、勝者はまたもや、平民のサラ選手! 本日まさかの⋯⋯二回目の平民生徒による下克上となりましたー! ちょっ! これ、大丈夫なのぉぉぉぉ!!!!!!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉ!!!! いいぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」
司会のフェリシアは二度目の下克上に困惑していたが、観客のほうは前回と違って結果を楽しんでいるようだ。柔軟性高いな、この国の国民。
********************
「ふー。それにしても二回続けて『平民による下克上』が発生するとはな」
レイア姫が少しぐったりして横で腰を下ろしている。目の前では十試合目が行われているが、さっきまでの二試合とは違って、だいぶレベルが低い試合だったため、レイア姫も観客も少し興奮した頭や体を休ませていた。
「そうですね」
「おいおい、カイト。君は他人事のように振る舞っているが、一回生の中で一番のインパクトは君だからな?」
「え?」
「だってそうじゃないか。カイトはそもそも予選トーナメントに参加せずに『学園長推薦シード』で決勝トーナメント行きが決定しているんだよ? それは、つまり試合をせずして『Aクラス入り』が決定しているということなんだぞ? 下級貴族の君がだよ? 目の前の試合で君も観客も忘れているようだが、一番のインパクトはぶっちぎりで君だよ、カイト・シュタイナー」
(ドキ!)
そう言って、ニコリと少し挑発するような笑みを浮かべるレイア姫に、俺は目を奪われた。
「ふふ、決勝が楽しみだよ」
「あ、え、いや、その⋯⋯はい」
な、何だろう? 今日のレイア姫はやけに積極的だ。ただ、俺はこの世界の常識をまだよく知らない部分が多いから、レイア姫のこういった言葉や行動が俺に興味を示しているところからきているのか、正直、判断ができない。
最初は「あれ? 姫様、俺に惚れたか?!」などと思っていた時期もありました。しかし、しかしだ。彼女は王族でお姫様なのだ。なので、俺の周囲にいる人間とはまた常識が違っている可能性が非常に高い。
なので、これまでのレイア姫の行動がすべて「好意によるもの」と勘違いすると、後で痛いしっぺ返しを食らう気がしてならない。
俺がレイア姫に心奪われ、ドキマギしている横で試合が終了していたようだ。勝ったのはAクラス配属の上級貴族の生徒。まあ、順当通りの勝利のようだ。
「あ、レイア姫様! いよいよ、最後の試合ですよ。最後はどうなりますかね?」
「はっはっは。それは、少し期待しすぎだぞ、カイト。残念ながら先程の試合のように、順当通り上級貴族の生徒が勝つと思うぞ? その前の二試合が異常過ぎたのだからな」
「ふーん、そうなんですね」
おっと、これまた『フラグ』のような⋯⋯。
「それでは、予選トーナメント最終の第九試合を開始致します!」
1
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる