暗黒騎士物語

根崎タケル

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第5章 黒い嵐

第15話 夢と眠りの神

 夜になり酒場の中に明かりが灯される。
 だけど魚油の匂いも酒の匂いも全くしない。代わりに桃色の煙が広い部屋の中へと充満している。
 この良い香りがする煙は光に照らされ、部屋を桃色に染め上げている。

「おいマルシャス。いつまでしけた面をしてんだ。折角この店が再開したってのによお。問題は解決したんだろう?」

 マルシャスが1人で酒を飲んでいると、この店に一緒に来た知り合いの男が片手に女を抱きながら側に来て言う。
 男はだらしない顔で女の胸をさわっている。
 以前のマルシャスなら、下卑た笑みを浮かべて言葉を返すが、今はそんな気になれない。

「そんなにしけた面をしてたか……、大丈夫だ。飲めば気分も良くなるさ」

 マルシャスは呟く。
 シェンナがいなくなった事でアイノエの機嫌は良くなった。
 これでマルシャスの失敗は帳消しになったので問題はない。
 だから、マルシャスの気分が悪いのはその事が理由ではない。

「へへ、そうか……。じゃあ行くぜ俺は」

 そう言って男は去って行く。
 マルシャスは後ろから仲間が抱き寄せている女を見る。

「蜘蛛……」

 思わずマルシャスは呟く。
 男が連れている女が一瞬蜘蛛に見えたのだ。
 去って行った女だけじゃない。この店にいる女の何人かが時々魔物に見えるのだ。
 女達はこの店の女中であると同時に娼婦だ。
 だが、普通の娼婦ではない。路地裏で客引きをしている女どもに比べてはるかに美人だ。
 マルシャスが知る限り、これほどの美人を揃えているのはここだけであった。
 この店は不思議な店であり、この店から出ると場所を忘れてしまうのだ。
 行きたい時は客引きを探さねばならず、その客引きの案内がなければ辿り着けない。
 女は美人で酒も料理もうまいこの店に来ればマルシャスはどんな嫌な事も忘れられた。
 もっとも、光の勇者が来る少し前から、この店に来る事が出来なくなっていた。
 しかし、今日になり、再びここに来る事が出来たのである。
 ただ、、折角店が再開されたというのにマルシャスは楽しい気分になれなかった。

「何でこうなっちまったんだ? おそらくあの時の事が原因か?」

 マルシャスは暗黒騎士と出会った時の事を思い出し、体が震える。
 あの目立たない男が正体を現した時に感じた恐怖がまだ残っているのだ。
 マルシャスは事もあろうにあの暗黒騎士を売ろうとしたのだ。
 殺されても仕方がなかった。
 しかし、暗黒騎士は殺すどころか「おかげで助かった」とマルシャスにお礼を言ったのだ。
 そしてマルシャスの頭に手を置き何かの魔法を使ったようであった。
 マルシャスはそれは呪いではないかと思っている。
 時々変なものが見えるのだ。 
 今回もそうであった。
 この店に来る時の案内人の全身に蜘蛛の糸が絡まっているのが見えたのである。
 それはまるで人形のようであった。
 また、前に来た時はあれほど美味しかった酒が、今回は美味しく感じなかった。

(本当に酒はこんな味だっただろうか? 前はもっと甘く感じた。同じ種類の酒のはずなのに今日は嫌な味がする。そういえば以前にも俺と同じ事を言った奴がいたな。ある日を境に見なくなったが今頃どうしているだろうか?)

 マルシャスは以前にこの店に一緒に来た者の事を思い出す。
 その者はある日を境に姿を見せなくなった。
 
(そう言えば、姿を見せなくなった奴は何人もいたような気がするな……)

 マルシャスはそんな事を考える。
 この店の常連の知り合いが、幾人かいなくなっている事に今頃気付く。
 その数は決して少なくない。
 しかし、今までそんな事を気にした事はなかった。
 消えたどの常連も最後に見た時は老人のようにやせ細り今にも死にそうであった事をマルシャスは思い出す。

「マルシャスさん」

 突然声を掛けられマルシャスは横を見る。
 いつの間にか女が1人立っている。
 この店で働いている女だ。
 幼さの残る可愛い女だった。
 ただ、今は下半身が蜘蛛に見えていた。 

「へへ、何ですかい?」

 マルシャスは内心を悟られないように言う。

「ザンド様がお呼びです。付いてきて下さい」
「ザンド様がですかい? もちろん行きますよ」

 マルシャスは笑う。
 ザンドはこの店の支配者であり、この店に来る男達から崇拝されている存在だ。
 もちろん、マルシャスもそうである。
 マルシャスは立ち上がり女の後へと続く。

(ザンド様は信頼できるお方だ。あの御方に会えばきっとこの不安も解消されるかもしれないぜ)

 やがて、マルシャスはザンドの部屋の扉の前に来る。

「ザンド様。連れてまいりました」
「ああ、入って良いよ」

 中から声が聞こえる。
 若い男の声である。
 マルシャスが女に促され部屋に入ると桃色の煙が充満している。
 その部屋の中央に一人の男が座っている。灰色の髪に血管が浮き出てきそうなぐらいの白い肌、目は切れ長で唇は紅い。
 この若い男こそがザンドであった。

「えっ?」

 ザンドの姿を見た時、マルシャスは思わず声を出してしまう。
 前に会った時と違う感じがしたからだ。
 マルシャスにとってザンドと会う事は喜びだった。ザンドのためなら死んでも良いとさえ思った。
 音楽家の子供として生まれたマルシャスは博打で身を持ち崩して、家を勘当された。
 それからの人生は散々だった。
 腕っぷしの弱いマルシャスは戦士になる事ができず、さらに弱い奴から奪って生きていくしかできなかった。
 そんな時にマルシャスは偶然ザンドに出会った。
 マルシャスは今まで生きてきて、ここまで信頼できる相手に出会えたのは初めてだった。
 マルシャスはザンドのために働き、多くの捧げものをしたのを覚えている。
 ザンドはそんなマルシャスのために様々な快楽を教えてくれた。
 アイノエを紹介したのもザンドである。
 つまり、ザンドはマルシャスにとって恩人である。
 常に感謝をしなければいけない相手であった。
 しかし、今は何も感じない。
 いや、むしろおぞましい何かをザンドから感じていた。
 マルシャスはザンドの部屋を見る。
 前と同じように沢山の女の生首が所狭しと戸棚に飾られている。
 マルシャスは前に一度だけ部屋に入った時は何も不思議には思わなかった。
 だけど、今ならわかる。この部屋は異常であった。

「マルシャス君? どうしたのかな? きょろきょろしてさ?」

 ザンドが笑いながら言う。

「いえ、何でもございやせん。えへへ」

 マルシャスは笑うと部屋に入る。
 背中に汗が噴き出しているのを気づかれないようにする。

「さっそくだけど、聞きたい事があるんだ。確か君は彼に会ったのだよね?どうだったかい?」
「彼? どなたの事でございやしょう」

 マルシャスがそう言うとザンドの顔が不機嫌になる。

「わからないかな。暗黒騎士の事だよ」

 ザンドに暗黒騎士と言われてマルシャスはびくっと体が震える。

「暗黒騎士ですかい?」
「そう暗黒騎士だよ。僕達の間で光の勇者と同じぐらい彼の事は有名だよ。僕の父ザルキシスの計画を2度も邪魔したみたいじゃないか? どんな奴なのか気になってね」

 ザンドは子供のように無邪気に笑う。

「どんな奴と言われましても。う~ん……。一見目立たない男です。ですが突然恐ろしくなるとしか言いようが……」

 マルシャスは何とか説明しようとするがうまく言葉が見当たらない。

「ゼアル君も同じ事を言っていたね。自分を隠すのがうまいのかな? 少しやっかいかもしれないね」

 ザンドはうんうんと頷く。

「ん?」

 マルシャスはふと視線を感じる。
 そして、視線を感じた方を見ると女の生首と目が合う。
 マルシャスは思わず叫びそうになる。

「うん? どうしたんだいマルシャス君?」

 マルシャスの様子に気付いたザンドがこちらを見る。
 そして、何かに気付いたように立ち上がる。
 立ち上がったザンドはマルシャスを見ていた生首を手に取る。

「そっ? その生首は?」
「ふふっ。見覚えがあるだろう。君が連れて来た女の子だよ。今では僕の大切な妖精の1人さ」

 ザンドは愛おしそうに生首を撫でながら楽しそうに笑う。
 マルシャスは確かに見覚えがあった。
 アイノエに憧れて家出してきた娘だ。美人だったが才能が無いので入団できなかった。
 しかし、それでもあきらめずに食い下がった娘だ。確か名前はカティアだったと思い出す。
 マルシャスはこの娘を裏で入団させてやると言って騙して新教主様に差し出したのだ。
 その首だけになった女がマルシャスを見ている。

「あなたにお礼が言いたいの、あなたのおかげでザンド様に出会えたのだから」

 女の生首が優しく微笑む。
 マルシャスは声にならない叫び声を上げる。
 逃げようとして体を扉の方へと向ける。
 しかし、そこには戸棚に飾られていた生首が飛んでいてマルシャスが部屋から出ようとするのを阻んでいた。
 生首となった女達がマルシャスを見ている。

「ああっ……」

 マルシャスは座り込む。

「ひどいなあ、逃げ出さなくても良いじゃないか? まさか、正気を取り戻しているとは思わなかったよ。さてどうするかな?」

 マルシャスの背中からザンドと生首の女の声が聞こえる。

「ザンド様。この方を私の首なし騎士デュラハンにしてもよろしいでしょうか?」
「良いのかい? 彼はとても弱そうだよ」
「ええ、かまいません」
「そうかい、それならば問題は無いね。喜びなよマルシャス君。君はこれから彼女の忠実な騎士になれるんだよ。ふはははは」

 その声が聞こえた瞬間だった。
 マルシャスは首に熱い何かを感じると、突然部屋がくるくる回り始める。
 そして、視界が止まった時に見たマルシャスの最後の光景は首を失った自身の体だった。





 目の前で首を失った人間の男が倒れる。
 夢と眠りの神ザンドはそれを覚めた目で見る。

「それにしてもまさか術を破られるとは思わなかった。この店の人間達は僕に逆らわないようにしてあるはずなのに、どうしてだろう? まあ、どうでも良いか」

 少し疑問に思ったがザンドは気にしない事にする。
 醜い首しか持たず、役に立たない者は覚えても仕方がないのだ。

「さあ、私を運びなさい。飛んでいるのは疲れるわ」

 カティアが言うと首を失ったマルシャスの体が起き上がる。
 そして、首だけの彼女を愛おしそうに抱きかかえる。
 首の有った所に乗せないのは、あくまで主人と従者だからだ。だからお姫様として抱きかかえるのである。
 
「もう、カティアったらそんな弱そうな男を首なし騎士デュラハンにしてもよいの?」
「別に構わないわお姉様方。もっと良い御方がいたら取り換えるだけですもの」
「それもそうね。私も選り好みしないで、そこら辺の男を騎士にしておこうかしら」

 生首だけの彼女達は笑い合う。
 ザンドは生首だけとなった彼女達に首を奪った相手の体を支配する能力を与えた。
 ただし、操る事ができる人数には限りがある。
 そのため殆どの者達は優秀な騎士であった男の体を操る。
 首を奪われた騎士は彼女達の忠実な下僕であるデュラハンとなるのである。

「さて、ゼアル君達の所に戻るかな。そろそろ話は終わっているだろうしね」

 ザンドは自身の可愛い妖精達に見送られ部屋を出る。
 ゼアルはナルゴルに生息するレッサーデイモンの事だ。
 そのレッサーデイモンのゼアルは蜘蛛女のアトラナクアが抱き込んで魔王を裏切らせた者である。今はこの建物の地下にいるはずであった。
 ザンドは廊下を歩き、地下へと続く入口まで行く。
 地下には降りると複数の影が並んでいるのがわかる。
 影達は1階にいる者達と違い人間ではない。
 全てがナルゴルに住む魔王の配下である。

「話は終わったかい、ウルバルド君?」

 ザンドは笑うと影達の中心に居るデイモンに話しかける。
 デイモンの名はウルバルド。
 魔王に仕える4名のデイモンロードの1柱である。
 彼は裏切った配下のゼアルを捕えるために配下を連れてこの地に来た。

「おおザンド殿。感謝しますよ、この裏切り者の居場所を教えてくれたのですから」
「ひいっ!」

 ウルバルドがそう言うとゼアルは頭を地面に付けて跪き、震えている。

「できれば彼を許してあげて欲しいのだけどね。彼のお陰で君と会談する事ができたのだからね」

 ザンドはゼアルを見て笑う。
 ザンドがゼアルを捕えに来たウルバルドの配下を探すのは簡単だった。
 そして、こちらから接触して会談を申し込んだのである。
 もちろんザンドの父親である死の神ザルキシスには内緒だ。

(僕は父であるザルキシスとは違う。父は魔王を敵視して、和解しようとしない。それは残念な事だよね。だけど、僕なら魔王とだって仲良くする事ができるはずだ)

 ザンドは争いからは何も生まれないと思っている。
 だから、神々は仲良くすべきなのである。
 実を言えばザンドはエリオスの女神達ともっとも仲良くしたいのである。
 しかし、なぜかあの美しい女神達はザンドを嫌うのだ。
 ザンドはその事がとても残念だった。
 ザンドとしては、もっと美しくしてあげようと思っているのにだ。
 そして、何とかしてあの美しい女神達の首を手に入れたいと思う。

「ええ、良いですよ。許しましょう。そういうわけだゼアル。お前を見逃してやる。お前などいてもいなくても特に問題は無い。だから、ザンド殿を手伝え。それに元々閣下からの連絡で温情ある処置をしてくれと頼まれていたからな」

 ウルバルドは冷たく言い放つ。

「ありがとうございますウルバルド様!!」

 ゼアルは頭を地面に擦り付けてお礼を言う。

「いや~、良かったねゼアル君。君にはまだまだ働いてもらわないといけないからね」

 ザンドはほっと胸をなでおろす。
 ゼアルはザンドと同じく人間を愛する同志である。
 愛し方は違うが助かって良かったと思う。

「いえいえ。こんな奴で良ければ好きに使って下さい」
「ありがとうウルバルド君。必ず光の勇者を、そしてエリオスの奴らを倒して見せるよ。父も最初から僕に任せてくれれば良かったのにねえ」

 ザンドは人間を愛しすぎたためか父であるザルキシスから疎まれた。
 父に疎まれたザンドはラヴュリュスの企みにも参加させてもらえなかったのである。
 ザンドが変な事するかもしれないからと、この地を離れるように命令された。
 戻れないかと思ったが、ラヴュリュスが失敗してアトラナクアは捕まってしまった。
 その事を知ったザンドは許可をもらいこの地に戻って来たのである。
 今こそ役に立つ事を証明してみせようじゃないかとザンドは意気込む。
 そのためにもウルバルドと手を組む事にしたのである。

「それは頼もしい。期待していますよザンド殿」
「ふふ、任せておいてよ。必ず光の勇者と暗黒騎士を共倒れにしてみせるよ。後フェリオンに関する情報をありがとうね」

 ザンドは笑う。
 光の勇者と暗黒騎士。この2者をぶつけて殺し合わせる。それがザンドの計画だ。
 それから凶獣フェリオンはかつてザンドの父ザルキシスと共にエリオスの神々と戦った神だ。
 魔王によって封印されたが、その詳細はわかっていない。
 だけど、ウルバルドからの情報でそれを知る事ができた。さっそく父に知らせようとザンドは思う。

「ええ、有効に使ってください。あとそれからこの事は……」
「ああ、もちろん黙っておくよ。魔王陛下が君のやった事を知ったら怒るだろうからね。秘密にするさ」

 ザンドとウルバルドが手を結んだ事は秘密だ。
 なぜか魔王はエリオスの神々と戦う事に消極的だ。
 そして、配下の者にも手を出さないように命じてあるようであった。
 だからウルバルドもゼアルと同じように魔王を命令に背いている事になる。

「よろしくお願いしますよザンド殿。それでは私はこれで。良い結果出る事を待っていますよ」
「もちろんだとも。必ず首を手に入れてみせるよ」

 ウルバルドと配下の者達が転移する。

「うふふふ、光の勇者がいなくなったら、彼の側にいる女の子を僕のものにしてあげようかな」

 ザンドは光の勇者がいなくなった後の事を考える。
 光の勇者さえいなくなれば連れている女の子の首を手に入れるのは簡単だろう。
 その後、フェリオンを蘇らせてエリオスを叩く。
 そして、ザンドは魔法である女の子の姿を映し出す。
 そこには白銀の髪の女神が映っていた。
 ザンドはその姿を見て満面の笑みを浮かべる。
 その美しさを見た時に一目で恋に落ちてしまったのである。

「でも何よりもあの白銀のあの子の首を何としても手にいれたいな。折角この国にいるのだ。今が絶好の機会のはずだよね。だから邪魔な暗黒騎士にも消えてもらわなくてはいけないなあ」

 ザンドは笑う。
 そのための仕込みもしている。

「タラボス君に連絡しないといけないね。バドンを復活させる計画はどうなっているかな?」

 バドンは大母神ナルゴルが生み出した破壊の獣のうちの1つだ。
 凶獣程ではないがかなり強力と聞いている。
 バドンの死体は大劇場の地下にある。元々バドンを倒して埋めた上にアルフォスの祭壇が出来て、その後劇場へと変わったそうだ。少なくとも、タラボスからそう聞いている。
 なんでもタラボスはナルゴルの研究をしていたらしく、その時にバドンの事を知ったみたいだ。
 だけど、その由来はどうでも良いはずであった。
 問題は利用できるかどうかだ。
 そして、あの劇場にはゼアルの魔女がいるはずであるので、彼女にも働いてもらおうとザンドは思う。

