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第三章「アドリオンの冒険者」
第七十三話「二次試験開始」
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魔術師が爽やかな笑みを浮かべて俺に握手を求めると、俺は魔術師の手を握った。
「ベルンシュタイン殿。あなたの活躍は父から何度も聞いていました。私はハロルド・バラックと申します。以前はアーセナルで魔術師をしていました」
「バラック……? もしかしてバラックさんの息子さんですか?」
「はい。アーセナルのギルドマスター、グレゴール・バラックの息子です。一月の下旬に活動拠点をアドリオンに移し、魔術師ギルド・エリュシオンを設立してギルドマスターになりました。私は以前から剣鬼であるベルンシュタイン殿、それから国家魔術師のローゼンベルグ様に憧れていたんです。今日、こうしてお会い出来て光栄です」
「こちらこそ光栄です。バラックさん。最終試験で決闘出来たら良いですね」
「ええ。私もギルドマスターとして負けられませんから。お互い二次試験は必ず通過しましょう」
バラックさんに良く似た青年は爽やかな笑みを浮かべると、魔術師達の元に戻った。バラックさんに息子が居たとは知らなかったが、握手をした時に感じた魔力の強さはバラックさん以上だった。
「なんだ、クラウスは初めて会ったのか?」
「ヴィルヘルムさんはお会いした事があったんですか?」
「うむ。クラウスと出会う前に何度か会った事がある。元々アーセナルで魔術師をしていたのだが、国家魔術師を目指すために修行の旅に出ると言って、アーセナルを脱退したんだ。クラウスが加入する二ヶ月程前だったかな。当時のレベルは四十だったが、随分魔力を鍛えたのだろう。恐らくレベルは七十を超えているだろうな」
「そうですね。リーゼロッテさんと同等でしょうか。聖属性と地属性の魔術師ですね」
「地属性? ヴェルナーを出た時は聖属性しか使えなかったのだが、新たな属性を得ていたという訳か。彼は時折ヴェルナーに戻って来てはバラックさんと剣の稽古をしてすぐに町を出るという生活をしていたから、クラウスとはたまたま会う事が無かったのだろう」
「魔術師ギルドのマスターで、剣にも心得があるという訳ですか……」
「そうだ。幼い頃から剣と魔法の指導をバラックさんから受けているのだ。既にバラックさんを上回る剣技が使えると噂で聞いた事があるが、本人は魔術師として戦い方を好いているらしい。確実に最終試験に上がってくる人物だろうな」
魔術師でありながら剣も使えるとは。まさか国家魔術師試験でバラックさんの息子と出会うとは思わなかったが、どんな相手が受験者でも負ける訳にはいかない。俺が二次試験で恐れているのはティファニーの高速の剣技と、クラウディウスさんの圧倒的な破壊力、それからヴィルヘルムの広範囲のアイシクルレイン。きっと三人は次々と魔物を狩り、ポイントを一気に稼ぐだろう。
魔獣クラスの魔物は放置して幻獣を見つけ出し、一気にポイントを稼いだ方が良いだろうか。百ポイントの魔物も低レベルの冒険者を仕留めるには十分すぎる強さの魔物達だ。これは大勢の死人が出るに違いないだろう。リーゼロッテさんは早速魔獣を専門に狩る事を決めたらしい。ヴィルヘルムさんはまだ一人で幻獣と対決する勇気が無いのか、百ポイントの魔獣を高速で狩る作戦を選んだ。
ティファニーとクラウディウスさんは幻獣を発見次第攻撃を仕掛けると言っている。二人の先を越されない様に、司会開始直後に全力で闘技場を駆け、誰よりも早く幻獣を見つけよう。
右手でデーモンイーターを抜き、左手に火の魔力を溜める。こうしておけば瞬時にファイアボールを撃つ事が出来るからだ。ティファニーはグラディウスを抜き、既にエンチャントを掛けている。彼女の体を覆う様に風の魔力が発生しており、辺りには心地の良い風が吹いている。クラウディウスさんはバスタードソードを抜いて静かに開始の時を待っている。
リーゼロッテさんはレイピアを抜いてヴィルヘルムさんの手を握り、ヴィルヘルムさんは緊張した面持ちでリーゼロッテさんを抱き締めた。二次試験の結果が今後の人生を決めるのだ。絶対に失敗は出来ないし、レベッカ師匠の弟子として最高の冒険者だと群衆に知らしめるためにも、圧倒的な力で魔物を駆逐しなければならない。
グラーフェ会長が杖を扉に向けると、金属製の巨大な扉がゆっくりと開いた。光が差し込むと、背の高い石の建造物が立ち並ぶ古代都市の様な空間が広がっていた。
「試合開始!」
グラーフェ会長が叫ぶと、観客席は大いに盛り上がり、爆発的な拍手があがった。ティファニーと目配せしてから下半身に力を込めて、全力で控室の床を蹴ると、全ての受験者を追い抜いて先頭に躍り出た。上空には黒い体をした下級悪魔、レッサーデーモンが旋回しており、何百体も居るレッサーデーモンが一斉に急降下を始めて受験者達を襲った。手にはロングソードやスピアを持っており、体には鋼鉄の鎧を身に着けている。武具を纏う悪魔に対して、受験者達は為す術もなく、一撃で命を奪われた者も居た。
俺の目標は幻獣討伐だが、レッサーデーモンを狩れば百ポイントにはなる。他の受験者に狩られる前に数を減らした方が良いだろう。ザラザラとした砂が敷かれている闘技場の地面を蹴って垂直に飛び、レッサーデーモンの背中に着地してから、敵の群れに炎の球を放り投げた。全力のファイアボールが十体程のレッサーデーモンを巻き込みながら爆発をすると、観客席から歓声があがった。
「早くも剣鬼が千二百ポイント獲得! 圧倒的な魔法の技術に驚異的な跳躍力! これがラサラスのギルドマスターの力だ! 初歩的な攻撃魔法であるファイアボールも、鍛え込めばレッサーデーモンの群れを蹴散らす最高の攻撃魔法に進化する! 私はこれ程威力が高いファイアボールは初めてみました!」
司会が俺の動きを観客に解説すると、観客席からは熱狂的な拍手が上がった。観客席を埋め尽くす程の市民達を見下ろすと、貴賓席にレベッカさんの姿を見つけた。レベッカさんは俺の勝利を確信しているのか、無邪気に微笑むと、俺はレッサーデーモンの背中から飛び降りながら手を振った。
それから巨大な石の建造物の屋上に着地すると、地上には無数のゴブリン、スライム、スケルトン、宝箱の容姿をしたミミックが徘徊している事に気がついた。魔物の数が徐々に増えている。どこから魔物が湧いているのだろうか。きっと建物の中から出てきたのだろう。未だに幻獣の姿は見当たらないが、低級の魔獣の群れを体長三メートルを超えるブラックベアが蹴散らしながら進んでいる。
ブラックベアは一箇所に固まっている受験者の群れに体当たりをすると、受験者の体が宙を舞い、力なく地面に落下した。すぐに回復魔法を掛けなければ命を落とすだろう。俺が建物から飛び降りて走り出した瞬間、ヴィルヘルムさんがブラックベアの前に立ち、両手をブラックベアに向けて氷の魔力を炸裂させた。
瞬間、巨大な氷の槍が現れ、一撃でブラックベアの心臓を貫いた。それからリーゼロッテさんが地面に倒れている受験者達にヒールの魔法を唱えると、金色の美しい光が受験者達を包み込んだ。怪我が一瞬で癒えたのか、受験者達は立ち上がってリーゼロッテさんに頭を下げると、試験を放棄するために魔法陣の中に入った。
助けてもポイントにならない相手に回復魔法を掛けるとは、流石ラサラスの回復担当、リーゼロッテさんだ。それにヴィルヘルムさんの魔法の威力も強烈だった。たった一撃でブラックベアの分厚い皮膚を貫いて仕留めたのだから。
黒い石を削って作った様な禍々しい建造物の中から、無数の巨体の魔物が現れた。魔獣クラスの魔物、アラクネだ。大きい個体は体長四メートルをも超えており、下半身が赤い毛に包まれた蜘蛛、上半身が人間の女性に近い容姿をしている。手にはランスを持っており、血走った目で受験者達を見下ろすと、巨大なランスを投げて命を奪った。
十五体のアラクネの群れが出てくると、観客席からは悲鳴が聞こえた。上半身は成人を迎えた人間の女性に見えるが、下半身は高速で動く蜘蛛の体なので、見ているだけで気分が悪くなってくる。日常的に悍ましい容姿をした魔物と戦い続けている冒険者でも気味が悪いと感じる巨体のアラクネの出現に恐怖を感じているのだろう。
観客席には防御の魔法が掛かっているから安全ではあるが、魔物との距離が極めて近いので、目を瞑ってアラクネを見ない様にしている女や子供も多い。大人は希少な魔物が見れると興奮している者も多い様だが、それでも見ていて気持ちの良いものではないだろう。
俺はアラクネの背中に飛び乗ると、敵の心臓にデーモンイーターを突き刺した。それから次々とアラクネの体に飛び移り、バランスを取りながらデーモンイーターで敵を切り裂き続けた。全てのアラクネを狩ると、俺の動きを見ていた受験者達は愕然とした表情を浮かべた。
「またしても剣鬼がアラクネの群れを仕留めた! たった数分で十五体のアラクネを仕留めたのだ! しかし、闘技場の反対側では魔術師ギルドエリュシオンのギルドマスター、ハロルド・バラックが幻獣のゴブリンロードと遭遇! 体長二メートルを超える巨体のゴブリンの支配者に対し、魔術師はどの様に立ち回るのか! 注目の戦闘が今始まりました!」
まずい、アラクネを倒してポイントを稼いでいる間に先を越された。ティファニーは目にも留まらぬ速度で地上を駆けながら、すれ違いざまに魔物を切り、最高の速度でポイントを稼ぎ続けている。クラウディウスさんはトロルの群れに遭遇したのか、圧倒的な剣技でトロルに反撃させる暇も与えず、体長二メートルを超える防具を纏ったトロル達を次々と仕留めている。
クラウディウスさんの豪快な戦い方に会場は大いに盛り上がったが、ゴブリンロードとハロルドさんの対決に注目している観客が多いのだろう、観客席は静まり返り、魔物の呻き声と魔法の炸裂音、受験者の叫び声や武具がぶつかる音。様々な戦いの音が闘技場に響く中、ゴブリンロードの爆発的な炎の魔法が炸裂した。遥か彼方に居てもはっきりと魔法の種類が分かる。
ゴブリンロードが最も得意とする攻撃魔法、ファイアストームだ。巨大な炎の嵐が発生すると、何人もの受験者、魔獣達を一瞬で燃やし尽くした。ゴブリンロードを中心にして発生する炎の嵐には一歩も近づく事が出来ないのだろう、ハロルドさんは未だにゴブリンロードを倒す事が出来ていないみたいだ。現在のポイント上位は恐らくティファニーかクラウディウスさんだ。このままでは二人に一位合格を取られて仕舞う。すぐに幻獣を見つけなくてはならない……!
「ベルンシュタイン殿。あなたの活躍は父から何度も聞いていました。私はハロルド・バラックと申します。以前はアーセナルで魔術師をしていました」
「バラック……? もしかしてバラックさんの息子さんですか?」
「はい。アーセナルのギルドマスター、グレゴール・バラックの息子です。一月の下旬に活動拠点をアドリオンに移し、魔術師ギルド・エリュシオンを設立してギルドマスターになりました。私は以前から剣鬼であるベルンシュタイン殿、それから国家魔術師のローゼンベルグ様に憧れていたんです。今日、こうしてお会い出来て光栄です」
「こちらこそ光栄です。バラックさん。最終試験で決闘出来たら良いですね」
「ええ。私もギルドマスターとして負けられませんから。お互い二次試験は必ず通過しましょう」
バラックさんに良く似た青年は爽やかな笑みを浮かべると、魔術師達の元に戻った。バラックさんに息子が居たとは知らなかったが、握手をした時に感じた魔力の強さはバラックさん以上だった。
「なんだ、クラウスは初めて会ったのか?」
「ヴィルヘルムさんはお会いした事があったんですか?」
「うむ。クラウスと出会う前に何度か会った事がある。元々アーセナルで魔術師をしていたのだが、国家魔術師を目指すために修行の旅に出ると言って、アーセナルを脱退したんだ。クラウスが加入する二ヶ月程前だったかな。当時のレベルは四十だったが、随分魔力を鍛えたのだろう。恐らくレベルは七十を超えているだろうな」
「そうですね。リーゼロッテさんと同等でしょうか。聖属性と地属性の魔術師ですね」
「地属性? ヴェルナーを出た時は聖属性しか使えなかったのだが、新たな属性を得ていたという訳か。彼は時折ヴェルナーに戻って来てはバラックさんと剣の稽古をしてすぐに町を出るという生活をしていたから、クラウスとはたまたま会う事が無かったのだろう」
「魔術師ギルドのマスターで、剣にも心得があるという訳ですか……」
「そうだ。幼い頃から剣と魔法の指導をバラックさんから受けているのだ。既にバラックさんを上回る剣技が使えると噂で聞いた事があるが、本人は魔術師として戦い方を好いているらしい。確実に最終試験に上がってくる人物だろうな」
魔術師でありながら剣も使えるとは。まさか国家魔術師試験でバラックさんの息子と出会うとは思わなかったが、どんな相手が受験者でも負ける訳にはいかない。俺が二次試験で恐れているのはティファニーの高速の剣技と、クラウディウスさんの圧倒的な破壊力、それからヴィルヘルムの広範囲のアイシクルレイン。きっと三人は次々と魔物を狩り、ポイントを一気に稼ぐだろう。
魔獣クラスの魔物は放置して幻獣を見つけ出し、一気にポイントを稼いだ方が良いだろうか。百ポイントの魔物も低レベルの冒険者を仕留めるには十分すぎる強さの魔物達だ。これは大勢の死人が出るに違いないだろう。リーゼロッテさんは早速魔獣を専門に狩る事を決めたらしい。ヴィルヘルムさんはまだ一人で幻獣と対決する勇気が無いのか、百ポイントの魔獣を高速で狩る作戦を選んだ。
ティファニーとクラウディウスさんは幻獣を発見次第攻撃を仕掛けると言っている。二人の先を越されない様に、司会開始直後に全力で闘技場を駆け、誰よりも早く幻獣を見つけよう。
右手でデーモンイーターを抜き、左手に火の魔力を溜める。こうしておけば瞬時にファイアボールを撃つ事が出来るからだ。ティファニーはグラディウスを抜き、既にエンチャントを掛けている。彼女の体を覆う様に風の魔力が発生しており、辺りには心地の良い風が吹いている。クラウディウスさんはバスタードソードを抜いて静かに開始の時を待っている。
リーゼロッテさんはレイピアを抜いてヴィルヘルムさんの手を握り、ヴィルヘルムさんは緊張した面持ちでリーゼロッテさんを抱き締めた。二次試験の結果が今後の人生を決めるのだ。絶対に失敗は出来ないし、レベッカ師匠の弟子として最高の冒険者だと群衆に知らしめるためにも、圧倒的な力で魔物を駆逐しなければならない。
グラーフェ会長が杖を扉に向けると、金属製の巨大な扉がゆっくりと開いた。光が差し込むと、背の高い石の建造物が立ち並ぶ古代都市の様な空間が広がっていた。
「試合開始!」
グラーフェ会長が叫ぶと、観客席は大いに盛り上がり、爆発的な拍手があがった。ティファニーと目配せしてから下半身に力を込めて、全力で控室の床を蹴ると、全ての受験者を追い抜いて先頭に躍り出た。上空には黒い体をした下級悪魔、レッサーデーモンが旋回しており、何百体も居るレッサーデーモンが一斉に急降下を始めて受験者達を襲った。手にはロングソードやスピアを持っており、体には鋼鉄の鎧を身に着けている。武具を纏う悪魔に対して、受験者達は為す術もなく、一撃で命を奪われた者も居た。
俺の目標は幻獣討伐だが、レッサーデーモンを狩れば百ポイントにはなる。他の受験者に狩られる前に数を減らした方が良いだろう。ザラザラとした砂が敷かれている闘技場の地面を蹴って垂直に飛び、レッサーデーモンの背中に着地してから、敵の群れに炎の球を放り投げた。全力のファイアボールが十体程のレッサーデーモンを巻き込みながら爆発をすると、観客席から歓声があがった。
「早くも剣鬼が千二百ポイント獲得! 圧倒的な魔法の技術に驚異的な跳躍力! これがラサラスのギルドマスターの力だ! 初歩的な攻撃魔法であるファイアボールも、鍛え込めばレッサーデーモンの群れを蹴散らす最高の攻撃魔法に進化する! 私はこれ程威力が高いファイアボールは初めてみました!」
司会が俺の動きを観客に解説すると、観客席からは熱狂的な拍手が上がった。観客席を埋め尽くす程の市民達を見下ろすと、貴賓席にレベッカさんの姿を見つけた。レベッカさんは俺の勝利を確信しているのか、無邪気に微笑むと、俺はレッサーデーモンの背中から飛び降りながら手を振った。
それから巨大な石の建造物の屋上に着地すると、地上には無数のゴブリン、スライム、スケルトン、宝箱の容姿をしたミミックが徘徊している事に気がついた。魔物の数が徐々に増えている。どこから魔物が湧いているのだろうか。きっと建物の中から出てきたのだろう。未だに幻獣の姿は見当たらないが、低級の魔獣の群れを体長三メートルを超えるブラックベアが蹴散らしながら進んでいる。
