透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

青の本と青の家

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「アレはね、カエルだけどカエルじゃないのよ。」
「そうなの?!」
「だって虹色のカエルはいないでしょう。」
「う、うん…………でも正直まじないの森なら何でもアリかと………。」


そう、二人で話しながら図書室の扉を開ける。

実は今日の図書室での課題を決める為に、青の本を持って行こうと思っていたけど、すっかり忘れて部屋を出ていた私。
まぁ、気焔と別れて深緑の館に入りかけて、気が付いて戻ったんだけど。

予言の事を研究するにしても、多分私が知りたい部分は青の本に書かれている可能性が高い。
それに、古語が読めない私の通訳だし?
何しろあった方が捗る事は間違い無いので、とりあえず取りに戻ったのだ。


「もうみんな大分進んだかな………?」

深緑の絨毯をちょっとフカフカしながら、歩く。
この、ヒールがある靴だと厚い毛の中に沈み込むのが良く分かって、ちょっと楽しいのだ。

特に、期限がある訳でも、試験がある訳でも、無いらしいが私は造船所も行っているしきっと図書室の中では全く進んでいない部類に入ると思う。
とりあえず今日は本の選定くらいはしたい。

本棚の間を小声で話しながら歩く。
研究に使う本を探しながら、ネイアに出会ったら祭祀の事は訊こうという作戦にした。

まず、やる事決めないとね………。
自分でもスッキリしないし?それにしても、この膨大な本の中で何をどう、探したらいいんだろ??

「ねえ、青の本って全部で何冊あるの?知ってる?」

手っ取り早く訊いてみる。
知ってたら、すぐ済むもんね?

「そうね?私は知らないわ。私は二番目だから………もっと後半の子達なら知っているかもしれないけど。」
「そっかぁ…。」

そう呟きなら、本棚の森をウロウロする。

とりあえず、端から攻めようかな………。

あまりにも適当にウロウロすると、永久に周り終わらなそうだから。
さっき廊下で話していたのは、この二の本の中に書かれている内容だ。彼女(私と言っているから一応)曰く、二の本はティレニアとラピス、グロッシュラーの地図など地形について書かれた本らしい。
内容的にはセフィラが書いた、旅行記の様な物だ。

そう、やはり書いたのはセフィラだった。
部屋に持って帰った時、私が教会から持ってきていた日記に「あら、兄妹。」と言っていたから。
しかもどうやら日記が一の本らしい。
そう言われて見てみると、きちんと表紙には一つ、小さな星が打たれていた。

「長老もね………ナズナにもまた会えるかな………。」
「そうね。あそこは輪廻の森でもあるから。」
「えっ。何それ………。」

えっ?
ちょ、ちょっと………なに?

二の本の返事に驚いて手元を見ると、事件が起きていた。
「輪廻」なんて気になるワードが出てきたと思っていたら、なんと二の本からまた金平糖がポロポロと落ちてきている事に気が付いたのだ。

「や、ヤバいヤバい………。」

慌てて本をローブに包み、背後を振り返るが私の歩いた後に道標の様に落ちている、キラキラ光る星の様な金平糖の様な光たち。
拾おうとしても、手では掴めなくてとりあえず絨毯を払ってみるけど少し薄くなる程度。

「あわわわゎゎ………。」

まずいまずい。消さなきゃ!
消えて!


「大丈夫ですか?……………何を?」

ヤバ。

その時点で絨毯に這いつくばり、片手で本をローブで包み抱え、片手で掃除をする様になっていた不審な人物。それは、私。

必死で言い訳を考えたけど、全く出てこないし、この状況で上手く言い訳できる人がいたらきっと天才に違いない。

一応、恐る恐る、顔を上げた。
そして私を見ている、青いローブのネイアの足元にはまだほんのり光る金平糖が落ちているのにも、気が付く。

ヤバ…………どうするどうする?知らんぷり?転んだフリ?ええぇ?無理かな?でも、やるしか無い?


その時、脇の通路から朝がトコトコやってきて、パクンと金平糖を食べた。そしてその下を向いた朝の頭から、コロリと落ちてきたベイルート。
そのままコロリと絨毯を転がって、歩き始めた。

え。状況が読めない。

きっと二人は私を助けに来た筈だ。


しかし私がぐるぐるしているうちに、彼は一人で納得した様で二人を見てこう言った。

「ああ、この虫が光ったんですね………。虫も、連れているのですか?」

成る程。

その瞬間合点がいった私は、二人に合わせるべく行動を開始した。そう、きっとこの人が気焔が聞け、と言っていたラガシュだろうから。
確か、ネイアの青ローブは彼か気焔しかいない筈だ。

「そうなんです。丁度、どこに行ったのか探していて………。見つからないので下の方にでも隠れているのかと。すみません、おかしな格好で。」

話しながら立ち上がり、ローブを払う。
青の本がもう光を溢していないかは、確かめられない。そのままローブで隠してさり気なく、質問したつもりだった。

「あの、今朝の礼拝で言っていた祭祀の事を聞きたいんですが………?」

彼がじっと、私が抱えるローブを見ていたのでつい、私も止まる。

ヤバい………出てる………?

ローブをギュッと、抱え直して視線は逸らさずに続けた。気持ち、顎を上げて話す。

「申し遅れましたが銀のセイア、ヨルと申します。図書も採っているのでよろしくお願いします。」

出来るだけ、仰々しく。
するとやはり彼の視線はローブから外れ、きちんと自己紹介してくれた。

「いえ、失礼しました。私は青のネイア、ラガシュ。図書室の責任者です、一応。」

一応?

何だかとってつけた様に言われてしまったが、何故だかは分からない。
訊いてもいいか、まだ分からなかったのでとりあえず聞き流す事にした。
そう、とりあえずはこの場を切り抜ける為に移動したいのだ。

キラキラが残っていないか気が気でない私は、彼を誘導すべく歩きながら説明を求める事に、した。




ベイルートを拾い、朝の背後をついて、歩く。

ラガシュは「あっちの方が資料があるので。」と言って、どうやらネイアのスペースに連れて行ってくれる様だ。
今迄いたのは、図書室の入って左側の、セイア達が勉強するスペース。今は右側、白い魔法使いの部屋がある方に移動している。

キョロキョロ辺りを見回しながら、本棚の森を進む。

深い茶の重そうな本棚にはどこもぎっしり、本が並んでいて一体何処からこんなに持ってきたのか、ふと疑問に思った。
どれも美しく装丁された本達は、箔押しの背表紙を見ても贅を凝らしたものも多いのが分かる。

一つ一つ取って眺めたいのは山々だが、今は無理だ。
私は青いローブの後ろを少し離れて歩きながら、この本棚の森を縫って進むこの静けさを愉しんでいた。

深々した、深緑の絨毯も。
深い赤茶の艶が光る本棚も。
少し暗めに設定されているであろう優しい灯も。
何だかよく分からない気持ちが自分の中から込み上げてきて、懐かしいような、切ないような不思議な気分になる。

どうしてだろう。
ここには、初めて来た筈なのに。



「少しここで座って待っていて下さい。」

そう言われて、ハッと我に返る。

また少し本棚が開けた場所で、チラホラネイアの姿も見えるネイア用のスペースに、着いた。

一つのテーブルを指されて、そのまま引いてくれた椅子に座る。何だか教師に椅子を引いてもらうのも、ちょっと微妙だがきっと私が銀のローブだからだろう。
静かなこの空間で断るのも、目立つ。

本棚の間を消える青いローブを見送ると、そっと自分の懐を確認して青の本を出した。


もう、流石に大丈夫だよね………?

「良かった。」

「あ、その本。」
「キャッ。あ。」

本が光っていない事を確かめたと同時に背後から声を掛けられて、つい小さな声だが叫んでしまった。
慌てて口を抑えたけど、何人かのネイアに見られてしまった。

「すいません、そんなに驚くとは。」
「いえ、私こそ………。」

とりあえず隠すと怪しいので、そのままテーブルに青の本を置いた私。
ラガシュはやっぱり、青の本を見ている気が、する。

えー…………。
どうしよう。なんで?なんで見てるの??

ここで開くと、多分、まずい。
状況を読んで、黙っていてくれるかは分からないからだ。

いや?でも、そもそもこの本の声って、他の人に聞こえるのかな?

それはまだ、試してない。
何となくウェストファリアの前で話していたけど、白い魔法使いは聞こえていても聞いていない可能性があるからだ。
部屋には朝とベイルート、気焔しか来ないしあの人達はちょっと、特殊だから。
ちょっと、腕組みして考える。

でもな………試すとしたら、白い魔法使いが妥当だよね………。このラガシュさんが、どういう人なのか、全然知らないし?

