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第二章 騎士学園編
117「決勝トーナメント準決勝(3)」
しおりを挟む「な、なあ、イグナス?」
「何だ?」
「今、観客席の方から一際デカい声で『いいぞー、イグナスぅー! ベクター先輩の子供だからって遠慮すんなー! ブチのめせぇぇぇーーーっ!!!!』って声が聞こえなかったか?」
「さ、さささ、さあ?! し、ししし、知らんっ!!!!」
イグナスが明らかに動揺した。親御さんかな?
「そ、そんなことはどうでもいいっ! いくぞ、カイト!」
「来い、イグイグ!」
「イグイグ、言うなぁぁぁ~~~~~~っ!!!!」
イグナスがカイトに蹴りに拳にと連続攻撃を繰り出す。しかし、カイトはイグナスの連続攻撃を余裕で躱していく。
「チッ! この程度の速度じゃお前に当てることは無理か」
「そゆこと」
ババッ!
すると、イグナスが大きく後方に飛んで、俺と距離を取った。
何か⋯⋯仕掛けてくる?
「ふぅ⋯⋯⋯⋯勝負だ、カイト。これがもしお前に通用しなかったら俺の負けでいい」
「何?」
「はぁぁぁ~~~⋯⋯!!!!」
「む?」
ゴゴゴゴゴゴ⋯⋯!!!!
イグナスが体内の魔力の循環速度を飛躍的に上げ始めたのがわかった。イグナスの魔力がこれまでにないほどに増幅していく。
「な、なんつー魔力量だっ!? イグナスの奴、これほどまでに魔力の循環速度を上げて、魔力量を跳ね上げられるのかよっ!!!!」
イグナスの飛躍的な循環速度で増幅した魔力量に、ガス・ジャガーが驚きの声を上げる。それは、ガス以外のカートやディーノ、ザックはもちろん、レイアやレコ、そして観客もまた同様だった。
「魔法攻撃だとお前には届かない⋯⋯。だから俺は『武闘術』で勝負する! いくぞっ!」
ドン!
イグナスがさっきとは桁違いのスピードでカイトの懐に入ってきた。
「鋭拳・一ノ型『百華撃』っ!!!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ⋯⋯っ!!!!!
イグナスの無呼吸攻撃、鋭拳・一ノ型『百華撃』が炸裂。無慈悲なまでの拳や蹴りの連撃がカイトに襲いかかる。その攻撃にカイトは両腕をクロスさせブロックする。
「いいぞ、イグナス! 行けるぞ!」
「イグナス、頑張れー! リア充で調子こいてるカイトなんてぶっ飛ばしちまえっ!!!!」
「行けぇぇぇーーイグナスぅぅーーー!!!! 決めちまえぇぇーーーー!!!!!」
「父上! 大声出し過ぎぃぃぃ!!!!」
舞台横からはガスとカートによるイグナスへの声援(特にカートは私怨っぽいが)と、あと観客席からはさっきも一度聞こえたどっかのイグナスの関係者による声援も聞こえた。それだけじゃない。多くの観客がイグナスの『勝負手』による攻撃に大声援を送っていた。
そして、連撃を繰り出すイグナスの顔はニヤけ顔ではなく、清々しいほどの充実した笑顔になっていた。
「へっ⋯⋯なかなか良い顔してんじゃねーか、イグナス・カスティーノぉぉーーーっ!!!!」
ガシィィィ!!!!!
「な⋯⋯っ!?」
俺はその連撃中だったイグナスの拳を⋯⋯⋯⋯しっかりと掴んだ。
「くっ!?」
イグナスは、構わずすぐに連撃を始めようと今度は蹴りを出そうとしたが、
パシ!
「うっ!?」
それも、蹴り出す前に止める。
「う、うぉぉぉーーーー!!!!!!」
イグナスはまだ『百華撃』の無呼吸攻撃を繰り出せる状態だったので、必死に連撃を浴びせてくる。しかし、
パシ! パシ! パシ! パシ! パシ! パシ! パシ!
俺は、リリアナ・ハルカラニ戦の時のように、イグナスの連撃となる前の初撃をつぶす『初撃潰し』をした。
「う、嘘だろ? 大幅にアップした魔力量を全振りさせての鋭拳・一ノ型『百華撃』⋯⋯その連撃を持ってしてもカイトに届かないのかよっ!? 急成長した今のイグナスでさえも、カイトが『初撃潰し』ができるほどの圧倒的な差があるってのかよ⋯⋯」
ガスは、魔力コントロールで一瞬だけでも魔力量を増加させたイグナスの『百華撃』に対して、圧倒的な実力差がなければ使えない『初撃潰し』を行っているカイトに愕然とした。
そして、イグナスの『百華撃』が遂に完全に止まる。無呼吸攻撃状態が終わったのだ。
「くっ!⋯⋯お、お前は⋯⋯まだそんな⋯⋯遥か⋯⋯先⋯⋯なのか⋯⋯よ⋯⋯」
「フッフッフ、そういうことだ。もっと敬い給え、少年!」
「チッ⋯⋯言って⋯⋯ろ⋯⋯」
ガクン!
そう言うと、イグナスは意識を失ったのか、ガクッと膝をつき、そのまま倒れた。
「勝者! カイト・シュタイナーっ!!!!」
イグナスとの直接対決を制した俺は、いよいよ決勝へとコマを進めることとなった。
ていうか、カイト式魔力コントロールを教えて二週間足らずで、そこまで魔力をコントロール出来ているお前も立派に⋯⋯⋯⋯こっち側の人間だっつーの。
次は、いよいよ決勝——ヤマト皇国のリュウメイ・ヤマトとの対決である。これまで見た中で、ダントツな実力を持っているのはわかっている。ただ、その実力がどれほどのものかはまだよくわからない。
「リュウメイ・ヤマト。さすがに油断すると⋯⋯⋯⋯やられるかもな」
俺は、これまでにない緊張を感じながら、舞台裏の入口に立ってこちらを凝視するリュウメイ・ヤマトに視線を合わせた。すると、
「え?」
スッ⋯⋯。
突然、リュウメイは舞台裏から舞台にいる俺の方へと歩いてきた。観客もまさかのリュウメイの登場に驚きの声を上げる。
「やあ、カイト・シュタイナー! いよいよだね!」
「⋯⋯ああ。そうだね」
「あ! あとさ⋯⋯」
「??」
すると、リュウメイは突然俺の耳元に顔を向けて小声で呟いた。
「君が『猫かぶり』をしているのはわかっているから」
「っ!?」
そう言うと、また元の位置へ戻るとリュウメイは手を差し出す。
「ま、どっちでもいいけどさ! 良い試合にしようよ、カイト・シュタイナー!」
「う、うん。こちらこそ⋯⋯リュウメイ・ヤマト王太子」
出鼻を挫かれた俺は、必死に冷静さを保つよう努めたが、後でみんなに聞いたら『動揺バレバレ』と総ツッコミされた。
——いよいよ、決勝戦へ
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