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5の扉 ラピスグラウンド
私の、想い
しおりを挟むそうしてふわりと部屋に到着した後。
私はベイルートを、ひたすらチヤホヤした。
だって、嬉しすぎてまだ全然眠くなかったから。
机の上にセーさんを持ってきて紹介し、お気に入りを並べた上の段にベイルートを乗せて、目線を合わせる。
「完璧。」とセッティングを自画自賛して、私達は久しぶりのお喋りを始める。やはり、ベイルートもウィールで学んでいたらしくシャットの話をしたり、モンセラットにベイルートも調べられた話を聞いたり、新しく出来た友達の話をしたり、ピカピカした体を褒めたり、飛べるのかどうか、訊いたり、いい加減朝と気焔に怒られて、寝る事にしたのはもうだいぶ遅くなってからだ。
私はベイルートの寝床を確保する為、可愛い空き箱を探して用意し、端切れを更に小さくして敷き詰め、小さな瓶の蓋に水を用意して、簡易ベイルートハウスを作った。
「あ!緑が良かったですか?」
そう、ベイルートの設計した家を思い出し、「緑にすれば良かった!」と悔しがっている私を呆れた目でみんなが見ている。「私の足元でいいのに。」なんて、セーさんには言われてたけど。
確かに、土の方がいいのかな?
でも本人に聞いたら「こっちでいい。」と言うのでとりあえずは可愛らしい箱で寝てもらう事になった。本当のお家はおいおい作ればいいだろう。
どうせ、すぐ移動するしね?
そんなこんなでベイルートを箱に納め、私も着替えをする。ベッドに入り、
「レナはもう寝たかな…。」
なんて言っているうちに、秒で寝たらしい。
実際に寝ていた時間は短いが、朝はスッキリ、早起きできた。
目が覚めたのはいつもの、まだ白の時間だ。
ぬくぬくした、布団の中で少し考える。昨日は色々あったよね…………。
結局、あの女の子って…………何なんだろう。
そう、とても、自分に似ていた真っ白の女の子。チラリと見えた瞳だけが、薄い水色と金だった。そう、丁度、私の髪が真っ白になったらあんな感じ…。
また、無意識に不安になって暖かい胸に潜り込んだ。ここにいれば、安心だ。
でも…ずっと、ここだけにいる訳にはいかないよね…。
ホント言うと、ずっとここで、ぬくぬくしていたい。安心出来る、ラピスでずっと暮らしていたい。ハーシェルとティラナと…きっと、毎日楽しく暮らせるだろう。怖い所なんて行きたくないし、嫌な事ばかり起こりそうなグロッシュラーなんて、嫌だよ…………。もう、家に帰って普通に学校行って、友達と下らない話をして先生の悪口言って、居間でポテチ食べながらゴロゴロTV見ようかな…………。
あ。
でもそれだと家がヤバいんだった。
そうだ。
私は、姫様を探してるんだった。
でもな………姫様が見つかったら、気焔もシンもいなくなる。シンは姫様が見つかれば、それで納得してくれる筈。多分、そうなんだよね…?
気焔は………ん?そう、いえば?
ふと、屋根の上の事を思い出す。
待てよ?あ、まずい。
思い出してきた。そうだ、なんだか大事とかなんとかかんとか、言われたんだった!
あばばばばば。どうしよ?私が起きたのは、分かってるよね?起きてお茶しようと思ったけど、絶対、顔赤いし!
私が一人であぶあぶしているのが分かったのか、少しして気焔にぐい、と胸元から取り出された。
また頬を挟まれ、金の瞳で見つめられる。
だから、この顔絶対不細工だから止めてって言ったのに…。
「なにを、考えている?少しは元気になったか?」
金の瞳に心配の色が見えて、ああ、そう言えば心配して泉に連れて行ってくれたんだ、という事を思い出した。
昨日は白い女の子とベイルートの印象が強すぎて、すっかり舞い上がっていたのだけど、やはりまだ私の心はまだ少し重苦しさが残っている。
朝から現実逃避、してしまうくらいには。
どうすればいいのかな?
どうしたら、どうしたら………。
「吾輩が何故、お前を守ると決めたか解るか。」
気焔が突然、そう言った。
え?守る………?守って、くれてるよね?でもきっと、あれだ。その、今迄守ってくれてたやつじゃなくて、こないだの話って事だよね………?
