106 / 145
第二章 騎士学園編
106「カイトの本音 〜リリアナ戦/カイトside〜」
しおりを挟む——【リリアナ戦 カイトside】
「なんだ、これは⋯⋯?」
リリアナが俺に「私の⋯⋯本気、受け止めてください」と言って、俺にしがみつく。瞬間——
「ハルカラニ家相伝魔法『愛ノ奴隷』!」
トゥンク!
リリアナと俺から謎の『ハート型のピンクの光』が迸る。同時に『トゥンク』という『ときめきスラング音』も響き渡った。いや、まさか異世界で『トゥンク』を『音』として聴く機会が訪れようとは。
最初、神様が言っていた『異世界転生の原点は、日本人の厨二病発想が原点』というのは本当なんだな、と改めて実感すると同時に、どこか残念な気持ちになった俺は「はぁ~」とため息を一つこぼす
そんなことを考えていると、俺の精神に『何か』が干渉を試みようとしてきた。観察してみると、どうやら『それに身を委ねると、絶大な甘美による快楽に包まれるもの』のように感じた。
(なーるほど。『魅了魔法』だね)
俺は、リリアナが放った魔法が『魅了魔法のようなもの』であると瞬時に判断。
——そして、一考する。
まず、リリアナが俺に放った魅了魔法の類い⋯⋯。『魔法名』にリリアナの家名である『ハルカラニ家』を冠しているのであれば、それはリリアナにとって『奥の手』『必殺』に位置する魔法なのであろう。『相伝魔法』というのはよくわからんが、字面をみれば、まあ、その家独自の特別な魔法といったところか。となれば、普通に考えれば、不利な状況を一瞬で覆せるほどの威力を持つ魅了魔法なのだろう。
しかし、しかしである。リリアナの魅了魔法が俺の精神を干渉・侵食することはなかった。もっと言えば、まったく気にならないレベルである。
これは、リリアナ⋯⋯術者が未熟なだけなのか、この魅了魔法自体が俺に通用しないのか、はたまた、俺独自の魔力コントロールである魔力を全身に循環させているおかげで魔法を無効化させているのか⋯⋯その辺はわからない。
だが、まあ、とりあえず俺は至って正常であるので、ここですぐに「魔法効いてないよ」と告げて、リリアナを無効化し、試合をすぐに終わらせることは容易であった。
——しかし、俺はそこで閃く。
「リリアナの魔法にかかったフリをしてみようかな」
その考えに至った理由は二つ。一つは、リリアナが魅了魔法にかかった俺に対して『何をしてくるのか』という興味から。今は『試合』であって『殺し合い』ではない。であれば、普通に考えれば、リリアナはまず間違いなく俺に『降参』するよう命令するだろう。
もし、その要求をしてくるのであれば、俺は即座に「魔法、効いてないなりよ~」とでも言って、速やかに試合を終わらせる。だが、もしも、それ以外に何かをしてくるのであれば、ちょっと付き合ってみよう⋯⋯そう思ったのだ。
では、なぜそう思ったのか。その理由はリリアナの魔法にかかったフリをする理由の二つ目の理由に通ずる。それは⋯⋯⋯⋯「もう自重しなくていいよね?」というもの。
こんなことをリコの前で口走ったものなら「どの口がっ!?」などと盛大なツッコミをいただくであろう。だがしかし、俺からすれば「ずっと自重してますけどなにか?」といったところである。
これまで、まだ入学して一ヶ月ちょっとではあるが、ここまで学園生活をしてきていろいろとわかったことがある。その一つが『現時点での俺の強さ』だ。
『なろう歴十年強(カクヨム含む)』の俺だ。しかも、それ以前から『異世界もの作品』や『特殊能力による無双系作品』といったファンタジー作品(映画・アニメ含む)に造詣を深めていた俺だ。そんな俺が、今の時点の自分の強さはちゃんと自覚しているし、ごまかすつもりもない。つまりは⋯⋯、
——『敵なし』
もう、この一言に尽きるだろう。特に奢りでもなければ、見栄でもなく。「僕程度の力なんて⋯⋯」などと、そんな温い解釈をのたまうつもりもない。
それが、俺が「自重をやめよう」と思うに至った経緯である。
「もう自重をやめて、現・騎士団の膿や、この国自体に潜む膿すべてを屠ろう。協力者がいようがいまいが俺一人ですべてを屠ろう。そうして、俺の『異世界に転生したらやりたいことリスト』の実現を加速していっちゃうぞっ!」
ということで、俺は、リリアナのこの魅了魔法『愛ノ奴隷』を利用するべく『魔法にかかったフリ』を始めた。
すると、リリアナが「下級貴族である俺にまつわる『身の程を超えた噂の真意』について知りたくないですか、皆さん!」などと観客を煽り、味方につけた。そんなリリアナを見て、俺は「ふむ⋯⋯思っていた以上に『狡猾』で素晴らしいな」と感心する。
まあ、俺としてもそのリリアナの観客への『煽り』は都合がよかったので、そのままリリアナに言われた通り『自分のこと』について話をした。
すると⋯⋯そこでリリアナや観客の反応を見た俺は強烈な違和感を感じる。
「ベクターとジェーンの存在が⋯⋯⋯⋯隠されてる?」
リリアナも観客も俺が『ベクターとジェーンの子供』ということに心底驚いていた。しかも、周囲の声の中に「どうして二人の子が生まれたことを国民に知らせないんだ?」といったかなり気になる反応もある。
まとめると、どうやらベクターとジェーンは俺が思っていた以上に『英雄扱い』されていたのだ。
そんな『英雄二人の息子』であれば、本来、学園でもすぐに俺の出自の噂は広まるだろう。しかし実際は『シュタイナー』という家名に対して特段、聞かれることはなかった。
それに、両親が過去に活躍した『英雄』であれば、歴史の授業でその名が出てきてもおかしくないはずだが、ベクターとジェーンの名前が出たことはない。
そう考えると、今、思えば、騎士団に詳しい⋯⋯というか『騎士団オタク』のカートでさえ、俺の家名に反応していなかったのも『?』である。
レコにいたってもそうだ。騎士団に在籍していたレコでさえ、俺の家に来て、ベクターとジェーンが『元騎士団長と副団長』ということを聞かされるまで知らなかったのだ(ジェーンのうっかり発言によるものだが)。
しかし、いくらベクターとジェーンの存在を世間に隠していたとしても、ベクターとジェーンの年齢(40歳、39歳)と、俺が生まれたときにはすでにシュタイナー領の領主だったことを考えれば、少なくとも騎士団長時代は十数年前程度のはず⋯⋯。その程度の時の経過であれば、まだベクターとジェーンを覚えている人は多いはずだ。だが、現状は俺が今、告白したことで周囲は思い出したという感じだった。
ここまで大勢の人が十数年しか経っていないベクターとジェーンの存在をキレイに忘れ去れるものなのだろうか? その辺については学園長から後で話を聞いてみよう。
少なくとも、今言えることは、そこまでするほど現・騎士団と両親に何か大きな軋轢があるということ。そして、その二人の存在を世間にここまで隠せるだけの大きな権力を持った存在が背後にいることは間違いないだろう。
王族? 国王? 宰相?⋯⋯それとも別の何か?
俺は「まだ、わからないことが多すぎる現状、自重を今ここで捨てるのは⋯⋯時期尚早か」という結論に至った。
そんなわけで、俺は「もう少し、茶番を続けよう」ということになったのだが、とはいえ、周囲には「こいつ、めちゃくちゃ強いのでは?」と思わせる程度には告白をしておいた。
理由は『異世界に転生したらやりたいことリスト』の一つである『一見すると、ただの普通の生徒だが、実はめちゃめちゃ強い奴なのでは?と周囲に思わせるやーつ』を実現させたかったから。
こうして『異世界に転生したらやりたいことリスト』の一つを達成させた俺は、意気揚々と舞台から去ったのだった。
1
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる