【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん

文字の大きさ
40 / 89

6-9

しおりを挟む
ヒナタはぼんやりと手に持つ短刀を見つめていた。少し使ってみたが、とてもよく切れるし短いが身幅は厚く、その分あまり折れる心配をせず使える。

 もう何年たったかもよくわからない。あの時、この手で生きている人を手にかけてしまってから、ヒナタの思考と時間は止まっていた。
 自分ではどうしていいか分からずにいた時に、克也はヒナタを連れそこを離れると、しばらくは放浪の生活が続いた。
 克也は事あるごとにその時の事を繰り返し語り、ヒナタが知らなくていいような事まで聞かせてきた。それでいながらヒナタの心が罪悪感に押しつぶされそうになると、やさしくなぐさめてくるのだ。

 その後も、急に襲い掛かってこられたり、遭遇して争いになってしまった人たちを、やむなくヒナタは退けた。
 しかし克也は危険だから殺さないといけないと頑強に主張し、最初は克也が、そのうちに自意識が薄くなってきたヒナタもそうしてきた。

 普通の精神状態であったならば、克也の意識誘導に簡単に気づいただろう。しかしこの時のヒナタの心はひどく疲弊しており、気づかないばかりか、さらに罪の意識を積み重ねるように誘導されてきた。
 結果、ヒナタの思考と心は閉ざされてしまった。
 ただぼんやりと聞こえる指示に従っているだけの人形の様な物になってしまっていたのだ。

「ヒナタちゃん、お兄さんの噂を聞いたよ」

 今日も克也は、ヒナタが唯一反応する兄の事を餌に、近寄ってくる。毎回そうやって話を持ってくる克也は必要以上に近づいてくる。ヒナタがまともな精神状態であったなら二~三発殴っていてもおかしくないレベルで、やたらと触って来ようとするのだ。
 さすがに根底にある忌避感なのか、一定のラインを越えると物理的に排除される事が克也もわかっているので、それが見逃される範囲でだが……

「ほら、さっき感染者の群れと戦っていた女がいたじゃん?俺が調べたところによると、あの女が所属するグループがお兄さんを捕まえてどこかに売り飛ばしたみたいなんだよね。んで、お兄さんからヒナタちゃんの事を聞いていたみやいで、ヒナタちゃんも同じようにするつもりでさっき話しかけたみたいなんだよね。」

 ばかばかしい突っ込みどころ満載の話なのだが、今のヒナタにはわからない。ただ、もしカナタがそんな目にあっていたとしたら、そんな所でヒナタの事を口にするはずはないのに。とわずかな違和感を抱いただけだ。

「だからさ、あの女を動けなくなるまで痛めつけてほしいんだよね。大丈夫その後の事は俺らがやるから」

 いつものいやらしい笑みを浮かべた克也を見ないようにヒナタは俯いた。それを承諾のサインと勘違いしている克也は満足げにすると、ヒナタの肩に手を回し気持ち悪い手付きで撫でまわす。
 いつもそれが嫌で、反射的に身をよじるのだが、それをすると嗜虐的な顔になり余計に撫でて来るのだ。閉ざした心の奥底でうずくまっている小さく残っているヒナタの感情は耳を塞ぎ何も考えないようにして時間が過ぎるのを待つのみだ。

(最近これくらいじゃあんまり反応もしないな。面白くない……でもこれ以上の所を触ろうとすると暴れるし。まあいい。今は俺の言いなりになっているんだ、いつかはそのすべてを……)

 克也は心の中でそんなことを考えながら、何も反応がないヒナタを見る。抱き着きたい情動を何とか抑えると、立ち上がりそこを離れた。

「克也、その女大丈夫なのかよ?気味悪いし……えらく強いけどさ、この前襲った施設に銃も弾もたんまりあったしよ。もっと大きなとこを襲ってこれで支配しちまえばいいんじゃないか」

 その男は持っている小銃を叩きながらそんなことを言っている。その男はヒナタを使い、色んな所を襲撃して物資を奪っている時に知り合った。腕っぷしもそこそこ強く、人を殺すのにも抵抗がない。何より思考回路が克也と似ている。
 男はユウジと名乗っている。本名かどうかなど興味はない。ユウジの隣にも男が一人座っているが、コウと名乗っただけでほとんど喋りもしない。金目の物や女にも興味を示さず、人をいたぶる事のみ興味をしめす。これらは仲間という意識などない、ただ利害が一致しているから共に行動しているにすぎない。あと二人ほど同行者がいたのだが、あの場を走り去ろうとした女を追いかけて行ってしまった。帰ってこない所を見ると、そのまま女を捕まえてどこかに行ったか、感染者に食われたかしたんだろう。それだけの事だと思って気にもしていない。

「いいんだよ。彼女はあれで……それより、ふもとで聞いた鍛冶師ってやっぱりさっきの所で間違いなさそうだ。刀を作ってるってのも本当みたいで、なんでかヒナタちゃんがごつい短刀をもって帰ってきた。銃もいいけど撃つと奴らが寄ってくるし、弾も無限じゃない。やっぱ刀だろ!さっき見てきたけど、感染者のでかい集団がまだ近くにいる。そいつらがもう少し離れたら、襲うぞ。」

