透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

留めておくこと

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秋桜の揺れる、秋の夕方、斜めに走る橙の光が美しい、私の家の庭。

濃紺のビロードに撒き散らされた星、濃い青の屋根の波と夜の灯り、境目の分からないラピスの景色。

橙から灰色に移る空、黒い軍艦の様な工場の影、赤い煙と煌めく川面。


眼下にチラリと見える橙は、シャットの空だったろうか。

あの、天空の揺り籠から見る白と灰色の雲、硬い大地の下、私を守る薄い焔と温かい腕。


これまで沢山の美しい景色を見てきたけれど。

その、を。

留めておきたいと。
留めておかなければならない、と。

自分の、中に。

まるで、もう二度と見ることが無いかの様に胸に迫るあの、感覚は。

一体。
どうして、なのだろうか。


「私。もう、帰らないのかな………。」

夜の湯煙の中、ポツリと呟く。


何処にも。

自分の、世界にすら?


どうしてなんだろうか。

でも。

これまで、ずっと辿ってきた道にはきっと全部、意味があった。

繋がっていたんだ。

全て。

怖いくらいに。


まるで、全部「知っていた」かの、様に。



「でも。まあ、真っ直ぐ、進むしか無いんだけどね………。」


いつもの森の中、遠く夜の灯りが見える濃紺の窓。
チラチラと瞬くのは、窓の灯りかそれとも小さな星か。


この、景色を見ていたから。
センチメンタルに、なってしまったのだろうか。

それとも………?


ここまで来て、これまでの事が全て繋がっている事を実感している私は「もしかしたら」という思いが自分の中に、生まれていた。

でも、多分。

自分が「それ」を選んだと、しても。

それはその時の「自分の選択」なのだ。

それだけは、


意に沿わない事は、しない。
これからは、もう。


「まあ、これまでも散々勝手にはやってきたんだけどね………。」

アレコレ違う世界へ行っても、勝手に色々首を突っ込んだり、失敗したり。
いやいや、でもお礼を言われた事だって、ある。

「私だって、それなりに。悩んで、進んできたもん………。」

それだけは。
確かだ。


しかし、自分がどうしてそんな気分になったのか、気になってきた。

最近色々と「繋がる」ことが多い私にとって、この予感の様な感覚は。
無視できないものでも、ある。

「帰らない………いやいや、寂しくなっちゃうから。でも、今考えても分かんないんだろうな…………。」

結局大分、後になってから。

分かることも、多いからだ。


でも、「繋がる」ことも、増えた今。

こうして考えることも、みんな無駄では無いと思えるし、どの世界に行っても「真っ直ぐ」「そのままで」と、言われる私にできる事はそれしか無い。


「でも、ある意味。このぐるぐるに、意味があると分かっただけでも、かなりの進歩。」

そう、自分で自分を慰めてゆっくりと両手にお湯を掬う。

キラキラと流れる白金の星屑は、私の中に今、ある色で。

あの、色に満たされて今、ここに居て。

ラピスの夜空が、見えて。

森の冷えた空気と程良い温度のお湯、湯気の中に下りる枝の影。


「これまた、最高じゃん………。思い出しちゃうね………。」

そうしてまた、自分の中に一つ、景色を増やして。

こうして。
きっと。

自分の中に、重なる「なにか」で、また私の色が増えて。


「もっと、美しい「なにか」が。出来ると、いいよね………。」




「あんた。また、そんな事言ってるとのぼせるわよ。」

「あ。」

ツッコミ役が登場してしまった。
私の夜の劇場は終了の様だ。

「ほら、シリーが飲み物置いてってくれたわよ?」

「あー、それは有り難い。」

シリー、様々だね………。


結局グロッシュラーからついてきてくれた、シリーの飴色の瞳も今の私の、中の一部で。

「うーん。やはり。美しいものは………」

「てか、マジで早く上がんなさいな。困るのは………千里かしら?」

「うん?」

流石にのぼせた私を迎えに来てもらうには、気まずい。

「はぁい。」


そうして「よっこらしょ」と、湯船の縁に腰掛けると。

やや、フラフラとしながらも着替えに手を伸ばしたのだった。



青の鏡が、一人何か喋っている。

それを半分だけ聞きながら、椅子に腰掛け髪を丁寧に拭く。


やっぱり流石に千里に迎えに来てもらっちゃ、違う人が飛んで来そうだしね………。

そうしてゆっくりと支度をしながら、どらいやーに手を掛けた。


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