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※第七日目 扉は夜更け突然に開かれる - ①
しおりを挟む気付くと、頭を高めにされて横になっていた。
うつらうつらとしながら、夢見心地で薄目を開けた。
頭の後ろに積み上げられたふかふかの枕。いい匂いだ。
そして心地良い掛け布団の重さと温もりに、再び目が閉じそうになる。
眠りにつく前の瞬間、なんだかとっても心地よかった感覚を千紘は覚えていた。
(気持ちよかったなぁ……)
包み込まれるような……。安心できるような……。
(お布団って、やっぱり気持ちいい……)
包まれている布団のおかげだったんだと考えて、また目を閉じそうになったところに声をかけられた。
「舛森君?」
声のした方へ反応しようと、千紘は重いまぶたを上げて薄く目を開いた。
焦点が定まらない。誰かが自分をのぞき込んでいる。
「気分はどうだ?」
やさしい声、温かいほほ笑み。
(一之瀬、先生……?)
これは夢…だろうか。好きな人の顔がこんなに近くに。
「少し水分を取ったほうがいい。飲めるか?」
答えたいけど、睡魔の誘惑の方が大きかった。
夢の中でならもっと鮮明な一之瀬に会えるだろう。それこそ妖艶な顔もかっこいい顔も、笑顔だって思いのままだ。
千紘の頭の中では現実と夢が混在している。
再び瞼が落ちそうになる。
「舛森君? ………千紘」
名前を呼ばれた気がしたけれど、定かではない。
完全に塞がってしまった瞳はやさしい声の主を映し出すことなく、千紘に夢の世界を見せようとしていた。
突然、千紘の唇にヒヤッとした感覚が走る。柔らかくて冷たいものが当たった感触。
「ん……」
冷たさに、千紘の小さな小さな驚きの吐息が漏れる。
間もなく、唇を割って柔らかいものが進入してきた。それを伝って、冷たい液体が口の中に少し流れてきた。
「……ゴクッ」
反射的に飲み込んで、異物に驚いて目を開けると一之瀬の顔がすぐ目の前にあった。
「先、生……?」
「気づいた」
ふわりと一之瀬は笑い、千紘が目を開いたのを確認すると、ペットボトルの水を口に含む。
口に入り切らなかった水が唇の端から零れ、あごを伝い、寛げたシャツのすき間から見える喉元を濡らした。
そのまま再び唇を千紘の唇に重ね、舌を割り込ませて水を流し込む。
「……おいしい」
目をとろんとさせて千紘は呟いた。
「気分は?」
「……大丈夫です」
意識はだんだん戻ってきてはいたがこの状況に頭が追いつかず、心配そうに聞いた一之瀬に、まだ呆然としたまま千紘は口だけで答えていた。
ただ、目の前にいてくれる一之瀬が嬉しい。
「もっと飲むか?」
「……はい」
素直に頷く。
一之瀬は繰り返し繰り返し、口移しで水を流し込んでくれた。
その度にごくりと千紘の咽喉がうなる。
あまりに自然な一之瀬の仕草に、千紘は起き上がって自分で飲むという行為を忘れてしまった。
一之瀬の口から零れる雫は、まさに甘露だった。
数回繰り返したあとに千紘が満足したのを認めたのか、ゆっくりと唇が離れたのがわかった。唇を離すと自然と見つめ合う。
ブラウンがかった一之瀬の瞳。いつしか研究室で見た色だ。
綺麗に澄んだ瞳に見惚れながら見つめ合っていると、水に濡れた艶やかな唇が千紘に近づいて来た。
静かに口づけされる。
ゆっくりと千紘の唇が一之瀬の冷たい舌で割られ、その舌が口腔内に入ってくる。入れられた舌が意思をもってだんだんと口の中を激しく動き出した。
いったいなにが起こっているんだろうと思う暇もなかった。
すぐに千紘は意識なんて不要なものは手放して、一之瀬の舌の動きだけに集中し始めた。というより、すべてを持って行かれた。
「んん………!」
舌を捕らえられて転がされる。絡み合って離れるとすぐにまた、お互いを見つけて貪り合う。
上あごをなぞられ、歯も弄られ、また舌を刺激され引っ張り出され、舌ごと唇で食べられる。
口の端を唾液が零れ落ちて伝った。そんなことはかまいもしないで、ただお互いを求め合った。
「千紘」
「んっ……、…っは、い」
かすれた声で、激しいキスの合間に耳元に口を寄せられ、さりげなく囁かれた。
「……好きだ」
あまりに唐突すぎる一之瀬の告白に、現実感がない。
「…っえ? ……んっ」
ひと言だけの甘い声の主は、耳元からすぐに離れ千紘の唇に戻ってくる。
「…ん…ほっん、とうに……?」
千紘が話す間も一之瀬の攻撃が止まらない。
聞き返すのが精一杯だった。
「ああ」
短く、キスの間に答えた一之瀬に、驚きながらも千紘も想いを返す。
「俺…も、…で……んふっ…っ」
最後まで、返事をさせてもらえなかった。
後頭部に一之瀬の左手が入り込み顔を引き寄せられると、話す唇の割れ目に舌が差し込まれる。
また深いキスの嵐が来た。
こんなことってあってもいいものだろうか。
ついさっき、自分の心に気付いて向き合ったばかりだっていうのに。
正直者には福が来る、ということだろうか。それなら秒速の速さで訪れたようだ。
まさか、一之瀬も自分を好きだなんて思ってもいなかった。現実のワケがない。
「…ゆ……め……?」
「ん……?」
千紘の問いに、一之瀬の動きが止まり唇が離れて上体が少し上がる。
何を言ったのか確認するようにまた近づいて千紘をのぞき込み、やさしくほほ笑む。
「……夢じゃないよ」
ちゅうと音をさせて軽くキスをすると、妖艶な笑みを浮かべた。
そしてまた、吸い付くように唇を重ねると、舌を絡ませては離れ、顔の向きを変えて同じ様に口づけをする。
キスを繰り返しながら、襟元が濡れた一之瀬は自分のシャツを脱ぎ捨てていた。千紘は夢中でそんなこともわからなかった。
「これでも、夢だと思う?」
鳥が唇を啄むように小刻みにキスを重ね、自分の存在感を一之瀬は示す。
「そうじゃないって、わかってもらわないとね」
繰り返し唇を長く、短く重ねる。唇を離す度に音がする。ワザとさせているのだ。
「仕掛けたのは、千紘だよ。こんなふうに始めるつもりはなかったのに」
「えっ?! い…つ…? …んんっ」
千紘の問いに一之瀬は答えず、執拗に唇を攻め立てた。下唇を甘噛みし、舐め上げて口を開かせ侵入して千紘の舌を追いかけ暴れ回る。それに答えていたらいつの間にか、千紘もキスの間にシャツのボタンを外されていた。
状況の把握が追いつかなかった。
仕掛けた……? ……俺が?
シャツからのぞいた千紘の乳首を、一之瀬の親指が軽くなぞる。
新しい刺激に簡単に思考は飲み込まれてしまって、遙か彼方に飛んでいってしまった。
やさしくされたと思ったら、親指と人差し指でぐりぐりと擦り上げられ、捻じられる。その間もキスは続く。
「あ…っん……」
大きく声が漏れた。その瞬間一之瀬の唇が離れたと思ったら、すかさず右の乳首を舌で舐め上げられた。
「ああっ……!?」
今度は口にやさしく乳首を含まれて、舌で転がされ、強く嬲られた。
「んうっ、ああ……ん」
身体が跳ねた。
それを合図に、また一之瀬の唇が千紘の唇のもとに戻ってきた。
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