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第2
33話
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「ナノ、そっちが終わったら一度休憩にしな」
「はい」
フドー食堂、昼の忙しさが一段落ついて今は夜の仕込み中。その仕込みもナノの担当分は終わろうとしていた。昼休憩の他にちょこちょこ休みをくれるシュガーレには感謝だ。ずっと芋の皮を剥いていると、体がだるくなって来る。最近は少し疲れやすくなっている気がする。
「今日はまだ副団長さんは来てないのかい?」
「え?」
すっかり日常の光景の一部となってしまったシュシュルの顔出し。本当に毎日ナノに逢いに来ている。いつもならもう来ている時間だ、なのでシュガーレも自然とそう聞いてしまった。
「あ……お忙しいかと…それに…本当に毎日来るとは限りませんし…」
ナノは指摘されて俯き加減で答える。
「…………どうなんだい?ナノは」
「え?どう?」
「副団長さんだよ。迷惑なのかい?それとも…私が口出すことじゃないのかい?」
「えっと……」
(迷惑……迷惑なのかな…。最初は、本当に戸惑ったし…迷惑だったけど…。今は、毎日来ちゃうし…なんか当たり前になっちゃって……あれ?これ、僕……慣らされてないか?)
「ナノが良いならいいよ。一応、身元がしっかりした人だしね」
ハタとシュガーレと目が合う。何か意味合いが通じてないと感じる。
「私としては…娘を嫁に出す気分だよ…。余計なこと聞いちゃったね。ナノは自分の幸せの事だけを考えたら良いんだからね」
やけに優し言い方をしてシュガーレはナノの肩をポンポンとして去って行く。残されたナノはあれ?と思う。
「シュガーレ…さん……」
ナノの声は小さくてシュガーレに届かない。
(え?……あれ?……今嫁って、言った??)
ナノはシュシュルが毎日来ることが迷惑かどうかを聞かれたと思っていた。しかし、今のシュガーレの言い方は違うと感じる。
(どういう事?僕は傷だらけの男だし…なんでシュガーレさんは嫁なんて言ったの?……でもみたい、って言ってたし…ん?)
ナノは残り一個の芋を手にしたまま考え込んでしまった。その時、ツキンと額に痛みが走った。
「いたっ…」
その痛みはすぐに治まり、シュガーレのよく分からない言葉の意味を考え込んでいた思考の沼から引き戻してくれた。何だろうと額を撫でてみる。指先にはザラリとした傷跡の感触。何ともない様なので止まっていた手を動かし始める。これが終われば裏口から出て外に行こうと思っていた。モヤモヤするのは分かっているが、どうしても青い空を見るのを辞められない。辞めてはダメなような気さえもする。
「残り一個…」
手に持っていた芋の皮をむいていく。大分上手くなったと密かに満足したナノだった。
ブルルルルルルン…
最後の一個の芋を剥き終わって、裏口から外に出て芋の皮むきに使っていた椅子を置く。そこに座りボンヤリ空を眺めていると馬が鼻を鳴らす音が聞こえてきた。フドー食堂は馬を繋いでおく場所は用意されていない。馬で乗り付けてくる客がいないからだ。何だろうと音のする方を見てみると、四人の騎士が馬に乗って、ゆっくりとこちらに来る。ナノはボンヤリとしたまま何となくその四人を見ていたら、一人手を振ってくる人がいた。ナノは自分に振られたと思わず周りを確認してしまった。
(あれ、周りに誰もいない…)
手を振っている人は急いで馬を降りてこっちに走ってくる。近付けばわかる、その人はシュシュルだ。
「ナノニ………どうしました?外に居らっしゃるなんて…珍しいですね」
「あ、副団長さん…こんにちは」
「今日もお変わりありませんか?」
「見ての通りです。今、休憩中で…」
「そうなのですか!」
