透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
484 / 2,047
8の扉 デヴァイ

図書館

しおりを挟む

「仕事だ!起きろ。ああ、千里はそっちの姿で、いい。」

「ひぅえっ?」

ベッドの上、おかしな声を上げ飛び起きた。

「へ、うん?」

視線を向けた時には既に、扉へ消えてゆく水色の髪と白衣。
寝ている乙女の部屋に。
勝手に入って、大声を出すのは如何なものか。


「え、………ていうか。仕事?って、なに………。」

再び横になろうとしている私に、目覚まし代わりのキーワードを言ったのは千里だ。

「………図書館、じゃないか?」

耳をピコピコとそばたてながら、紫の眼をキロリと光らせ部屋を出て行った。
多分、着替えて来いという事だろう。

「むん。図書館か………それなら起きねばなるまいな?」

まだ回らない頭で、身体は自動的にベッドから下りクローゼットへ、向かう。
やはり、「図書館」というキーワードは強力なのだ。


それに。

昨日の夜、チェックを兼ねてたっぷりと金色を注ぎ込まれた私は、自分からキラキラが漏れ出しているのを感じて、いた。

思い出すと、フワリと温かくなる身体、熱くなる顔、湯気が出ていそうな頭を扇ぐ。

そう、キラキラが漏れ出していることを自分で感じる程、体力は有り余っているのである。


そうして一人、誰も居ない部屋で金色の真似をして思い出しつつも、ゆっくりと身支度を始めた。









「随分と久しぶりだ。しかし君の好きな本は新しく入っていないと思うな?」

余りにも自然に、話しかけられたものだから。

「えっ。残念。」

反射的に、そう答えていた私。

「ヨル。」

ベイルートのピリリとした声で我に返る。

そう、ここは。
念願の図書館、しかし銀の家揃い踏みといういただけないおまけ付きの、魅惑の場所である。


急いで朝食を食べながらウイントフークから聞いた、その「仕事」の内容とは案の定ザックリとした話だった。

「本を片付ける仕事だ。」

そう、言っていたウイントフーク。

「そんなの楽し過ぎるじゃないですか。」

イマイチよく分からないがなんだか楽しそうな事だけは確かだ。
とりあえず図書館をご褒美に頑張っていた私は、そう答えてルンルンと浮き足立ってやって来たのである。
入り口から、まさか扉に話しかけられようとは。
思って、いなかったけれど。


立ち止まる訳にもいかず、白衣に続いて中へ入る。

元は何色なのかも判らなくなった古い扉は、しかし細部まで丁寧に磨き上げられた重厚感のあるアンティークだ。

しかし、私達以外にも人が入って来る扉の前に陣取る訳にはいかない。
とりあえず後でまた来ようと、入ってきた男性に会釈しつつも水色髪を追った。

勿論、待ってくれる筈がないからだ。


て、言うか。

デカっ。
広っ。

いや、流石に「図書」と言うのだから。
グロッシュラーの図書室より、広いとは思っていたけれど。

「…………予想、以上…。」

「これは凄いな。」

流石にベイルートも賛同してくれた。
この、図書館は多分まじないなのだろう。

天井迄続く本棚、太く巨大な柱の面も全体が書棚として機能しているのが分かる。
どこまで続いているのか分からない壁面は、勿論一面本棚だ。

中央に立つ棚は、人の背丈程の高さもあれば「どうやって作って、入れたの?」という程高いものも、ある。


そしてそのうちの僅かではあるのだろうが、しかし膨大な数の本が、床一面に。

散らばって、いるのである。

そう、まるでぶちまけた様に広がって落ちているその本を見た時に、私はやっと意味が解った。


「ここは、時折「震える」んだ。」


道すがら、言っていたウイントフークの言葉と「片付ける」の、意味。

それに、例えるならば余震の様に。
ここへ来てから、少しだけ場が揺れる時があるのが分かるのだ。


でも、これ………。
地震って言うよりは、「打ち震える」みたいな…感じ………?

時折身体に感じる微弱な振動と、何かの声の様な、音の様な、もの。

まるで、大きな誰かの中で打ち震えている泣き声を。
聴いている様な、そんな気分なのである。

なにしろ。
とりあえず、あまりいい気分ではない。


寧ろ、「泣いている」なら。

歌でも歌って、あげましょうかね………?


