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8の扉 デヴァイ
一歩
しおりを挟むみんなで選んだ服は、青だった。
「コレも良くない?」
「うーん、でも髪が映えないわよね?あまり地味でもね…品は、いいんだけど。」
「そうよね。多分、途中で誰かしら見に来るでしょう?銀の中ってどうなってるのかな。一回くらい、入ってみたいけど…やっぱりいいわ。」
「聞いた話では、庭があるらしいわよ?だから、そこに人がいると思うのよね。」
「ならもっと、派手にいかなきゃ。でも、そもそもヨルの服に派手なのが無いんだけど。」
「これはいいけど、ちょっとボリュームがね………。」
「私も思った。」
「「やっぱり、これしかないわね。」」
二人の会話をフムフムと聞いていた私は、自分の服より「庭」というワードに思考が奪われていた。
だから、昼食後部屋へ帰ってきた時に目立つ様に掛けられているその服を見て「シリー。ありがとう。」と、一人呟いていたのである。
あの時、「え?庭?どんな?え?外?」と行った事がないという二人を問い詰め、全く服を見ていなかった私は、無論どれに決まったのか知らなかったのだ。
きっとシリーが聞いておいてくれたのだろう。
クローゼットの前に掛けられているその服は、ドレスとワンピースの中間くらいの服だ。
シンプルだけれど、生地の縁取りに金が使われていて、装飾は裾の重なったレースだけ。
しかしたっぷりと取られたその生地は美しくドレープを描く様計算されていて、袖とスカートにはボリュームがある。
絹の様な光沢のある生地を生かす為に、デザインして作ったお気に入りである。
あまり、派手では無い。
しかし、品の良さが滲み出るこの生地に、負けない様私も大人しくしなければ………。
「着替え終わったらもう、準備して行くぞ。」
そう言われていた事を思い出した。
「いかん。」
ついウットリと生地を撫でていた手を引っ込めて、着替え始める。
着替えは簡単だ。
すぐに終わらせて、青い鏡の前に立つ。
「あーら、いいじゃない。で?今日は結い上げるの?」
「うーん、どうしようか。ちょっと、顔見せに行くだけなんだけど。」
「あら。駄目よ。そんな衣装で髪型は普通だと逆におかしいわ。」
「確かに。」
鏡のアドバイスを聞きながら、編み込みを始める。
上げるかどうか、迷ったが結局横に流して下すことにした。
「まあ、その色が。映えるものね?」
深い、空色のドレスに今日の髪色は水色に見える。
グロッシュラーでは銀ローブだったから、銀髪に見えたけれど。
この方が、地味だろう。
「銀髪とか、白に近くない方がいいよね…。」
「あら。隠すの?」
「今は、ね。」
もう、アキを着けているから水色に見えるが今は殆ど白に近い水色の私。
以前から白水色では、あったけど。
姫様に気が付いてから、やはり白が勝ってきているのだろう。
「うーん。じゃあ、行ってくるね。ありがとう。」
「はーい。行ってらっしゃい。」
そうして緑の扉を閉じ、部屋を出た。
「ほう。これはいいな。」
私を見てそう言っているのは千里だ。
今日のメンバーはウイントフーク、千里、私にベイルート。
「やっぱりヨルは青が似合うな。」
「ありがとうございます。」
ベイルートは青い私を見慣れているからだろう。
勿論ウイントフークは無言である。
無言と言うか、そもそもこっちを見ていないけど。
「あと、これな。」
そう言って寄越してきたのは短いベールだ。
「え?またですか?今回は要らないんじゃ?」
「ん?言ってなかったか?銀の未婚の女は外に出る時、常にそれなんだよ。」
「ゲーーー。」
「お前。ゲーは無いだろう。」
ウイントフークから受け取ったのは以前青の家に行く時にも着けていた、短いベール。
頭だけすっぽりと覆うもので、外も見えるのだけれどやはり見え難くはある。
あの時は、まだ私の事を知らせない為にこれを着けるのだと思っていた。
「これを………常にか………。」
「さ、とりあえず行くぞ。遅れるといかん。まあ、近いけどな。」
「え?そうなんですか?」
「ここは外れてはいるが、銀の区画近くではあるからな。」
「ふぅん…?」
確かに千里と書いた地図でも。
隣くらいだった、気がするけど??
「じゃ、行ってきます!」
何やら朝と話していたベイルートが私の肩に留まり、みんなに挨拶をしてアーチを潜る。
勿論、ウイントフークはもう先に行っているのだ。
私を待ってくれている千里を見失わない様、再びの薄暗い道を進んで行った。
「近っ。」
「お前、少し黙ってろ。いやずっとか?」
失礼な事を言われながら、黒の廊下を歩いていた。
青の廊下を抜け、右へ曲がって少し。
「あの大きな扉だ。」
ウイントフークが指さしたその黒くて大きな扉は、すぐそこにあったからだ。
いやだってこれ、ツッコむでしょう………。
いかにもという体でそこに聳えている扉は、なんだか私には少し仰々しく見えた。
あの、大きな礼拝堂の扉よりは少し小さいがそれなりの大きさの豪奢な黒の扉。
つい、開きそうになる口を塞ごうと手が伸びたが、お嬢様の体をしている私がその格好では都合が悪い。
気合を入れて、口を結びウイントフークに続く。
何故だか、彼が扉の前に立つと内側から扉が開いたからだ。
扉が閉じない様、慌てて後を追う。
「悪の巣窟、デヴァイ」の総本山、銀の区画だ。
どんな恐ろしい場所かと、思っていたけれど。
しかし意外と、すんなり扉を潜る事になったのだった。
うっ ひゃーーーー!!!