ニコニコと、何がそんなに嬉しいのかナノの目の前まで小走りで近付きつつ話しかけて来た。その後ろからは何やら大きな声で文句らしい言葉が聞こえてくる。ナノはひょこっとシュシュルの影から覗いて見る。馬を押し付けられた騎士が文句を言っているようだった。
「大丈夫ですか?馬が…」
「あぁ大丈夫です」
「そうですか…副団長さんこそ…馬で来るなんて珍しいですね」
「俺の事を……失礼…私の事を気に掛けて頂いていたなんて…嬉しいです」
ナノはシュシュルを見て目をパチパチパチさせてしまう。
(何だろう……この間から感じるこの雰囲気…。シュガーレさんも変な事言ってたし…なんて言ったらいいんだろう…)
ナノはちょっと困ってしまう。どうやらこの副団長はナノに好印象を抱いてくれているようなのは分かるが、少しばかり過剰ではないだろうかと困惑してしまっていた。鼻先を人差し指で擦っているとシュシュルの後ろから声が掛る。
「失礼致します。第4隊隊長のモンジ・アウトーレです。直接ご挨拶をさせて頂くのは初めてですね」
かしこまった挨拶をされてしまい、慌てて周りをもう一度確認してしまう。
「た、隊長さんが…そんな……僕はナノです。フドー食堂の従業員です。やめて下さい、頭を上げて下さい……副団長さん!」
ちょっと責めるような言い方になってしまったが、ここまで王子ではないと言い切っているナノは、それを変える気は無い。
「副団長さんが、なんて仰っているのか…知りませんが、勘違いなさっているようなので…考えを改めて頂いても……よろしいでしょうか…困ります」
モンジはシュシュルを見て納得する。
「それは…失礼しました。あぁ私は部下以外には丁寧に話すように心掛けていますので気になさらないで下さい」
ニッコリと笑って言うモンジを口をあんぐり開けて見るキャス。キャスもモンジから馬を押し付けられていた。二頭の馬をそれぞれ引っ張り繋げる所までノロノロ行く二人の騎士。ナノは目の前のシュシュルとモンジも、そして馬を引いていくフワームとキャスも、困惑して見るのだった。
「はい」
フドー食堂、昼の忙しさが一段落ついて今は夜の仕込み中。その仕込みもナノの担当分は終わろうとしていた。昼休憩の他にちょこちょこ休みをくれるシュガーレには感謝だ。ずっと芋の皮を剥いていると、体がだるくなって来る。最近は少し疲れやすくなっている気がする。
「今日はまだ副団長さんは来てないのかい?」
「え?」
すっかり日常の光景の一部となってしまったシュシュルの顔出し。本当に毎日ナノに逢いに来ている。いつもならもう来ている時間だ、なのでシュガーレも自然とそう聞いてしまった。
「あ……お忙しいかと…それに…本当に毎日来るとは限りませんし…」
ナノは指摘されて俯き加減で答える。
「…………どうなんだい?ナノは」
「え?どう?」
「副団長さんだよ。迷惑なのかい?それとも…私が口出すことじゃないのかい?」
「えっと……」
(迷惑……迷惑なのかな…。最初は、本当に戸惑ったし…迷惑だったけど…。今は、毎日来ちゃうし…なんか当たり前になっちゃって……あれ?これ、僕……慣らされてないか?)
「ナノが良いならいいよ。一応、身元がしっかりした人だしね」
ハタとシュガーレと目が合う。何か意味合いが通じてないと感じる。
「私としては…娘を嫁に出す気分だよ…。余計なこと聞いちゃったね。ナノは自分の幸せの事だけを考えたら良いんだからね」
やけに優し言い方をしてシュガーレはナノの肩をポンポンとして去って行く。残されたナノはあれ?と思う。
「シュガーレ…さん……」
ナノの声は小さくてシュガーレに届かない。
(え?……あれ?……今嫁って、言った??)
ナノはシュシュルが毎日来ることが迷惑かどうかを聞かれたと思っていた。しかし、今のシュガーレの言い方は違うと感じる。
(どういう事?僕は傷だらけの男だし…なんでシュガーレさんは嫁なんて言ったの?……でもみたい、って言ってたし…ん?)
