透明の「扉」を開けて

美黎

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6の扉 シャット

女子会

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「こんな所にいたのか。」

「うん?…………うん。」

あれから、何だかボーッとする事が増えた気がするんだよね…………。


何か、パズルのピースがはまっていない様な、なんとなく落ち着かない様なそんな時が増えた。

スッキリしない気分を癒す為に、中庭に通って、3日。 
明日からは授業に参加できる予定だ。
私はレシフェやウイントフークから、数日の休養を言いつけられていた。

「身体は元気なんだけどな…………。」

多分、この髪や瞳と関係あるのだろう、「また何かあるといけないから数日様子を見ろ」と言われたのだ。

レシフェはあの後ウイントフークにも連絡したらしい。
あの、ラジオ電話でコッテリお小言を頂いた。
目の前にいないのをいい事に、途中から聞いていない私を完全に予想していたウイントフークに、更に追加で叱られたのだけど。

訊かない事に決めた、髪と瞳は段々馴染んできてお風呂や朝起きた時も驚く事がなくなった。
むしろ、初めからこう、というくらいすんなり馴染んだ。

なかなか奇抜な色なんだけどね…………。

この3日をほぼ中庭で過ごしている私を迎えにきたのは気焔だ。
ボーッとしている事が多いからか、心配そうな目をしている事が多くなった気がする。

「大丈夫か?」

また心配そうな金の瞳が揺れている。

「うん。大丈夫だよ。」

大丈夫。
大丈夫なんだけど、なんか。

なんだろう?

金の瞳を見つめ続けながら考える。

なんだろう、このモヤモヤ感…………。

考え事をする為、私の隣に座った気焔の金髪を触る。
ちょっと触りにくいので、膝立ちして、わざわざ。
なんていうか、モフモフしたい欲求?
なんだろうな?ホント、これ。

元気のよい金髪。
短い部分が立っている所が可愛いんだよな…………言ったら怒りそうだけど。

シンの髪を三つ編みした時の事を思い出す。

あっちはサラッサラなんだけど、こっちはわっしゃわしゃ…………全然違うな…………。

全然違う。うん。

違う…………?


「依る?」

あぁ~今何か来てたのにっ。

力のない拳をエイッと脇腹に入れる。

「痛…くはない。」

「痛いわけないじゃん。」

「気焔。」
「何だ?」
「なんか、分かんないけどモヤモヤする。」
「うん?それは困るな。」

「うん…………。でも、この髪の事とかじゃなくて、なんか、私の中の事と言うか…なーんかスッキリしたはずなのに、スッキリしてないと言うか…………。」

「…………。」

知ってるのかな?知らないかな?
分かんないかな?

沈黙する気焔をまた見つめる。

微妙。
知ってそうだけど、「それ」が私のモヤモヤの原因かどうかは分からない、ってとこかな?

少し苦しそうな表情の気焔が可哀想になって、「大丈夫。」と言った。
気焔まで、悩ませたい訳じゃない。

私はスタスタ、ベランダの端まで歩いて下を覗き込んだ。
綺麗な泉は今日も魚が泳ぎ、透明な水が凪いでいる。

今度、滝でも造るかな…………。

振り返ると、彼は少し後ろで待っていた。
2、3歩駆けて「ドーン」と言って抱きつく私に「全く…………」と、ブツブツ言っている。

「子供じゃないもん。」

「ハァ…………。だといいが。」

馬鹿にして。フンだ。
そのうちびっくりするくらい、美女になってやるんだからね!
釘付けになっても、知らないからね!


私はぷりぷりしながら「お茶飲みに行くもん。」と言って休憩室へ向かう。

「そういう所だ。」と一応送ってくれるらしい気焔が後ろで言ってたけど、聞こえないフリをしといたけどね。





私を休憩室へ送ると、気焔は何処からか朝を呼んで自分は出て行った。

用事かな?まぁ気焔も暇じゃないだろう。

とりあえず一人分のお茶の用意をする。

誰か来ないかな?お茶友。

そうして朝と二人でお茶にする。
まぁ朝は飲まないけども。

「最近どう?」

「え?どうって…………。」
「何か心配事とか、変わった事とか…ない?」

これは…。

私、朝にも心配されるくらい、酷いのだろうか。

逆に不安になってきたよ…………。


「あ、いたいた!探しちゃったよ。」

そう言って休憩室に入って来たのは、エローラだった。





「いいよ、座ってて。」

エローラは自分のついでに、私のお茶も入れ直してくれる。
熱々のお茶を飲んで、また一息。

美味しい。甘めのいい香り。
休憩室のお茶も中々の美味だ。

こんなに癒し要素があるのに、一体何にスッキリしていないんだろう?

ついつい、考え込んでしまう。
そんな私に、エローラは何か包みをスッと差し出した。

ん?何だろう?


「これ、そういえば渡すの忘れてたよ。」

??

目で訊くと、開けていいというので開けてみる。それは、私が修復する予定の姫様の服だった。

「あ…………。」

ヤバ。完全に目的を忘れてた。
特に、最近バタバタしていたから。
いや、言い訳だな…。

元々、エローラにシャットまで持ってきてもらう予定だったが、なんだかんだで受け取っていなかった。

明日からは裁縫の授業も始まるっていうのに、ダメダメだな…………。

そんな私のしょんぼりな空気を打ち切って、エローラが話し始めた。
しかも物凄く、前のめりで。

「ねえ?ヨル、で、どっちなの?」
「え?何が?」

エローラにこの前の私を訝しむ空気は皆無だ。

彼女は何かあっても変わる質じゃないとは分かっていたけど、やっぱりホッとする。

エローラは姫様の服をまた布に手早く包むと、さっさと脇に寄せて話の本題を出す。

「そりゃ、気焔とシン先生でしょう。」
「ん~?」

考えてもなかったけど、そう言えばエローラはこのネタ、突っ込んでくるよね!

間抜けな返事をした私は、何だか可笑しくなってきた。
やっぱりエローラは最高だ。

「で?何で?元々知り合いだったの?どっちもいいよね?」

「うーん。」

「何よ。煮え切らないわね?レシフェもそうだけど、先生達と知り合いだったって事?」

「まぁ、そうなるね?」
「何で疑問形なのよ。まぁいいけど。」

何だかレシフェに先生が付かないのは気になるけど、分かる気がするから突っ込まない事にする。私も付けないしね。

「分かんないんだよね…………。」
「え?どっちが好きか?」

「いや…………」

そうじゃないんだけど…………。

でも、ふと思う。

このモヤモヤはやっぱりあの後からなんだ。
何だろうな…………。

「まぁ、悩むの分かるよ。二人ともヨルの事大好きだもんね?まぁあの二人に争われたら、そりゃ迷うわ。私だったらどっちかな…………悩むな。」

そう言ってエローラが真剣に悩み出す。

すると、入り口のレナが目に入った。
彼女は何だかそのまま立ち尽くしていたので、手招きして座らせる。

レナは、なんだか少し私に対して態度が違う気がする。
今まではお子ちゃま扱いだったのが、何だろう、ちょっと怖いモノ扱い?

でも仕方が無いだろう。
それでも呼んだら来てくれるだけ、いい。

レナの分もお茶を入れると、我に帰ったエローラがレナがいるのを不思議に思わず質問しているのが面白い。
エローラの恋話の前には、何者も関係無いのだ。

「レナはどっち?」

「え?何の話?」
「勿論、気焔とシン先生。」

「ああ…………そうね。でもなぁ。二人ともヨルのだっていうのが気に入らないわよね。」

「え?そういう認識??」

「あんたねぇ…。何っにも分かってないわね。」

あれ。私に対する怖さ、秒で飛んでる…。

レナの大きな茶色の目でチロリと睨まれて、私は竦む。

うひょっ。
ある意味レシフェの黒い光より、怖いかも。


「ハァ。やんなっちゃうわ。いい男はヨルのモノだし。ベオグラードは最悪だし。もっといい男寄越してくれればいいのに。」

うーん。辛辣。

フワフワの髪をかき上げながら、唇を尖らせている。
レナは美人だから、余計にキツく感じるのだ。

でも、「いい男を寄越す」と言っているので、ベオグラードがデヴァイから来てる事はやはり承知の様だ。
レナは…………

「レナはどうしてここに?」

また口に出てた。

ため息を吐きつつ、アッサリと教えれくれるレナ。
特に隠す気もなく、あっけらかんとスゴい理由を言った。

「私は自分で稼ぐ為よ。貴石でNo.1になる為にね。その為に相性占いとか、おまじない、気が落ち着くハーブ、あとは魅力のまじないとか。」

意味あり気に、ウインクされた。

うん、この感じ、見習いたい。
向かい側に寝そべる、朝の視線がイタイけど。
分かってるよ、無理だって。

「正直、ベオグラードみたいなのが増えてるかと思うと今後も微妙だけどね。そもそもあいつは何しに来たのかよく分からないけど。」 

「それには同感。」
「へえ。魅力のまじないは私も教わりたい!ラピスもいい男が居なくて。」

「そう?何処もいい男はもう売れてるのよね。」

え。何この会話。
10代女子の会話じゃなくない?

私が一人ぐるぐるしていると、レナがまた話を蒸し返す。

「で?どうなの?本当の所。要らない方、一人頂戴よ。」
「ええ…………モノじゃないんだから…。」
「似た様なもんよ。大丈夫、あんたが振ってくれたら、責任持って回収するから。」

ええ~…………。多分無理だよぉ。

ん?でも無理かな?シンは多分…………無いな。
気焔は…………分かんないかも。
やだな…………。

??

私は自分が「嫌だ」と思った事に対して少し驚いた。

ん?何でだろう?何が、嫌?

何だろう、もし気焔が他に行く、と言われれば仕方が無いとは思うんだけど、…………何か嫌だ。
シンはそもそも、他に行かないと思う。
これは確信。
何だろう、この違い???

「他の人の所に行く可能性がある」のが、嫌なのかな??

ちょっと、目の前のレナを見る。

レナは喋らずに私の事を見ていた。
何を言うのか、待っていたのだろう。
それが彼女の言葉を本気に見せて、何だか不安になる。

え…気焔がレナの所に行ったら、嫌だな。

これはどういう感情だろう?
独占欲…だとは思うんだけど。
お父さん?お兄さん?を取られる感覚?

それとも…………??


初心者にこの問題は解決できそうに、無い。
レナ先生にちょっと聞いてみようか。

「ねぇ。ちょっと正直に言うけど、聞いてくれる?怒らない?」

「まぁ内容によるけど、努力するわ。」

そう言うレナはちょっと眉を動かし構えて、聞いてくれる体制だ。

「あのね。…………シンは、多分私以外の人は駄目なの。何か。無理なんだと思う。よく分かんないけど。」

ちょっとレナの目が怖い。
でもそこでエローラの発言が、私を後押ししてくれる。

「それは分かる。多分、他の子っていうか、ヨル以外の人に全く興味無いよね。あの人。」

そうなんです。

エローラって本当に鋭い。
ちょっと呆れた顔になりながらレナが先を促す。

「で?それで、どうなのよ?」
「うん………、気焔はね、何か…………多分他の人でもいいんだと思う。でも、私は気焔がどっか行っちゃったら嫌なんだ。でもそれが恋愛感情かって言われると…………ただの子供じみたやきもちかもだし。よく分かんない。」

二人とも、渋い顔をしている。

なんで?

顔を見合わせた二人は、頷いてレナが話し始めた。

何か、意見が一致している様だけど?


「あんた、好きな人いた事、ある?」

私はちょっと考えた。

「ないわよ。」

ん?返事してないけど??

勝手に答えたのは、後ろの席で寝ていた筈の朝だ。

なんで?
今までみんなの前で積極的に話す事は無かったのに。

でもシャットでは、猫は話す。
まぁ正確に言えば猫じゃ無いんだろうけど。

朝はそのまま会話に普通に混ざる。
二人も喋る猫に慣れてるからか、そのまま猫も入れた謎の女子会になった。


「私はね、子供の頃からこの子の事見てるけど、無いわね。まだよ、初恋。」 

「そっかぁ。まぁラピスでもそんな事言ってたしね。でもねぇ。もうそんな事言ってられないかもね?」
「え?なんで?」

「うーん。なんて言っていいのか…………。」

エローラが腕組みで悩み出して、私はレナを見る。
レナ先生なら、ズバッと言ってくれそう。

「周りがね。騒ぎ出すわよ。近いうちにね。」
「??」
「あんた、この数週間ですら変化してるもの。よく分からないけど、まじないでも使ってるの?って私が聞きたいわよ?」

「???」

変化?

そう言われてちょっとドキドキする。

なんで?髪?目?バレてないよね??

無意識に髪をいじっていた。
大丈夫、ちゃんとグレー。
チラリと目をやって、ホッとする。

すると、朝が私の変化を教えてくれる。
毎日見てても、言うんだから確実に変化してるのだろう。

何だかまた、不安がぐっと押し寄せてくる。

「急にね、大人になったと言うか…………。もうすぐ15だからかな?とも思ったけど、ここの所、急によね。何が影響してるのか、分からないけど…………。」

そう言う朝の言葉には、なんだか含みがある様な気がする。


髪、瞳、他にも成長している。
ここに来て。
急に。


再び膨れ上がった不安を、壊してくれたのは二人だ。

エローラが唐突にこう言い出した。

「ヨル。きっと恋してるのよ。女の子が変わる理由なんて、それしか無い。ヨルは初めてだから、どっちが、どうとかまだ判らないだけよ。」

「確かに。あの二人を選ぶのは私でも難しいわ。」

レナにそう言われると説得力あるな…………!

「焦らなくていいよ。焦ると、ろくな事無いから。」
「フフッ。」

また、エローラの自虐についつい笑みが溢れる。

「そうね。どうしたって、一人に決まるから。どうせあんたに二股なんて無理だろうしね。」

「「それは、ある。」」

「ハモらないで。」
「そうねぇ。でもシン先生の方は気持ちが分かってるとして、気焔でしょ?まぁ側から見れば、どう考えてもあんたの事大事だけどね。何が不安なの?」

「…………分かんない。」

大切にされているとは、思う。
でも、なんか、何だろう?ちょっと私を通して別の人を見てる時がある。
そんな気がするだけかもしれないけど。
何となく、分かる。

でも、それを言ったらレナに鼻で笑われた。

「あんたにそんな男女の機微が判るとは思えないけどね?気のせいじゃないの?」

「それも否定できない…………。」

ぐうの音も出ません…………。

「試してみようか?」

「え?何を?」
「気焔の気持ち。」
「どうやって?」
「フフ。まっかせなさ~い。」

何だかドヤ顔で出て行ったレナは少しして戻ってきた。
何かの箱を持っている。

そしてその箱から色々出して、並べ始めた。
どう見ても、メイク道具を。


この世界に来てから、化粧水一つで困っていた私は目を疑った。

凄っ。ブラシとかある!
多分あれはチークとかアイシャドウだし。
そういえばレナはメイクしてるわ!
気が付かなかった!


いや、多分気が付いてはいたのだが、ある意味普通のことだったのでスルーしていたみたいだ。

何だかレナが大人っぽく見えるのも、メイクのせいだと気が付くと合点がいく。

ああ~、何かスッキリした。


そうしてレナはテーブルの上に準備を整えると、「さて。」と言って私にヘアバンドをする。

ああ、髪留め大丈夫だよね…?
ちょっとずらしておこう。


エローラも興味津々でメイクボックスの中を物色している。
「これは何?」「これは?」とレナに聞きまくっていて、「ちょっと黙ってて。」と言われている。

まぁエローラはそんな事でめげる様なタチじゃないけど。
何故か朝が「それはね…」と解説していた。


友達で、メイクをしている子もいたけど私は基本スッピンだった。
日焼け止めくらい?
こんなにちゃんとメイクしてもらうのは、初めてだ。
何故か朝が「控えめにしてね。シンプルな色で。」と注文を付けている。

レナも「目立ちすぎない様には、するわ。全部持ってかれても困るしね。」と言っている。
そんなに量を使うのだろうか。


これは、結構気持ちいい。

レナの手は何だか少しぷにぷにしてて、柔らかい。私より小さな手が可愛いな、と思って見ていたら「目をつぶって。」と軽く怒られたけど。

何だか久しぶりに他人に肌を触られて、美容院を思い出す。
シャンプーとか、されたい……。

レナの心地よい手を感じながら、これを生かして何かすればいいのに、とふと思った私は早速提案してみる事にした。

「ねぇ。レナ、エステとかやれば?」

「なに?エステって?」
「なんかねぇ、私も行った事ないから分かんないけど、マッサージしたり、こうやって綺麗にしてくれる所。多分。」

「へぇ。…………そっちのマッサージもいいかもね。」

そっちのマッサージ?
どっちのマッサージ?ん?

