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7の扉 グロッシュラー
雨の祭祀 あちら側
しおりを挟む朝からやたらと真剣な顔をしていたあの子。
今回「あの場所」で祈ると決めてから、なんだか精神統一を始めて、走り出した日はどうしようかと思ったけど。
とりあえず、祭祀の朝が来た。
用意していた白いワンピースを着ている依るは、とても、美しい。
いつの間にか随分大人になった気もするけど、口を開くと台無しだろうからまだ黙っておこう。
きっと、部屋から出るとみんなには褒められる筈だ。
そっとしておく方が、いい。
鏡を見て支度を済ませ、アキを着けるとローブを羽織る。
今回、軽い朝食を部屋へ運んでもらっている。
祭祀の朝は、食べない人もいるみたいだけどこの子には食べさせておかないと心配だ。
お腹が鳴るとか、減って肝心な時に集中できないと困る。
慣れないことはしない方が、いい。
特に、食べ物関係は。
パンと野菜スープ、少しの果物だけの軽い朝食を済ませるとノックの音が聞こえた。
物凄く、タイミングがいい。
気焔は寝室だけど、誰だろう?
ノックをした割にすぐに開いた扉の前に立っていたのは、白いローブのシンだった。
水色じゃなくて、いいの?
ああ、でも「向こう」だからいいのか………。
しかし前回も仕切り役をしていたシンは確か白いローブだった筈だ。
白いローブしか着ないルールでも、あるのかしら?
まあ、いいけど。
同時に寝室の扉から気焔が出てきて、依るに「忘れ物はないか」なんて、言っている。
持ち物なんて、無いと思うけど?
甲斐甲斐しく、身支度をチェックして扉の前で白い方に受け渡す。
何を考えているのか、表情は見えないけど。
シンが少し仕方なさそうに笑ったから。
多分、仏頂面でもしていたのかも、しれない。
あまり気焔の仏頂面は想像できないから、見たかったわぁ。
そんなこんなで依るを送り出した私達も、慌ただしく支度に駆り出される事になった。
「それにしても、凄い人数…………。」
とは言っても、私にできる事なんて伝言くらいだ。
方々飛び回っているレシフェとイストリア、シュレジエン辺りに事付けをしながらもみんなの様子を観察していた。
結構、楽しいのよね、これが…。
祭祀に使う、「もの」は無い。
今回、あの通路の真ん中に立って場を仕切るのはミストラスの様だ。
まあ、そうでしょうね。
まだネイアや向こうから来ている客人達は現れてなくて、セイア、子供達、ロウワと貴石の人達がクテシフォンの指示によって並び始めている。
ああ、あっちはレナだ。
すっかり仕切っている彼女を見るとなんだか私も安心してきたわ。
きっと、レシフェもレナもここで貴石をしっかりと立て直してゆくのだろう。
こうして見ると、意外とあの子と一緒に次へ移動する者は少ないのが解る。
なんだかんだでずっと一緒のレシフェ。
なんでも相談できる、レナ。
イストリアも「残る」と言っていたし。
うん??
こう考えると、ウイントフークだけなの??
まあ、あの人十人分くらいの働きはするけどさぁ。
癒し担当と愚痴担当がいないわね………。
ちょっと募集しておかないと。
そんな事を勝手に考えていたら、もうネイアも並び始めた。
前回よりも、増えた人数。
しかし区切られた池の向こう側に客人達は集められていて、意図的に子供達や貴石と離されているのが判る。
手前側は、そう狭くは無いが向こう側の池は結構キツキツだ。
そうは言っても、少し動けば。
祈りくらいは余裕だろう。
神殿の大きな階段脇に登っている私を認識している者は誰もいない。
みんなの視線がいつもは見ない珍しい人をチラチラと彷徨っていて、お互い探り合っている様子が可笑しい。
歳の頃で、判る子もいるけれど今日は皆、同じローブを身に付けているので身分は分からない。
「いやぁ、いつ見ても壮観だわ。」
カラカラと並んだ水色のローブ。
それを見ながら、アラルエティーを探す。
まだ、出てきていないみたいね………。
「雨の祭祀」と、言うからには雨が降ったら、始まるのかしら?
しかし私の髭は、「まだ」だと言っているけど?
ヒクヒクと鼻を動かしながら、辺りの様子を確認する。
「光が飛んだら」と言っていたウイントフーク。
多分、依るが祈り始めたら。
気焔に向かって、光が飛ぶ筈なんだ。
「シャラ」という涼やかな音が聞こえて、廊下へ視線を戻す。
「あら。まあ。」
アラルエティーだ。
しゃなりと、廊下を歩く様子は是非あの子にも真似をして欲しいものだけど。
空色のワンピースに薄いローブ、石の付いたそれは気持ちのいい音を発して私の耳に届く。
彼女の顔が、明るいのは。
「アレ、ね………。」
後ろをついて歩いているのはアリススプリングスだ。
この二人が、どうなったのかは分からないけど。
依るに言わせれば「可能性はゼロじゃない」だそうで。
まあ、それを言うなら「全てはゼロじゃない」んだけど。
でも、この祭祀でこの二人が近づくなら。
それも、また。
頷き見送ると、深緑の扉からウェストファリアが出てきた。
「重役出勤ね。」
上から飛び降り、廊下を歩く彼に沿う。
言ってから、この世界に「重役出勤」は無いかも、と思ったけど勿論そんな事は気にしていないウェストファリア。
「楽しみ過ぎて遅れてしまったわい。」
そう言いつつも、階段を降りて行った。
「大丈夫かしら………。」
なんか今日もメモ帳を持ってたけど。
祈る気、あるのかしら?
でも、きっと。
私だってただで終わるとは思っていないこの祭祀で、メモを置いては来られなかったのだろう。
「さて、どうなることやら。」
そうして支度が整った頃、私も階段上に陣取る事にした。
ここなら、ほぼ全てが見渡せるからだ。
しかし、気焔はどこに隠れたんだろうか?
光が、飛んでくるんだよね?
タイミング、大丈夫なのかな………。
マイペースな依るの事だ。
こちらが、構えて待っていても。
中々、始まらない事は容易に想像できるのだ。
しかし、その心配は要らなかった。
何故だか、初めて。
一陣の風と共に、青い光が飛んできたからだ。
「うわ!」
「きゃっ!」
風など吹かないこのグロッシュラーに吹いたのは、そう強くもない、風。
しかし慣れていない人々の足元を揺らすには充分だった様だ。
騒ついている人達の殆どは、青い光に気が付かなかったに違いない。
「狙ってないんでしょうけど。」
タイミングと、なんか、上手すぎるわね。
青の光は神殿裏に飛んだ。
きっと気焔はあのアーチの側にいるに違いない。
しかし騒めきの中、響いたのはいつもの鐘の、音。
中央通路にいる、ミストラスが何かを振っているのが判る。
「へえ、アレ手動なのね………。」
そうして、みんなの注目が真ん中に集まって。
そう、とうとうアラルエティーの祭祀が始まったのだ。
さあて、私は高見の見物、お手並み拝見。
そうしてまだ灰色の空を、見ていた。
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