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7の扉 グロッシュラー
それから
しおりを挟む「どうして?」
エルバの所から帰ってきて。
疲れていた私に、部屋へ食事を運んでくれた気焔。
お腹は空いているのか、いないのか分からなかったけど、そう言ったら「重症だ」と言われたので食べる事にした。
どうしてだろうか。
そうしてギリギリ、お風呂へ入り、やっとベッドへ辿り着いた。
部屋の中はありがちな曇りで、しかしやはり夜にしては明るい、グロッシュラーではよくある空だ。
白い床にぼんやりと切り取られた四角は、私の頭の中に似ている。
そう、忙しかった脳みそは休止状態で何かを考える事を拒んでいた。
私は、ただ。
今、したい事をする、それだけ。
それだけ、なのに。
「どう、して?」
再び同じセリフを口にした私を、あの「おかしなものを見る目」と「嫌なものを見る目」半分くらいで見ている金の瞳。
お風呂上がりの私は、ベッドにゴロリとだらしなく寝そべっているけれど。
そんなの、いつもの事じゃあないだろうか。
出窓に座り、金色に縁取られた私の一等好きな、金髪をこれでもかとキラキラさせておいて。
どうして、こっちへ来てくれないのだろうか。
全く、分からない。
でも、正直それも、どうでもいい。
だって、私の傍らにはいつもこの金色が居て。
こうして、眺めることもできて。
話すことも、できる。
触ることだって、できて。
なんなら金色を…………。
あわわわわわゎ。
くるりと壁を向いて、顔を鎮める。
皺のないシーツ、白い壁、お気に入りのスワッグ。
上を見れば、美しい刺繍が入った空の星のようなドレープが下がっている。
考えたって、仕方ないんだけど。
考え、ちゃうよね。
でもそれも、きっと必要な事なんだ。
今はまだ、分からないけど。
そう、多分。
無駄な事なんて、無い筈だから。
ベッドの向こう側が軋んだのが分かって、ドキリとする。
多分、私が反対を向いたので拗ねたと思ったに違いない。
まぁ当たらずとも遠からず、そのまま引き寄せられて懐に収まっておいた。
特に、言いたい事は、無いんだけど。
ひたすら無言で髪を、梳かれているので眠りそうなのだ。
あの後、エルバとまた一頻り話して落ち着いたらまた訪ねる事を約束して、帰ってきた。
気焔も、特に何も言わない。
でもそれはいつもの事だけど。
完全に眠る前に、「ポン」と顔を出して金の瞳を確認する。
少しの不安は見えるが、至って元気に燃える金色の焔。
思ったよりも影響が無くて、安心もした。
「だから。その目を止めろ。」
「え?」
目?
パチクリして、くるくると回してみるけれど。
おかしな所は無いし、いつもの、私の目。
その目?どの、目??
「いつもと同じじゃん。」
「…………。」
溜息だけを吐くと再び私を懐に入れる。
そうして一人、「無意識ならば、いやしかしどう、する。」とブツブツ言っている。
まあ、いいか。
なによりもここは、温かいし心地よくてとても、眠いのだ。
もっと、あったかく満たされてぬくぬくしていたい。
もっともっと、小さくなって、この温かくて心地よい中に取り込まれて仕舞えば。
きっと。
もっと。
私だけの、安心できる空間に………。
「コラ。大丈夫、か?」
「ポン」と取り出された私は、聞くところによると「冬眠中、急に巣穴から取り出された動物」の様な顔をしていたらしい。
どうなの、その例え。
「?、?」
「そんなにグリグリされても、我輩には入らんぞ?まぁ、入れてやっても、いいが?」
少し、怒った様な揶揄う様な、不思議な瞳を見せて、そう言う。
「もう………。おやすみっ!」
急に恥ずかしくなって、くるりと壁を向きぐっと布団を引っ張った。
背後で溜息が聞こえ、薄い金色が私を包む。
でも結局。
いつの間にか、朝になったら腕の中にいるんだろうけど。
少しだけ悔しくなったところで、限界が来た。
私の脳みそはスリープ状態になり、めでたく眠りに、落ちたのである。
そして私がエルバの所に行ってからは、ズレていた歯車がきっちりと嵌った様にスピードを持って事が進行していた。
いや、私の中で何かが変わったのかもしれない。
辺りは春の祭祀の準備で飾り付け始められ、神殿にも大分人が増えてきた。
雪の祭祀では紺、青と白で構成されていた色が柱から下がる空色の布で、それが春になるのだという事を知らせている。
空の色の様な水色と、白。
雨の祭祀という春は、やはり冬よりは明るく薄い色合いで私の心も幾らか軽くなった。
そう、朝の礼拝、図書室、食堂、リラックスの筈の癒しのお風呂の中でも。
私の頭の中をチラチラと過るのはエルバに頼まれた「行き場のない者たちのために祈ること」だった。
祈ること、それは得意だけれど「どう、祈るのか」それがはっきりしなかったからである。
でも。
はっきりしなくても、いい事も解ってはいた。
あの、雪の祭祀だって。
結局、出たとこ勝負だった。
色々、考えてたって、計画したって。
どうせ、その時の自分の一番の想いに。
引き摺られてしまうことは、解っているから。
でも、だからこそ、それ迄に自分の立ち位置、どう、したいのか、みんなにも何か想って欲しいのか、どんな光を降らすのか。
色々な事を沢山、考えようと思っていた。
それが、結果として現れる。
それも、解っていたからだ。
「大丈夫か?」
「あ、うん。ごめん。大丈夫。」
ついボーッとしている事が多くなった私を隣で心配しているのはランペトゥーザだ。
あの後、仕事の早いイストリアはどうやったのか既に手配をつけていて、きちんと「イストリア先生」が誕生していた。
そうして何故だか、祭祀迄にまだ日にちがあるので「僕も」とベオ様が参加している。
リュディアは勿論、造船所へ行っていて訓練がない日はこちらに参加する事になった。
結果として、この図書室の平和なネイアスペースがどうなっているかと言うと………。
「…………ヨル。ちょっと。」
そう言って私を手招きしているのはトリルである。
何が言いたいのか、大体分かっているつもりの私は頷いて本棚の陰へ向かった。
「何ですか、アレは。」
「ね。どうしてだろうね?」
「いやいやいや、完っ全に、ヨルですよね?そりゃ、イストリア先生の事は有難いんですけどいらないオマケまでついてきたというか何と言うか………。」
「フフフ」
「ふふふじゃないですよ…。」
銀の男の子二人を「いらないオマケ」呼ばわりするトリルが可笑しくて、どうしたって笑いが込み上げる。
「大丈夫、すぐ慣れるよ。それに。これからも、付き合う事になると、思うけど。」
「えっ。何ですか、その不吉な予言は。」
「不吉な予言…!っ!」
再び声を殺して笑い出した私を生暖かい目で見ると、「とりあえず、本を持ってきます。」と言って本の森へ消えて行った。
さて、と………?
本棚の脇で、つい机に戻る前に二人を眺めてしまう。
初めにランペトゥーザに会った時「ベオ様に似ているな?」と思ったけれど本当に親戚だったとは。
髪の色こそ違うが、ストレートの髪と青い目、雰囲気が似ているので兄弟と言われても違和感が無いと思う。
銀の家の構成図は未だによく解っていない私だが、何しろ私の友達二人が揉めている家同士じゃなくて良かった、と安堵した。
実際は「たまに会う親戚」くらいの付き合いらしい二人は、しかしここに来て仲良くなった様で、今は協力して歴史の本を解読している。
面倒くさい事が嫌いなイストリアは、早々に「核は石だ」という秘密だけを暴露して歴史を勉強する様に二人に言った。
ある程度「どうしてこうなっているのか」を理解してから、最終的にはあの畑へ連れて行ってくれるらしい。
それ迄ずっと、ベオ様がここに滞在するのか、どのくらいで研究が終わるのか、それは祭祀の前か後か。
気になる事は多かったが、私自身ベオ様が長期滞在する事に反対は無い。
私が協力できる事も、もうそんなに無いしな?
祭祀で?
でも「核」は、関係無いよな………。
無いのかな………?
え………いやいやいや。
なんだか大掛かりになりそうな想像を横に押しやると、自分の祝詞翻訳に必要な本を探しに行く事にした。
私の訳を見たイストリアは「いいんじゃないか、これで。」と言っていたけど。
その、一つだけ気になっている部分をもう少し調べようと思ったのだ。
まだ、ギリギリ時間は、ある。
そうしてフラフラと、本棚の森を彷徨い出したのであった。
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