ブラックベアは一箇所に固まっている受験者の群れに体当たりをすると、受験者の体が宙を舞い、力なく地面に落下した。すぐに回復魔法を掛けなければ命を落とすだろう。俺が建物から飛び降りて走り出した瞬間、ヴィルヘルムさんがブラックベアの前に立ち、両手をブラックベアに向けて氷の魔力を炸裂させた。
瞬間、巨大な氷の槍が現れ、一撃でブラックベアの心臓を貫いた。それからリーゼロッテさんが地面に倒れている受験者達にヒールの魔法を唱えると、金色の美しい光が受験者達を包み込んだ。怪我が一瞬で癒えたのか、受験者達は立ち上がってリーゼロッテさんに頭を下げると、試験を放棄するために魔法陣の中に入った。
助けてもポイントにならない相手に回復魔法を掛けるとは、流石ラサラスの回復担当、リーゼロッテさんだ。それにヴィルヘルムさんの魔法の威力も強烈だった。たった一撃でブラックベアの分厚い皮膚を貫いて仕留めたのだから。
黒い石を削って作った様な禍々しい建造物の中から、無数の巨体の魔物が現れた。魔獣クラスの魔物、アラクネだ。大きい個体は体長四メートルをも超えており、下半身が赤い毛に包まれた蜘蛛、上半身が人間の女性に近い容姿をしている。手にはランスを持っており、血走った目で受験者達を見下ろすと、巨大なランスを投げて命を奪った。
十五体のアラクネの群れが出てくると、観客席からは悲鳴が聞こえた。上半身は成人を迎えた人間の女性に見えるが、下半身は高速で動く蜘蛛の体なので、見ているだけで気分が悪くなってくる。日常的に悍ましい容姿をした魔物と戦い続けている冒険者でも気味が悪いと感じる巨体のアラクネの出現に恐怖を感じているのだろう。
観客席には防御の魔法が掛かっているから安全ではあるが、魔物との距離が極めて近いので、目を瞑ってアラクネを見ない様にしている女や子供も多い。大人は希少な魔物が見れると興奮している者も多い様だが、それでも見ていて気持ちの良いものではないだろう。
俺はアラクネの背中に飛び乗ると、敵の心臓にデーモンイーターを突き刺した。それから次々とアラクネの体に飛び移り、バランスを取りながらデーモンイーターで敵を切り裂き続けた。全てのアラクネを狩ると、俺の動きを見ていた受験者達は愕然とした表情を浮かべた。
「またしても剣鬼がアラクネの群れを仕留めた! たった数分で十五体のアラクネを仕留めたのだ! しかし、闘技場の反対側では魔術師ギルドエリュシオンのギルドマスター、ハロルド・バラックが幻獣のゴブリンロードと遭遇! 体長二メートルを超える巨体のゴブリンの支配者に対し、魔術師はどの様に立ち回るのか! 注目の戦闘が今始まりました!」
まずい、アラクネを倒してポイントを稼いでいる間に先を越された。ティファニーは目にも留まらぬ速度で地上を駆けながら、すれ違いざまに魔物を切り、最高の速度でポイントを稼ぎ続けている。クラウディウスさんはトロルの群れに遭遇したのか、圧倒的な剣技でトロルに反撃させる暇も与えず、体長二メートルを超える防具を纏ったトロル達を次々と仕留めている。
クラウディウスさんの豪快な戦い方に会場は大いに盛り上がったが、ゴブリンロードとハロルドさんの対決に注目している観客が多いのだろう、観客席は静まり返り、魔物の呻き声と魔法の炸裂音、受験者の叫び声や武具がぶつかる音。様々な戦いの音が闘技場に響く中、ゴブリンロードの爆発的な炎の魔法が炸裂した。遥か彼方に居てもはっきりと魔法の種類が分かる。
ゴブリンロードが最も得意とする攻撃魔法、ファイアストームだ。巨大な炎の嵐が発生すると、何人もの受験者、魔獣達を一瞬で燃やし尽くした。ゴブリンロードを中心にして発生する炎の嵐には一歩も近づく事が出来ないのだろう、ハロルドさんは未だにゴブリンロードを倒す事が出来ていないみたいだ。現在のポイント上位は恐らくティファニーかクラウディウスさんだ。このままでは二人に一位合格を取られて仕舞う。すぐに幻獣を見つけなくてはならない……!
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