ナノは残り一個の芋を手にしたまま考え込んでしまった。その時、ツキンと額に痛みが走った。
「いたっ…」
その痛みはすぐに治まり、シュガーレのよく分からない言葉の意味を考え込んでいた思考の沼から引き戻してくれた。何だろうと額を撫でてみる。指先にはザラリとした傷跡の感触。何ともない様なので止まっていた手を動かし始める。これが終われば裏口から出て外に行こうと思っていた。モヤモヤするのは分かっているが、どうしても青い空を見るのを辞められない。辞めてはダメなような気さえもする。
「残り一個…」
手に持っていた芋の皮をむいていく。大分上手くなったと密かに満足したナノだった。
ブルルルルルルン…
最後の一個の芋を剥き終わって、裏口から外に出て芋の皮むきに使っていた椅子を置く。そこに座りボンヤリ空を眺めていると馬が鼻を鳴らす音が聞こえてきた。フドー食堂は馬を繋いでおく場所は用意されていない。馬で乗り付けてくる客がいないからだ。何だろうと音のする方を見てみると、四人の騎士が馬に乗って、ゆっくりとこちらに来る。ナノはボンヤリとしたまま何となくその四人を見ていたら、一人手を振ってくる人がいた。ナノは自分に振られたと思わず周りを確認してしまった。
(あれ、周りに誰もいない…)
手を振っている人は急いで馬を降りてこっちに走ってくる。近付けばわかる、その人はシュシュルだ。
「ナノニ………どうしました?外に居らっしゃるなんて…珍しいですね」
「あ、副団長さん…こんにちは」
「今日もお変わりありませんか?」
「見ての通りです。今、休憩中で…」
「そうなのですか!」
ニコニコと、何がそんなに嬉しいのかナノの目の前まで小走りで近付きつつ話しかけて来た。その後ろからは何やら大きな声で文句らしい言葉が聞こえてくる。ナノはひょこっとシュシュルの影から覗いて見る。馬を押し付けられた騎士が文句を言っているようだった。
「大丈夫ですか?馬が…」
「あぁ大丈夫です」
「そうですか…副団長さんこそ…馬で来るなんて珍しいですね」
「俺の事を……失礼…私の事を気に掛けて頂いていたなんて…嬉しいです」
ナノはシュシュルを見て目をパチパチパチさせてしまう。
(何だろう……この間から感じるこの雰囲気…。シュガーレさんも変な事言ってたし…なんて言ったらいいんだろう…)
ナノはちょっと困ってしまう。どうやらこの副団長はナノに好印象を抱いてくれているようなのは分かるが、少しばかり過剰ではないだろうかと困惑してしまっていた。鼻先を人差し指で擦っているとシュシュルの後ろから声が掛る。
「失礼致します。第4隊隊長のモンジ・アウトーレです。直接ご挨拶をさせて頂くのは初めてですね」
かしこまった挨拶をされてしまい、慌てて周りをもう一度確認してしまう。
「た、隊長さんが…そんな……僕はナノです。フドー食堂の従業員です。やめて下さい、頭を上げて下さい……副団長さん!」
ちょっと責めるような言い方になってしまったが、ここまで王子ではないと言い切っているナノは、それを変える気は無い。
「副団長さんが、なんて仰っているのか…知りませんが、勘違いなさっているようなので…考えを改めて頂いても……よろしいでしょうか…困ります」
モンジはシュシュルを見て納得する。
「それは…失礼しました。あぁ私は部下以外には丁寧に話すように心掛けていますので気になさらないで下さい」
ニッコリと笑って言うモンジを口をあんぐり開けて見るキャス。キャスもモンジから馬を押し付けられていた。二頭の馬をそれぞれ引っ張り繋げる所までノロノロ行く二人の騎士。ナノは目の前のシュシュルとモンジも、そして馬を引いていくフワームとキャスも、困惑して見るのだった。
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