私の顔を見たレナが「やっぱりまだ早いわね。」と呟いている。

折角やってくれたのに??


結局、基礎化粧品辺りを丁寧にやってくれて、後は少しおしろい的なもの、目元を少しと、口紅?みたいなものを少々。
何で作ってあるのか、長老がくれたバームみたいな容器に入った可愛い紅だ。

似合ってたら、欲しいな。
今度作り方を聞こう。



「出来た!」

髪もやってくれて、髪留めが外れないように私は一人焦ってたけど綺麗にハーフアップにしてもらった。
普段お下げだからこれだけでも結構違うよね、多分。

ストレートの髪が、三つ編みで緩くウェーブになっている。
お洒落するのなんて、久しぶりだ。
やっぱり嬉しい。


「さて。問題です。」

私がパチクリしてる中、エローラが突然言う。

一体、何が始まった?

「この姿を一番見せたいのは、さあ、誰?!」
「…………?」

全員、黙って私の答えを待っている。

エローラなんて、ちょっと祈ってる。

誰を思って祈ってるのか、ちょっと気になるな…………。

でも、答えなきゃ。うーん…。


シン…………は、まぁ多少は反応してくれるかな?
どうだろう。うーん。
意外とスルーもあり得る。
それはちょっと悲しい。

気焔はなんて言うかな?反応はしてくれそう。
どういう方向かは分かんないけど。
それ以外は…………いないかな?

強いて言えばハーシェルさんとか?
ティラナには見せたい。
ラジオ電話じゃ見えないか…………残念。
やっぱりカメラ欲しいな。

「え?!ヨル?」

声が聞こえて、サッとレナが私を隠すようにして立ったけど、そこにいたのはリュディアだった。

ホッとしてるけど、誰から隠してるんだろ?

でも、側に来たリュディアの感想を聞いて、私も驚いたのだ。

そんなに?

「ヨル。何だか………綺麗。女神みたいになってるわよ?どうやったの?いや、元々可愛いけど…。」
「あ、ありがとう?」

リュディアもレナのメイクボックスに興味津々だ。
でも中身よりは、その細かく仕切られたボックス自体のような気もするけど。

「でも、変わるものよね。確かにこれはまだヨルには早いわ。」

「ね?私達の後じゃない?」

エローラとリュディアのお姉さん組がクスクス言っていて、意外とリュディアも恋話がイケる口っぽいのが分かる。

でも何だか勝手な事を言い出したよ、みんなで。

「いや、ヨルにさ、どっちがいいかって話だったんだけど。気焔と、シン先生。本人はまだ判らないみたい。」

「確かに難しいよね。でも私はシン先生かな~。」
「でもリュディアはまじないの先生だからでしょ?外見の好みで言えば、どっち?」

「私はシン先生かな。」
「どっちかって言えば、先生。」
「私もそうかも。」

え。誰か気焔に一票入れたげて?

そしてシンが人気。意外だな。

「でも、付き合うなら気焔でしょ。断然。」

「あ、それ分かる。」「ね。」
「え?なんで?」

みんなが呆れた目で私をまた、見る。

えー。なんで?

「駄目だこりゃ。」
「まだ全然だね。」
「しょうがないよ。とりあえず、最終的にどっちかに決まればいいんだから。」

「ちょ、ちょっと投げやりすぎない??」

結局何だかよく分からない事になったけど、やっぱり女子会は楽しい。
なんだか元気になった気がする。


「じゃあ私はちょっと迎えを呼んでくるわ。」

そう言って朝が気焔を迎えに行ってくれる。

呼べば、すぐ来るけど一応前置きって事かな??


朝が出て行くと、私達はテーブルに集まってまたお茶を始めた。

女子の話は終わらない。
多分、朝は抜け出したかっただけかもね?


すると、一旦恋話が落ち着いたところでリュディアが何かおかしい事に気がついた。

妙に落ち着かなくて、入り口をチラチラ見たり私達をじっと見つめたり。

何だろう?何か言いたい事でもあるのかな?


