さがしもの

猫谷 一禾

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少年のころ

《7》



 週末の家庭教師の時間。

「……里葉くん、疲れているのかい?」
「え……あ、はい。そう……なのかな…」
「ずっと頑張ってきてるもんね」
「……僕……頑張ってますか?」
「頑張ってるよ!頑張り過ぎてる……ずっと良い子過ぎるよ……もっと暴れても良いし、我がまま言っても良いし、不平や不満、泣き言でも何でも言っても良い…反抗しても良いのに……」
「そんな……暴れるって…そんな事……」
「暴れるは言い過ぎか……でも、そうか……言えないか……そうだよね、里葉くんはそういう性格の子なんだよね…」
「…………それは……悪いことなのでしょうか…」
「ん~ちょっとしか歳が違わないけど、それでも年上の俺から言わせると、危なっかしい。心配」

ずっと問題を見つめ続けていた里葉は目線だけ道雄に向けた。

「ギリギリ立ってる様に見えちゃうんだよね…里葉くんはまだ小学生で子供なんだから、周りに甘えた方が良いのになって…」
「僕……甘えるの……苦手で……」
「そうか、人付き合いが苦手?」
「はい……怖いんです……」

道雄は話の誘導が上手かった。口の重い里葉から言葉を聞き出していた。柔らかな道雄の雰囲気がそうさせているのかもしれない。

「僕……こんな見かけだし……地味だし……上手く話せないし……どこに行っても、溶け込めないんです。一人が楽で……でもそれは良くない事だって……言われて…」

問題を解く手が止まる。

「……進に何か言われた?」
「………………」
「沈黙は答えって聞いたことない?ふふふ」
「道雄さん…」
「そろそろ、お兄ちゃんって呼んでほしいなぁ。……困ってるねぇ、ふふふ」
「道雄さん、今日は何だか…僕が気に入りませんか?」
「違うよ、反応が可愛いくてね。ごめんごめん」
「進くんは……」

言葉が続かなくなってしまう、里葉にしてみれば進は煩くて嫌味な奴だ。でも道雄にしてみれば弟だ、何でもかんでも気持ちを露見するのははばかられた。

「進は甘ったれのガキだよ。まだまだ狭い世界しか知らないんだ。周りを見ているつもりでも、自分の主観でしか物を考えられないんだよ。小学生なら当たり前だけどね」
「僕も小学生です」
「里葉くんは頭良いから」
「……嫌味ですか?僕、成績あんまり上がらない」
「ん~知識の頭の良さとまた違う頭の良さって分かるかな?それなんだけどね~」
「進くんの言ってること……分かります。僕も、周りに僕みたいのが居たら腹立つと思います」
「考え方の違いと個性だよ。親父も言ってたでしょ?里葉くんはそのままで良いと思うよ」
「そうでしょうか……」
「あ、でも笑顔が増えた方が良い!これは絶対」
「笑うんですか。面白くないのに…」
「だから、色気ばっかり出してると魔性になっちゃうでしょ!里葉くんの身が危ないってば」
「え"?何の話ですか?話変わってます?」
「一緒だよ。俺はふざけてないよ、本気。里葉くん、今から笑顔の練習しといた方が良いって…あと数年したら色気ダダ漏れだね」
「…………」
「里葉くん!そんな冷たい目で見たらM男が喜ぶからっ白井学園から来る奴らに目をつけられちゃうよ!」
「道雄さん…大丈夫ですか?」
「クールだ…そうだ、里葉くんは学園に入るから俺から説明しておこう。対策を講じねば」

鼻息荒く道雄から懇切丁寧に説明してもらった。
密かに憧れていた頼れるお兄ちゃんポジションに酔っている道雄だった。

 武通学園、公立の学校から受験をして来る生徒も大勢いたが大半は白井学園という有名私立の小学校からの受験という名のエスカレーターが出来ていた。お金持ちの子息が通う白井学園、そのまま付属の中学校に進級する道が通例だが、選択肢の一つに近年武通学園が参入して来ていた。

「白井学園ってね昔からの悪しき習慣というか…お家の権力ってか…よりお金持ちの子が絶対、って雰囲気があってね。生徒会とかに入っている子が憧れの対象として見られるんだよね」
「あの生徒会ですか?全校が集まる児童会くらいしか姿見ない人たち…」
「普通はね、でも白井学園や武通学園は違う。国でいうと政治家で有り官僚、風紀は警察で有り検察」
「何でもありなんですね」
「それは言っちゃダメダメ。入れば分かるけど、雰囲気が違うよ。意を唱える者が異端者なんだ。世の縮図みたいなものさ、ちょっと難しいかな」
「何となく……分かります」
「生徒会が絶対、そして風紀が監視役、親衛隊が要注意集団」
「親衛隊?戦うんですか??」
「あはは、そうなるよね…違うよ、ファンクラブみたいな物。本来は応援と警護なんだけどね、過激な子たちがいてね…」
「はぁ……」
「だからね、里葉くんが気をつける事は白井学園から来る捕食者側の生徒、親衛隊、この二つだね」
「捕食者?……僕には馴染みのない単語ばかり出てきます…ついて行けるかな…不安になってきた」
「そこで、進の登場。ナイトになってもらいな」
「……それは、嫌です……自分の身は自分で何とかします…笑ってれば良いんですよね…」
「ふふふ…そうそう。後もうひとつ、お兄さんが、まる得情報教えてあげよう!跳ねっ返りは逆に興味を持たれてしまって目を付けられる!」

得意顔の家庭教師だった。
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