透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

その、場所

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「お店の話もしたいし。迎えに行くから。」


「目耳」が飛んできて、レナの伝言を伝えたのはあの畑から帰ってから数日後だった。

しかも、どうやらその映像を見るに「レシフェと迎えに行くから一人で」「気焔には話を付けてある」と言うのである。



「何だろうな………いや、店の話なんだろうけど。」

朝から出掛ける支度をしている私は、鏡の前でいつもの様に独り言を言いながら身支度をしていた。

藍に頼んで髪をやって貰い、着替えを選んで服を整える。
今日は外へ行くのでいつものブラウスの色違いに、スカートに見えるキュロットだ。
ここの所、空色付いている私は今日のコーディネートも水色系統である。

キュロットは、元々スカートだったものを「ズボンが無いのは不便」と言って簡単に真ん中だけ縫い合わせた。
よく見ないと分からない様になっている。
造船所へ行く時に便利なのだ。

「多分、あっちだしね………。」

店の話をするならば、貴石か旧い神殿のどちらかだろう。
何にせよ、動き易いに越した事はない。


いつもの様に髪を上半分だけ編んで、あとは一つに纏める。

「パチン」とアキを付けて完成だ。


「さて、と。」

そうして朝食へ向かう為にローブを手に取ると丁度気焔が寝室から出てきた。

彼は今日、反対しなかったのだろうか。

珍しい…………。

なんとなくの違和感を感じながらも、朝食へ向かったのだった。







「おはよう。」

「よう。早いな。」

「おはよう。ありがとう、レシフェはついでに送ってくれるんでしょう?」


神殿の前の大きな階段。

その上で気焔と二人でレナ達を待っていると、小さな二人が段々と近づいてくる様が楽しくてじっとそれを眺めていた私。

待っている間も、気焔は特に何も言わなかった。

いつもだったら「歌と踊りに気を付けろ」とか「おかしな事はするな」とか、絶対注意するのに…。

きっと、レナの話の内容が分かっているに違いない。

そう、あたりを付けて一人納得していた私はお小言を言われないならその方がいい、と迎えに来てくれたレナとレシフェに飛び付いたのである。

うん、平和なうちに出掛けよう、そうしよう。


「悪いわね?じゃあちょっと借りるわよ?何かあったらすぐ呼ぶから。」

「ああ。頼む。」

「じゃあ、行ってきます!………フフ」

「じゃあ、またな。」

レナが「すぐ呼ぶ」と言っているのが気にならなくもないが、まぁいいだろう。
とりあえず、お目付役はお役御免なのだ。

この二人がいれば安全だし、そこそこ羽根を伸ばせる筈なのである。
それに、この頃何処かへフラリと飛んでいる彼を少し自由にしたいという思いも、あった。


そうして微妙な目で私達を見送る気焔を残して、神殿を後にしたのである。






「ねぇ。どうやって説得したの?」

レナの根回しの良さに感心していた私は、灰色の道を歩きながら早速その質問を繰り出した。

今日もふわふわと青い髪を揺らしながら、隣を歩くレナ。
ここに来てからはそう、しょっちゅう会えるわけじゃない。

元気そうか、肌艶は良いか、服装、髪型はどうか。
くるくるとレナの周りを回りながら歩く私を、手で往なすと「まぁね。」と曖昧な事を言うレナ。

珍しい。

とりあえず、そのレナの様子を見て今日の話は割と真剣な話なのだと察した私。

そのまま、大人しく先導するレシフェの後をついて歩いて行った。





「じゃあ、後でな?」

「うん、ありがとう。」

「?」

そう言って、貴石への脇道を去って行ったレシフェ。

一緒にいるか、送ってくれるだけなのか。
どちらだろうと思っていたけれど、どうやら送迎係だったらしい。


「どこ行くの?」

「うん、あっち。」

その、レナが指しているのはやはり旧い神殿の方向だ。

神殿なら、危険も無いし二人でいいという事なのだろう。

そう、思っていた。

まだ、この時点では。







それにしても。

一体、何の話なのだろうか。

基本的に、私達が一緒の時は主に私がお喋りな事が多い、けれど。

今日のレナの雰囲気からして、私はいつもの様にペラペラ喋る事は出来なかった。

暗い、わけじゃない。

怒っている様な、感じでもない。


なんだろうな………。

とりあえずはあたりの灰色景色を楽しみながら、二人で歩いていた。
しかし、貴石から神殿までは結構近い。


入り口の川と回廊が見えてきて、ややテンションが上がる。

「ねぇ、どこで話す?オルガンの部屋?それとも、あの円窓の踊り場にする?」

くるくると回りながら、レナの前を歩いていると微妙な表情が、目に入った。

「ううん、今日は外に、しよう。」

そう言って、回廊脇の川をぐるりと周りあの穴の方へ周ったレナ。

池に、行くのかな………?

とりあえず、後をついて行った。




このまま行くと、池があってあとは神殿の周りをぐるりと一周するだけの、筈。

段々と細く狭くなる先の地面を眺めていると、池が見えてきた。
今日も水は元気に湧き出しているだろうか。


しかし、スタスタと歩くレナは池にチラリと視線を投げただけで、どんどん奥へ歩いている。

「えっ。」

若干、遅れを取っていた私は慌ててレナを追いかけた。

実は、こちらの旧い神殿周りはこれ以上奥へ行った事がない私。
いつも、池止まりなのだ。

ここの神殿の裏側、島の先端も。

向こうと同じ様に、何かアーチでもあるのだろうか。


円窓の下、池を通り過ぎ、もう神殿の裏側に周ろうかと言う頃。

ピタリとレナが立ち止まった。

そして、私が追い付くのを待っていてくれる。

その、様子を見てそのまま小走りで駆け寄るとレナはただ私を待っていただけではない様だ。

「ねえ。」と、何やら真剣な顔で話し始めたのだ。



丁度神殿の奥の壁、曲がり角。
ここを曲がると、島の先端だろうか。

そう思いながらも、未だ微妙な表情のレナを見つめていた。

「あの、ね。迷ったんだけど。」

「うん。」

やっぱり、珍しい。

レナがかなり悩みながら口を開いているのが分かって、私もピシリと姿勢を正して聞く。

「でも、私が今まで見てきた、あんただったら。必要な事だろうと、思って。でも………。」

まだ、迷っている。
そんな様子だ。

でも。

「うん、レナがそう思うのなら。どうしたの?教えて?」

「エルバから、今度の祭祀で姉さん達の為に、祈ってくれるって聞いた。」

「うん。」

「もしかしたら、あんたの負担になるかもしれない。」

「うん。」

「でも。「本当のこと」を探してるって。言ってたよね?」

「うん。」

レナの茶色の瞳から、逡巡の色が消えた。

「なら、行こう。ついて来て。」

そう言って、私に手を差し出したレナ。

「この手を取れ」という事だろうか。
それなら。


そうしてその私よりも柔らかい手を握ると、それを見て一つ頷いたレナは、再び奥へ歩き出した。



道幅は、狭い。

2メートルあるかどうか。
気を付けながら手を引くレナを見つつ、白い雲も見ていた。

なんだか、この辺りはやたらと雲が白い。

神殿の白壁と、灰色の大地、白い雲。

お天気の所為か、神殿の所為か白に包まれた私は何だか不思議な気分に包まれていた。


真剣なレナ、白い周囲と静かな大地。

今日も風の吹かないここグロッシュラーの大地は、だからこそこんな場所でも危険を感じずに落ち着いていられる。

風が吹くならば。
島の先端はかなり危険な筈だからだ。


しかし、その角を曲がると思ったより広い場所に出た。

とは言っても、さっきの道幅よりも広い、といった程度だけど。

そうしてレナは私の手を掴んだまま、真っ直ぐ進んで行く。
もう、島の終わりは見えていてそこには予想に反して、何も、無かった。

いや、無いように見えた。


しかし、一歩、また一歩と近づいて行くと。

この、白い空間にあって、目立ちすぎる、もの。


「ここよ。」

そう、レナが言って立ち止まったのは島の、本当に先端部分、その前。

その場所には。

明らかに「なにか」があったであろう、痕があった。


どす黒い。
血が変色した様な。
何かが腐り果てこびりついた様な。
今にもユラリと何かが立ち昇りそうな。

明らかに、異常な痕。

そう大きくない「それ」は、しかし丁度私達くらいの大きさの細長い痕だ。

そう、それは。

「人のかたち」に見える。


脳が考える事を、拒否したけれど。

「エルバに聞いた」

そのレナの言葉が頭の中をぐるぐると巡る。



ああ、駄目だ。あれは。


あれは。




「大丈夫。ヨル。あれは、「ただの事実」で「本当のこと」よ。でも。ごめん。ありがとう。ヨルが祈れば。大丈夫だから。」

ギュッと、レナが私の手を握る。


そう、そうだ。

私は。考えなくてはいけない。

ギュッと、手を握り返して昂っている気持ちを落ち着かせる。


大丈夫。
そう、何度も眠っていられない。
私には、やる事がある。
「本当のこと」から、目は逸らせないから。


一度、ギュッと目を瞑って再び開いた。

心配そうな茶の瞳。

「ちょっと、座ろうか。」

とりあえず、落ち着く必要がある。


そう言って私は、白い壁を振り返る。
背後にある神殿の壁に凭れて、レナと並んで座った。

そう、これから始まる、話を聞く為に。







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