「なぁに?リュディアも好きな人でもいるの?」

さすがエローラ、ブレない。

全然そっち方向が頭に無かった私は、ちょっと感心した。
成る程、そうだったら協力しよう。

しかしリュディアの話は、全く違う、少し堅い話だった。

「ねぇ。みんなは女の人がまじない道具をやるってどう思う?仕事としてよ?ちゃんと、それで食べていくくらいの。」

「「いいんじゃない?」」

「やっぱり?やればいいのにって思ってた!」

リュディアは予想していなかったのか、多分、驚いた顔になっている。

物凄く目と口が開いているから。
何だかいつもお姉さまな感じのリュディアが、こんな顔をするのは貴重だ。

私はニコニコしながらそれを見ていたが、リュディアは我に帰ると恥ずかしそうだ。
でも、しっかり顔を上げてこう言う。

「すごく嬉しい。賛成してくれると思わなかった!」
「?何で?応援するよ?普通に。」

私がそう言うと、他の二人も頷く。

リュディアはなんで反対されると思ったのかな?

「もしかして、おうちの事情とか何かあるの?」

リュディアはあいつと同じデヴァイ出身だ。
私達が知らない縛りでもあるのだろうか。
聞いていいか分からないけど、この質問をされたなら多分、大丈夫だろう。

リュディアは考え込んでいたが、やはり言う事に決めたようだ。
ちょっと姿勢を正すと一人一人の目を見ながら話し出す。

それはやっぱりデヴァイに関した、話だった。




「私は今17だけど。16になると私達は結婚相手を決められるの。勿論、親にね。運がいいと小さい頃から決まってるから知らない人なわけじゃないわ。でも、急に決まる事も勿論あるし合わない、と思っても親の決めた事には逆らえない。それが一族のルールなの。」

みんな、ゴクリと唾を飲み込んだ。

全員が初めて聞くのだろう、顔が真剣だ。
特に、「結婚相手」と言った時のエローラの顔が。

「勿論、私にもいる。もう、決まってるの。帰ったら、結婚して子供を産んで一生カンヅメで暮らす事が。」

「ここへは一応まじないと裁縫を学びに来たの。でも…………本当は道具がやりたい。まじないと裁縫は一応、嗜み程度出来ればいいのよ。実際おまけでついてきた私に適当に当てがってるだけ。」

「私はベオグラードの見張り役なの。何かあれば報告する。それだけ。しかも歳が近くて結婚相手がそれを了承したのが私だけ、っていう理由。何でもない、どうでもいいのが、私だったっていうだけなの。他の子は婚約者が嫌がったか、親が了承しなかったか、ね。」

「…………。」

静かだった。

レナとエローラも黙っていたが私も何と言っていいか分からなかった。

親の決めた事に全て従う、これからの人生。
既に決まっている未来をただ歩む。
それはどういうことだろうか。

明日の事も予想外な私にとって、それは想像できない世界だった。


でもさ。
ちょっとさ。

分かんないよ?
レールをそのまま、歩くのが好きな人もいると思う。
予定外のことが嫌い、それは私も結構そうだし。

でも、人から決められるのは、嫌だな。
そこかな…………自分で決めたなら、いいもんね?


しかしここでも、ブレないエローラが訊く。

「その、婚約者のことどう思ってるの?」

うん、それも大事だよね。

「嫌いじゃない。…………でも、恋はしてみたい。」

「それ。ときめかないで一生を終えるなんて、何しに生まれてきたか分からないわよ!」

「そこまで?!アハハ!」

相変わらず面白いな!

「確かに恋はしてみたいし、自分の人生は自分で選択したい。」
「だよね。」
「ねぇ。リュディアはどの位、ウィールに居られるの?」

私はちょっと聞いてみた。
少なくとも、ここにいる間は少し、自由なはず。

「まぁ…………季節一つ廻るか、二つか。ベオグラードがあの調子だから、一つって訳にもいかないでしょうけど。」

「そっか。…それなら、取れば?道具。」

「え?」
「なんか事細かに報告とかするの?見張りは?バレる?」
「いや…………私が見張りだから、それは大丈夫だけど…………。」
「まじないも、裁縫も、それなりに出来るよね?」
「まぁ…うん。」

「じゃあやればいいんじゃない?道具。バレないよ、多分。なんなら裁縫がめっちゃうまい道具とか作ってさ、それにやらせるとか。」

リュディアの目がパチクリしている。

え?いい案じゃない?駄目?


