透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

私と小さな石

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「やあ、青の子。」

声が、聞こえる。


うん?どこ?

あれかな…………。
声はすれども姿は見えず…そんなのあったよね??


私は既に、池の縁に手をついて本格的に覗き込んでいた。

静かな水音と、誰もいないこの場所、背後の金色はきっとおかしな顔をしていそうだけど。


そんな事はお構いなしだ。
舐める様に、端から石を辿っていく。
しかし、キラリと光るそれは見えない。

湧き上がる水の流れが所々で煌めいて、そのどれが水なのか、石なのか。

分かりにくいのだ。


でも。
絶対、ある。

「どこ?返事してくれると、助かるなぁ…。」

独り言を言いつつ、水底をじっと攫ってゆく。

「あ。」

その時、視界の端にキラリと光るものが映った。

あった!あれだ!
よし、逃がさないぞ?


水は絶え間なく動いている。

煌めく位置もどんどん変わっていくので、目を離すと紛れて見失いそうなのだ。
じっと、一点を見つめたままそれを追っていた。


消えたと思っては現れ、またキラリと呼ぶくせに再び見えなくなる。

そんな事を繰り返すその石であろう光を、じっと見ていた。
少しずつにじり寄って、手が届く位置へ移動する。

よし。多分、ここなら。

再び一瞬光ると、形を潜めたその光。

「なかなか、やるな…………。」

でも。
逃がさないもんね?

自分がニヤリとしたのが分かって、可笑しくなってきた。
思ったよりも悪戯っぽい、その石へそっと手を伸ばす。

ひんやりと心地良い水の中、何故だか石は私の手に気が付いていない様だった。

だって、私の手が近くにあっても。
キラリと、光ったからだ。

「つっかまーえたっ!」

それは、小さな、石だ。

手で掴む、というよりは指で摘むに近い。

水の中から出したその石は、キラリと光る青。

少し、紫がかった様な、落ち着いた色だ。

「うん?思ったよりも、濃い、ね?」

もっと、透明か、水色かと思っていたけれど。

「この位のが、知的だろう?」

そう、答えるこの石は。

「そういや、喋るんだった…。」

前回、シリーの前で慌てて口を塞いだ事を思い出した。

あの時も確か、あの子達は「青の子」って言ってたよね………?

どつやら石界では「青の子」で通っているらしい、私。

一体、どうやって意思疎通しているのだろうか。


「やだ………懐かしくない?「石と、意思疎通」ププッ………。」

「何を言っておる。」

気焔に突っ込まれると、ウイントフークの顔がポンと出てきて、余計に可笑しくなってきた。


そうして一頻り、私が笑い終わるのを待って手の中で話し始めた、その石。
何もかもを見通す様な知的さを含んだその石は、何故だか私の意図を知っている様な物言いをした。

「して、何をお望みだ?」

なんでお願いがあるって、知ってるんだろう?

そう、思ったけれど。

とりあえず、そう言ってくれるのならありがたい。
それなら。

小さな石を、目線まで上げながらお願い事を話し始めた。



「だから、その時私の光を集めて欲しいの。できる?」

「おや。それは美味しい仕事だね。お安い御用だよ。」

「大丈夫?美味しいの??」

「そりゃ。なにしろ極上の光を独り占めしていいとは。美味しい仕事に違いないだろう。」

「え。独り占めは、駄目だよ。うーん、他の人にはそこそこで、あなたはいっぱい。それなら、いいでしょう?」

「わかった。」

石の角度をチラチラ変えて、光らせる。

キラリ、キラリと光を受けて煌めくそれを不思議な思いで眺めていた。


なのだ。」

私の頭の中が分かるのだろう、気焔がそう言って。

やはり、石と私達、人では違うのだなぁと思っていた。
そう、当たり前のように。

この子が「独り占め」と言っていたからだ。


多分、石に他意は無い。

あの子と同じ様なものなのだろう。
あの、シャットのまじない棟で見た。

モンセラットの所の多色の原石だ。


「やっぱり、性格とか。あるのかなぁ。」

そう呟いて、とりあえずポケットに入れる。

子供達に配った石は、みんな穏やかだったから。
私からできる石って、なんだと、思ってたけど。

まあ、私の中にだって利己的な感情がない訳じゃ、ない。

うん、独り占め、したい、あるし?