チラリと、青いローブを見上げた。
彼はまだ、私の背後に立ったままだったから。

私の視線に気が付いて、少し、考えて彼はこう言った。

「あなたは………これが読めますか?」

え………。

「いいえ?読めません。」
「何処で見つけました?」

「………何処だったかな?でも、ウェストファリアさんに、借りました。」
「そうですか。」

なになに?大丈夫?私。

とりあえずラガシュが黙ったので、こっそり息を吐く。
しかし私の次に吸い込んだ息は、彼のした質問によって急に飲み込まれて、思わず咳き込んでしまったのだけど。


「さっきの光、あなたですね?」

ヒュッという音と共に咽せて咳き込む私の背中を摩ってくれる、ラガシュ。
でもその手が私の心と頭を逆に圧迫している気がして全く気が休まらず、でも、咳は落ち着いてきた。

ちょっと涙目で、落ち着くまで黙っている私。


えー。どうしよ。なんで?
でもまぁ、見えたんだよね………きっと。
それは仕方ない。じゃあ、嘘ついてもしょうがないかな………。

そもそも、嘘なんか上手くつけない、私。

とりあえずラガシュの灰色の瞳をじっと見る。

青いサラサラの髪がまた、青のローブに合って灰色の瞳ともいい感じに馴染んでいる彼。多分、歳はハーシェルより少し、年下くらいだろうか。
まだ、結構若い。
スラリと背も高いが、細身なのであまり大きくは見えない彼からは威圧感もなく、ただ、私の返事を待っていた。


まあ。
変に嘘ついても、どうせボロが出るよね。
うん。
私が隠さなきゃいけないのは、色の話と、あの話だけの筈。まあ、なるようになるでしょ。

「そうです、ね?」

そうだとしても、とりあえずは曖昧な返事をした私。何となく、逃げ道を残しておきたかったのかもしれない。
いや、言ってるけど。自分だ、って。

私の返事を聞くと、彼は何でか満足そうに頷いて隣に座ると、私の前に置いてある本を開いた。

「ようこそ。青の家へ。」

そう言った彼は、青の本をパラパラとめくりながら話し始める。
それは私の知らない、セフィラの話だった。



「この本は、青の家の研究者が書いた本です。今はもう、亡くなってしまったんですけどね。」

彼はそう言ってめくっていた本が最後のページになると、そのままパタンと本を閉じた。


じっと、灰色の瞳に見つめられる。
不思議とさっき迄の緊迫感は無い、ただ静かな灰色の瞳を私も見つめ返していた。

「この図書室にある分は、このグロッシュラーの神殿で管理されています。今はウェストファリアが研究してるのかな?とりあえず片っ端から青い本を調べていたと思ったけど。」

チロリと私の目が動く。
だって、青の本を選別してしまったから。

それを知っているのか、ラガシュは特に咎めるでも無く話を続ける。

「この図書室で所蔵しているのは十六冊です。でも、私達、青の家には後残りの三冊があります。昔はもっとその後の研究も、残っていたらしいんですが………。」

が………?

パチクリしながら、彼の話を聞く。
何故か、祭祀の話を聞きにきたのに青の家の、何故かセフィラの、話になった。その時点で私の頭の中はちょっと、混乱していた。
そもそも、始めの一冊は私が持っている。それで、十七冊は揃う筈だ。そして、それ以降の二十までの三冊が、彼の家「青の家」に、あると。

そういう事だよね………?


彼が何を言おうとしているのかは、分からない。
分からないけど、私の反応を窺っているのは解った。

うん?これは、私が何か言う場面?
でも、何を?

ぐるぐるする。
でも、分からない。
……………とりあえず、じゃあ訊いてみようか。

そもそも、何故私にその話を始めたのだろうか。
私が持っている本から光が溢れているのを、見た。
青の本を持っている。

………?それだけだよね?何の要素があるかな?
うん?ウェストファリアさん?関係あるかな…?

「何故、私にその話を………?」

じっと、彼の瞳を見つめたまま、そう質問する。

すると返ってきたのは少し怖くて、物凄く、気になる返事だった。

「うちにある本には、そう、書いてあるからですよ。」


そう言って静かに微笑む彼の顔を、私は茫然と見つめていた。










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