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高等部のころ
《35》
寮の机の前に座る里葉、憮然とした表情の彼は両手で頬杖をついていた。眉間にはシワが寄っていて不満が顔中から溢れ出ていた。
(ナイト……その単語はよく聞く、しかも僕に向けてじゃなくて…ナイトを付けろって言われる。ゲームの世界でパーティー組むんじゃ無いんだから…なんだよ、ナイトを付けろって…僕は姫じゃない。これでも男なんだけど……)
はぁと深いため息をつく、君は弱者だ、そう言われている気分になってくる。
(確かに、僕は強くは無い…それは認めるけど……暗殺されるわけじゃ無いんだから…護衛って意味でしょ?……僕はVIPか!)
さらに考えは深くなっていく。
(そもそも、誰に頼むっていうんだよ。いないよ……おじさんに迷惑かけられないし、道雄さんにも無闇に相談しない方が良いだろうし……進にも…ましてや山岡くんにも言えない……僕を守るナイトになって下さいって頼むの?)
グルグルと考えていた里葉は、ハタと止まり頭を掻き毟る。
(は、はぁ!?キモい、僕キモい!!なんだそれ、耐えられない。誰も彼もじゃなく、僕が耐えられない……そんなこと口が裂けても言えない。どんな美少年ならそんな事口にして許されるんだって話)
里葉は一人でいるにもかかわらず、顔がジワジワ赤くなっていく。
(恥ずかしい、こんなこと本気で考えていること自体恥ずかしい。僕はどんだけな奴なんだよ…みんな冗談半分で言ってるに決まってるのに…なに本気になって考えてるんだよ~恥ずかしい奴だぁ…)
机に突っ伏して撃沈してしまう里葉。時計を見ればかなり長い時間考えに没頭していたようだ、体の倦怠感さえある。昨日の夜、あの店での出来事に思考が支配される。気が付くと考えてしまう、映像が無限のループのように頭の中で再生される。映像を追い出しても音声のみ再生される。
(普段と違う山岡くん…カッコ良かったな…)
そして、最終的にそこに落ち着いてしまう恋する男子、里葉であった。丸一日そんな考えばかりで疲れてしまった里葉は食堂に行ってさっさと食べて寝てしまおうと行動に移す。
(明日はまた講習があるから早く寝よう…)
食堂に着くとタイミング悪く進とかち合ってしまった。
「お、久々だな…やっぱり、まぁだ家に帰って無いよな…里葉は…」
「進だってまだ寮にいるじゃん」
「俺は風紀での仕事があるの、家にも顔出してるよちゃんと。ずっとここにこもってる里葉と一緒にすんなよ」
昔と違って言葉はキツく聞こえるが、雰囲気が軽くなった進。しょうがないな、そんな雰囲気だ。
(もぅ……進は僕の兄貴気取りなんだ…)
「……本当に風紀の仕事だけなの?他にも理由があるんじゃ無いの?」
「はぁ?なんだよ…突っかかるね」
「別に……お腹空いてるのかも…」
「ガキか……そういえば里葉って……あーいや、やっぱなんでも無い。まさかだし」
言いたげな顔をしていた進だったが、本人の中で切り替えてしまったようでそれ以上は言ってこなかった
「お腹空かせて機嫌悪いんだろ?早く食べな」
「そうするよ」
むくれた里葉に苦笑をもらす進、最後には挨拶がわりにいつもこう締めくくる。
「人が少なくなっても、少ないからこそ気を付けろよ」
「分かってるって」
軽く背中をポンと叩かれて里葉から離れていく。
その後ろ姿を見ながら思う。
(兄貴ってよりも、父親?)
何かと気にかけてもらって、本来ありがたいと思って然るべきなのだろう。里葉は自分の卑屈さが時々顔を出すのがやるせない気持ちになる。
出会って最初に感じた劣等感はそう易々と払拭出来るものでは無い。
(僕って嫌な奴……素直にありがとうって気持ちになれない…弱くて面倒臭い奴って思われてるんじゃ無いかって…いつもよぎる。癖みたいに…気持ちまで女々しくて、嘘っぽい笑顔みたいに…僕の内面はキモい)
日の光を真正面から浴びて道の真ん中を堂々と歩く彼らと自分では違うと分かっている。外見や能力で劣る自分は、息を殺して彼らの迷惑にならないようにひっそりと過ごした方がお互い無駄がなくて良いんだ、と気持ちが冷たく沈んでいく。
(余計なこと考えないで食べよう)
パッと進から視線を外して彼から離れた席を選ぶ。時間にして数秒間、それだけの時間だったが進の後ろ姿を見つめて、見送ってしまっていた。里葉としては自分の中の暗い劣等感に対峙していただけだが、側から見ればそうは見えなかった。
里葉のそんな様子をじっと見ている人がいるとは想像もしていなかった。
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