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高等部のころ
《36》
ナイト、劣等感、恥ずかしい……グルグルと考え込んでいた寮でのあの時間、里葉はようやく一つの決心をして今日はこの店の前に来ていた。
まだまだこのドアを開けるときは緊張が走る。別空間に足を踏み入れる感覚に近い。未知の世界、コントロールが効かない、予測不能、里葉が苦手とする事のオンパレードだ。そして踏み込んでくる央歌。嬉しい反面怖いと感じる央歌が隣に座るのだ、躊躇してしまうのは仕方ない。
「店に入るの?」
店の前で躊躇していれば後ろから話しかけられる。他の客の邪魔であるのはとうぜんだ。
「すみません……入ります」
「見ない顔だね…ハクの新入り?」
カランカラン
里葉に話しかけながらドアを開ける後ろの人。まるでエスコートされているように先に入るよう促してくれる。
「ハク……ではないです。」
疑いの眼差しをしていたのだろうか、眉を上げるとあぁと頷きにこやかに名前を告げてくる。
「ごめんごめん、まずは俺から言わないとね。チームの子じゃないんだね。俺はガードっていうチームの総長やってるナナミってのよろしくね」
(出た、総長!)
「あ、僕は……サト、です」
「…チーム入ってないのに君みたいな子がこの店に一人で来てるの?危ないよ?」
なぜかずっと話しかけられながら里葉の座る席まで付いてくる。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは~三井さん」
「ナナミくん、久しぶりだね。最近は忙しそうで」
「そーなのよ、コウがさぁ…俺に有らぬ疑いをかけてきてさぁ殺されるかと思ったよ」
(殺されるっ!?怖い、普通に怖い会話してる)
「あぁサトくん、本気に取らないで大丈夫だからね。そんな怯えた顔しなくても大丈夫だよ」
「いや、半分は本気にしてくださいよ」
「こらこら、サトくんを怖がらせないよ」
「三井さん、この子知ってるの?」
「うん、最近は常連さんだよね?」
急に話を振られた里葉ぎょっとしてしまう。
「常連…なんですかね……」
「だったら三井さんも注意しなきゃ、こんな子この店で放置してたら、狼どもに食べられちゃうよ」
(ひぇっ!!なんて事言う人なんだ…っていうかいつまで僕の隣に座ってるつもりなんだろう)
「あぁ…サトくんは大丈夫だよ。それにもうすぐナイト役も来るよ」
「三井さん!…僕にナイトなんていないですよ……や、やめてください…は、恥ずかしいじゃないですか……」
「お、おぉ……小悪魔タイプ、ですな?」
「……何ですか?それ……」
「ぅわっ……寒い、急にそんな冷たい視線送らないでよ…三井さん、こんな隠し玉いつのまに店に呼んだの?」
「ははは、俺じゃないよ」
カランカラン
「サト!今日はいた」
ドアから名前を呼ばれた。この店でちゃんと自己紹介したのは二人のみ、必然的に誰だか分かる。
「ほら来たでしょ」
三井が里葉に目配せをしてくる。
「…あれ?ガードの総長さんがどうしてここに?」
「あ、お前見た顔だ」
「俺はハクのオータです。あなたの隣に座っている子の友達です」
「ふぅん……そういう事……あぁ大丈夫だよ、俺は今ちょっと面白い子を他で見つけたばかりだから。この子は気になって話してただけだから」
「サト、ナナミさんと知り合いになったの?」
「え?いや……成り行きで?いつの間にか隣に座ってて…どうしようかと思ってた……」
「君、中々言うね…サトって言うの?」
「ナナミさん、この子はサト。俺の友達で、夕さんの後輩です」
「げ、夕の!?あー成る程…成る程ねぇ。じゃ納得だ」
(夕先輩……どんなだったんですか…)
「え?じゃあサトが情報屋やるのか?」
「情報屋?」
「夕の後輩だろ?だったら情報屋を…」
「ナナミさん!」「ナナミくん!」
三井と央歌の声が重なる。
「あ、あの…大丈夫です……夕先輩が情報屋さんって言うのは知りませんでしたが、何となく想像つきます…大丈夫です。僕には夕先輩がしていた事を引き継ぐ的なことは無理だと思うので、あの…大丈夫です」
「流石、夕くんの後輩をやっていただけの事はあるんだね。彼をよく知ってる…」
「夕先輩の情報に他する姿勢は知っているつもりです」
『なるほど』
その場の全員の声が重なった。
「あの、オータ…くん。あの今日は一人で来たの?えーと仲間は…」
「……ススムのことが気になるの?」
「え!……あー…うん」
「そうなんだ……後から来るんじゃないかな。俺はサトがいたら長く話したいなぁって思ってたから早めに来たんだよ」
「え!……え、そうなの?なん……」
トクントクンと胸の鼓動が早まるのが分かった。
(き、期待なんてしちゃダメだからな僕……ん?期待?……期待??……オコガマシイ!)
ふぅ、と一息ついて央歌に向き合う。
「オータくんは口が上手いんだね」
「オータ、って呼んでよ」
「う……うん」
「ねぇ三井さん、俺たちは初めてのなんちゃらメロディーみたいなの見せられてるの?これ」
「こらこら、こういう時は口を挟んだらダメだよ」
生暖かい目で見られているのが央歌には感じ取られてコホンと咳払いをする。里葉の様子を見ると自分の考えに没頭しているようで周り声が届いていない。その様子にホッとする央歌。
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