ニブいって言われるけど、それは、分かるよ?多分、そうだよね………?
気焔から伝わってくる真剣な何かで、きっとそうだろうというのは、分かる。
でも、何故そう決めたか?
え?無理無理。いや、言葉にできない。え?だって?なんで私…………。いやいやいやいやいや。
私がまた馬鹿みたいに一人でワタワタしていると、気焔がその「どうして」なのかを話し始める。
静かに私を見つめながら、優しい金色の炎で自分ごと包む。
ふわりと金の小さな炎が星のように私達の周りを取り囲み、くるりくるりと回っているのが見える。
綺麗………なんだろう、これ?今迄こんなの、飛んでなかったよね?
その金の瞬きは、キラキラと私達の周りを飛びながらふわりと揺らめく。その揺れをゆっくりと目で追いながら、気焔の心地よい声を聞いていた。
「お前はどんな不可能に見える事でも、「できない」とは考えない。やりたくない事はできないが、一度やると決めた事はどんなに難しい事でもできると信じて、それに向かって真っ直ぐ進んで行く。信じて、進む力。それがお前の最大の武器。」
「自分の可能性を否定しない、心。誰もが、持てるものではない。」
予想外の話に、金の瞳に視線を戻す。真剣な瞳、声、顔と、段々熱くなってきた手。その手はまだ、私の頬に添えられたままだ。
「人は何故、勧善懲悪を好むと思う?何故、最後に、正義は勝つと思っている?何故、正義の鉄槌が下るというお約束の結末を、待ってましたと喜ぶのか。…………しかし残念ながら、大抵の世の中が「そう」なっていないのは、何故だと思う?何故、これから行くグロッシュラーにも…悪が蔓延っているのか。」
まだ薄暗い部屋の中、少し硬く変化していた気焔の声が途絶えシン、とする。
私は、その問いに答えられなかった。
そのまま、また彼は話し出す。
「何故人は道を違える?人間始めは皆、純粋な心を持つ。何時、何処で、道が逸れた?」
「それはな。己に負けるからだ。誰しも、辛い現実から逃げたいものだ。少しの誘惑に、どんどん溺れてゆく人間を、星の数ほど見てきた。………しかし人々の前に道は必ず二つ、用意されている。真っ直ぐに進むのか、そこで折れるのか。」
「お前にも道は、二つある。どうする?どちらへ進む?」
そう言って、私の顔をじっと見ている気焔。
そんな事言われても………私の心は、決まってる。
どんなにグダグタしたって、悩んだって、胸焼けしてみたって。
そう、ここに来た時と同じなのだ。
また、しのぶの言葉が思い浮かぶ。
「どうせやるんだから、ぐるぐるしてないでさっさとやりなさいよ。」
その通りですよね、はい。
分かってる。解ってるのよ?でもさ、ぐるぐるするじゃん?人間だし?
逃げてもいい。私がやらなくてもいい。そう、何度も言われてきたし、私も、何がなんでもやらなきゃいけないと思っている訳でも、ない。
何度も、道は示されてきた。私には選択肢が、ちゃんとあったのだ。
でも。
やらないという選択肢は、「私の中」に無いのだ。
嫌なんだよそんな、スッキリしない選択。モヤモヤするくらいなら、やるよ。やらずに、後悔したくない。
「後悔するなら、やってから」だ。
そうだよね。解ってる。
「行くよ。」
まだ、半分半分。行きたくないのと、行ってやるって、気分なのと。でもそんな私を解っているのだろう、気焔はこう言った。
「お前はどう動けばいいのか、分からないのだろう?何をしたらいいのか、考えてしまっているのだろう?それは実は、どうでもいいのだ。ブレーンはいる。力も、ある。仲間もいる。………お前のやる事は、何だ?」
そうか。
強い光が宿る金の瞳を見て、気が付いた。
「……信じて、私は、私のやりたい事を、やる事。」
そう、ベイルートに以前言われたことを思い出した。
あの時も沢山の事がぐるぐるして、確か悩んでいたんだ。でも、ベイルートは確か、こう言った。
「思考を整理して、出来ることから片付けていけ。その中で自分がやるのがベストなもの、人に任せてもいいもの、人に任せた方がいいものに分ければ良い。絶対に自分がやらないとならないものなんて、実はそんなに多くはない。」
そっか…………。
そうだよね…。私が出来る事なんて、たかが知れてる。だって普通の中2だし?
