透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

恋の本と祭祀の話

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「実は、「誰かに宛てた本」というのは意外と他にもあるんですよ。」

そのトリルの説明で、また私はおかしな顔をしていたに違いない。


悪戯っぽい顔をしながら、何故か手を組み私をじっと見据え、その、話は始まった。

「やはりですね、昔から「身分違いの恋」や「許されぬ恋」みたいなのはあった様ですね。そもそも殆ど本人達の意志は関係無しで進められるのが普通ですから、ある意味も普通なんですけど。」

「えーと、好きな人と結ばれないって事、だよね?」

「そうですね。あとはそもそも出会いも無くて、恋する機会が無い、という事もあるかと思いますが。もう勝手に決められてしまうので始めから考えない方が楽ですしね。」


えーーーー………。

私だったら、絶対嫌なんだけど………。

でも、私の世界だって昔はそうだったって事だよね?
恋愛結婚なんて、歴史から言えばそう古い訳でもないか。
それにしても………?

意外と言うかなんと言うか、トリルは中々楽しそうなのだ。私にとっては結構暗い、この話。

しかし続きを聞く事で、彼女が何に興奮しているのかが分かってきた。
確かにトリルには、ハマりそうな内容なのだ。

「それでですね?まず手紙なんて出そうものならきっとすぐ見つかるんですよ。だから、本にした。「研究」という事にして、しれっと書くワケですよ、少し難しい古語や二人の文字なんかを使って。あ、古語は数種類ありますし、二人の文字はまぁ、二人で決めたのでしょうけどこれがまた中々研究するのが面白くてですね………。」

そこから止まらなくなったトリルの話を、半分くらいに流し聞きするに、どうやらそのラブレター本には返事がある様なのだ。

「その、お互いに書き合った本を見つけて文字を解読するとですね?意外なカップルがいたのが分かったり、その二人の関係以外にも付随する家の様子が分かったりしてですね、兎に角面白いんですよ。ただですね………。」

「え?ただ?」

「結局、なったのかが、分からないんです。そこだけ。、真実が、と言うか結果が判ればまた続きが解って面白いんですけどね?結局、私が窺い知れるのは歴史に残っている事実のみです。だから。」

?だから?

「この、本は貴重なんですよ。何処から見つけて来たんです?ああ、でもヨルだからか………でもウェストファリアは知ってた、と…うーん?」

そうしてチラリと私の隣に視線を移す、茶の瞳。

しかし隣の青いローブはそれを意に介さず、未だ私のノートを眺めた、ままだ。

溜息を吐いて視線を戻すと、トリルはこう言った。

「何にせよ。「この本」が読めれば、解決の糸口が増える事は間違い無いでしょうね。青の本の作者の素性と生まれの事、結局何故今いるのか。判ると、いいんですけど。」

最後は願望になっている、その言葉。
だけどその気持ちは、分かる。


イストリアに訊けばもしかすれば判るかもしれないと言う期待と、早く行きたい気持ち、言いたいけれどまだ言えない気持ち。

うーん。そわそわ、するな………。

でもとりあえずは、祝詞だ。今ここでそれを考えても、答えは出ない。
それが分かっているトリルも、白の本を私に戻すとチラリとラガシュに目をやり自分の本を手に取った。

「新しいの、持ってきますね。」

読み終えた物しか、既にそこには無かったのだろう。積まれた本を持って、本棚の森へ入って行く青いローブを見送った。


さて?

相変わらずのラガシュは腕組みをして、何かを考え込んでいるけれど私には少し、心当たりがあった。
自分でも、訳した時に「これって何だろうな?」と思った部分が、あったのだ。

しかし全体感と直感を大事にして訳そうとしていたので、とりあえずは深く考えずに思うままを書いておいた。

もしかしたら。
ラガシュに見てもらった時に、彼にその心当たりがあればいいなぁなんて、思っていたのだ。

でもこの感じだと………無いっぽい、よね??


その、文字を指差して訊いてみようかと、手を伸ばした時。

ラガシュの口からは、ゆっくりと確かめる様に前回と同じ様な質問が発せられた。

その、話し方からするに。
多分、求めている答えは、違うのだろうけど。


「結局。あなたは、何の為に祈っていると、思いました?そもそも、どうして祭祀があるのか。力を、受ける以外に何か、感じましたか?」

うん?

