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中等部のころ
《19》
開けたドアから顔を覗かせたのは、いつかも助けてくれた風紀の彼、山岡央歌だった。央歌は目の前の出来事にかぁっと頭に血が上っていくのが分かった。
「なにやってるんですか!?」
「っち……マジかよ…」
「その子からどいて下さい!」
「……お前……一人?他はいないの?」
「うっ……んん……」
上体を起こそうとするが、鈍い痛みと今だに里葉に覆い被さっている3年が邪魔で起き上がれない。
「お前邪魔、これから俺たちお楽しみだからさ…出てってくんなぁい?」
「合意に見えません!泣いてますよね!?」
「うるっせぇな……無理矢理が好きなのよ、この子はさ…親衛隊だし?」
「や……たすけ……」
聞き終わるより早く央歌の体は動いていた。上級生である3年の胸ぐらを掴んでいた。
「おい、チビ……調子にのんなよ…俺に勝てるとでも思ってんのっ?」
言い終わるかどうかで殴りかかって来た。襲いかかってきた3年は、自分より体格が劣る1年の風紀を甘くみていた。まだまだ成長途中の風紀の彼、しかしただでは転ばないのが彼、山岡央歌だった。殴りかかって来た腕を取り勢いそのままに投げ飛ばしてしまっていた。
「あ、すみません。結構しっかりと投げてしまいました…」
「ひくっ」
ノロノロと上半身を起こしていた里葉はその光景をじっと見つめていた。
「大丈夫か?」
見上げれば、息を乱した央歌が手を差し伸べて来ていた。一度投げ飛ばしただけだが息を乱している。彼が緊張していた証拠だ。里葉は手が震えて上手く動かない、自分はこんなに恐怖を感じていたのだろうかと動揺が走る。フワリと背中に手が添えられる伸ばしかけた手はギュッと握られていた。近づいた顔を見れば自分の頬に温かな雫が流れているのを感じた。瞬きをすればそれだけ流れる。
「立てそう?……顔色が悪い……」
里葉はほぅっと息を吐き出し呆然と央歌の顔を見つめ続けた。里葉の手を膝に置いてやり央歌の指の背が頬を撫でる。
「もぅ大丈夫だから」
ドックン
里葉の心臓が締め付けられた。ドクドクドク…と煩く胸を叩いてくる。央歌の顔から視線を外せない。
「山岡、大丈夫か?」
教室の外から声が掛かった。
「現行犯です!」
「何!?あっ!お前…」
央歌に投げられた3年は腰を打ち付けたようで今だに座り込んでいた。
「くそっ!」
「お前……既にペナルティ貰ってるだろ…今回は覚悟しとけよ」
そう言われながら連行されて行く。
「山岡、被害者の保護頼んだぞ」
「はい!」
里葉は俯き、自分の胸の下あたりの服を握りしめていた。頭が働かない、心臓の鼓動が煩い、耳が熱くなってきた。
「保健室に行こう?」
「う、うん……」
立ち上がろうとしたけれどカクンッと膝から力が抜けて上手く立ち上がれない。
「里葉くん?」
「……ご、ごめ……」
(これ、腰が抜けたってやつ?…しかもナチュラルに名前呼ばれてるし…)
「肩貸すよ。それともおぶって行こうか?」
「いい!立てる、立つ!」
恥ずかしくて体が一気に暑くなる。
(うわっ……ドキドキする……なんだよ…これ…)
里葉は央歌に肩を貸してもらい、腰には手で支えて貰いながら保健室に向かった。央歌は終始優しく、里葉を気遣ってゆっくりと進んでくれた。
里葉は手に汗をかくわ顔が暑いわ恥ずかしくて俯くしか無かった。胸のドキドキがずっと聞こえて央歌にも聞かれないかヒヤヒヤした。ピッタリと密着して歩く姿が窓に映りなおさら心臓が煩く騒ぎ出す。
(ヤバい……僕……変だ……)
こんな状況で仕方がないが、笑顔は到底出来なさそうだった。
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