だから、きっとみんな「やりたい事をやれ」と口酸っぱく言うんだ。
無理しなくてもいい。無理したって、周りが逆に……迷惑かも。多分。大人しくしろって、言われてるし…。
だから、結局ウイントフークだって私にこれからどうしろ、とは絶対言わないんだ。今迄も、これからも。
私は自分と周りを信じて、進めば、いい。
そういう事だよね?
口に出してはいないけど、そこまで考えると気焔の目を見て確認する。
何故か得意そうな顔をして頷く彼を見ると、それでいいという事なのだろう。安心して、そのまままた胸の中に潜り込んだ。
正直、まだ不安はある。
でも、無くなりはしないのだ。この不安は。
それが、グロッシュラーの怖さだし、そこに私達がこれから行く事は、変えられない事実だから。
この不安は、何かにうまく変えて、持って行かなきゃいけないもの。
でも私は一人じゃないし、私達は、強い。
多分、世界を変えられる程。
「力はある」と言った気焔。以前も訊かれた、あの、話。
でも、私は気焔に力ずくで世界を変えて欲しい訳じゃないのだ。だからやっぱり、本部長達と頑張らなくちゃね?
少しずつ、落ち着いてきて、不安もきちんと口に出す。愚痴は言いたくないけど、それは私にとって必要な事だと、今は思えた。
ちゃんと、口に出して、自覚して、それを越えていきたいのだ。フタをして、有耶無耶にするのではなく。
ブツブツ、「ホントは怖い。」とか「嫌な人に会いたくないしそんな所は耐えられないから癒しが欲しい…。」とか、ひたすら吐き出して、スッキリする。
自分で越えて行くつもりだった、私。
でも気焔がその間ずっと頭を撫でてくれていたので、言ったそばから、消化されていくような気がした。
何だか得した気分?
もしかしたら、あのキラキラが私の湧き上がってきた不安を消してくれたのかも、しれない。
そのまま少し落ち着くまで、ぬくぬくしていた。
ここは、私の特等席だから。
それで、合ってるよね?
「信じろ」って言ってたもんね?
そう思って、また気焔の瞳を確認しようと顔を上げると、ゴツンとおでこをぶつけてしまった。
「いっ……たぁ!」
なに?気焔も下向いてたのかな?
二人で顔を見合わせてクスクス笑い、すぐに気焔がふっと真剣な表情になった。
ふふっ。くすぐったいよ?
気焔の息が掛かって、くすぐったい。彼の真剣な表情に「あれ…………」と雰囲気の違いを察した瞬間。
バチン
「ハハッ。」
「ちょっ、大丈夫??」
最早恒例となった、この弾かれる、やつ。
気焔は分かっていて、やったのだろうか。
また、私だけに見せてくれる笑顔で楽しそうに笑ってるけど、痛くないのかな?
まあ、気焔が楽しいならいいか………。
そう、きっとレナの言う「どうこうなる」の意味が分からない私には、この位で丁度いい。
多分、ね?
窓から見える景色が、大分明るくなってきた。
なんだか足元かモゾモゾするし、(多分朝が起きたのね)そろそろ、お風呂入っちゃおうかな?
昨日はお風呂も入らず寝てしまった事を思い出して、起き出してお風呂の支度をする。
火箱を着けて、お湯の支度をし、レナの部屋も覗くとやっぱりまだ寝ていたので、火箱を着けて扉をそっと閉める。
大きく伸びをして、可愛い箱の中のベイルートを確認すると、金色の瞳を振り返り「覗くなよ?」といつものセリフを言う。
仏頂面の気焔を置いて、洗面室に入った。
鏡で見た顔は、思いの外、スッキリしている。
「うーん」
両頬に手を当て、あの熱い手のひらの感触を思い出す。不意に顔が熱くなってきたので慌てて服を脱ぎ、お湯をかぶった。
そういや、ベイルートさんの名前、ベイルートのままでいいかな…………。
そんな事を考えながら、左腕から、洗い始めた。
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