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高等部のころ
《33》
「サト……上手いね……もしかして駆け引き慣れしてるの?」
「っ!?」
(は、はぁ!?駆け引きぃ?……何か、とんでもないイメージ持たれてるんだけど……どうすれば……森里葉だって言う?でも今更感が半端ない~恥ずかしい……しかも進もいるんだよね…なんか怒られそうだし…どうしよぉ……)
「………………これも答えないか……」
里葉に聞こえないほどの小声でボソリと呟いた。
「オータくん、お待たせしました」
「あ、ありがとうございます」
グラスを受け取りながら央歌も少し意地になってきていた。そうまでして拒絶されてしまうと気になる。満足な会話が出来なくても、せめて顔だけでも拝みたい。そんな心境になっていた。
「三井さん、そこのトレー借りても良いですか?あっち、会話が盛り上がってるみたいで…」
「あぁ構わないよ、セルフで悪いね」
「とんでもありません」
ニコリと笑顔で返す。トレーを受け取り、グラスを乗せていく。一瞬手が止まり唇の片方だけ上げて悪い笑顔をさらす。
パシャッ
「おっと……ごめんごめん……かかっちゃった?」
里葉はひんやりと濡れたジーンズを呆然と見つめる。
「あ~これジンジャエールだ…色はつかないけど、ベタベタして気持ち悪いよね…」
ほとんど無意識で央歌の顔を見ていた。央歌の表情は、してやったり、と言っているいるようだった。
お互いの視線がぶつかって二人の時が止まる。お互いがお互いに見えているものと脳内の処理が追いついていない状況だった。
先に動いたのは央歌だ。
「え?……まって…もしかして、里葉くん?」
遅れて里葉も反応してピクリと肩が跳ねる。
「え?里葉くんだよね?」
グイッと近づく央歌。それに対して咄嗟に後退する里葉。視線を逸せない、逸らしてしまえば認めたことになる。
「サト、里葉……ごまかせないよ…あ!ごめんジュース掛けちゃったんだった」
「え…山岡くん…もしかして…わざと?」
「……ふっ……ふふ」
「?え…なに…」
「山岡って…この店で名字で呼ぶ人なんて、いないよ…サト」
いつもの央歌と明かに違う雰囲気を醸し出されてドギマギしてしまう里葉。細かいことまで考えが及ばない。ましてや、バッチリ目があってしまったこの状況、ごまかせない事は里葉にも分かっていたが、どういう反応をすれば良いか戸惑ってしまっていたのだ。
「とりあえず、話は後にしてジュースが掛かっちゃった所を拭こうか。三井さんすみません、何か拭く物ありますか?」
「ん?零しちゃった?あるよ、ちょっと待ってて」
央歌が里葉に視線を戻して意味ありげに見つめて来る。瞳の中が怪しげだと感じて自然と里葉の体が距離を取ろうと後退する。
「逃げないでよ、先にこれ向こうに持ってくから」
パッと進たちがいるテーブルにトレーを持って行ってしまう。その間に三井さんからダスターを受け取り自分で拭いて央歌を待つ。
(これ、じんわり濡れてて気持ち悪いな…逃げないでって…怖いな…)
「お待たせ、サト…でいいかな?」
「あ…別に……何でも良い……です」
「まさか里葉くんだとは思わなかったよ。進にバレたく無いの?」
「いや……何にも…考えてなくて……」
「なぁんだ、実は悪いことしてるのかと思っちゃったよ。本当にノープラン?そんなに頑に素性隠されたら、普通暴きたくなるもんでしょ?」
「え…そうなの?」
「うーん……いつもと印象違うしな……」
(あれ?これ誤解されてる?誤解されてるよね?山岡くんと二人で話すなんてただでさえ緊張するのに、どうしよう、せめて誤解は解かなくちゃ)
「あの…僕……びっくりして、咄嗟に隠れちゃっただけで……他意はなくて…」
「ふ~ん……この店は?なんでここに居るのかな?」
「あ!それは、夕先輩に紹介されて…息抜きに来ると良いって教えてもらったから……」
「あ~夕さんか……確かに、仲が良かったよね…」
「僕、学校で……色々話せる相手…夕先輩しかいなかったから……」
「え?進は?あと…親衛隊の仲間とか…」
「あ~……」
「まぁ進とはすぐに喧嘩になっちゃうって聞いてるけど、本当に?いつもニコニコしてるから穏やかな子だと思ってたんだけど……もしかして違うの?」
「……言わないでくれる?」
「もちろん、特にこの店での会話は秘密厳守だよ」
「……僕、本当は……笑うとかって苦手で……あの、だから学校だと……疲れちゃって……」
じっと里葉の様子を見る央歌。普段の彼はニコニコとしていて、たまにシナを作っている時もあるほどだ。しかし、今の里葉はずっと俯き加減でグラスを持ったりストローをいじったり鼻先を指の先で撫でたりと、とにかく居心地悪そうに自信なげに座っている。そして一番の違いは笑顔がない。本人が言うように苦手なのだろう、無表情でポツリポツリと話す姿は学校の里葉と完全に違っていた。
「そんなに、生徒会に好かれたいの?」
「え?生徒会?」
「え……生徒会の人に好かれたくって無理してるんじゃないの?親衛隊だよね…」
「あ、そう。そうそう、そうだよ」
「……嘘つくなら…もう少し上手く嘘つこうね」
「…ごめん……」
「いや、良いけど……あ、そー言えば親衛隊に入る時…進が大騒ぎしてたっけ……あぁそうだそうだ。そんな事言ってたなぁ」
ズキン
(あ、そうだ……山岡くんはそこまで僕に興味が無いから…僕のそんな些細な事忘れちゃってるよね、そうだよね……)
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