チラリとに目線を送ると、頷いて「帰るぞ。」という。

え。
バレてないよね??

ドキドキしながら取り繕ったつもりだけど、どうだろうか。


そうしてとりあえず、私達は帰路についたので、ある。

うん、多分大分挙動不審だったけどね………。









そうして部屋へ戻ってきた私は、早速その石の支度をする事にした。


私達が部屋へ戻ると「預かってるわよ。」と朝がテーブルのローブを指したからだ。


「シリー、何か言ってた?」

「ううん、また依るには合わせに来るって言ってたけど?それ迄に試着しといてくれって。それだけ。」

「うん、分かった。ありがとう。ナイスタイミングだね。」

そう言って、ウキウキとローブを手に取った私。
テーブルの上にはシリーが仕上げてくれた、薄い空色のローブが二つ。

そうそれは二つ、ある。

「ん?これどっちが、どっちだろう??違うのかな?」


二枚のローブをそれぞれ、テーブルに広げて見る。

大きさは、多分同じだ。

「ちょっと、こっちが薄い、かな??」

そう言って金の瞳を確認すると、チラリとローブに目をやった気焔。

しかし彼は、一瞥しただけで「こちらがお前のだろう。」と言った。


「え?なんで??」

どこか、違うの??色?

ひたすら首を捻っている私を見ながら、彼は言う。

「こちらの方がお前の色に似て美しいだろう。あの子も、そのつもりで縫ったのだと思うが。」




っひゃーーーーー!!!



ちょ、待って?ここ、照れていい所だよね??
流す所じゃないよね??

至って普通の顔でそう、のたまい、そのままじっと私の顔を見ている気焔。


え。
ウソ。

これまた「ニヤリ」とかして揶揄うパターン??
本気?
どっち?

どっちでも、困る?いや、嬉しいけど??
うんん???


考え過ぎて、段々頭がこんがらがってきた。

そうしてある意味、恥ずかしさを忘れた頃。


「で?どう、するのだ?」

その言葉で我に返る。

そう、私は気焔に石に穴を開けて欲しいと頼んでいた。
穴が無いと、ローブに縫い付けられないからだ。

「これと同じ様にして欲しいの。」

そう言ってローブを指すと、頬をペタペタしながら裁縫箱を取りに行った。

うん。
ちょっと、冷まそう。
落ち着こう。

そう、言い聞かせて寝室へ行ったのである。






「さて。もう、いいでしょう。ゆっくりやっても。」

ぶつぶつ言いつつ、寝室の小さな机の上で広げる、ローブ。

あの後結局、夕食の鐘が鳴って「後にしたら?」と二人に言われてしまったのである。
そして、案の定私のお腹も鳴っていた。

そうして夕食を済ませ、お風呂も入ってゆっくりローブを広げたのである。


机に作り付けられている棚の上には、青のマーブル模様のマグカップ。
広げた時に邪魔にならない様に、一段上の触れない場所に置いてある。
集中すると、何時間もこのままやってしまうので手の届き易い位置に飲み物があると、一休みする気分になるのだ。

ま、それも忘れて、そのまま冷める事も多いんだけどね………。

しかし、今日は石一つだ。

まじないの糸とやらが、そう扱い辛く無ければそんなに時間はかからない筈である。
シリーは少し、硬いと言っていたけれど。

「どうだろうね?でもこれ私の糸だからなぁ………。」

そう、まじないの糸は貰った訳ではない。
石を取り替える事も、もしかしたら駄目なのかも、しれないけど。

「まあ多分、バレないしね………。結果オーライよ。」


広げたローブは、さっきの私の物よりは色は濃いが冬の祭祀よりは、色は薄い。
白っぽい、水色だ。

それに付いている石は、ローブより少し色が濃い水色。
私の石の方が若干、色が濃いけれどまぁ誤差の範囲だろう。

「うん?でも並べるとちょっと紫に見えなくも………ない?ああ、でも羽織れば大丈夫かも。」


軽く羽織って、くるりと回る。

シャラリ、と軽い音がしてなんだか楽しくなってしまう。

「いかん。」

そう、本格的にいかん。

パッとローブを脱いで、一番似た大きさの石に当たりをつける。

「ちょっと、ごめんね?休んでて?ここに、置いておくからね。」

糸は、硬いかと思ったけれど私が使ったのはまじない鋏だったので、難なく切れた。
そのままお気に入り棚に並べておく。


「やあ、ここもなかなか。」

そう言って文句を言う事もなく、小さな石は棚を気に入ってくれた様だ。

「うん。もしアレだったら言って?私のローブに付けてもいいし。」

「それなら、それがいいな。」

「分かった、待ってね。」

思わぬ仕事が増えたが仕方が無いだろう。
彼の仕事を奪うわけにはいかない。

うん、ローブにくっ付いて、キラキラするのも楽しいだろうし?
バランス取らなきゃ………できるかな?


「ていうか、裁縫久しぶりなんですけど………。」

グロッシュラーに来て、クッションカバーを縫って以来だろう、久しぶりに開けた宝箱の中身は待ちくたびれている様に見える。

「これ………かな?」

同じ色の糸は、ない。

似た色は白しかないので、とりあえずそれにまじないを込める。
同じ色になったらいいな、と思いながら。

「よし。」

少し、目を瞑っていた。

思い浮かべるのはアラルエティーのローブとあの青い髪。
あまり髪に寄ると、青すぎるから気を付けなきゃ。

そうして、ゆっくりと開ける。
やはり。

「イケるじゃん。」

そう、きちんと同じ、水色になっていたのだ。

「久しぶりに力を込めるから、どうかなとは思ったけど。まだまだ私もイケるわ。」

謎に一人で宣言をして針に糸を通す。

そうして私は、小さな石を二つ、黙々と縫い付け始めたのだった。







「やはり。」

「ふん?」

思ったよりも糸が柔らかく捗ったのでフンフン鼻歌を歌いながら、二個目の石を縫い付けていた。

その、もうそろそろ終わるかという頃。

「おかえり、何処行ってたの?」

寝室へ入ってきた金色を目の端に映しながら、くるくると玉留めをする。
パチン、と糸を切ったところでいつもの金髪に目をやった。

すると彼は、無言で上を指差していたのだけど。

「あ。ごめん。」

そう、私の頭上には雲が出ていた。

それも、小さな石と同じ水色と紫が淡く混ざったもくもくと細長い雲だ。

「この色も中々、いいねぇ。」

「しかし、ギリギリだぞ。」

「はぁい。でも、もう終わったから大丈夫だよ。」

そう言って渋い顔を見て、頭上の雲も、見る。
きっと、もう少しで部屋からはみ出そうだったのだろう。


こうして鼻歌を歌って、これだけ雲が出るのなら。
きっと本番では、きちんと光を受け取ってくれるだろう。


鼻歌が終わった事でハラリ、ハラリとキラキラになって落ち、消えていく雲。

それを見ながら、結局アラルエティーになんて、言おうか。
考えていなかった事を、思い出した。


「ま、いいか………。」

パッと両手でローブを広げ、出来を確認する。

「うん。オッケー。なんとかなるでしょ、うん。」


そうして大分、目がしぱしぱしていた私はその件はローブと一緒に畳んでしまったのであった。

もう、とっくにいつもの就寝時間は過ぎていたので、ある。







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