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8の扉 デヴァイ
次の扉と 魂と
しおりを挟む小窓から差し込む光も大分、落ち着いてきた、午後。
いや、お昼はまだ食べていないけれど。
きっと、もうお昼は過ぎていると思う。
多分、イストリアは私と話終わった後昼食にしてくれるつもりなのだろう。
しかし、思いの外長くなっている、この話。
勿論、始めからすぐ終わるとは思っていないけれど。
私が質問した事で更に話が脇道に逸れているのだろうが、イストリアの反応からしてこの話も中々重要な案件である事が見て取れる。
そう、ゆっくりと背凭れに寄り掛かると、時折思案しながら私に問い掛けられたその内容は、やはり「次の扉」の話だったから。
でも。
どうやら、デヴァイでは「次の扉」という認識ではない様なのだ。
なにしろそれが、どうも不味いらしかった。
「君の蝶が居る場所が、デヴァイでは、ない、と?」
私が分かる範囲で、蝶のいる場所の感覚を説明した後。
イストリアはそう質問して、再び顔を曇らせた。
ゆっくりと頷く私の顔を見て、頭の中が忙しそうなのが、分かる。
「ふぅむ。それ、他の人には話したかい?」
「いいえ?多分、ウイントフークさんには言ったかな…でも別の扉、と迄は話してない気が………?どうだろうな??」
曖昧な記憶を手繰り寄せてみるけれど、やはりはっきりとは思い出せない。
しかしウイントフークなら、そう問題はないだろうとイストリアもその辺りは本人に確認すると言う。
それよりも。
その「別の扉」そのものの方が、気になるらしかった。
「私達は、今は別れた世界に其々暮らしているけれど。それと、同じ様にその場所があるという事だよね?」
「そう、ですね?多分。」
「で?君はそれは、あの家の奥ではなく別の扉だと、どうして気が付いた?何か、空間がおかしいだけならば。デヴァイの奥でも、いい筈だろう?」
「そう、ですね………なんでだっけ、な?」
イストリアにそう、言われてみると。
確かに私がそこを「別の扉」だと、確信している理由は何なのだろうか。
確か、何時だかに。
パッと思い付いた、気がするのだけど。
「…………あ。」
そうだ。
「あの、確か…………考え事をしてた時に、その蝶がいる場所が。あの時の、扉に似てるなぁって思ったんです。あの、最初の、雪の祭祀の。」
「うん?それは、あの変化した扉の時かな?私は直接見ていないからな………見たかったな………。」
悔しそうにしているイストリアがなんだか面白いが、そう考えてみれば。
これは、私の単なる予測に過ぎない考えでも、ある。
そう思って、一応注釈しておく。
「あの。でも、私のなんとなく思った事なので、本当にそうか、どうかは分かりません。あ………でも多分、そうだな…。」
あの、金の瞳。
それを見て、確信した筈だ。
「その、奥の墓地がそこなのか、あの「なにか」が出そうだった扉の奥と、墓地が同じ、なのか。分からないけど、私の蝶が居るのはあの「なにか」がいた場所だと思います。あの時は気が付かなかったけど、雨の祭祀で扉がティレニアに繋がったから。あれも、別の扉なんじゃないかと思ったんですよね………。」
私の、その言葉を聞いて。
黙りこくってしまったイストリアは、暫く何かを考えていた末、顔を上げた。
だが、どうやらこの問題については、私は管轄外の様だ。
「とりあえずこの問題については、後であの子と話すよ。蝶について何か有効な意見があれば、教えよう。しかし、話を元に戻そうか。なにしろ、それが分からないと、君が思う存分祈れないだろうからね。」
「確かに。」
ゆっくりと頷いて、その意見に賛成する。
扉の話はお預けだが、何れ行く事になる、その扉。
イストリアやウイントフークは、察してはいるだろうが「私は扉を巡って旅している」とはっきり宣言している訳ではない。
何故扉の話に苦い顔をするのかは分からないが、次に何処へ行くのか知らない筈だし、悪戯に心配させても仕方がない。
その辺りは、なるようになる、筈………。
そう思って、再び心の準備をし直した。
「それで。魂の、話だけれど。」
「はい。」
私のお腹の様子を心配してか、頭の回転を心配してか。
目の前に「コトリ」と置かれたおやつに有り難く手を伸ばしながら、続きを聞く事にした。
確かに。
レナとの話でやや頭が疲れている私に、甘いものは必要である。
ポリポリとピスケットの様な焼き菓子を齧りながら、薄茶の瞳を見て頷いた。
「大体、君の世界と私の世界での認識は同じ様に思う。さっきの話を聞かせてもらったけど。その、同じ魂がぐるぐると生を繰り返すのはそうだと、思うよ。」
「ほら、以前話したろう?ぐるぐると廻る輪を、君は、君の自由に回す権利がある、と。あれはその輪廻とも掛けた言い方だ。」
お茶を飲みつつ頷いて返事をすると、ずっと前に話してくれた時の事が思い浮かぶ。
あの時のこの人の言葉は、私の背中をぐっと強く、押してくれた。
「私は 私の輪を。自由に回す、権利がある」と。
誰のレールに乗ることもなく、好きな方向に、進めばいいと。
フッと、あの時の風が吹いた気がして部屋の中を見渡した。
いつもの、ハーブの香り、翳った店内はすっかり落ち着いた色で。
あちこちの「込もっているもの」達が、皆其々誇らしげに棚やテーブルに並んでいるのが見える。
勿論、この店にあるものは全て、イストリアが作ったものだから。
其々、一つ一つに、「なにか」が込もって店全体が暖かいのだ。
きっと夜になれば。
自然とあれらは内緒話を始めるのだろう。
そんな、雰囲気に包まれて。
くるりと再び、薄茶の瞳へ向き直った。
「幾つもの輪を回すことを知った君なら。解ると、思うが。「魂」と「体」は別物だ。まず、それが知られていない事が大きな問題かな。」
「問題、ですか?」
少し笑って、私の質問に答えるイストリア。
「そうだね。そもそも、「魂の求めるもの」と「体の求めるもの」は、同じ時もあれば違う時も、ある。それが複雑なんだよなぁ………。」
「???」
きっと「ハテナ」が浮かんでいる私を顔を、じっと見ながら言葉を選んで、ゆっくりと話してくれる。
しかし、やや頭の中は混乱し始めていた。
「そもそもね。「体」には「心」が、くっ付いている。それは分かるね?で、その「心」というものが厄介で、度々「魂」と同じだとされてしまうんだ。全然、別物なのだけどね。」
「心、と魂………。」
「そう。しかも「心」は体と強く結び付いているから、基本的にそっちの声の方が大きいんだ。「魂」の声はとても、小さくて。注意していないと、聞き逃してしまう。」
「小さい………。」
「うん。でね?子供の頃は、そう違いないんだ。子供は自分の望みを「知っている」だろう?やりたい事、食べたい物。眠い時、遊びたい時、誰に気兼ねなく声に出して、なんなら泣いて。その時を「生きてる」。それは、分かるね?」
「ああ、それならなんとなく…。」
チラリとあの子達の事が過ったけれど。
多分、私の世界の子供を思い浮かべた方がいいだろう。
暗い瞳を思い出して、胸がキュッとしたけれどまずは話をしっかりと聞かないと。
きっと途中で迷子になってしまいそうだ。
「だがね?体が成長してくると今度は「体の声」も、大きくなるんだ。それは、生き物としての本能、衝動、となる。今はそれぞれの社会にルールがあるし「理性」というものも備わっている。だが、昔はそうではなかったのは知っているね?…そうだ。結局、私達も「ルール」が無ければ。動物と、そう大差ないのだよね。残念ながら。」
「それに、そもそも。何故。人の「魂」「体」「心」が、別物だと知られていないのか。これが問題だな。」
「?」
「君、もしね?「魂」が繋がっていて人の体が死に絶えても。私達が次へ繋がる、という事を「知って」いたならば。何が、起きると思う?思い出した君ならば。解るだろう?」
じっと私の瞳の奥を見つめる、薄茶の瞳は楽しそうでもあるが悲しそうでも、ある。
その、意味が分からなくて。
とりあえず答えがあるのか、と自分の中を探ってみる事にした。
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