透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

順位

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「やあ、初めまして。」


そのイストリアの言葉で、ラガシュの表情の意味が解った。

んん?
この二人って………?
ああ、そうか。いつもはレシフェとだもんね…。

湖の家を思い浮かべ、納得する。
私の頭の中に、ふわりとしたピンクと薄紫がかかった所で素朴な疑問を隣に投げた。

「うん?もしかしてクテシフォンさんも、初めてでした??」

「まさかそんな事が、あろうとは。驚いたよ。」

頷きながらもそう、言う「そんな事」とはどんな事だろうか?

チラリとウェストファリアを見ると、きっと私の訊きたい事が分かったのだろう、ラガシュを見つつ、説明してくれた。


「この、島にはまじない空間があるのじゃ。イストリアは、ずっとそこに住んどった。今回色々あって出てきてもらったのじゃ。」

ザックリ過ぎる、その説明に可笑しくなってきた私は口を押さえながらラガシュに目線を移す。
やはり、微妙な表情をしている彼は、しかしそれ以上の追求は無駄だと知っているのだろう。

「青の家、ラガシュです。以後、お見知り置きを。」

そう言ってセレベスと、同じ挨拶をするラガシュ。この挨拶がネイアのデフォルトなのだろうか。
なんだか懐かしくなった私、向かい側のイストリアは「イストリアだ。よろしく。」と言って頷いている。

そうしてラガシュは私達をぐるりと見渡すと、ここに来た用件を、話し始めた。




「皆さん、もうアリススプリングスが戻ったのは、聞きましたよね?」

そう言いながらチラリと背後の気焔に視線を飛ばすラガシュ。

気焔は小さく頷いただけで、本棚の前から動く気は無さそうだ。

ラガシュは、中央のテーブル本の山に視線を落としながら、少し考える様にして話し始める。彼だけ立ったままなので、その灰色の瞳がよく見えるのだ。

「ミストラスから情報を仕入れて来ました。今回はちょっと。まずいかも知れません。と言うか、面倒くさい………。」

ラガシュがこの場で、その言い方をしたのが意外だった私。
チラリとウェストファリアを見ると、どうやらラガシュのその態度だけで何かを察したらしい魔法使いが、いた。

「やはり、な。そうだろうと、思っとったよ。」

「と、いう事はなのだろうな?」

「やはり?そう、ですか。」


え。
ちょっと?解ってないの、私だけ??

項垂れ気味の、三人に囲まれて一人「?」顔の私。
一応向こう側の金の瞳も確認するが、知らんぷりを決め込んでいる。

「ヨル。説明しますよ。」

私の様子を見ていたのだろう、ラガシュがそう言って話し始めたのは銀の家の話だった。



「アリススプリングスの家が、一番上位なのは知っていますね?はい、それで銀の家は大きく分けて四つの家が存在しています。」

うん?

銀の家が、四つ。分家とか、そういう事??

私がその疑問を口にすると、フルフルと首を振ったラガシュ。
どうやら、そういう繋がりでは無いらしい。

「正確には「いつ」なのか、判りませんが。まず初めに、力の大きさ順で家の色が決められました。順序はまぁ割愛しますが、だから元々血筋、という訳ではなく力の強い家、四つが銀と決められた、そういう事です。」

「へぇ…それで、その中にも強さ順があるって事なんですか?」

「そうです。正確に言えば、「その当時」の力の強さで、決まった順位です。だからもし、今やってみたらかは、判りませんけどね?」

悪戯っぽい顔でそう言うラガシュ。

案の定、ウェストファリアも楽しそうにその話を聞いている。きっと実験したいに、違いない。


「それでですね。まぁ結果から言いますと、全ての家が春の祭祀で揃います。…………ああ、もう面倒くさい。」

また「面倒」と言って話が進まないラガシュ。

そこへイストリアが口を挟んだ。

「フェアバンクスは、どうする?ヨルが、なるのか?」

突然出てきた、フェアバンクスの名前と私の事。
何か関係あるのだろうか。

チラリと私を見たラガシュは、話を戻してくれる。多分、私の顔がまた「?」になっていたからだろう。

「銀の家の四つは、上からアリススプリングス、ブラッドフォード、ミストラス、フェアバンクスとなっています。ブラッドフォードの家は、まだ先代が強いかも知れませんけど。アリススプリングスは彼がもう家を完全に継いでいます。」

「は………ぁ。」

何とも言えない。
頭の中がごちゃごちゃになりそうで、でもギリギリ知っている名前ばかりなので何とかなりそうだ。
しかしベオ様が「父上」と言っていたのを思い出して、お父さんがまだ元気な事にホッとした。

そう、チラリと思い出してしまったからだ。
デヴァイの人間は。
短命だと、ミストラスも言っていたから。


そうしてその説明が終わると、イストリアが先程の疑問の続きを口にする。

「あそこだけ「出さない」なんて、可能なのか?」

「しかしラピスからでは。どう、するのでしょうね?僕の知る所ではありませんが。ヨルが訊いてみたら、いいんじゃないですか?」

うん??

さっきから、何の話をしているのか。
全く分かっていない私の顔を見て、イストリアが教えてくれた。

「今迄こんな事は無かったからね?どう、なるのかは分からないけど多分今度の祭祀は大掛かりなものになるのだろう。ある意味君の提案した「島全体を使っての祭祀」には、ピッタリかもしれないがな?」

「しかし、デヴァイからの客が増えるだろう。それも彼が持ってきた情報だと銀の家が揃い踏みだ。しかし、君の後見となっているフェアバンクスだけは、今現在デヴァイに人を置いていない。まぁ、長い事ラピスへ居るから仕方が無い事だがね。しかし、君から見てフェアバンクスは「ここ」へ来ると思うかい?」


その、イストリアの言葉を聞いて。

初めに思った、私の気持ち。

それは、「来れるか、来れないか」ではなくて「ここには来させたくない」だった。


ソフィアを一人、置いてここへ来るのも反対だし。
今は落ち着いてきているラピスの生活、それを担うフェアバンクスをまたデヴァイの揉め事に巻き込みたく、ないのだ。


ふと、思い出されるお屋敷の廊下、一番奥迄の長い豪奢な通路。
あの突き当たりで、した話。

ソフィアが言っていた、「元々のあの世界の存在意義は神殿だったの」という言葉。


「負の感情、力が溜まり過ぎて全く別のモノになってしまったけれど。空は隠され、灰色の世界になってしまった。」


そうだ。

なんで、今迄思い出さなかったんだろう?
ソフィアは「私はラピスの人」だと言っていた。

そのラピスの人間の継いでいる、石が。
グロッシュラーの歴史を、「知っている」のだ。


「それって………。」

いつの間にか私のスカートの上を歩いている、ベイルートが目に映る。
何となく、手を出し手のひらに乗るベイルートに話し掛ける。

「やっぱり、世界は一つだった、って事ですよね?」

少し、考えた様子のベイルート。
そうしてこう、言った。

「俺はそう、思うけどな。あの、森の輪の中では。どの、も区別なくあそこに、在ったからな。」

白い森、輪廻の森というティレニアで。
ベイルートは何を、見てきたのだろうか。

でも、「あの子」もあそこに、いた。

だから。

やっぱり。


「そうなんだ、よね………。」


自分の中の予測がまた一つ、確信に近くなって嬉しくなる。

「ですよね、ベイルートさん!」

そう言ってほっぺに玉虫色をスリスリしていると、向こうの方から「おい。」と言う声が聞こえるけれど、そんな私にツッコミを入れたのはイストリアだった。

「ヨル、そろそろいいか?」

あ。

そういえば?

「えっと、何でしたっけ?」

「いや、フェアバンクスの話だ。どうだ?来れそうか?」

ああ、そうだった。
すっかりあのお屋敷の想像でどっかに行ってたわ………ソフィアさんの事思い出したから、あの神殿の扉の荘厳さも中々やっぱり………うん。


ポン、と肩に置かれた手が、誰のものか知れて我に返る。

いかんいかん、私待ちなんだった。

「あの、その事なんですけど。私は、フェアバンクスさんを呼びたくありません。無し、じゃあ、駄目ですか?」

イストリア、ウェストファリア、クテシフォンとラガシュ。

順に顔を確認して、どうなのか、様子を見る。


しかし少し悪い顔をして、返事をしたのはイストリアだった。

「そうか。それなら。私に任せて、くれるかい?悪い様には、しない。」

「え?イストリアさんが何とかしてくれるなら、願ってもないんですけど………?」

何で、ちょっと楽しそうなの………?

その悪戯っぽい顔を見て、一抹の不安が無かった、訳じゃあない。

しかし私には、それ以外の方法など思い付きそうにないのでお願いしておく事に、した。


さて、それがどう、なったのか。
私が知るのは、もう少し後の事になるのだった。
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