透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

新しい 青

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「でも、表立って問題になってないなら、その方がいいんじゃないの?」



「俺もそれはそう思う。カモフラージュになるから、いいんじゃないか?………まぁ確かに奴等の思惑は気になるけどな。」

「ネイア達の様子は俺と気焔で見張っておく。外は頼む。」

「ああ。」

「それにしても、まだ起きないのか。」

「…………………………。」

「仕方ないわよ。大丈夫。そのうち起きるわ。」








みんなが話しているのが聞こえる。


ここは何処だろうか。

思考が纏まらない。

少し、ぼんやりと霧がかる頭の中。



何してたんだっけ?

………私………ここ、は………?




少しずつ、視点が定まってきた。


白い布が上から下がり、繊細な刺繍が見える。

布のひだの影と、白い部分との対比を見つめ、その濃淡のお陰で大分頭の中が纏まってきた。




そうだ。


ここはグロッシュラーの、灰青の館。

私の部屋で、私のベッド。

天蓋の様な美しい布を下げたお気に入りのベッドだ。

横の壁にはドライのスワッグ。
ふと、視線を移すと窓からはほんのりと曇った空が見える。



ああ、祭祀が終わったんだっけ……………。

そらは………どうしたんだけっけ?


青い空、見えた………よね?

その後、光が降って………扉を。


出した、よ、ね?




ぐるぐるすると、少しまた頭がぼんやりする。

あまり考え過ぎない方がいいかもしれない。



少し、頭を休める事にして辺りをまた見回す。


ダイニングへ続く扉は少し開いていて、さっきの話し声はそれで聞こえてきたのだろう。


朝と、レシフェ、ベイルートさんと………気焔?

声、聞こえたっけ?………でも、会話の内容的にはいそうだったけど。






微かに軋む音がして、「あら。」という朝の声。

少し、顔を動かしそちらを見ようとすると直ぐにバタバタと駆け寄ってきた金髪に抱き竦められ、周りが何も見えなくなってしまった。



う…………うん??
ナニゴト?


雰囲気からして、気焔は私を大分心配していたのだろう。

段々、腕の力が強くなってきた。


「き、気焔………ちょ。」

私の言葉で意味を理解したのだろう、腕は緩むが離さない彼が、逆に心配になってきた。

しかし、しばしの間私もその心地の良い空間に身を委ねることにした。
きっと、こうしていれば安心する筈だから。




移動した手が、いつもの様に髪を撫で始め少し落ち着いたのが判る。
何が、あったのだろうか。



ていうか、そもそも………。

なったんだっけ…………………?





思い出そうとしているうちに、朝とベイルートがやってきたのが見える。
少し向こうで待っていてくれた様だ。


「そろそろいい?大丈夫?依る。」

「………うん。」
「少しまだ混乱しているのかもしれないな。何しろ、凄い音やら力やらだったからな。」

「そうね。依る、思い出せる?あの、扉を閉じた後、あなた一週間、寝てたのよ。」


「………えっ?!一週間?!!」


思わず気焔の腕を振り払い朝の顔を見てしまった。

何も言わなくても徐ろに戻ってきた手を受け入れつつ、また話を聞く。

気焔に抱き起こされていたので、ダイニングで話を聞こうかと思ったが、そのままでいいとみんなに止められた。
何故だ。

ていうか、一体、何があったの??


まだ私の身体をホールドしたままの気焔の様子。
珍しく過保護な朝、ベイルートはいつも通りか。

すると、トレーを持ったレシフェが寝室へ入ってきた。どうやら、食事を貰いに行ってくれた様だ。


「ほら、とりあえずこれなら食べやすいだろ。食堂でもお前が目覚めたと言ったら盛り上がってたぞ。何したんだ?」

トレーに乗せられた具沢山のスープとライスボール。
それを見てテトゥアンだということが分かる。
以前、ライスボールをスープに入れたら絶対美味しいと、私が言ったのを覚えていてくれたのだろう。多分、スープがゆの様になる筈のこの食べ易そうな食事。

いい香りがして、お腹が空いてきた。


「わぁ………。」

「とりあえず、食べながら聞きなさい。ゆっくり食べるのよ?依るはしか口にしてないんだから。」

朝の含みがある言い方に「アレ?」と言いながらスープをフーフーする。

朝とレシフェはやれやれという顔をしているけれど、気焔はいつも通り。
ベイルートは………まぁ分からない。


とりあえず、ハフハフ言いながらスープを食べる事にした。
少しずつ、飲み込むと温かいものがお腹に落ちるのが分かる。

………寝てた間も、何か…あったかかったような………??


そう、思いつつもみんなの話を聞く事にした。
私も、祭祀がどうやって終わったのかまずそれが、気になっていたから。





気焔以外のみんなはそれぞれの見た事を、お互いの話を交えながら教えてくれた。
そして、大体の祭祀の片付けや事後処理はきちんと終わった事、大きな怪我をした者はいなかった事。後でミストラスやウェストファリアの所に行かなくてはいけない事などを聞く。

そうしてひと段落した、その長い話の後。
実は、ここからが本題だったらしい。

言葉を濁しながら「それ」を話し出したのは、レシフェだった。



「実はな。」

「うん。」


「「青の少女」が現れたんだ。」



????????


「えっ?」


「いや、ニセモノだがな。しかし。お前が祭祀で、ある意味予想通りやらかした。それに便乗して、何を考えてるのか知らんが、銀の家がその場に連れて来ていた女を「この子が青の少女だ」と言い出したんだ。」


えっ。
意味が、分からない。

分からないけど…………?




それなら、それで…………?


いいんじゃ、ない??



例の如く、私の顔に出ていたのだろう、レシフェはそのまま話し始める。

「俺達も考えて、今の所は様子見をしている。正直、特に問題無いしな。どちらかと言えば、注目がそっちに集まってるから都合がいいくらいだ。まぁ、お前が本物だと思っている奴もいるにはいるが、兎に角、今迄新説に興味がなかった奴らはだと思っている。そのままにしといた方が、都合がいい。」

「…………それって…………。」

「そうだ。新説が広まっている。もう、これからはそっちが主流になるだろうな。」


白いカバーの上で、くるくる周りながらベイルートが言う。

私はもう、みんなも分かっていると思うが、一応、確認を兼ねて自分の疑問を口にした。


「でも、その方が都合がいいのは本当だよね?それって、私が降らせた光も、扉も、その人の所為になっているって事で間違いない?」


気焔とレシフェ、ベイルートの視線が交差する。

少し納得がいかない顔で、気焔が「そうだ。」と言った。


「ふぅん。…………でも、次の祭祀迄はそれで、問題ない、よね?私も自由な方がいいし。何か、都合が悪い事ってあったっけ?」


現状、私にとっては「ラッキー」以外の事は思い付かない。
誰かがなんとかしてくれるとは思っていたけれど、正直ちょっと、やり過ぎたとは思わなかった訳じゃ、ない。
でもそれを丸ごと被ってくれる人が現れるなんて、思ってもみなかったのだ。

意図が、全く分からなくて少し、怖いけど。

身動きが取れなくなるよりは、全然いい。

ちょっと、感謝しちゃいそう。



ニヤニヤしながら、スープを飲み終わるとトレーを受け取ったレシフェは「少し、ゆっくりしろ。」と言って帰って行った。
帰り際に「程々にしろよ。」と気焔に言っていたけど。
大丈夫なんだろうか。


「とりあえず、食事もした事だし。今日は休みなさい。明日、またゆっくり話しましょう。」

「そうだな。とりあえずは青がいるから、お前は焦って何かする必要も無い。ゆっくり休め。」


そう言って、何故だか二人は何処かへ行ってしまった。



パタンと閉じた、扉を見つめ暫しボーッとしてしまう。

まだ、夢現なのかな………。
て言うか、「あの人」は?
シン?
大丈夫だったんだよね?

だから、今私達はここに、いるんだよね?




不安になって傍らの彼を見上げる。

少し、揺れる金の瞳は今日も変わらぬ美しさを宿していて、それを見て「帰ってきた」と、何処へ行っていた訳でもないが思ってしまう。


「どうする?風呂へ、入るか?」

私の事をよく、知っている気焔はそう尋ねた。



そう思ってみると、何となく髪はバサバサしているし汗ばんでいる気がする。

えっ。
私、これで気焔に抱えられてたの??!
無理無理、お風呂お風呂!



「ありがとう、ちょっと、行ってくる。」


そう言ってベッドから降りようとしてよろける、足元。

「やはり…………。」
「大丈夫、入る。………ゆっくり、入るから。」

支えられているのも、もう自分の汗が気になって気が気じゃない。
早く、お風呂、お風呂~!


一番上に乗せてあったエローラのネグリジェを掴むと、洗面室まで支えてくれる気焔に「もう、大丈夫。覗くなよ?」といつものセリフを言う。


それを聞いて幾分、安心したであろう、彼は「すぐ戻る」と部屋を出て行った。

きっと、あの様子だと私の部屋にずっと居たのだろう。何かしら用を済ませに行くのだ。


じゃあ、ゆっくり入っても大丈夫だよね………。




そのまま、洗面室の椅子に腰掛けお湯が溜まるのを待つ。



心地よい湯気を感じながら、やっと「終わった」感覚がきて、ほっと息を吐いた。



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