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8の扉 デヴァイ 再
その先へ
しおりを挟むなんっか。
「重い」。
「なに」がある訳でも あった訳でも ないんだけど。
寧ろ楽しい図書館へも行って、モリモリと元気が湧いてくる、予定 だったのだけど?
「何なんだろうな、これは…………?」
夕食に向かう途中の青縞の廊下、調度品達に向かって「ねぇ?」と呟きながらも、首を捻る。
美しく並ぶ花器や小棚、可愛いらしく花が咲く絵画を眺め、心の「色」を明るく照らす。
「ふむ?」
しかし、「その時」は一時的に良くても、少しすると元に戻る「この現象」。
最近の私は「一日の澱」と、呼んでいるけれど。
「多分、そうだと思うんだよね………。」
つらつらと呟きながらも食堂へ入り、食事は美味しく頂いて食後のお茶も上々だ。
食堂にはシリーがいるし、イリスは相変わらず張り切って盛り付けに手を出して中々独創的な皿が運ばれるので面白い。
みんなに心配かけない様にしなくとも、楽しい食事の時間なのだ。
だがしかし。
ここで「気分も晴れた」と、気分良く廊下へ出て部屋へと戻るその時から、再び徐々に忍び寄る「重さ」、部屋へ戻ってから一人、森のお風呂へ行くまでの時間。
その間に、何がどうなるのか分からないが、再び私は「重さ」に取り巻かれ
「あの時は 辛かった」
「もっとああすれば 」
「私ばかり バランスが取れていない」
「どうして いつも 」。
そんな重い「澱」が絡みついて、くるのである。
この頃気付いたこのパターン、それは決まって夕方から夜にかけてやって来る、忍び寄る闇の様で。
思わず自分の「なか」に愚痴りながら、緑の扉に手を掛けた。
「でも、さあ?決まって、夕方から夜ならば、やっぱり「重さ」が溜まるんだと思うんだよね………」
「結局、一日の澱が夜になるに連れて積み上がる、と言うか、なんと言うか。でも多分そうだよね………この空気の重さを感じ取ってるのか………?」
「朝になれば、スッキリしてるし気分も良い。毎日楽しいし、充実だってしてる。でもなぁ………やっぱり、うーーーん。」
シャワーを浴びながら一頻り独り言を言い、そのままペタペタとバスタブまで歩き腰掛ける。
遠くに煌めく塔の灯り、中央屋敷のフェアバンクスには薬が渡ったろうか。
殆ど夜空と同化した青い屋根屋根、揺らめく灯りが緩くゆっくりと動くのは、空気が暖かいからだろう。
今はきっと夏の初めか、どうなのか。
触れれば空気は感じられるけど、この頃「跳んでる感」が強く、時系列がイマイチはっきりしない時もある。
勝手に景色を覗きに行っている時なんて、特にだ。
ティラナはもう寝ているかも知れないし、ハーシェルさんは何してるかな………。
「夕方からの 折り返し」
「日々溜まる 澱」
それって。
「生きてるだけで 溜まる埃」に、似てるよね………。
ふと、気が付いた事があるのだが私は「綺麗好き」なのではなくて「汚れているのが嫌」なのだと、思う。
勿論「綺麗好き」でも、あるのだろうけど。
日々、使っていない部屋にも溜まる埃、私達の体に付く「垢」。
それは「生きていれば」当然の事だし、物質として「生きて」「存在」していたならば、やはり「汚れる」のはある意味普通の事なのだ。
それが「自然」。
私達は「変化」をし、日々「積み重ねて」ゆくものだけれど、それは「どの方向にも」「積み重ねる」という事でもある。
所謂「徳を積む」様な こと
良い行い と言われるものも 積み重ねれば
「信用」や「信頼」になるし
きっと自分も「浄め」られると 思う
しかし「生きてるだけで」垢は 溜まり
生活すれば 埃は積もるし
食べれば 出すし
例え 「何もしていなくとも」。
「二酸化炭素は排出しちゃうし、なんもしなくても垢は溜まるからお風呂入らなきゃだし………。」
ブクブクとお湯に顔を埋め、泡を出して遊ぶ。
「言葉」に出してはいないけど、澱の様なその愚痴は私の中に「なにか」を溜めそうでもあるからだ。
でも、それもまるっと「認めて」、進まないといけない事もわかる。
「だからいいのよ、出して。出して、また昇るんだから。」
徐々に「自分を拡げている」私は、含まれる檻の量にも気付いていたし、時折あの階段を登る必要がある事も分かっている。
しつこいけれど、「超えるべき山」「超えたい山」。
そう、しつこければしつこい程、高ければ高い程、遠くへ高く跳べる事も、知っているから。
「でもこれきっと………「染みて」、来てるんだろうな………。」
ある意味フェアバンクスも、「私の領域」ではあるから守られてはいる筈である。
しかし、それを以てしても「滲みてくる澱」、一日に溜まるみんなの「想い」の「重さ」。
一体どれだけの人が、自分の色を殺して生活をしているのか、考えるだけで暗くなってしまいそうだけど。
「まあ、それじゃ、駄目なんだろうね………。私はそれをジワジワと覆したい、訳で………。」
しかし「朝になると重さは消える」
それはいい事だと思うのだ。
「クリアにできない」という事ではないし、また新しい自分を始められるという事だから。
「向こうでも、軽くなってるかな………?今度フリジアさんに訊いてみないと…。」
どうやって 転換して行くか
なにか出来ることは ないのか。
「閉塞感」を 失くす
「霧を晴らす」様な こと
徐々にヴェールを 上げていく様な
なにか いい 手は ないもの か
「…………ふむ。これもまた、挑戦。」
より 高く 昇れば?