「どうして、祈ってるか」?
冬の時って………。なんて答えたんだっけ?
「どうして」?「なぜ」、だったっけ?
うーーーん??

でも確か。

私は、「子供達のために、みんなのために祈る」と言った筈だ。
それで確かラガシュがどうして祈るのか、私が訊いたんだよね?それで「あの絵」の事と、青の家の話になって………?

「あ。」

思い出した。

「確か、青の本、見せてくれる約束でしたよね??」

「それですね………。実は叔父がですね…。」

珍しく口籠るラガシュ。多分持ち出す事は禁止されているのかもしれないと思った。
でも何れ、見る事にはなる筈だ。それが分かっているので私は全く気にしていなかったが、ラガシュは気にしていた様だ。

「いや、本当に申し訳ないです。「光を灯すもの」が現れたのだから、私は見せるべきだと言ったのですが。何故か、「持ち出せない」の一点張りでまぁ殆ど青の本は処分されているので警戒しているんでしょうけど。」

そう言って、改めて私の目をじっと、見た。

「それと多分。あなたを、向こうに呼ぶ為なのでしょう。」


「リン」と彼の言葉と同時に鳴る、いつもの音。

少し心配そうに様子を伺う灰色の瞳は、きっと私がだという事は知らないのだろう。

ラガシュ自身は、どう思っているのだろうか。

確か以前話した時は「あちらでもお守りします」みたいな事、言ってた気がした様な…?


だって。
ねぇ?
ここまで来て?

デヴァイに行かずに、ここで終わり?
そんな事、ある?あり得る??

いやいや、私の事、「何」だと思ってるんだろう…?てかそもそも、「光を灯すもの」って、なに??


何だか私の頭の中は、またこんがらがってきた様だ。そもそも多分、始めの時点からかなり脱線している気がする。

そう言えばラガシュの質問を考えてたんじゃなかった?
うん?何だっけ??

「祈りで何かに気が付いたか」みたいな事だよね?
違ったっけ?

よく、頭の中が整理出来ていない。
しかし、私は問題が複雑な事は分かっていたのでそのまま疑問を垂れ流す事に、した。
多分、注釈があればラガシュが勝手に入れてくれるだろうと思いながら。


「えー。書いて、いいですか?」

そうしてとりあえずノートのページを捲る。
先日のメモと祝詞は見えなくなり、新しいページに線を引いていく。


「祭祀」

冬 /春


「あれ?冬の祭祀って雪の祭祀?うん?どっちでしたっけ?」

張り切ってメモを始めた所で、始めからつまづいた私。
隣で私を覗き込んでいる、ラガシュはすぐに答えてくれる。

「ああ、冬は雪の祭祀で、春は雨の祭祀なんですよ。説明してませんでしたっけ?」

「この前トリルに聞きました!めっちゃ楽しそう!今回は、するんです?それも決めたんですよね??」

「雨」という単語を聞きまた興奮して、お尻が浮いた私。
一瞬、椅子が倒れるかと思って焦ったがラガシュはそれを見越したように、既に手を添えていた。
この人も、大分私の動きに慣れてきたのかもしれない。

それに。

そう、雨が降るという事、は?

「やっぱり、外でやった方がいいに決まってますよね??」

そう、勢い込んで迫った瞬間、私の目の前には「スッ」と手が出てラガシュは見えなくなった。

「近い。」

「おやおや、今いい所だったんですが?」

「ちょっと………。」

その時、丁度鐘の音が聴こえて気焔が食堂へ向かう為迎えに来てくれた事が分かった。

キロリとラガシュを睨んで、振り向くとそう怒ってもいない金の瞳が見える。

あ、そうか。
まだまじない空間だ。


そうして「リン」と弾ける様に鳴ったあの音と共に気焔の瞳が茶に変わり、トリルが戻るのが見えた。

「続きは食後ですね。」

そのトリルの言葉に頷いた私達は、片付けをして本はラガシュの書斎スペースへ預ける。
食堂に持って行くのは大き過ぎるし、私はまだあの本が逃げ出す可能性を捨ててはいなかった。


ま、ホントに逃げ出しても、それはそれで面白いかもだけど?

しかしもうトリルに見せてしまったので、無くなるときっと悲しむ………いや、意地でも探し出そうと大変な事になる気がする。

「ちゃんと、ここにいるんだよ…?」


私を待っている金色が目の端に映る。

そう声を掛けて、しっかりと確認してからみんなの後を追った。






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