87 / 145
第二章 騎士学園編
087「予選トーナメントを終えて」
しおりを挟む「予選トーナメントはこれで終了となります。決勝トーナメントは30分後に再開しますので、それまでしばらくご寛ぎくださいませ」
司会のフェリシア・ジャスミンが予選トーナメント終了のアナウンスをすると、観覧席のあちらこちらでこれまでの予選トーナメントの話で盛り上がっていた。
その中でも、特に一部の貴族たちでは予選トーナメントの最終試合の話で持ちきりだった。
********************
【カスティーノ家side】
「おいおい、今の最後の試合で見せた『リュウメイ』という生徒のあの技て⋯⋯」
「はい。あれはヤマト皇国独自の武闘術『龍拳』の技かと⋯⋯」
カスティーノ家当主ルドルフ・カスティーノの呟きに答えたのは、息子で『騎士団最強の一角』といわれるケビン・カスティーノ。
「ということは、あの『リュウメイ』という生徒はヤマト皇国の者だってのか?! そんなの聞いてないぞ!」
「そうですね。私も初めて知りました。ただ、そうなるとこれは『他国の生徒が騎士学園に侵入した』ということになりますが、しかし、その割には学園長⋯⋯ハンニバル・シーザー様が特に動きを見せていないところを見ると⋯⋯」
「ああ。おそらく、ハンニバルのジジイが知っていたのは間違いない。そして、その場合、ラディット国王も絶対に知っているんだろう。いくらハンニバルのジジイでも、さすがに他国の生徒を国王に無断で入学させることなんてないからな」
「そうですね。それに⋯⋯」
「⋯⋯ああ。おそらくこの『リュウメイ』というヤマト皇国の生徒も含めて、今回のこの大会で何かを画策しているのは間違いない」
「⋯⋯ですね」
二人は各々で思考を巡らせる。
「まあ、いずれにしてもハンニバルのジジイから何らかの発表があるだろう。ジジイの手のひらで踊らされている感は面白くないがな」
********************
【騎士団長アルフレッドside】
「あ、あれは⋯⋯あの技は⋯⋯ヤマト皇国の武闘術『龍拳』の龍拳・三位階『龍流流転』」
騎士団長アルフレッド・ヴェントレーは、予選最終試合の『リュウメイ』の技名をポツリと呟く。
「はい。ヤマト皇国の龍拳の技で間違いないですね」
アルフレッドの言葉に反応するのはクラリオン王国騎士団進軍官、騎士団序列三位のゼノ・アマルフィ。
「ヤマト皇国の生徒の話は学園長からは何も話を聞かされていない。なぜだ? ハンニバル様は何を企んでいる?」
アルフレッドは自分たちにも内密に何かを進めている学園長の意図を探る。
「⋯⋯団長、無駄。我々が、ハンニバル様の理解、不可能」
普段、あまり喋ることの少ないゼノがいつもの片言の言葉で返事をする。
「ハンニバル様は、いったい、この一回生のクラス編成トーナメントで何をしようとしているのだ⋯⋯?」
アルフレッドは学園長の意図に気づかず不安ながらも、何かあった時のためにすぐに飛び出せる準備をした。
********************
【ジャガー家side】
「お、おい! 最後の試合で『リュウメイ』という奴が繰り出した技は、ヤマト皇国の『龍拳』という武闘術の技じゃねーか!? なぜ他国の生徒が無断で我がクラリオン王国の騎士学園に通っている! これは大問題だぞ!」
当主のランドルフ・ジャガーは、顔を真っ赤にして立ち上がる。
「父上! お待ちください」
「なんだ、エミリオ! 貴様、邪魔する気か!」
「落ち着いてくださいよ、父上。おそらくこれ、学園長の何かの策略だと思いますよ? だから、騒ぐのは得策じゃないです」
「何ぃぃぃ~???」
左目に眼帯をした二メートルもの巨躯のランドルフ・ジャガーが、息子のエミリオに圧をかける。
「さっき、イグナス・カスティーノのこと調べてて気づいたんだけど、どうやら今回の大会はいろいろ『サプライズ』があるっぽいよ?」
「何~? サプライズだ~?」
「はい。とにかく今、騒ぐのは得策じゃないよ、父上。とりあえず決勝トーナメントまで見ようよ?」
「⋯⋯まー、お前が言うのならいいだろう」
「ありがとう、父上! あ! あとさ、カスティーノ家のイグナス・カスティーノのことだけど⋯⋯」
「どうした?」
「彼があそこまで急激に魔法量や魔法威力がアップしたのは、どうやら『カイト・シュタイナー』という生徒が原因らしいよ?」
「カイト・シュタイナー?」
「あの⋯⋯『学園長推薦シード』の生徒だよ」
「ああっ!? あの下級貴族の生徒か!」
「はい。そして、そのカイト・シュタイナーがどうやらイグナスに、彼独自の魔力コントロールを教えて急激に魔力量や魔法威力が増えたらしい」
「なっ!? なんだ、それは! カイト・シュタイナー独自の魔力コントロールだと?! 何者だ、このカイト・シュタイナーという奴は!」
「そこまではまだわかりません。ですが⋯⋯⋯⋯タダ者ではないのは確かです」
さっきまで戯けるような話し方をしていたエミリオの空気が変わる。
「! ほう? お前がそこまで警戒するほどの男だと?」
「⋯⋯個人的には、先ほどのヤマト皇国の『リュウメイ』という生徒よりも気になるよ」
「⋯⋯ふむ、そうか。そんなお前が『今、騒ぐのは得策じゃない』というのなら付き合ってやるとするか」
「ありがとうございます、父上」
「⋯⋯動天世代か。もしかすると、それさえもハンニバルの手のひらなのかもしれんな。⋯⋯胸糞悪い」
そう言うと、ルドルフはギリッと歯噛みする。
——30分後
「皆さま、お待たせしましたーー! これより決勝トーナメントを開催⋯⋯⋯⋯の前に!」
「「「「「!!!!!!!」」」」」
司会のフェリシアは一度、間を置いて深呼吸すると、
「クラリオン王国騎士学園、学園長ハンニバル・シーザー様と、なな、なんと! ラディット国王様によるご挨拶がありますぅぅぅーーーーー!!!!」
「「「「「え? ええええええええええ!!!!!!」」」」」
観覧席は突然の学園長ハンニバル・シーザーの登場もさることながら、クラリオン王国国王、ラディット国王が一回生のクラス編成トーナメントに登場し挨拶するという『異例の事態』に度肝を抜かれていた。そして、
「なっ!? ラ、ラディット国王⋯⋯だと!!!! 学園長は一体何を⋯⋯!?」
「おいおいおい! ハンニバルのジジイに、ラディット先ぱ⋯⋯ラディット国王までお出ましかよ!」
「ぬぅぅ⋯⋯一体、何なんだ?! 今回の一回生のクラス編成トーナメントは! 異例尽くしじゃねーか!」
それは、騎士団長アルフレッド、ルドルフ・カスティーノ、ランドルフ・ジャガーの御三方もまた例外ではなかった。
そんな、異様な雰囲気の中、舞台に学園長ハンニバル・シーザーとラディット・クラリオン国王が姿を見せた。
1
あなたにおすすめの小説
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる