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12.若き君主との夕食会【捧げられし花テオエル】
黄緑髪に薄橙の瞳の男前であるオットリアも、この世界の基準ではまあまあ不細工であるらしい。
シドイェスカの周りは、醜男で固められているそうだ。
陰の者だったテオエルには気持ちはおおいに理解できる。
「し、ど、い、え、す、か、さま?」
紙に書かれた文字をなぞりつつ読み上げると、正解だという風にオットリアがこくりと頷く。
護衛騎士による読み書き教室は、一日置きに開催されていた。抱かれる日と交互である。
もう簡単な幼児用の絵本くらいはすらすら読めるようになっていた。
「オットリアはどう書くのですか」
オットリアがペン先をさらさらと紙に滑らせる。
テオエルは一文字ずつなぞりながら、「お、つ、と、り、あ」と発声した。
いつでも無の顔をしているオットリアの表情筋が、心なしか緩んだような気がする。
「たいへんだ! 大変大変! テオエル!」
ナーサラーが騒ぎながら爆走してくる。テオエルの手前で急ブレーキを踏んだ。
「ミシュナンドール様の夕食会にお呼ばれしたぞ! さっさと準備しろ!」
「ミシュナンドール様って、まさか」
「シュルテルマイヤーの若き君主に決まってんだろお!」
つまり、この国で一番偉い人である。
ミシュナンドールは紺色の髪に濃灰色の目の美男子だった。
この世界の美が髪と瞳の色の濃さで決まるのなら、ミシュナンドールはこの世界においてもテオエル基準においても美しいということになる。
「ほお。本当にこれはまた。なるほどなあ」
所謂お誕生日席からシドイェスカの向かいに座るテオエルをまじまじ見てにやにやするミシュナンドールは、スープを口に運んで横目に睨むシドイェスカにも動じない。楽しげに頬杖をついて、にやにやにやにや、にやけている。
「随分と美しい花を捕まえたじゃないか、シドイェスカ」
「ミシュナンドール様は人の美醜に興味などないでしょう」
「興味はないが、美醜がわからぬわけではない。美しいものは美しい。ただ、本当に大事なのは外見ではなく、中身であるというだけだ」
ミシュナンドールが、スプーンの先をテオエルに向ける。
「そなたの中身はどうだ? テオエル」
テオエルはごくりと唾を飲み込んだ。
「まだ白も黒もありません。判断できるのはまだまだこれからでしょう」
「ふむ。私はそなたが心配なのだ、シドイェスカ。テオエルがそなたの容姿を知っても発狂しなかったからといって、完全にそなたを受け入れているという保障はあるまい。先走って舞い上がって後でそなたが傷つくことになったら、嫌だぞ私は」
同席してはいるものの、身分上口を挟むことは許されていないテオエルは、ただ黙って聞くしかない。
シドイェスカがこちらへちらりと視線を寄越し、目を伏せた。伏し目が恐ろしく儚い美しさだった。
「ああ、ああ、そんな顔をするでない、シドイェスカ」
ミシュナンドールが虫でも払うように手を振る。
「どのみちこれはもうそなたの花なのだから、そなたの好きなようにすればよいのだ。私は余計な口は挟まん」
「信用なりませんが……」
「まあ、余計な手足は出るかもしれん……」
ミシュナンドールはシドイェスカに睨まれて肩を竦めた。
一口も聞けない夕食会を終え、オットリアと共に北棟の自室へ戻った。
「粗相はしなかったか!?」
誰よりもハラハラしながら帰りを待っていたらしいナーサラーが、テオエルの姿を見るなりがっちり肩を掴んでくる。
「大丈夫です。……たぶん」
「たぶんってなんだ!? なんで自信がないんだ!」
「オットリア様がずっと深刻な顔をされているんです……」
「あれは腹が減ってる顔だ!」
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