733 / 2,047
8の扉 デヴァイ
大いなる流れ
しおりを挟む大きく、息を吸うと。
静謐でしかし、緩く温かい空気を胸に感じる。
正面に据えられている、白く清い扉は今日もそこにひっそりと、静かな光を放ちながら存在していて。
暫く訪れていなかった事を少し後悔しながら、その空気を暫し味わっていた。
明るく清い、光が降り注ぐ白い場所。
前後左右、なんなら上下から、白く優しい光が降るこの礼拝室も一人で落ち着きたい時にはぴったりの場所だ。
この頃は私の神域にいる事が、多かったから。
久しぶりのここの空気を味わおうと、ぐるりと白の光を見渡しながら再び深呼吸をした。
白の長老に会ってから、ずっとずっと、考えていたけれど。
『彼が探していた方法は、見つからなかったのかも知れん。が、しかし。お前さんは、知っていよう?進むのだ。「次」へと。
私達は救わなければならない「なにか」などではなく、お前の通る道にある景色だ。
その、風景に同化したければここに居るが、良い。』
『全てを超えた、「なにか」が、見たければ。
進むしか、無いのだ。』
これは。
「やっぱり。「次の扉」へ、行けと。いうこと、なんだよねぇ………??」
小さな溜息を吐いて、白い背凭れに身体を預ける。
『私達は救わなければならない「なにか」などではなく
お前の通る道にある景色だ。』
この言葉から思い出される、橙の水槽、あの時の。
幻の魚を見た、子供達の反応とグラーツの、言葉。
あの時だって、思ったんだ。
あの子達は「救わなければいけない存在なんかじゃ、ない」と。
白の長老の言葉から導き出された「橙色」、それは再び同じ事を繰り返している事実を突きつけられている様で。
スッキリしようと出掛けた黒の廊下散歩にて、再び「議題」を拾ってきた私は、些か参ってもいたのだ。
あれから、そこそこ挙動不審だった、午後。
私の「秘密の散歩」は極彩色にだけはバレていただろうが、特に突っ込まれる事なく、一晩が経ち。
少し拍子抜けした私は安心して、こうして白い光の中、ぼんやりとしている。
いや、静かな場所できちんと、考えたかったのだ。
だって、「あの話」は。
中々の重さを誇る、内容で。
きちんとそれも、整理したいしなんならこの頃のぐるぐるも纏めて一度、整理したいと思ったのだ。
これだけの事が、私の中に詰め込まれていたなら。
この、単純な私の頭の中は詰まって上手く働かなくなるに違いない。
だから、パッカリ開けて、全部出して、また並べて。
吟味し、選び、似た色を纏め、合わせられそうなものは合わせて。
また、私の中に片づければいいのである。
うむ。
そうしてボーッと正面の白い扉を見ながら、つらつらと自分の「なかみ」を出していく事にしたのだ。
大きくて重い色、輝く中くらいの玉、小さなガラスのキラキラ、鈍く光る癒しの石達。
私の中の「問題」「事柄」「事実」達は、色々なカタチをしていて其々色も材質も違う。
それを「テーマ毎」に並べて行って、区分けをして整理していく。
その中でもやはり多いものは、「次の扉」系のもの達だ。
この頃私の背中をぐいぐいと押して来る沢山のもの、その、どれもが。
なんだか、難しくて。
ちょっと重い。
そして「次の扉」関連の、事が多い。
集まった「色」が暗く重い事を視認してしまった私は、些か落ち込みつつもその「なかみ」を確かめて行く。
だって、もう。
「行くこと」自体は、決まっているからだ。
それならば、自分なりに気分を上げて乗り込みたいものである。
でも、さあ…………。
この恒例の、「イヤイヤ病」みたいなやつ………。
なんとか、ならないものなのかなぁ。
いつの間にか揺ら揺らと揺れている身体、頭の中身を全部出している私の頭部は軽く、なんなら本当にカラッポになっていそうである。
普段からそう、詰まっていはいない頭の中が更にスッキリとした事で、少しの間問題が棚上げになった気がしてそのまま、揺れていた。
この、白い光の中で、頭をカラッポにして。
揺られていると、「私自身」がフワフワとこの空間を漂っている様で。
とても気持ちが、良かったからだ。
…………ん?