私は堂々と「ズルすればいいじゃん」と言っている。
戸惑うのも当たり前かもしれない。
でも少なくとも一年か、二年は自由なのだ。

満喫しない理由、ある?
いや、無いよね。うん。

「もしかしてさ、やってるうちに物凄い道具ができて、博士とかになっちゃってここに留まるかもしれないしデヴァイで仕事をするようになるかもよ?それは駄目か…?あとは…いい出会いがあるかもね。やっぱり‥」

「それはやるべき。確かに趣味の場所での出会いは高相性。いい人いたら、何とかして貰えないの?」

出会いのところでエローラが割り込んできた。

確かにエローラの第二の目的は出会いだからね。
フフッ。

リュディアも真剣に考え始めた。
さっきまでと顔つきが違う。

あとはお尻についた火を煽ぐだけかな?


「多分、結婚を変えるのは難しいかもしれないけどここで選択を変えたところで困る人はいないかも。正直影響は無いと思う。…………やるべき?」

「「「べき。」」」

フフッ、とリュディアは笑う。

その、とってもスッキリした笑顔が可愛い。

やっぱり、女の子は笑顔じゃなくちゃね?

「明日、先生には相談してみる。」

「だね。レシフェならすぐにいいって言うよ、多分。」
「そうかもね。いい人よね、レシフェ先生も。」
「ま、まぁね。」

あまりお勧めしない方がいいだろうか。

うーん。まぁ悪い奴じゃないけど。


キャー、でもなんか嬉しい。
こうなってみて、私は結構リュディアの選択について気にしていたんだなぁと自分でも分かった。何にせよ、嬉しい。
とりあえず、ハグだ、ハグ。

みんな立ち上がって、リュディアの決断を喜ぶ。

リュディアにギューして、締めのお茶を入れようとした時だった。


「やば。」

それに、最初に気が付いたのはレナだった。

入り口の方を見て、私を、見る。

ん?どうしたの?


ふと、視線の先を追うとそこにはあいつがいた。

でもただ、立ってるだけだけど。

いつもの悪態も、聞こえてこない。
ただ、固まっていた。

「気焔を呼んだ方がいい。」

エローラに言われ、「気焔?」ボソッと呟く。

すぐに、あいつの後ろから現れた気焔。

入り口に立ち尽くしているベオグラードを見て不思議な表情をした後、部屋の中を見て顔色が変わったのが、分かる。


すぐさま私のところへ駆け寄ると、そのままヒョイと抱えて同じくらいの速さで休憩室から出た。

そのまま、廊下で私達は黄色い炎に包まれた。






「やばくない?」

「ヤバいね。」
「どうする、あれ?」
「あれは放っといていいでしょ。でも…………目、付けられたかな?」
「そうだね…まずいかもしれない。彼の婚約者はまだ決まってないのよ。候補はいるんだけどね。本人がなんかどれも突っぱねてるみたいで。」

「嫌な予感。」

「同感よ。でも、許可は出ないと思う。普通はね、普通は…。」
「普通はね。」
「とりあえずこれからはあまり近寄らせないようにしましょ。可哀想よ、あんなのとくっ付けられたら。」
「同感。」

「誰かに何か聞かれても、ラピス出身でウィールの教師候補、と言っておけばひとまず大丈夫だと思う。ただ、判る大人が来たらまずいかもしれない。」
「そっか…………そうね。」
「分かった。気をつける。何かあったら教えて?」

「うん。」 

「まぁ、私はあの後の気焔の方が気になるけどね?」

「まぁそれはそっとしといてやんなさいよ。彼も苦労するわね…………。」

「でも、見てる分には最高に楽しいけど!」
「それ!」
「分かる…。」

「じゃ、とりあえず明日ね。」
「うん、本当にありがとう。…楽になった。」
「良かった。でもお礼は後であの子に言ってあげて。」
「うん。分かってる。みんなありがとう。」
「じゃ、明日。」

「うん。」「また。」




あら、迎えに来たけどみんなもう帰ったのね。
空っぽだわ。

ちゃんと気焔、行ったかしら?
とりあえず私も部屋へ帰りましょ。

この男、ここで何してるのかしら??

だいぶ邪魔だけど。

ま、ほっとこ。


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