「ゼアル君。君は暗黒騎士をおびき出すのに協力してもらうよ。ふふふ」

 ウルバルドがいなくなった後も平伏しているゼアルを見ると、ザンドはこれからの事を考えて笑うのだった。




 シェンナの目の前で月光の女神が踊っている。
 クーナと呼ばれるその女神が踊る姿は、とても美しい光景であった。
 時刻は夜。
 大きな窓から月の光が差し込み、彼女の綺麗な白銀の髪を妖しく輝かせている。
 その幻想的な光景にシェンナは目が奪われる。

「どうだ。シェンナ? お前が教えた通りに踊れているか?」

 踊りをやめると白銀の女神クーナが妖しく笑う。

「とても、お上手です。クーナ様」

 シェンナは溜息を吐く。
 シェンナが一生懸命練習して会得した踊りを月光の女神は少し教えただけで簡単に自分の物にしてしまった。
 それが、シェンナにはとても羨ましくて妬ましかった。
 女神と自分とでは持って生まれた物が違うのだろう。
 シェンナは自身の中の暗い感情に気付く。

(もしかしたらアイノエ姉さんも同じ気持ちだったのかもしれない)

 そんな事を考えシェンナは隣の男性を見る。 
 隣にいる男性の名はクロキ。
 シェンナを攫った暗黒騎士である。
 その暗黒騎士が言うにはアイノエは悪魔と契約をする事でのし上がったらしかった。
 そして、シェンナは悪魔と契約せずに成功しようとしていた。

(もし、私がアイノエ姉さんの立場だったらどう思っただろう? 今と同じように暗い気持ちを持ったかも)

 シェンナはそんな事を考え劇団の事が気になる。
 劇団は明日暗黒騎士が様子を見に行く事になっている。
 黒い鎧を着ていない暗黒騎士は普通の男性と変わらない。
 だから、劇団を見に行っても悪魔だとは気付かれないはずであった。
 その暗黒騎士はだらしない視線で月光の女神を見ている。
 月光の女神はイシュティアの踊り子の格好をしている。薄地に露出の多い衣装は女神の妖しい魅力を引き出している。
 それを見ている暗黒騎士は踊っている時のシェンナを見ているスケベおやじ達と何も変わらない。
 シェンナは今なら、簡単に倒せそうな気がする。
 もちろん実行はしないのだが、それだけ今の暗黒騎士は弱そうであった。
 その後シェンナは目の前の飲み物達を見る。
 お酒は一つもない。
 メンティとか言う花から造るお茶はともかく、果実を煮詰めて作られた飲み物を出された時は子供みたいだと思った。普通大人はこんな物を飲まないのである。
 どうやら暗黒騎士は全くお酒を飲まないみたいだとシェンナは推測すると、目の前のお菓子を摘まむ。
 干果と木の実が入った焼き菓子は素朴な味で美味しい。
 このお菓子はメンティのお茶と良く合った。

(お菓子が好きな暗黒騎士なんて何か変だ。すごく似合わない。何だか頭が痛くなってきた。)

 シェンナの中の悪魔像が歪んでいく。
 そもそも暗黒騎士はシェンナに優しかった。
 着る物も食べ物も充分に与えられた。
 いやらしい事も特にされず、少し肩透かしである。
 シェンナはそんな事を考え再び暗黒騎士の顔を見る。

「えっ?」

 シェンナは思わず声を出す。
 暗黒騎士の顔が先程までのだらしない顔ではなく、戦士の顔つきになっていたからだ。
 
(どうしたのだろう?)
 
 シェンナが突然の変化に驚いていると、その暗黒騎士が突然立ち上がる。

「どうしたのだクロキ? 何かあったのか?」

 突然雰囲気が変わった暗黒騎士を見て月光の女神が不安そうに聞く。

「マルシャス……」

 暗黒騎士の鋭い瞳が城壁の外へと向けられている。
 その様子にシェンナは何か大変な事が起こったのだと思うのだった。

★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

夢と眠りの神の登場です。
ちなみになぜデュラハンの設定がこうなったのかと言うと、
色々と考えたからだったりします。

・なぜ、首を元の場所に戻さずにいるのか? 戻せないないのなら肉体の再生能力がなく吸血鬼以下になりそうである。
 また、他作品には首を元の位置に戻せて、取り外し可能という設定のデュラハンもいる。
 しかし、それだとデュラハンっぽくない。

・デュラハンには女性説がある。しかし、女性の騎士はいないわけではないが、騎士と言えば普通は男性である。

以上の考察の結果、首と胴体は別であるという設定にしました。
首だけ姫と首なし騎士。これなら女性説も通りそうです。
感想 4

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