透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

隠蔽された歴史

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しかし。

ぐるぐるとこのそう広くもない禁書室を探していた私達は、予想通り歴史の本を見つけられないでいた。

いや、あのブラッドフォードが言い淀んだ時から。

怪しいと、思ってたんだよね………だってあれ。
絶対、なんか隠してる系じゃない?


チラリと過ぎる銀ローブ、今は別れて別の場所を探している最中である。

こうも見つからないとなると、あの人がわざと見つけていないのか。

本当に、無いのか。

私が読めない文字が多くて、見落としているのか。


チラリと最後に過ぎった案が心配になって、こっそりと扉の方へ近づいて行った。



「ねえ、ここって歴史の本は?」

小さな声で話し掛けたのだが、やはり扉には通じなかったらしい。

「奥に纏まっているよ?この前話しただろう?」

そう、普通に答える彼に「しーーっ!」と言い、辺りを見渡すが銀ローブの気配は無い。

「ん?」

しかし、ふと気が付いたけれど。

そう言えば、この子の声は聴こえないんだわ………。


一人可笑しくなって、クスクスと笑っているとブラッドフォードがやって来た。

「何してるんだ?」
「いや、………大丈夫です。奥に行きました?」
「これからだ。」

「じゃあ一緒に行きましょう。そっちにあるかも、ですね。」

そう言って、とりあえず奥に向かう事にしたのだ。





えーーー。
これは。

困ったな………?


案の定、読めない文字ばかりの、歴史の本。
しかも奥にある本なものだから、何種類もの文字があってちょっとやそっとじゃどうにもなりそうが無い。

とりあえずはブラッドフォードが読めるものを見てもらっているけれど。

これ、ぶっちゃけこの人が言いたく無い事は内緒にできるって事だもんね………。


そう思いつつも、思い付いた疑問を口にしてみる。

「あの。これまでにも歴史って、学んでますよね?」

「まあ、そうだな。」

グロッシュラーでも「歴史を学びなさい」と。
ミストラスに、言われたのだ。

だから多分、デヴァイここの人ならば、教養として習う筈だよね………?


しかし、真剣な顔をして本を持つ彼。

やはり新しい情報があるのかと、訊きたい気持ちはあったが邪魔をするのも憚られる。
これまでこの部屋で調べた事はないのだろう。

一体、どう教育されるのだろうか。
ここの人達は。


…………うーん、でもベオ様「愚民」とか言ってたよね…。
うん。
まあ、とりあえず私の読めそうな本、探そっかな………。


ブラッドフォードを眺めていても、私に手伝える事はない。

それなら、と辺りの本棚を確認し始めつらつらと横に滑って行った。




「んにゃ?ダーダネルスに訊くのも、いいかも………??」

何冊目かの本を棚に戻し、そう思い付く。

彼なら私よりも読めるだろうし、何よりも歴史や祭祀に詳しそうだ。

「白なら多分…大丈夫だろうし?それに。」

確か。

「無に帰した」って、言ってたのダーダネルスだよね………?

うん?
そうだと思うんだけど…………???


「…ダーダネルス?」
「ひゃっ!!!」

「ちょ!」

いきなり耳元で呟くのは、止めてくれないだろうか。

ベイルートさん、落ちちゃうじゃん………。

「あ。」

そう言えばベイルートは、この文字を読めるのではないか。

そんな今更な事を思い付いたのだが、いくらベイルートが頭がいいと言ってもラピスには無い文字が読めるとは限らない。
それに、きっと読めるのならば既に助けてくれていた筈だ。

そう思い至っているうちに、私の目の前の本棚を検分していた彼は首を振って私の手を引く。
そして再び、私は奥の本棚に連れ戻されたのだ。


「何か、見つけたんですか?」

手を離し、ただ私を見つめる彼に、そう問い掛ける。

「………いや。目ぼしい情報は、無かった。アリスの家になら少しはあるだろうが。」

「そうなんですね………?」

「それより何故、ダーダネルスの名を?」
「ん?え、グロッシュラーでよく手伝って貰ってたんです。確か歴史と祭祀を研究してた気がして………聞いたら早いかなぁと。でも………。」

「ん?どうした。」

何故ダーダネルスの名に反応したのか。
そう思ったけれど、ブラッドフォードの意見も聞いておきたい。
そう思って口を開いた。

「あの、グロッシュラーの歴史で。結局いつも、争いが起こって最後には「無に帰した」と、ダーダネルスは言ってたんですけど…お兄さんは、どう思いますか?本当に「神」が現れて、あの大地が灰色になった、と?」

「…………ブラッドだ。」

うん?
今?