 克也がニヤニヤしたままそう言うと、コウと言う男がぼそりと言った。

「刀は手入れが大変だ、人を斬ると脂ですぐ切れなくなる……なんならその鍛冶師も飼ったほうがいいかもな」

 コウのいう事に克也はなるほど、と思った。それなら……ヒナタにあの女を動けなくさせた後は、それなりに楽しむつもりだったが、人質にして鍛冶師とやらを縛るのもいいかもしれない。
 そう考え、克也はほくそ笑む。しっかりした力さえ持ってればこの世界はそう悪くない。色んな物に縛られ、自分を偽って生活しなければならなかった以前に比べると、よほどいいと克也は、そしてここにいる男たちは本気でそう思っていた……


 

 時は少し戻り……
 何者かの乱入により、感染者達の動きに隙ができた事で白蓮は感染者の間をすり抜けた。そのまま走り去ると思いきや、感染者の目を逃れると身を隠し、戦いの様子を見ていた。
 最悪な状況で、なんとか自分は逃れられたが、先生や姉さんは……
 
 そう思うと、せめて最後まで見届けたい。そう思ってしまったのだ。隠れて様子をうかがっていると、少女が乱入して感染者を叩き伏せていた。
 
 このままなら、逃げる必要はないのでは?と思ったが、先生からの指示を果たさず戻った日には姉さんが何と言うか……それは少し怖い。
 そのまましばらく見ていたが、どうやら最悪の事態は避けられたようだが、姉と少女が興味のあるやり取りをしていた。白蓮は直接カナタ達と面識はないが、だいたいの事は聞いている。

「これは、よいみやげができたかもしれませんね」

 白蓮はそう呟くと、気配を殺したままそこを離れカナタ達がいるであろう場所を目指そうとした。したのだが、その前に二つほどの影が立ちふさがっている。

「はぁ、うっとおしいですねぇ。私、どちらかといえば理知的な方が好みなので~、粗暴な方とはお話もしたくないのですが?」

 「あんたの好みとかは関係ないな。あるのは、俺たちが気持ちいい思いをするかどうかだけだ」

 白蓮が言った言葉など歯牙にもかけず、下卑た笑いを浮かべて男が二人行く手を塞いでいた。その手にはそれぞれ拳銃が握られている。それで強くなったつもりなのか、と白蓮は余計に冷めた目で男たちを見る。

男たちは目で合図しあうと、一人は白蓮を捕まえに、一人は白蓮に向かって拳銃を構えて牽制しているつもりのようだ。

「痛い思いしたくなかったらおとなしくするんだな。」

 動こうとしない白蓮を見て、恐怖か拳銃を恐れて動けないのだと勘違いしたのか、無防備に近寄り白蓮の腕を掴んだ。

「気安く触られるのは不愉快です」

 いや、掴んだかに見えた。が、その腕は手首から先が無くなっている。

「へっ?」

 一瞬何が起こったのかわからず、男はぽかんと自分の腕を見ていたが、やがて痛みが襲ってきたのか大声で叫び始めた。

「いっ、いてえっ!てめえっ、なにしやが……」

 最後まで言わせる事なく、白蓮の持つ短刀は男の首を斬り裂いていた。
 返り血を浴びないよう体をかわしながらもう一人の男に向かい合う。

「なっ!くそ、動くな、この!」

 男はそう言いながら白蓮に拳銃を突きつけて動きを封じようとするが、それよりも白蓮の方が早く、拳銃の上部分を掴み少しだけ力を加える。

「わたし、実はけっこうガンマニアなんですよ~。」

 そしてにっこりと笑い、言った。

「M9ですねぇ。駐留軍の物でしょうか、使う人が素人ではぁ、なんでも一緒ですけどね」

 にこやかに言う白蓮に比べ、男は冷や汗をかき始めている。

「な、なんで撃てねえ。なにを、てめえなにしやがった!」

 焦った男が叫ぶように言う。

「シロウトなのに、近すぎですよ?、銃で制圧しようと思ったら。相手が触れないくらいは離れないと」

「な、なんだと?」

「撃てませんよ。ここを止められたら。余裕ぶってか知りませんがコッキングもしてないようですし」

 引き金が動かないため、あせってしまった男は引き金をなんとか引こうと繰り返すばかりだ。冷静に対処できればどうとでもなるのに、動かない引き金をどうにしようとするばかりだ。そんな男を冷たい目で一瞥すると、白蓮の右手に握られた短刀が閃いた。

「これは頂いて行きますねぇ?物に罪はありませんし」

 そう言い残して歩き出す白蓮の後ろで、男はゆっくりと崩れ落ち、倒れた。
 白蓮は慣れた手付きでチャンバー内と、マガジンの中身を確認して、デコッキング、セフティをかけると、ふところにしまって振り返る事もなく歩いて行ってしまった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて 無名の英雄 愛を知らぬ商人 気狂いの賢者など 様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。 それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま 幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...