透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

ラガシュと私

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深緑のフカフカ絨毯を感じながら、奥へ進む。


図書室の扉を入って、トリルとランペトゥーザはセイアのスペースへと別れた。

私はラガシュを探しに、右側の通路を進む。


今日も静かな図書室は、いつもの何とも言えない古い紙の匂いと、心地よい灯り、遠くから聞こえる人の気配と古いものの温もりで満たされている。

深い赤茶の本棚を眺めながら、トリルの言っていた事に思いを巡らせ、通路を進む。

確かに、注意して見ていくと沢山の形態の本があって愉しい。
ただ紐で束ねられた様な紙束の本も、紙自体が味のある色で光沢があったり、其々がその良さを醸し出していていつか研究してみたいものだと思う。

私、この世界でずっといてもいいかもな………。
時間にもそんな囚われなくていいし。
好きなもの沢山あるし。
姫様だけ探して、家を確認したら戻るとか…?

いや、具体的に考えると結構悩むなこれ。

…………そこまで、出来るかな?


いつの間にか、立ち止まって考えていたらしい。



「おや、お待ちしてましたよ。」


通路を通り過ぎようとしていたラガシュに見つかったのは、その時だった。









ラガシュは私を図書室の奥、多分彼のスペースであろう小さな場所に案内してくれた。

部屋、と言うには扉がなく仕切られていない小さなその場所は本棚の間を上手く利用した隠れ家の様な、場所だ。

近くに他のネイアがいる様子も無いし、一応この人は図書室の長だと言うからその為の場所なのかも知れない。

小さな、しかしその落ち着くスペースは机と本棚、椅子が二つに物置ワゴンしかない狭い、場所。
私と彼が座ると、いっぱいなそのスペースに私を座らせるとちょっと机の上を片付けながらラガシュは私の話を待っているようだった。



うーん。

何から話そうか。


なんだかんだで色々考えた気がするけど、最終的に勢いで来た感が否めない、私。

しかしシンと話す事で、とりあえず今自分が知っている事、分かる事、思っている事を話すしかないと考えた私はまず初めに気になっていた事を訊いてみる事にした。

そう、先ずはラガシュから事情聴取をするのだ。

上手くいけば、また私が答えに近づける鍵が見つかるに違いない。
何となく、だけど。


「あの。」

フードを脱いだサラリとした青い髪、灰色の瞳。

何となく今日も飄々とした空気を纏うこの人は、どう、私の疑問に答えるだろうか。
敢えて少し、含みを持たせて、訊く。


「あなたは、何故祈っていますか?」


ちょっと、迷った。

「何に」祈っているのか、と「何故」祈っているのか、どちらを尋ねるのか。
この二つは似ている様で全く、違う。

しかし、「あの絵と石」については祭祀の後にしようと決めた私は、「何故」に焦点を絞る事にした。
それに何となくだけど、この人があの絵に祈っているとは到底思えないのだ。何故だか、それは判る。


私が何故この質問をしたのか確かめる様に、じっとこちらを見る灰色の瞳。

始めに、私が光を溢した時の様に、何かを探る様な目をしてじっと、見ている。


この人は、一体なにを確かめたいのだろうか。
それも、気になっていた。

私を、「何」だと思っているのだろう。
私を、「どうにか」したいのだろうか。

それとも。「なんとか」して欲しいのだろうか。


判らない。


しかし、ラガシュは多分、素直に私の質問に答えた。


「私は、「青の家の為に」祈っていますよ。いつも。」




「青の家の為」

それは「何に」と「何故」との両方を含む、答えだと漠然とそう、思えた。
この人はやはり、「あれ」に祈ってはいない。


「正確に言うと、僕らの、「運命」に、ですかね。」

「運命………?」

「ええ。だって。は。」

ニッコリと、私の目を見て、言うラガシュ。

「この、世界を支える「存在」を生み出す役割を負っている。この、狂った世界の、「生贄」になるものをね。」









いつの間にか聞こえなくなっている小さな騒めき、遠くの人の気配。

この、小さな空間が周りから隔絶されている事が何故だか判る。
彼が話すのを止めた事で、キンと響く耳鳴り。
静か過ぎる、この小さな空間はきっと何かのまじないで遮断されているに違いない。

ラガシュは私が祝詞の解釈が終わったら「僕だけに教えて下さいね」と言っていた。
その、意味が分かった。

多分、この話が絡んでくるからなんだ。


しかし急に降ってきた言葉の意味が完全には飲み込めずに、私の頭の中は更にごちゃごちゃしていた。


え?意味が分かんないんだけど。。
この世界?「支える」?
それって誰が?「存在」って言ってるって事は人なの?物?
ミストラスが言っていた内容と、何だかごちゃごちゃして混乱する。

結局、長が、この世界を支えてるの??

生贄……………?


多分、私の目は大きく見開かれていたのだろう。

その、状態のままラガシュを凝視していた私に彼は「ああ。」と呟き納得した表情を見せた。


「あなたは………。やはり。」

え?なに?
何が「やはり」?

「僕はね、目は良いんですよ。ちょっと、不思議な目でね?力はそう強くないが、「目」はいい。しかし、そういう事か…………。さて。それならば、どうなる?」

何だかよく分からないが、何かがバレた様な気がするのはきっと気の所為じゃない。

その上でラガシュは私をどう扱うのか、考えているのだ。きっと。


閉ざされた空間、景色は変わらず本棚の森。
しかし奇妙な、外界とは遮断されたこの小さな空間は、既に彼の領域だ。

私も、彼の領域の、中。





…………でもな。

この人が直接私をどうこう出来る訳じゃないのは、なんとなく分かる。
多分、彼が考えているのは、今後の方針とかなんじゃないかと思うんだけど。


とりあえずモヤモヤするのは気になるので、直接訊いてみる事にした。

もう、全部聞こう。

無理無理。推理とか。とりあえず、敵じゃないよね?セフィラの関係者だもんね?
全部………は無理かもだけど、話してくれないかな??


「あの。」

あれ?


「あの?」

「あっ、はい。」

「とりあえず、分かりました。どうして、祈るのかは。」

「はい。」

思考を中断されて、イマイチ戻りきっていない彼に、確かめる。

「あの、簡単に言えば「青の家を守りたい」と言う事でよろしいですかね?」


何だかラガシュが鳩に豆鉄砲みたいな顔になっている。
何故だ。そんなおかしな事、訊いてないよね??


ちょっと楽しそうに「そうですね?」という彼。
その「そうですね?」には「あなたが守ってくれるんですか?」が含まれている様に感じるのは、私の意地が悪いのだろうか。

でも。


いいよ。守るよ。

だって。



、守るもん。


あの子達も、青の家も、ここグロッシュラーだって。

みんな、生きている人がいて、一人一人、生活していて。
それに不満があろうと、満足していようと、貧しくとも、贅沢していようとも。

みんな纏めて、一度「この世の物とも思えない、見たこともない様な美しい光」の元に、晒してやるんだ。

全員に、見せつけてやるんだ。圧倒的な光景を。


例え、それがどんな悪人であろうとも。



しかし今の所、ここ、グロッシュラーで物凄い悪人には会っていない。

制度としてあの子達が不当に扱われていたりはするけれど、みんな直接というか関節的に関わっているだけだ。それも、いつからか、誰が決めたのか分からない制度に。

けれど、直接関わっていないからと言ってそれが許されるかと言えばまた別の話だろうけど。

でも正直、分かり易い「悪人」がいてくれた方が時に、人は纏まりやすいし立ち向かっていけるし、状況もひっくり返し易いとも言える。


ある意味、今は難しい状況だ。

全員が少しずつ、関わっていて「誰が」決定的に悪い訳でもなく、「誰も」悪くない訳でもない。

新しい事に気が付く人と、気が付かない人、別れる事もあるだろう。
それも、どれもこれも、全部含めて、今回の祭祀が上手くいけば出口が見える様な気がするのだ。
それしか、思い付かないというのもあるけれど。



ラガシュが何を心配しているのか。

その「支える」「生贄」とは何なのか。

それは「生贄」でなければならないのか。

もっと、「犠牲」にするのではなく、違う方法で支える事は出来ないのか。


きっと、光が降れば何かが分かる。

何かが、変わる。


さて、それをどう伝えようか。







考えあぐねていると、ラガシュが言った。


「あなたが、次の「生贄」だ。」


そんな、信じられない言葉を。




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