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5の扉 ラピスグラウンド
カミングアウト
しおりを挟む寧ろ、今迄の話は前置きだったかのようなウイントフークの話し方。
深くソファーに腰掛け私が淹れたお茶を飲んでいる姿は、私が話し出すのを待つ姿勢だろう。
それ以上、俺から話す事はない、と言わんばかりの態度で彼は座っている。
それは、私が話してもいいのかどうか迷っている事のうちの、一つだった。
「新説の予言を研究していたのはセフィラ」と、いう事。
だって、フローレスは言っていた。「あの子は一族の為に奔走していた。本当に、世界が滅びに向かうしかないのか予言を研究している。」と。
研究者は他にも沢山いるのだろう。でも、数少ない新説の研究。
シャットの寮で聞いた、新説の内容は「滅び」ではなく逆に「救い」だった。そんな事を、他の人がしていないような事を、研究する人…………。
「誰もやっていない事をやってのける」というフローレスの言葉がまた頭を過ぎる。新説を研究していた人が他にもいたかもしれない、と思ったけど多分、フローレスの話を聞いた限りではそんな事をするのは彼女一人だけだろう。きっと、とんでもない事だった筈なのだ。
ウイントフークが考えている新説の研究者とセフィラは同一人物で、間違い無いだろう。
私が秘密にするよう、言われているのは姫様の事だけだ。探し物をしている事。扉を巡っている事。多分、それだけを守っていればいいんだよね?
そこまで考えて、気焔の方を向く。相変わらず座らずに棚の前に立っている彼は、きっと今私の頭の中に渦巻いている事柄を分かっている筈だ。
でも。
危険に巻き込まれないか。………いや、もう十分渦中である。
話す事で姫様の事までバレないか。………迂闊だから、充分あり得る。そうなんだけど。
…………なんだろうな、このモヤモヤ。
この二人に知られた所で、正直何も変わらない事は、分かる。このまま、またきっと私の為に本部長は計画を立ててくれるだろうし、ハーシェルはきっと…心配性に磨きがかかるかもしれない。
でも、なんとなく、なんとなくだけど、言いたくないんだよな…………どうしてなんだろう?
ずっと気焔を見つめたまま、考えていた私は感情の見えない金の瞳を見て「自分のしたいようにしていい」のだ、と受け取る。駄目ならきっと、気焔の瞳は変化する筈だから。
ウイントフークを見る。彼はまだ、私の事を待つ体勢のままだ。珍しく資料を漁る事なく、ただ私の返答を待っている。
ハーシェルは………。
ソファー正面、ウイントフークの隣に座るハーシェルの心配そうな緑の瞳を見た途端、何故か涙腺君が何処かへ行った。
急に泣き出した私を見て物凄くオロオロしているハーシェルが、ちょっと面白くて泣き笑いをする。だって、私もどうして自分が泣いているのか分からないから。でも何故か、いつもの緑の瞳を見ただけで、涙が出てきてしまったのだ。
「ヨル…………。言いたくない事は言わなくていいんだよ?」
その言葉を聞いた瞬間、涙の理由が分かった。
多分、不安だったんだ…。
勿論、二人の態度が変わると思っていた訳じゃない。予言を悪い方に信じていた訳でもない。私が何かをしなきゃいけないと、言われた訳でもない。
事あるごとに、いろんな人が「ヨルの好きにしていい」「自由にしろ」と言ってくれた。
でもきっと、自分の中では不安だったんだ…………。
無意識のうちに、「やらなきゃいけない」「やるべきだ」と思っていたのかもしれない。フローレスの言った「長の唯一の血縁者」という言葉が、もしかしたら重かったのかもしれない。無視をするには、あまりにも…あまりにも大き過ぎる事だったから。
私はもう、この世界にそれだけ入り込んでしまっているのだ。それを自分で認めるのが、怖かったのかもしれない。
落ち着いてくると、ウイントフークがお茶のお代わりを淹れてくれているのに気が付いた。まだ少ししか飲んでいない冷めたお茶を下げると、温かいお茶を置いて、また向かい側に座る。
温かいお茶がなんだかこの二人の心のような気がして、私の心も決まった。
いいよね?言っても?