そう思ったけれど、自分の中でもごちゃごちゃし始めた呼び名を口に出して頷いておく。

「ブラッド、ブラッド………」

その様子を見ながらも何かを考えている様子の彼は、眉間に皺を寄せてこう答えた。

「俺自身は。争いの跡を隠す為に、更地にしたのだと、思う。実際、かは、分からんがな。しかしその辺りも記録が無いんだ。その「無に帰した」事も、「神自体」の事も、デヴァイここの成り立ちの事も、全て。近代の歴史ならば残っているが、古いものは何も、無いんだ。」

「……………え。」

「お前は、どう思う?何故、歴史が。残っていないと、思う?」

真剣な瞳でそう、問い掛けるブラッドフォード。

どう答えたものかと、一瞬考えたけれどこの人に特に隠す様なことは、ない筈だ。
私の世界で歴史が隠蔽されるとすれば、その理由はただ一つ。


「それは。まあ、………都合が悪いからなんで、しょうね………。」

じっと青い瞳を見つめながら、そう答えてみたけれど。

くるりと動いたその瞳は、好奇の色を映したかと思うとすぐに落ち着いた青に、戻った。

どちらかと言えば。
残念だとでも、いう風に。


「…………しかしやはり。なのだろう、な。」

「えっ?」

隠蔽した、ってこと??

でも?
デヴァイここは、あなた達一族が治めてるんじゃ、ないの??


まるっと顔に出ているであろう、私をじっと見つめたままの、彼。

暫くそのまま黙っていたが、徐ろにポツリポツリと呟きを漏らし始めた。

独り言なのか、聞いて欲しいのか。
どちらとも取れる様なその話し方は、表立っては言えない事を。
漏らしながら、何か悩んでいる風でも、あったのだ。


銀の一族俺達にすら、隠されている歴史 とは」

「増えている揺れ、落ちているまじない  」

「ずっとこの空間で血を繋ぎ続けている事 」

「外は穢れていると 言われている事 」

「新しい予言 」

「新しい時代? 新しい祭祀  」

「長の  血  」


なんだか段々、雲行きが怪しくなってきた気が、する。

独り言の内容が「私」に近づいている事もあるが、ブラッドフォードの、目が。

爛々と光を帯びて、私を捕らえようとしているのが分かるのだ。


やば。
なんか、逃げなきゃ!
どうしよう??

いきなり走り出すのは失礼?
でもな?
物理的に捕まえようとしてる訳じゃ、ないよね??


そんな事をぐるぐると考えている間に、彼の独り言は止まり、私の耳元がカサカサ言っている。

え?
やっぱり?
帰った方がいいですかね?ベイルートさーーん!!


「まあ、待て。取っては食わん。」

目の前でワタワタと焦り始めた私に、そう言ったブラッドフォード。
とりあえずはその言葉を聞いて、一旦体勢を整える。

謎にローブをパタパタと叩くと、咳払いをして口を開いた。
なんだか話題を逸らした方が、いいと思ったからだ。


「あの………結局、ブラッドにも分からない、って事なんですよね?揺れが大きくなる理由とか、歴史が残ってない、理由………。」

小さく頷く彼を見ながら、どうしてだろうかと考える。


そもそも。

ここを仕切る彼等にも隠したい、歴史とは?


基本的に為政者の都合で隠蔽されるものだと、思うんだけど………??

チラリと青い瞳を確認するが、何かを隠している様にはやはり、見えない。
きっと本当に知らないのだろう。

それならウイントフークさんかな………?


私が「歴史を調べたい」と言ったからには、あの人の事である。
きっと何かあると思って、自分でも調べているに違いないのだ。


でもな……………?

やっぱり?

おかしく、ない??


だって誰も「本当のこと」を。

知らない、って事でしょう??

そんなことって。

あり?

いやいや、無し寄りの、無しだよ………。

そんなの。

なんかとてつもなくでっかい「なにか」が。

 
 隠されて、いそうじゃん…………。

嫌な、予感。


チラリと青の瞳をもう一度確認して「アリス………」と口に出してみるが、同じ様に首を振るブラッドフォード。

えーーー。
あの人も?知らないの??

それは本格的にマズイな………。
嫌な匂いが、プンプンするじゃん………。



しかし。

少しだけ、ぐるぐると考えた私はこの問題を早々に棚上げする事にした。


だって、これ。

アレでしょ?
また、考えてもしょうがない方の、問題だよね??


きっとまた。

時が、来れば。

その「問題」とやらは、「こたえ」を携えてトコトコと向こうからやって来るに違いないのだ。


「うーーーん。それなら。やっぱり、とりあえずは私達がこの揺れの問題とか祭祀を楽しく乗り切る事が大切なのであって………」
「ヨル?」

「うん、いや?ええ、そうなんですよ。とりあえずは置いときましょう、その歴史問題は。」
「いや、訊いてきたのはそっちだろう。」

「うっ。確かに?………じゃあ、何かあったら教え合いましょうね??で、とりあえずの事なんですけど………。」


そうして私は、その「問題」がやって来るのを待つ間の有効な時間の使い方を提案することに、した。

そう、やはり初心に帰って。

「楽しむこと」に特化した、祭祀と揺れ対策を練る事にしたので、ある。






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