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1章
第14話 雰囲気のいい和室ではあるけれど……
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気を失っていたあいだ、どうやらわたしは、ふとんに寝かされていたみたい。
背中に敷ぶとん、お腹には掛けぶとんの感触がする。
それに、わたしが昔からすきな、藺草の畳の匂いもする。
(……ふとんに寝かされていた。畳の匂いがする。……って、ちょっと待って! わたし、今、いったい『どこ』にいるの!?)
意識を取りもどしたわたしは、まぶたをパチリと開けた。
視界にうつったのは、わたしを心配そうにのぞきこむ1人の美しい青年。
彼がわたしを、黒い靄みたいな、霊のような『何か』から助けてくれた。
青年は、わたしが目を開けたことにすぐに気がついたようで。
不安げな表情は、一瞬で明るい笑顔に変わった。
興奮気味の、はずんだ声でわたしに語りかける。
「起きたのか、サキ」
そうだった。わたしはこの人に自分の名前を名乗ったりしていないのに――。なぜか、この人はわたしの名を知っている。
それはどうしてなのか、彼本人にたずねようとしたところで、わたしは意識をうしなってしまったんだ。
(この人がわたしを、『ここ』に運んだの? そもそも……)
「ここは一体どこ、なんですか」
わたしの口から最初にとびだした質問は、なぜ彼がわたしの名を知っているということか、ではなく、今、わたしと彼がいる場所についてだった。
わたしのすぐそばに青年がいるといっても、室内の様子だって、視界に入ってくるから――ここが和室の部屋の中だということはわかる。
でも、この和室は一体どこにある、なんていう建物の部屋なの?
気をうしなうまでわたしはたしかに都内にいたけど……周辺の県とかに移動してたりする?
わからないことだらけのわたしに、青年は笑顔のまま答える。
「ここか? ここはいわゆる『管理人室』だな」
「……かんりにんしつ?」
「さよう、サキが本日より暮らす手筈になっている沢樫荘の1階にある『管理人室』だ。『管理人室』とは文字通り、管理人の部屋だ」
「……え? この和室って沢樫荘の1階だったの!? ……あれ、でも沢樫荘はいつも管理人さんがいる『管理人常駐タイプ』じゃなくて、たまに管理人さんがくる『管理人巡回タイプ』の物件だって、不動産屋さんが言ってたような……」
常駐はしてなくても、週2回ほど巡回にやってくるらしい管理人さんが使う部屋なの?
――あ、そんなことよりなんでこの人、わたしが今日から沢樫荘に住むってことまで知ってるの!?
わたしがあらたな質問をする前に、青年は言った。
「沢樫荘は昔、大家のいる、まかないつきの下宿屋だった。しかし時代の流れで、下宿屋から『アパート』になってな。今の大家は先々代の大家の孫で、ここには住んでおらん」
大家さんの沢樫さんが、沢樫荘に住んでいないことは、わたしも不動産屋さんから聞いている。
(それよりも、まず、どうしてこの人はわたしの名前も、わたしが今日から沢樫荘に住むってことも知ってるのか、教えてほしい)
聞く気満々のわたしは、ふとんから上半身を起こし質問しようとした。そのとき。
背中に敷ぶとん、お腹には掛けぶとんの感触がする。
それに、わたしが昔からすきな、藺草の畳の匂いもする。
(……ふとんに寝かされていた。畳の匂いがする。……って、ちょっと待って! わたし、今、いったい『どこ』にいるの!?)
意識を取りもどしたわたしは、まぶたをパチリと開けた。
視界にうつったのは、わたしを心配そうにのぞきこむ1人の美しい青年。
彼がわたしを、黒い靄みたいな、霊のような『何か』から助けてくれた。
青年は、わたしが目を開けたことにすぐに気がついたようで。
不安げな表情は、一瞬で明るい笑顔に変わった。
興奮気味の、はずんだ声でわたしに語りかける。
「起きたのか、サキ」
そうだった。わたしはこの人に自分の名前を名乗ったりしていないのに――。なぜか、この人はわたしの名を知っている。
それはどうしてなのか、彼本人にたずねようとしたところで、わたしは意識をうしなってしまったんだ。
(この人がわたしを、『ここ』に運んだの? そもそも……)
「ここは一体どこ、なんですか」
わたしの口から最初にとびだした質問は、なぜ彼がわたしの名を知っているということか、ではなく、今、わたしと彼がいる場所についてだった。
わたしのすぐそばに青年がいるといっても、室内の様子だって、視界に入ってくるから――ここが和室の部屋の中だということはわかる。
でも、この和室は一体どこにある、なんていう建物の部屋なの?
気をうしなうまでわたしはたしかに都内にいたけど……周辺の県とかに移動してたりする?
わからないことだらけのわたしに、青年は笑顔のまま答える。
「ここか? ここはいわゆる『管理人室』だな」
「……かんりにんしつ?」
「さよう、サキが本日より暮らす手筈になっている沢樫荘の1階にある『管理人室』だ。『管理人室』とは文字通り、管理人の部屋だ」
「……え? この和室って沢樫荘の1階だったの!? ……あれ、でも沢樫荘はいつも管理人さんがいる『管理人常駐タイプ』じゃなくて、たまに管理人さんがくる『管理人巡回タイプ』の物件だって、不動産屋さんが言ってたような……」
常駐はしてなくても、週2回ほど巡回にやってくるらしい管理人さんが使う部屋なの?
――あ、そんなことよりなんでこの人、わたしが今日から沢樫荘に住むってことまで知ってるの!?
わたしがあらたな質問をする前に、青年は言った。
「沢樫荘は昔、大家のいる、まかないつきの下宿屋だった。しかし時代の流れで、下宿屋から『アパート』になってな。今の大家は先々代の大家の孫で、ここには住んでおらん」
大家さんの沢樫さんが、沢樫荘に住んでいないことは、わたしも不動産屋さんから聞いている。
(それよりも、まず、どうしてこの人はわたしの名前も、わたしが今日から沢樫荘に住むってことも知ってるのか、教えてほしい)
聞く気満々のわたしは、ふとんから上半身を起こし質問しようとした。そのとき。
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