チラリと視線を飛ばすと、珍しくこちらを見ていた本部長に手招きをされた。

肩に掛かる髪を流し、頷いて歩いて行く。
今日はベール無しで、来た。

「お前の好きにしろ」と言っていたウイントフークは、特に咎める様子もなくそのままここへ来たのだが。

もしかして、今気付いたんじゃないでしょうね………。
これから怒られるとか、嫌なんですけど………?


チラチラと行き交う人に見られつつも、足元の極彩色を踏まない様注意して歩く。
何故だかウイントフークに「狐の姿」を指定された千里は、なんだか楽しそうである。

今日は片付けで、銀以外の家は不在の為この姿でもいいと判断したのだろうか。
まあ、本部長の考えなんて私には見当も付かないけど。


「今回は中々揺れがデカかったみたいだな?普段は男だけの仕事だがお前の他にも女の姿がある。良かったな、悪目立ちしなくて。」

「そう、ですね?」

床に散らばる沢山の本、各所に片付ける人達が数人でチームを組んでいるのが見える。

拾い集める人、仕分けする人、棚に戻す人。
その中には確かに、女性の姿も見える。
しかし見かける女性は全て、私の母親くらいの年齢だ。
どうしたって目立つ髪色、若い娘、そしてベール無しの姿。

解ってはいたが、想像以上に注目を浴びている事に今、気が付いた。
この人は、これでも「悪目立ちしていない」と言うのだろうか。

しかし、表立って近づいてくる人は流石に無くそれがブラッドフォードのお陰なのか、それとも先日の呼び出しの件なのか。
それについて私がぐるぐる考え始めると、本部長が本題を口にした。

「で?さっき扉がお前に話しかけていたろう?」

「はい?そうです、ね?」

嫌な予感。

ブツブツと「ベール無しは昔もあったのか…」と言いながらも私の姿を観察している。
今更、何処か見る所があるのだろうか。

この、隠さないことを決めた私の出立ちは、結局「似ている」疑惑に関しても「そのまま」を貫いている。
あの扉が勘違いしたのは、どちらなのか、誰なのか。


うん?
でも。
ディディエライトは、には。
来て、ないんだ………。


自分の中の事実確認をしている私を、そのまま引っ張って奥へ向かっているウイントフーク。

珍しい。
しかし、今日は千里が狐の姿だ。

声が響くこの場所では、自分で引っ張った方が早いと思ったに違いない。
何処へ行くのか、そちらに興味が移って静かに後をついて行った。



暫く奥へ歩いて、ウイントフークが立ち止まったのは少し大きめの扉の前である。

大きな柱に、ポンと扉だけがあるこの場所は異質だ。

どの壁にも本が詰め込まれている、この場所にある白い、柱。
そう、柱面に棚は無くただ、白いのである。

そうしてきっと、本部長の予想通り。

私を目の前にすると、その扉は再び同じ事を話し始めたのだ。


「随分と、久方ぶりだね。今日は何を?探してやろうか?」

チラリと茶の瞳を確認する。
無言で頷いた、この人は。

いや、解ってたなら何探してるのか教えといて下さいよ………。

私のジトっとした目をかわしながらも、顎で返事をする様言っている。


もう………知りませんからね?
適当に、言いますよ??

でも多分、入りたいんだよね………。
て事は?
ここって………。


正面にある、その扉はこの中にあるにしてはシンプルな扉である。
何も、表示などは無いが「この場所まんなか」「何も無い、この場所では特別な白い柱」「ウイントフークが入りたい扉」と、言えば。

「禁書室」

ポン、とその言葉が頭の中に浮かんで。

急に合点が入った私は、急回転でぐるぐるをしこの場での「最適解」を弾き出した。
まるで、肩のベイルートが乗り移ったかの様だ。


「青の本を、探してるの。中に。あるかしら?」

ちょっとだけ、お淑やかに。
訊いてみた。

「さぁて?残っては、いたか、いないか………。」

パッと思い浮かぶエイヴォンの事、青の家に残る本、ウェストファリアの禁書室の数と自分の部屋の本のこと。


うん?
あと何冊?あるんだっけ?

そうして再び私が、ぐるぐるを始めるのと目の前の扉がカチリと開くのは同時だった。


そう、多分私を「勘違いした」その扉は。

「どうぞ」と、禁書室への扉を開けてくれたのだ。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

処理中です...