部屋の隅に、チラリと「色」を感じて探ってみる。
しかし顔は動かさない。
なんだか面倒だし、自分を拡げている私には「その色」に覚えがあったし。
きっと人には見えないであろう、私の「並べられた なかみ」が見たくてやって来たのだと、なんとなく分かっていたからだ。
…………ん?でも?
なんだか、様子が違う、な…??
近づく「色」にアタリは付けていたが、何かが違う気がして振り返った。
「あれ?」
大っきく? なって る??
そこに、いたのは。
「ジュガ、だよね………?」
「そうだよ。」
「え?大っきくなったの??」
スピリットが、どう成長するのか私は知らないけれど。
所謂「小人」みたいなカタチであったジュガは、「子供」程度には大きくなっていて。
「え?凄くない?なんで???」
「それは増えたから。」
ん?
もしかして??
アレが、って こと です か
その返事が意味する事は、容易に推測できる。
頬をピタピタと押さえながら、とりあえず体裁を整える事にした。
なんだか成長したジュガを見たら、お姉さん気分になったからだ。
「え?どうしたの?色を見に来たの?」
そのまま私の前まで歩いて来たジュガに、恥ずかしがる様子はもう無い。
「大きくなって…」と一人感慨深くなっている私を他所に、一つ前のベンチに座ったくるくるの茶髪は、くるりと振り返ってこう言った。
「大いなる「流れ」の、様なものが。あるんだよ。きっと。」
「え?」
その可愛らしい口から、似付かわぬ言葉が出てきて焦る。
ん?
な、 流れ?
しかも 「大いなる 流れ」とは???
「?」顔の私に説明してくれるジュガ。
その言葉を聞いていると、やはり。
彼が、長い長い時間をここで過ごして来たスピリットなのだという事が、解る。
「ずっと、ずっと前は。もっと沢山の仲間がいて、みんなは繋がっていたんだ。でも、段々数が減って繋がりも殆ど途切れた。ヨルが持って来てくれた、あの大きな木は昔の友達だ。今はもう、遠く離れてしまって声も聴こえない、友達。僕達は繋がることができないと、どうしても小さく、弱くなっていく。でも、ヨルが来て光が繋がり始めた。」
「えっ、その「木」って………お爺さん達?」
「そうだね。青い街は遠いけれど、隣まで来れば。それに、大きくしただろう?気配があるのは、分かるよ。まだ声までは、聴こえないけどね。」
くりくりした茶の瞳を回しながら、そう話すジュガ。
私は。
なんだか、胸が一杯になってただその透き通る茶を見つめる事しか、できなかった。
「だから。」
ピョン、とベンチから飛び降り私の隣へ来て手を取る。
「その、「流れ」に乗ればいいだけなんだ。君はきちんと、「自分の流れ」の中に、いる。大丈夫、逸れたら戻ればいいんだから。」
「…………逸れたら………戻、る。」
「うん。だって、これまでずっと。そうだったでしょう?全て、全ての事が君をここへ導く為の「流れ」で、繋がっていて。それが、「今」なら。解る、筈だ。知っているんだから。」
「じゃあ、また「アレ」よろしくね。」
柔らかな手が、離れる。
放心状態の私を置いて、いつもの棚の陰へ消えて行く茶色の髪。
その、白の中に浮かぶ色をボーッと見つめて、いると。
サラリと脚を撫でる、尻尾があった。
「お前。一人では、あまり出歩くなよ?」
「え?今??」
その極彩色のツッコミに返事をしながらも、頭の中は。
「大いなる 流れ の中」
その、言葉に。
スッポリと嵌りながら、心地良く揺ら揺らと、ゆれていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる