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1章 棄てられたテイマー
40話:例のあれ
しおりを挟むさて、元の世界に帰るという変わらぬ決意をしたところで、さっそく例のあれを確認だ。
「主よ、一体何を作らせていたのだ?」
「これは霞にも大いに関係がある施設だ。力を貸してくれ」
「主が望むのであれば何でもやるが、一体何をさせるつもりだ?」
「ちょっと力を借りるだけだ」
これは霞じゃないとできないことだ。霞が仲間で良かったと心から思う。
▽ ▽ ▽
「お、おかえり大将」
家の扉を開けるとジェニスが迎えてくれたが……誰かが待っていてくれるというのは、存外悪くないものだな。
「ただいま。ジェニスはもう見たか?」
「オヤジが作ってたやつか? アレって何に使うんだ?」
ジェニスも利用方法は把握していないようだな。
「説明するよりも見てもらったほうがいいな。飯はその後だ」
ベッドの横に新しく取り付けられたドアを開け、増築された部屋へ入室だ。
「また扉があるな。この場所はなんだ?」
霞が不可解そうに見ているな。今説明してやろう。
「ここは服を脱ぐ場所だ。本命はこの先――」
脱衣所に入り、その先の扉を開ける。
説明したよりも広いが、広い分には文句はない。バルトンはいい仕事をしてくれたようだ。
「ここだ」
「四角い木の箱か……?」
「大将、ここで料理でもするのか?」
……どうやらコレは馴染はないようだな。
「これは風呂だ」
「フロ?」
「ふろ?」
おいおい、風呂じゃ通じないのか? 海外だと……バスか?
いや、これも通じそうにないな。浴場……湯あみ……入浴……どれもピンとこないな。シンプルにいくか。
「ここで体を洗ってから、この箱の中に入ったお湯の中に浸かる場所、俺はそれを風呂と呼んでいるんだが、浴場とか入浴とかで通じないか?」
「えっ、大将……オレに欲情してるのか……?」
「違う」
「聞いたことがあるな、人族の貴族たちが大浴場で体を洗い流しているらしいが、これがそうなのか」
「ま、大浴場とは言えないこじんまりとした場所だが、人一人入るには十分すぎる大きさだ」
浴槽の広さは縦横どちらも、俺が体を存分に伸ばしても余裕がある広さだ。
洗い場もそうだな。二、三人くらいなら一緒に入れそうだが――そうか、やりやがったなあのオヤジ。
俺とジェニスが一緒に入ることを想定して、この広さにしたんだろうな。
余計なことを……。
「……そういうことか」
どうやら霞は俺が求めていることを理解したようだ。話が早くて助かる。
「ここで私が裸になって主の体を洗えばいいのだな?」
「違う」
「なんだ、違うのか?」
「どうしてその発想が出てきた」
「聞いた話では、貴族は大浴場で女中に体を洗わせているらしいぞ」
そういうことか……これは霞を責められないな。
「俺が求めているのは、この浴槽……箱の中に、霞の生成したお湯を入れてもらうことだ」
「なんだ、そんなことでいいのか」
理解した霞は空中に水を生成し、それを浴槽の中に落としてくれた。
浴槽からは湯気が立ち上っているが温度の方はどうだ?
「一応聞くが、俺が入っても問題ない温度だな?」
「当然だ。ヌルければ言ってくれ」
一応浴槽に手を入れて温度を確認――少し熱いくらいだが、問題はないな。完璧だ。
欲を言えば石鹸やシャンプーが欲しいが、無い物は仕方ない。いや、あるかもしれないか……?
「ジェニス、体を洗うときに、何か使ったりしていないか? 例えば石鹸とか」
「セッケン? それは知らないけど、シャボンの実なら使ってるぜ」
石鹸は無いようだが、名称からそれに近い道具はあるようだな。なら良かった。
「みと言うと……木の実の類か?」
「そうだぜ。その木の実を水に入れて潰すと泡が出てくるから、それを布に付けて体を拭くんだ
「なるほどな。それは簡単に入手できる物なのか?」
「ああ、森に入ればそこら辺にあるぜ。丁度持ってきてるのがあるから見せてやるよ」
持ってきてるのか、現物が見られるのは助かる。
……ん? 待てよ? 俺が風呂場を作らなかったら、ジェニスはどこで体を洗うつもりだったんだ?
水場までは、この森じゃあ危険だろ。実家に帰るのか? それならシャボンの実は持ってこないだろう。
「主よ」
「ん、どうした?」
「お湯に浸かってどうするんだ?」
「体を休ませるため、だな」
「お湯に浸かって休まるものなのか?」
「体と心がリラックスするぞ」
「そういうものなのか」
「そういうものだ」
「大将、持ってきたぜ。これがシャボンの実だ」
霞との会話のキリの良いところでジェニスが戻ってきた。気を使わせたか?
ジェニスの持ってきたシャボンの実というのは、黒くて丸いな。ピンポン玉より少し小さいくらいか?
「これ借りるぜ」
ジェニスが木の桶を手に取って、浴槽のお湯を汲み上げた。濡れないように気をつけてくれよ。
「この実を浸して砕いて擦ると……ほら、白い泡が出てきたろ」
「へぇ」
「ほう」
これは見事に石鹸の泡だな。衛生問題に関してはなんとかなりそうか。
「よくやったジェニス。これで問題は解決しそうだ」
「お、おう。大将の役に立てたならよかったぜ」
「ところで主、どこに排水されてるのだ?」
「確か外に掘ってある穴に排水されてるはずだ。そう大量に流すわけじゃないし、そんな害のある水でもない。そのまま乾燥して消えるだろうよ」
本当は浄化した上で川に排水したいところだが、そんな設備を用意するのは不可能だ。
「それならば水のエレメントを出そう。そいつに排水を吸収させ、浄化させるのはどうだ?」
「そんなことが可能なのか?」
「私たちウンディーネは水を浄化し、清潔に保つのが役目だ。それはエレメントも変わらない」
「そうか。ならば頼めるか?」
「頼まれよう」
思わぬところから解決策が現れ、後顧の憂いがなくなった。これで遠慮なく使えそうだが――
「……その水のエレメントは嫌がったりしないのか?」
「この程度の排水なら、魔物の死体で濁った池や、毒沼を浄化するのに比べれば気にもなるまい」
「……そうか」
ウンディーネ一族はなかなかハードな仕事をしているようだな……ダークエルフたちに崇められている理由がよく分かった気がする。
「よし、風呂の紹介も済んだ。飯にするか」
「そうだな」
「今日も腕によりをかけたから、期待してくれていいぜ!」
また一歩文明的な生活に近づくことができた気がする。
元の世界と比べればまだまだだが、それでもそれなりに満足のいく環境が整いつつあるな。
風呂に関しては、水のエレメント以外での方法も考えないといけないな。
上水下水の設備が必要になるだろうし、そう簡単な話じゃない。
専門的な知識が必要になるだろうし、素人の俺が下手に手を出してもなぁ……。
ま、今は考えるよりも飯だ。ジェニスの手料理を頂こう。
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第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
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