見えて くる ??
何度も 何度も 何度も。
檻の階段を昇り
沢山の星屑を溢し 流して
日々 純化 浄め を 進めていく
「すべて」を 使って 高みへ
昇って 上がって ゆくんだ。
そして そうして行く、中で。
段々と私の中に溜まり、沁み込んできた「思いやり」「慈悲」は。
それもまた、大きなチカラを持って新しい視点を授けてくれたんだ。
そう、また起きている「揺れ」、それをまた違った視点で見る事ができる、成長した「狭間の私」を。
その 「震え」の 原因
何故 起きるのか
何故 増えてきているのか
どうして デヴァイの人口は 減り
まじないは 弱くなっているのか。
私達は 「その先」へ。
行く時が 来たからなんだ。
ただ 起こるべく未来に 怯えるだけでなく
新しい視点で ものを見 考え 行動する
「新しい 私達」
言われるがままでなく されるがままでなく。
「自分で考え」「最善を選び取る」
その 時が 来たからだ。
森のお風呂でスッキリと澱を流した私は、翌朝朝食前に書斎へ寄り道していた。
なんとなく、だけど。
今の外の状態をきちんと把握したいと思ったからだ。
時折「見る」様にはしているが、覗き見なので「軽く」は心掛けている。
やはり知らない事も多いだろう。
そう思って、本部長の見解を聞きに来たのである。
しかし彼が話し始めたのは「変化」の話で、それは私が思っていたより「早い」展開だった。
あの重い空間が変化するには、もっともっと、時間がかかると思っていたからだ。
「変化は起こる、現に起きているしな。それに伴い、ここはかなり揺れる事になるだろう。お前はもう少し石かガラスを創り、フリジアを伝に流した方がいいかもな。」
「………揺れる?あの、震えがもっと揺れるって事ですか?」
「まあ、そうなるだろうな。これまでの前提が、ほぼ崩れるんだ。できるだけ抑える様にはするが、どこまでどうだか。それは正直、自業自得の面も、ある。因果応報という事だ。」
「因果応報………。」
私の、知っているそれは。
確か「与えたものが 返ってくる」、そんな話だと思ったけど?
「まあ、そういうことだ。自分のケツは自分で拭く、それは仕方が無いだろうな。それは知っているだろう?そこまでで、「ひとつ」なんだ。」
ウイントフークの言葉に続けて、駄目押しの様にキラリと紫の瞳が光る。
ぐっと迫った、その「いろ」に。
「真実」を見て、私は何も、言えなかった。
確かにそれは、その通りだから。
「なにしろお前が「なにか」、したのだろうがこの頃ここは変化している。」
チラリと覗く茶の瞳、それは私が深海へ行った事を気付いているのだろうか。
しかし深く訊かれぬまま、ウイントフークの話は続く。
「お前が横流しした「蜜」、あれが「不老不死薬」じゃないかという噂、少しずつだが女達が動き出している事。ガラスの事もあるだろうが、グロッシュラーの畑効果も大きい。空気が軽くなっているのは事実。これからの揺れは、大きなものになるだろうな。」
しかし。
その口調はなんだか楽しそうで、事実この人はきっと展開を楽しんでいるのだろう。
だって それは。
やはり、ここが「窮屈だ」と抜け出したイストリアに似た、「繋がり」だろうと思えるから。
「そう、ですよね…………。」
なにしろ明るくなる「変化」、「揺れ」なら、いい。
しかしその変化に伴うある程度の混乱はやはり避けられないという事なのだ。
「ん?…………えっ?不老不死??その話、まだ生きてたんですか???」
「まあ、そうだな。噂だが、まああながち間違いでも、ない。騒がせておけ。」
「…………え~………、うん、まあ。………はい。」
私としては、みんなが元気になるならなんでもいいのだ。
しかし。
「あ、揉め事だけは駄目ですよ??ケンカになりそうなら、回収しますからね??」
「分かっている。」
ホントかなぁ………。
既に白衣は後ろを向いて、ゴソゴソと何かを探り出している。
もう用は済んだとばかりに、意識がこちらに無いのが分かる。
私の事など既に、頭に無いのだろう。
「じゃ、とりあえずそういう事で………。」
なんとなくそう言って、ポンと立ち上がり聞いちゃいない水色髪を目に映す。
うん まあ。
とりあえず 本部長がそう言うなら。
大丈夫でしょう、こっちは。
そう、私の仕事はここにあれこれ手を出す事ではない。
私は 私を 極めて。
それで、みんなの 「ひかり」に なるんだ
「まあ、みんなが自分の光を見つけるまでの、「代理」だけどね。うん。」
そうしてもう一度振り返り、変わらぬ後ろ姿を確認すると。
そっと扉を閉め、青の廊下を弾みながら歩いて行った。
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