透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

其々の研究

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そうっとめくったそのページには最初は文字しか書かれていなかった。

ダーダネルスが読んでくれる。

「この絵に祈りが集まる事で
     少しでもヴィルが救われます様に」

ヴィル?
ヴィルって誰だろう?

私がぐるぐる考えていると、ページをめくっていたダーダネルスが「ここから先は読めませんね…。」と言った。

「見てもいい?」

そう言って、私がページをめくる。

私は最初のダーダネルスか読んでくれた箇所も、読めなかった。でもそれが今勉強している古語なのは解る。

しかし、それ以降のページに書かれている文字は三年のダーダネルスにしても「見た事のない文字」らしかった。

もしかしたらトリルなら知ってるかな?

そう思ったがとりあえず続きをめくる。
その、謎の文字からは何故か固さや難しさよりも何だかふんわりと暖かいものが、感じられる。
少し、装飾的な文字だからだろうか。

「スケッチ………ダーダネルスはこれ、見た事あるの?」
「絵は管轄外なので。あまり研究している話も聞かないですね。神聖なものですから、研究対象にはなり難いのかと。」
「成る程………。」

話しながら、大体のページを見終わる。
そう厚くないこの本は、大体が謎の美しい文字の散文と、スケッチの様な絵、最後にはあの完成系の絵と全身像もあった。


そう、それはやはり長の絵の本だった。



「祈りの絵って言うんだ………。それにしても。」

何故だか暖かい雰囲気が感じられる、その本。
その本の途中に、私は気になるものが挟んであるのを見つけてしまった。
そう、何で「見つけてしまった」のかと言うと。

今は生成りに変色している、元は白かったであろうレースの端切れを指で抓む。
しおりの様に挟んであったその端切れは、紛れもなく私が持つ宝箱の中に入っている、セフィラのレースと同じ、ものだったのだ。


うーん。
まずいものを見つけてしまった。
いや、まずかないんだけど。
この本、セフィラも読んだって事だよね?
まぁ………当然グロッシュラーに来た事はあるとして、ここでも研究してたって事なんだろうな………。
この、長の絵。この絵が予言に関係あるって事?
まぁ、でも無い訳が無いか………現に本部長達は予言通りに物事が進んでると思ってるみたいだし、私の瞳は金にどんどん近づくし、でも白い森は侵食しなくなったけど………うん?

結局、滅びないなら、どうなるんだろう?


ウイントフークは私が「救い」になるかも知れないと言った。
でも「どうなる」とは、言っていない。

「どう、救う」とか、「他の世界がどうなる」とかはまだ誰にも分からない。

うーん。本部長なら、「アタリ」を付けてそうだけど。どうなんだろうな。
でもな…………。


とりあえず、「思うように進め」って言われてるから、いっか。



「ヨル……………?」

遠慮がちに私の名を呼ぶ、ダーダネルスの声に現実に帰って来た私。

「うん、とりあえずこれは借りて行こう。」

そう一人で宣言すると、「祭祀の事を教えて欲しいんです?」とダーダネルスにお願いしつつ、トリルの所に戻る事にした。
どの位か分からないが、暫く放置したままなのだ。
でもきっと、まだ夢中で本を読んでいるのだろうけど。



「じゃあ広いテーブルの方に移った方がいいかな………。」

三人だと流石に無理だ。
女の子二人だから奥の机に座れるけれど、私とダーダネルスとかなら、無理に違いない。


とりあえずトリルに声を掛けるべく、一人用の机がある奥へ向かうと違う人が座っているのがチラリと見えた。

あれ?移動しちゃった?帰ったのかな?
でも………一人じゃ帰らないよね………。

そう思って広い勉強スペースを見渡しても、トリルの姿は見えない。
何にしても、私の本や道具は置きっ放しだ。
それを思い出して取りに行こうと机に近づくと、何とトリルは移動したのではなく、大きな男の人の影に隠れていた事が判った。

あの、私が気焔と間違えた青ローブの男の人。

彼が、手前に座っていたので奥のトリルが見えなかったのだ。



「ごめん、トリル。お待たせ。…………あの………?」

私が座っていた席に、ちゃっかり座っている彼を見る。

フードを脱いでいる彼の綺麗な青くて長い髪は一つに束ねられていて、触ったらサラサラと気持ち良さそうだ。
今日は私を見上げている、灰色の瞳。

相変わらず飄々とした彼の雰囲気から、何となく「ラガシュに似ているな………」と思う。
あの人も、私を試すような事をして、何だかややこしい課題も出した。
やっぱり青の家はよく分からない。

悪い、イメージでは無いんだけど。

兎に角、掴みどころがないのだ。


きっと灰色の瞳が不躾だと思ったのだろう、ダーダネルスがサッと私の前に出てきて彼の視線を遮った。
白のローブも綺麗だよね………なんて、呑気な事を考えている場合ではなさそうだ。

ダーダネルスの背後から覗くと、トリルがこの意味不明な状況にアワアワしているのが判る。

ていうか、これ、どういう状況?
私、どうすべき?
てか、この人何してるんだろ??


その全ての疑問を解決すべく、私は青ローブの彼に自己紹介する事にした。
きっと、彼を無視していては事が進まなそうだったから。


ちょっと、横にずれてダーダネルスの隣に立つ。

出来るだけ、「無」で話した。
何だか動揺すると、彼の術中みたいで悔しいから。

「銀のセイア、ヨルです。よろしくお願いします。」

思った通り、ニヤリと笑った彼も名を名乗る。

「青のセイア、ラレードだ。俺は二年だから、これからよろしく、お願いします?」

やっぱり………。

何でこの人、私を揶揄うみたいな感じなんだろ。


ちょっとムッとした私は、彼の思惑通りにならない様出来るだけ冷静に、トリルに提案する。

「祭祀の話をダーダネルスにも聞きたいから、あっちの広い席に移動しない?」
「そうですか…………。私は本も沢山持って来たのでここでいいです………?」

そう言っているトリルの横で、さっさと本をまとめて積み上げ、持って移動しようとしているラレード。
私達が呆気に取られていると彼はしれっとこう言った。

「何してる。行くぞ?」


いや、あんたは誘ってないけどね!!




しかし実際の所、「俺がいる方が捗る」と言っていた彼の言に嘘は無かった。

私は分からない文字の解説をトリルに訊き、祭祀の手順や配置をダーダネルスが教えてくれ、その他祝詞の解釈や予言に関する事など、全体を纏める提案をしてくれたのはラレードだった。

そう、彼は青の家だけあってやはり青の本を研究しているらしく、図書館管理で忙しいラガシュの代わりに主に研究しているのはラレードらしい事が判ったのだ。


「あの白のおっさんから下がってくるまで待たなきゃいけないのがちょっとな………。」

そう言っている彼にドキドキしつつ、「ちょっと、バレてもいいの?!」と小声で尋ねる。

「………いい訳じゃあ無いと思うが、ここにいる人達は少なくともあの本を処分はしないだろうよ。研究は、自由だからな。」

処分………?
そういえばデヴァイには殆ど残っていなかったと言っていた筈だ。エイヴォンが。
ふぅん?

研究の自由がある、という事はデヴァイには逆に無いのだろうか。
ぐるぐるしつつも、特に青の本が危険視されているとか、禁句では無い事が分かる。

「これって、みんな知ってるの?」

小声で聞いてみるとラレードはここでの青の本の扱いについて教えてくれた。

「何せ予言関係の本が膨大だ。青い本に、一般的な予言と違う説が書かれている事を知っている人も、いるとは思う。だが、その内容は多分信じ難い内容なんだと思う。人は、どうしても悪い方を信じてしまうのが大多数だからな。」

「………そうね。」

意外な言葉が返ってきて、ちょっと止まってしまった。

でも、このラレードの言葉を聞いて青の家の人々は予言の新説も知っているのだという事が判った。
トリルも、知っているのだろうか。

チラリとトリルに視線を移すと、ラレードが耳打ちしてきた。
ちなみに何でか、席は私とトリルが向かい合わせに座ったのだがラレードが私の隣に座ると、当然の様にダーダネルスが反対側に座って、今現在、私は壁に挟まれている気分だ。
落ち着くんだか、落ち着かないんだか………。

でも暫くすると、たまにチラチラ見てくる人がいたのできっと壁になってくれるつもりだったのだろうと思った。いや、ラレードは別かもだけど。

でも三人と一人で座る異質さに私が「あの銀の人だけじゃなくこの二人もアレコレ言われる心配は無いのだろうか」と心配をしていても当の本人達はどこ吹く風だ。
私もそれを見てすぐに、面倒になってこの問題は投げた。

それよりもラレードが私に耳打ちしてきた内容を聞いて、安心する。

ん?私、不安なのかな………?

「トリルはまだ知らない。青い本と青の本の違いも知らない筈だ。」

そう、ラレードに言われてホッとした自分に気付く。


予言の内容、私が青の本に関係がある事。
それを知られるのが、怖いのだろうか。

普通に考えると、「滅び」だと一般的に考えられている予言の少女だなんて思われるのは、嫌だ。
何だか「災厄」とか「禍」みたいじゃない?
それは流石に………。うん。

でも、新説は「救い」だ。
それならそんなに悪くない。でも、何か、やはり私の中でブレーキがかかっている。
そりゃ、絶対知られちゃダメだって今迄言われてきたし、知られない方がいいのはあらゆる面で、そうなのだ。

でも多分、ラガシュと繋がっているラレードはきっと知っている。
ラガシュは多くを語らなかったけど、多分私から光が出たのを見た時点でほぼ確信している筈だ。



安心した様な、余計にぐるぐるする様な、何だかよく分からなくなって考え込んでいると、頭上から声がした。

「解釈は、出来ましたか?」

そのままふと、上を見ると私の背後に立っていたのはラガシュだった。


何だか今迄考えてたから、変な感じ………。




「一応、翻訳は出来たんですけど、解釈は………まだです。」

正直に言った私を見て、何故か嬉しそうに頷くラガシュ。
腑に落ちない思いでそれを見ながら、続いてラガシュが何故ここに来たのかを話し出すのを聞く。
きっと、口振りからして、この人は図書室でのみんなの行動を観察しているに違いない。
責任者だから当然なのかも知れないけれど、何だか私に関しては別の意図がありそうな気もしないでもないのだ。

「そろそろ頃合いかと思ったのですが、今のところのまとめ迄は終わってますね?ウェストファリアがお呼びですよ、ヨル。」

「へ?白い………いや、分かりました。ウェストファリアさんですね。片付けたら、行きます。」

突然久しぶりの名前が出てきたので危うく「白い魔法使い」と言いそうになったが、バレたかも知れない。
でも、バレたとしたらきっとみんなそう思ってるからだろう。私だけじゃない、うん。


とりあえず返す本を返して、持ち物を纏め、トリルに予定を尋ねる。

「私、行くけどトリルはどうする?」
「もう少しでお昼よね………?それまではやってく。行ってらっしゃい。」

何となく敬語が取れてきたな………。

うんうん頷きながら「じゃあ、後でね。」と言うとダーダネルスにお礼を言い、ラレードにも一応、言う。

ラレードは口を開いたけれど、余計な事を言われないうちに撤収だ。

「じゃあ、みんなまたね。」


そうして私は大きなあの本も抱えながら、白い魔法使いの部屋に向かった。




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