「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

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第二章 騎士学園編

106「カイトの本音 〜リリアナ戦/カイトside〜」

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——【リリアナ戦 カイトside】

「なんだ、これは⋯⋯?」

 リリアナが俺に「私の⋯⋯本気、受け止めてください」と言って、俺にしがみつく。瞬間——

「ハルカラニ家相伝魔法『愛ノ奴隷ラブ・スレイブ』!」

 トゥンク!

 リリアナと俺から謎の『ハート型のピンクの光』が迸る。同時に『トゥンク』という『ときめきスラング音』も響き渡った。いや、まさか異世界で『トゥンク』を『音』として聴く機会が訪れようとは。

 最初、神様が言っていた『異世界転生の原点は、日本人の厨二病発想が原点』というのは本当なんだな、と改めて実感すると同時に、どこか残念な気持ちになった俺は「はぁ~」とため息を一つこぼす

 そんなことを考えていると、俺の精神に『何か』が干渉を試みようとしてきた。観察してみると、どうやら『それ・・に身を委ねると、絶大な甘美による快楽に包まれるもの』のように感じた。

(なーるほど。『魅了魔法』だね)

 俺は、リリアナが放った魔法が『魅了魔法のようなもの』であると瞬時に判断。

——そして、一考する。

 まず、リリアナが俺に放った魅了魔法のたぐい⋯⋯。『魔法名』にリリアナの家名である『ハルカラニ家』を冠しているのであれば、それはリリアナにとって『奥の手』『必殺』に位置する魔法なのであろう。『相伝魔法』というのはよくわからんが、字面をみれば、まあ、その家独自の特別な魔法といったところか。となれば、普通に考えれば、不利な状況を一瞬で覆せるほどの威力を持つ魅了魔法なのだろう。

 しかし、しかしである。リリアナの魅了魔法が俺の精神を干渉・侵食することはなかった。もっと言えば、まったく気にならないレベルである。

 これは、リリアナ⋯⋯術者が未熟なだけなのか、この魅了魔法自体が俺に通用しないのか、はたまた、俺独自の魔力コントロールである魔力を全身に循環させているおかげで魔法を無効化させているのか⋯⋯その辺はわからない。

 だが、まあ、とりあえず俺は至って正常であるので、ここですぐに「魔法効いてないよ」と告げて、リリアナを無効化し、試合をすぐに終わらせることは容易であった。

——しかし、俺はそこで閃く。

「リリアナの魔法にかかったフリ・・・・・・をしてみようかな」

 その考えに至った理由は二つ。一つは、リリアナが魅了魔法にかかった俺に対して『何をしてくるのか』という興味から。今は『試合』であって『殺し合い』ではない。であれば、普通に考えれば、リリアナはまず間違いなく俺に『降参』するよう命令するだろう。

 もし、その要求をしてくるのであれば、俺は即座に「魔法、効いてないなりよ~」とでも言って、速やかに試合を終わらせる。だが、もしも、それ以外に何か・・をしてくるのであれば、ちょっと付き合ってみよう⋯⋯そう思ったのだ。

 では、なぜそう思ったのか。その理由はリリアナの魔法にかかったフリをする理由の二つ目・・・の理由に通ずる。それは⋯⋯⋯⋯「もう自重しなくていいよね?」というもの。

 こんなことをリコの前で口走ったものなら「どの口がっ!?」などと盛大なツッコミをいただくであろう。だがしかし、俺からすれば「ずっと自重してますけどなにか?」といったところである。

 これまで、まだ入学して一ヶ月ちょっとではあるが、ここまで学園生活をしてきていろいろとわかったことがある。その一つが『現時点での俺の強さ』だ。

『なろう歴十年強(カクヨム含む)』の俺だ。しかも、それ以前から『異世界もの作品』や『特殊能力による無双系作品』といったファンタジー作品(映画・アニメ含む)に造詣を深めていた俺だ。そんな俺が、今の時点の自分の強さはちゃんと自覚しているし、ごまかすつもりもない。つまりは⋯⋯、

——『敵なし』

 もう、この一言に尽きるだろう。特に奢りでもなければ、見栄でもなく。「僕程度の力なんて⋯⋯」などと、そんなぬるい解釈をのたまう・・・・つもりもない。

 それが、俺が「自重をやめよう」と思うに至った経緯である。

「もう自重をやめて、現・騎士団の膿や、この国自体に潜む膿すべてをほふろう。協力者がいようがいまいが俺一人ですべてを屠ろう。そうして、俺の『異世界に転生したらやりたいことリスト』の実現を加速していっちゃうぞっ!」

 ということで、俺は、リリアナのこの魅了魔法『愛ノ奴隷ラブ・スレイブ』を利用するべく『魔法にかかったフリ』を始めた。

 すると、リリアナが「下級貴族である俺にまつわる『身の程を超えた噂の真意』について知りたくないですか、皆さん!」などと観客を煽り、味方につけた。そんなリリアナを見て、俺は「ふむ⋯⋯思っていた以上に『狡猾』で素晴らしいな」と感心する。

 まあ、俺としてもそのリリアナの観客への『煽り』は都合がよかったので、そのままリリアナに言われた通り『自分のこと』について話をした。

 すると⋯⋯そこでリリアナや観客の反応を見た俺は強烈な違和感・・・を感じる。

「ベクターとジェーンの存在が⋯⋯⋯⋯隠されてる?」

 リリアナも観客も俺が『ベクターとジェーンの子供』ということに心底驚いていた。しかも、周囲の声の中に「どうして二人の子が生まれたことを国民に知らせないんだ?」といったかなり気になる反応もある。

 まとめると、どうやらベクターとジェーンは俺が思っていた以上に『英雄扱い』されていたのだ。

 そんな『英雄二人の息子』であれば、本来、学園でもすぐに俺の出自の噂は広まるだろう。しかし実際は『シュタイナー』という家名に対して特段、聞かれることはなかった。

 それに、両親が過去に活躍した『英雄』であれば、歴史の授業でその名が出てきてもおかしくないはずだが、ベクターとジェーンの名前が出たことはない。

 そう考えると、今、思えば、騎士団に詳しい⋯⋯というか『騎士団オタク』のカートでさえ、俺の家名に反応していなかったのも『?』である。

 レコにいたってもそうだ。騎士団に在籍していたレコでさえ、俺の家に来て、ベクターとジェーンが『元騎士団長と副団長』ということを聞かされるまで知らなかったのだ(ジェーンのうっかり発言によるものだが)。

 しかし、いくらベクターとジェーンの存在を世間に隠していたとしても、ベクターとジェーンの年齢(40歳、39歳)と、俺が生まれたときにはすでにシュタイナー領の領主だったことを考えれば、少なくとも騎士団長現役時代は十数年前程度のはず⋯⋯。その程度の時の経過であれば、まだベクターとジェーンを覚えている人は多いはずだ。だが、現状は俺が今、告白カミングアウトしたことで周囲は思い出したという感じだった。

 ここまで大勢の人が十数年しか経っていないベクターとジェーンの存在をキレイ・・・に忘れ去れるものなのだろうか? その辺については学園長から後で話を聞いてみよう。

 少なくとも、今言えることは、そこまでするほど現・騎士団と両親に何か大きな軋轢・・があるということ。そして、その二人の存在を世間にここまで隠せるだけの大きな権力を持った存在・・・・・・・・・・・が背後にいることは間違いないだろう。

 王族? 国王? 宰相?⋯⋯それとも別の何か?

 俺は「まだ、わからないことが多すぎる現状、自重を今ここで捨てるのは⋯⋯時期尚早か」という結論に至った。

 そんなわけで、俺は「もう少し、茶番猫かぶりを続けよう」ということになったのだが、とはいえ、周囲には「こいつ、めちゃくちゃ強いのでは?」と思わせる程度には告白カミングアウトをしておいた。

 理由は『異世界に転生したらやりたいことリスト』の一つである『一見すると、ただの普通の生徒だが、実はめちゃめちゃ強い奴なのでは?と周囲に思わせるやーつ』を実現させたかったから。

 こうして『異世界に転生したらやりたいことリスト』の一つを達成させた俺は、意気揚々と舞台から去ったのだった。
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