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2章:運送テイマー(仮)

67話:ノームの少女

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「ねぇねぇ、キミタチって敵?」

 俺たちの前に現れたのは、褐色肌の小さな少女だった。

 パターン的に考えれば、あの子も大精霊なんだろうな。
 見た目の装飾が霞たちに似ていることからも予想できる。

「土の女神の眷属ノーム、私たちは敵ではない。ゴブリンに攫われていた獣人たちを、家元に送り届けている途中だ」
 サラマンダーのときに続いて、霞が事情を説明した。

 話を聞いたノーム……の少女はキョトンとしてるな。

「天災のヴリトラとウンディーネとシルフが、何で一緒にいるの?」
 ノームは首を傾げ不思議そうにしているが、その視線は俺を捉えているようだな……。

 全員身構えているし、アトラに至ってはいつ飛び出してもおかしくなさそうな雰囲気だ。
 ここは俺が出る方が話が早いか。

「……俺が話す」

「主」
 ウンディーネの霞ではなく人の俺を見ていたんだ、俺から話を聞きたそうにしてるからな。

「俺は京太郎。異世界から召喚された人間のテイマーだ。後ろの獣人たち以外は、全員俺がテイムした仲間だ!」

「仲間なのにテイムして、シモベにしたの?」

「……テイマーだからな」
 なかなか痛いところを突いてくるなあのノーム。
 さっきからノームの表情が変わっていない。というか、嫌な雰囲気がする。

 察したのか、霞とアトラ、更にエリザベスとアルがその前に出て、俺を庇ってくれているが……。

「……だが違うぞ!」

「何が違うの?」
 ノームの純粋な瞳が俺を見つめてくる。

「テイムはしたがシモベじゃない! 対等な仲間だ!」

「対等な仲間なら、テイムする必要はないよね?」
 チッ、見た目に反して厄介な奴だな……答えをミスれば殺し合いに発展しそうな感じだ。

「それは違うぞノーム! 私は主と共に行動する為に、進んでテイムされた! 主と一緒に旅をすることを私から求めたのだ! だから主は私たちをテイムする必要があった!」

「ふ~ん…………ウンディーネがそう言うならそうなんだね。うん、分かった!」
 重苦しい空気がなくなって楽になった気がする。なんとかノームを説得できたか。
 
 いや、説得できたと言えるのか? あんなアッサリと信じるなんて、それほどまでに霞の、大精霊の言葉は重いのか?
 それなら俺がでしゃばったのは間違いだったかもしれないな。大人しくしているべきだったか。余計なことしたかもしれない。

「それじゃ今日はもう暗くなるし、うちに寄ってきなよ!」
 ノームが両手を広げて無邪気に提案してきたが……正直あまり行きたくはない。
 ここで獣人たちを渡して別れたいが、下手に断ると面倒そうな予感がしている。

 相手は大精霊だ。地球人の俺と同じ価値観で物事を考えるべきではない。何が相手の逆鱗に触れるかわからない。
 
 シルフやサラマンダーは分かりやすかったからいいが、この小さな少女の姿をしたノームは読めない。
 面倒な相手に遭遇しちまったな……。

「どうしたの?」

「……いや、お言葉に甘えさせてもらいたいが、ベヒーモスたちは結界を通れない。ここに置き去りにするのは不安だから、この付近に住んでいた獣人たちを連れて行ってくれない?」
 エリザベスたちをお供にしておけば、不測の事態に対応しやすくなりそうだと思っているが、今は結界を通れないことを理由に辞退しておこう。

 ベヒーモスやレックスはともかく、メルルとモルダは比較的弱い魔物だ。見知らぬ土地に晒され続けるのもストレスが半端ないだろうな。これ以上あまり放置しておくのも避けたい。

「……うーーん」
 ノームは腕を組んで、目をつむって考えている。ジャッジはどうでる……?

「それじゃあ結界の前でご飯にしよっか! 色々お話とか聞きたいしね!」
 そうきたか……どうあって今日は逃げ切れないようだ。仕方ない、受け入れよう。
 これ以上拒否して勘繰られても困る。

「わかった。とりあえずここの獣人だけ、まず連れて行ってもらえるか?」

「うん、任せて! 連れてきてくれてありがとね!」

「それじゃ君と君と君と君と……君たちもだよね。帰ろっか」
 ノームに指名された四人の兎人族がアスラから降りていく。

 人間がコスプレしたような姿から、兎が人の体になったような姿と、獣人らしいラインナップだ。

「ここまでありがとうございました。助けてくれて本当に嬉しかったです」
 コスプレタイプの獣人に礼を言われ、頭を下げられた。
 まぁ救助はおまけみたいなものだったから、礼を言われるのは複雑な気分だ。が、今は素直に受け取っておこう。

「今度は捕まるなよ」

「はい!」
 笑顔でもう一度頭を下げ、軽快にアスラから降りていった。流石は兎と名が付くだけはあるか。

 残りはラーダを含めて五人か……このペースなら、次で終わりそうか?

「それじゃ行ってくるから、暫く待っててね!」

「ああ、わかった」
 そう言ってノームは兎人族たちと帰って行った。

 ……このまま逃げたら、地の果てでも追ってきそうだよな。

「それにしても、ここまで大精霊が出張ってくるとはな」
 霞がのぼやきから、ノームがやってきたことの異常性が伺える。
 
 まぁ大精霊とかああいう手合いは、滅多に人前に姿を現さないのがお約束みたいなものだと考えれば、こうやってバンバン人前に出てくるのは異常事態なんだろうな。

「そう、ですね……ウンディーネ様、シルフ様、サラマンダー様、そしてノーム様……短い間でこんなにたくさんの大精霊様たちと出会うなんて、本当なら考えられません」
 ラーダが霞に同意するように口にしたか。やはりそれだけの事が起きてるんだ。

「この憑き物騒動、やはりただごとではないな。裏に何かがあると見るべきかの」
 人型に変化したアスラが後ろにやってきた。

「今までも憑き物とは遭遇したことあったが、今回のは何かの意志を感じるんだよなぁ」
 疾風もアスラと似たようなことを言っている。黒幕の存在か……。

「考えすぎじゃないかしらぁ?」
 アトラの言う通り、アレを操れる存在なんて見当もつかないし、考えすぎている気もするが……。

「憑き物の襲撃って、過去にもよくあったことなのか?」

「……いや、こんな大規模なのは初めてだな」

「そうだな、たまに何かが襲われるくらいで、こんな規模の襲撃は初めてだろ」
 この森に長くいるであろう大精霊の霞と疾風がそう言うんだ、間違いはないだろ。

 いや、外部と接点がほとんど無さそうな二人だ、あまりアテにしすぎるのもよくないか……?

「そう言えば、そうか」

「なんだ?」
 藪から棒に霞が何かを言い出したが、俺には察することはできない。何を言おうとした?

「主と出会ったくらいから、憑き物の動きが活発になった気がするな」

「あ、言われてみればそうかもしれない!」
 霞の言うことに同意するように、ジェニスも思い当たるところがあるようだ。

「……」
 俺はその言葉だけで大体を察してしまった。

「霞と出会った時期か。俺が異世界に召喚されて、この森に棄てられた直後なんだよな」
 その時期に憑き物の動きが目立つようになったってことだ。
 
「……今回の事件なんだが、もし黒幕が存在するなら、そいつは実は俺と同じ異世界人じゃないか?」
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