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい
誰か、声を我慢した私を褒めて欲しい。
その大きな扉を開けてくれたのは左右にいるドアマンだ。
きっとまじない人形なのだろう、その規則的な動きと表情。
それすらもこの不思議な空間の雰囲気に一役買っている。
扉を潜った正面に広がっていたのは、重厚感溢れる本の街、だった。
数はそう多くないが、一つ一つが個性的な店はジャンルの違う本を扱っているのだろう。
それだけでもかなり心躍るのに、店自体が青の空間と違い「きちんと店」なのである。
青は、どちらかといえば屋台か露店に近い店だったのに対して銀は一つ一つがしっかりとした店なのだ。
其々が凝ったウインドウを持っており、古い看板が下がる店、お薦めなのか一つの本をドンと台でアピールする店、美しい背表紙を規則正しく並べる店。
これでもかとばかりに、私に訴えてくるその店達に、入れないなんて?
くるりと振り返ると、「阿呆」という目がある。
はいはい、分かってますよ、駄目なんですよね?
でも絶対、後で来てやるもんね!
絶対だもんね!!
自分を落ち着かせる様、一つ深呼吸をして顔を上げる。
歩き方がプリプリしない様気を付けて、ウイントフークについて行った。
なんだか背後が笑っている気がしなくもないが、見ない事にしておこう。
うん。
そうして本屋街を抜けると、なんだか明るい場所が見えてきた。
今までいた街は、少し薄暗い雰囲気だったのだが本の保護の為だろうか。
真っ直ぐに続くその通路の正面には、明るい出口が見えてきたのだ。
そう、まるで外の様に。
そう考えた瞬間、ピンと来た。
あ、あれが。
あれが「庭」なんだ!
思わず駆け出しそうになった私の腕を、背後の千里がぐっと掴む。
「いかん。」
ポソリと呟いて紫の瞳に合図すると、気を取り直して進んで行った。
薄暗い通路から、急に明るく開けた場所に、出た。
うっわ……………なに、これ。
声に出さなかった、自分を褒めたい。
空?
空だよね?
まじない?凄くない?
こんな事できるなら、力奪わなくて良くない?
ご丁寧に雲もちゃんとあるし…。
て、言うか。
噴水、ナニ、アレ。
凄っ。
何?なんなの?
その、明るい空間はやはり予想通り庭だった。
ただ、私の予想していた「庭」のレベルは、軽く超えていたけれど。
本の街よりも、大分広い空間に白っぽい、空。
なんとなく、グロッシュラーを想像させるその空の下にあったのは所謂西洋風の庭園だ。
しかし兎に角、広いそこは凡そまじない空間とは思えない造りだ。
白い煉瓦の道の正面、まず目を惹くのは中央にある大きな噴水だ。
そしてそこから流れる水が、周りの花壇に伝わっているのが分かる。
噴水を囲む様に、等間隔で並んだ花壇、色とりどりの花。
花は無いと、思っていたけれど。
あまりにもこの庭園に馴染んで普通に、そこにあるあの花も、まじないなのだろうか。
様々な花壇と美しい煉瓦、しかし植栽は無く緑はない。
やはり木は、難しいのだろうか。
ウイントフークに訊きたいけれど、今は無理に決まっている。
この時ばかりはこの邪魔なベールに感謝して、私は目だけを忙しく動かしていた。
いや、首も少しは動いていただろうけど。
柔らかく背中を押す手が、立ち止まっている事に気付かせる。
いかん。
ふと、先を見るとウイントフークは案の定一人でズンズン先を行っているのだ。
再び慌てて、できるだけお淑やかに後を追うが何せあの人も背が高い。
コンパスの長さはどうしたって不利なので、諦めて少しゆっくり進むことにした。
最悪迎えに来てくれるだろう。
そんな考えも、あったのだ。
「気を付けろ?」
耳元で声がする。
うん?
ベイルートさん?
何が?
自分が遅れた事かと思ったけれど、ベイルートの言葉の意味はすぐに判った。
真っ直ぐだけ見ていて、気付いていなかったが庭園には人が、いたのだ。
それも、遠くから私を見ている、女性が何人か。
ベールを被っている人がチラホラいるが、それは少ない。
その他普通に歩いているかと思いきや、ふとこちらを見ていた様な人、あからさまに顔を逸らす人。
広い庭園をあまり首を動かさない様、見てみると。
思ったよりも、人がいた事に驚いた。
多分、私が入ってきた時は居なかった筈だ。
もしか、したら。
「私が来る」事を、知っていたのではないだろうか。
どうしたってそう、思ってしまうタイミングだ。
足を止めない様、歩く。
私の視線は、勿論ベールで見えないだろう。
でも、やはり。
自分に向けられている、「微妙な視線」は。
気持ちのいい、ものではない。
どうしたって、分かるのだ。
なんとなくでも、歓迎されていない、雰囲気が。
でも、それも分かっていた事だ。
何をされた、わけでもない。
それなら。
私には、これもある。
キュッと握った拳を胸に当て、煉瓦の道を進んで行ったのだ。
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