いつの間にか私の隣に座っていた気焔の瞳を確認する。うん、大丈夫そう。
何故か気焔の方が、安心したような金の瞳で優しく私を見つめていて、なんだか顔が熱くなってきた。なんだ、これ。
「お前達、何か…………。」
その、途中で止めたウイントフークの言葉で余計赤くなった私はブルブルと頭を振って、お茶を飲む。いかんいかん。思い出しちゃった。レナが言ってたやつ…………。今はその話は置いといて…。
「あの。聞いてくれますか?」
「そりゃな。」
「うん。話せる所だけで、いいよ。」
なんとなく、自分の決心の為に前置きをする。
大丈夫、サラッと言えば。うん。
「どうやら私、その、長の曾孫らしいです。」
その時の、二人の顔。
サラッと言おうと思っていた私が、間違ってたのかな…………???
しばらく私は気焔と顔を見合わせながら、朝のしっぽを弄り回して、待っていた。二人が、帰ってくるのを。
「…………成る程な?それで、どうして知った?ウィールだな?」
先に帰ってきたのはやっぱりウイントフークだった。興味が勝ったのだろう、どこから聞いたのか気になり出したに違いない。
ハーシェルの顔色を確認しつつ、二人に聞かせるよう話出した。フローレスから聞いた、セフィラの話を。ただ、この話はフローレスも知っている話で他にも知っている人がいる可能性はゼロじゃ、ない。フローレスは「この話を聞くのはこれで最後だと思う」と言っていたが、知っている人はいると思っていた方がいいと、私は思ったのだ。油断禁物だからね…………。
「…………という事なんです。何だか、「まじないの色が一緒」という事で先生は確信したらしいんですけど。あと、めっちゃ似てるらしいです。エルも言ってたし。」
「ほう。………まじないそのものに、言われるとは間違い無いだろうな。」
いや、エルって言ってあげて…。
そんな事を思いつつ、私は姫様の服の事を上手く濁して伝える事が出来たと思う。チラッと隣を見たけど、何事も無いように座ってるから多分大丈夫だろう。
「ところで…ウイントフークさんは、どうして知ってると思ったんですか?何か、書いてあったんですか?」
それが、凄く気になっていた。ウイントフークさんが頭がいいのは知ってるけど、推理でどうこうなる問題でも無いと思うんだけど…。
そう聞かれたウイントフークは当然のように、答える。
「そもそも俺はお前が青だと思った時から関係はあると思ってるからな。中枢に。外から来てるからどうかと思ったが、新説の研究者はそもそも調査の時点で他の世界を回っていた。だから、色んな記述があって、新説にも辿り着いたのだろうよ。そんな事をするやつはまず、限られる。かなり、力が強いか、長の血縁か…。そして文字は女の文字。しかも自分が予言の青かもしれない、というメモもあった。多分、その女性も青かったんじゃないか?」
そう、ウイントフークに訊ねられて私は小さく頷いた。なんだか「妖精のような人だった」というフローレスの言葉を思い出したからだ。似てるって言っちゃったから、それは流石に言い出しづらい。しかも私はその時のセフィラよりも、もう色が薄くなっているのだ。
そういえば。
ウイントフークとハーシェルはまだ新しい髪色を見ていない筈だ。薄くなった髪と、瞳。今の、私を見て欲しかった。そう、思い立ってアキをするりと外す。
「ヨル…………。」
シン、とした薄暗い室内にハーシェルの声だけが静かに響く。
二人と私の間にあるテーブルに差し込んでいる光の中に、キラキラと舞う埃の粒を見ながら今日は天気がいいなぁなんて、私は思っていた。このくらいの明るさでも、ハッキリ分かる明るくなった髪と瞳の色。
今日は心配そうな顔から、驚愕の表情になり、そして今はなんだか諦めも浮かんでいるハーシェルはきっと色んなことが心の中で忙しいのだろう。
でも、なんだか白水色の髪を見て、逆に吹っ切れた顔のハーシェル。大きく息を吐くと、「これは計画の立て直しじゃないか?なあ?」なんて、言っている。
ウイントフークは私が外してテーブルに置いた髪留めを既にチェックしており、それをまたテーブルに戻すと私をまじまじと眺めて、こう言った。
「いやまあここまで来ると逆に、お前がやればいいんじゃないか?」
「え?何をですか?」
「「この腐った世界を立て直す」んだよ。………ああ、ちゃんとこっちでやるからそう睨むな。」
ん?
ウイントフークの視線の先は勿論、私の隣だ。
気焔はあの瞳にはなっていないが、怖い顔をして向かい側の二人を見ていた。でもきっと気焔も分かっているに違いない。私が今迄の様に、無関係ではいられない事を。人に長との関係を話すという事は、そういう事だ。
「…………。頼む。」
何かを言いかけて止めた気焔は、それだけ言ってまた壁際に戻る。もう話に加わる気がない意思表示に、本部長とハーシェルは「新しい作戦を立てないとな?」と何やら話し始めた。
「ああ、でも心配するな。それでも大筋は変わらないから。」
「?どういう事ですか?」
「レシフェからも聞いてるが、お前がやりたい事は「みんなの笑顔」なんだろう?俺らがやる事もまぁ結論は、同じ所に行き着くからな。結局、越えなきゃいけない壁は同じだって事だ。」
うーん?まあ、今のバランスを壊してみんなが笑顔で暮らせる様にっていうのは確かに共通してるよね…。
「変わるのは、「最後の切り札ができた」って事だけだ。」
えー。何それ。不安。
そう言ってニヤニヤしながらまたハーシェルと話出したウイントフークを、気焔はじっと見つめていた。
その後は冬の祭りの相談をしたり、グロッシュラーへ行くのに必要な物を聞いたり、頼んだりして家路についた。なんだか随分話し込んでいた気もするけど、レナもいるので早目に帰る事にした。
帰り道、途中で気焔がいない事に気が付いて「気焔??!」とキョロキョロしていると、ハーシェルは聞いていたようで「ウイントフークと話してるよ。」と教えてくれた。
…………なんか、最近秘密が多い。
分かってて聞かないでいるけど、それも結構ぐるぐるするんだからね…!
今日帰ってきたら何か小さい嫌がらせをしてやろうと思いつつ、ハーシェルの後をついて家に帰った。
「ねえ。エローラの所に行くでしょう?」
帰ってきた私を開口一番そう言って迎えたのは、勿論レナだ。
結局レナ達はハーシェルの家の台所でティラナのクッキー教室を開催していた。ちょっと、羨ましい。私もこっちが良かったかな?
お疲れのシュツットガルトを休ませる為に、子供達はハーシェルの家に移動して楽しんでいたらしい。
帰って来ていい香りがしたので、丁度お腹が空いていた事に、気が付いた。軽く朝ご飯の残りを準備すると、出来立てのクッキーと共に頂く事にした。ちなみにレナ達はルシアが作って置いて行ったランチを食べたらしい。やっぱりこっちが…。うん。
「で?レナはエローラとも遊びたいのね?」
おやつの時間のレナ達とランチの私達、ごちゃ混ぜになりながらガヤガヤと食事だ。レナは帰る前にエローラとも遊びたいのかと思って聞いたのだが、レナのお目当ては少し、違った。まぁ大体は合ってるけど。
「ちょっと。私は忘れてないわよ。「ヨルに恋人が出来た」って話。」
「!!そうだった!」
「なんであんたが驚いてるのよっ!」
レナのツッコミにハーシェルかウケている。
いや、漫才じゃないんですよ、お父さん。
「どういう事?その冬の祭りとやらに関係あるの?」
「流石、鋭いね!」
まだ笑っているハーシェルを見ながら、私も面白くなってきてキャッキャしていたらレナに睨まれた。いや、フリだよ、フリ。
そう、「恋人が出来たフリ」だよって言ったらガックリされたけど、すぐに立ち直ったレナは「それでも充分おいしいわ。」と言いながらエローラにアポを取る様、言う。
どの道、マデイラの所には行く予定なのだ。じゃあとりあえず、予約?しておこう。
ハーシェルに許可を取って話石を繋げてもらう。
私がやると姿が見えてしまうので、それはウイントフークの時だけだ。
マデイラが出るとアレなのか、すぐに私に代わるようにハーシェルが合図して私は相手の応答を待つ。始めに出たのがエローラだったので、話はすぐに決まり、明日行く事になった。
そう、意外と冬の祭りまでは日が無い。明日行かないと、火の日はイオスと約束があるし…やっぱり忙しいな?
何だか波乱の女子会になりそうだな………と思いつつ、ティラナが作ってくれたクッキーに舌鼓を打っていたのだった。
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