召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -

花京院 光

文字の大きさ
108 / 188
第三章「魔王討伐編」

第百八話「聖戦士の実力」

しおりを挟む
 甲板に出ると、ワイバーンが海で獲物を捕らえたのか、巨大な緑色の体をした魔物を美味しそうに頬張っていた。サハギンという魔獣クラスの魔物らしい。ワイバーンはサハギンの腕をもいで、「食べてみろ」と言わんばかりの表情で差し出した。どうも生々しくて食べる気にならなかったので、俺はワイバーンの申し出を丁重に断った。

 ワイバーンは少し寂しそうに俺を見つめると、俺はサハギンの腕に弱い炎を放って焼き、適当に調味料を掛けてから一口齧ってみた。脂肪が少なく、パサパサとした鶏肉の様な食感だ。意外と美味しいのかも知れないが、見た目がどうも気持ち悪い。

「サハギンを捕まえてしまうとは! サシャのワイバーンは随分賢いんだな」
「サハギンってアルテミシアの海に生息しているんだね」
「ああ。見境なしに船を襲う悪質な魔物だ。知能は低いが、群れで行動する。力も強く、水中を高速で泳ぐ。捕獲が比較的難しい魔物だな。俺もサハギンの肉が好きなんだが、なかなか捕まえるのが難しいんだ」

 エドガーがそう言うと、ワイバーンは嬉しそうに翼を広げ、空中に飛び上がった。暫く船の近くを旋回してから、一気に海の中に潜った。ワイバーンは二体のサハギンを足で掴んで飛び上がると、甲板の上に放り投げた。次々とサハギンを捕まえると、エドガーは満面の笑みを浮かべた。

 エドガーが子分達を呼んでサハギンを解体すると、甲板で焼肉が始まった。俺達は魔王討伐のために移動しているのはなかったのだろうか。まるで呑気に旅でもしているかの様だ。しかし、海賊達もエドガーも深刻ではないからか、海賊船の雰囲気は良い。

 甲板に大量の葡萄酒とエール酒が運び込まれると、百人以上のエドガーの子分が集まって宴が始まった。俺達も海賊達に混ざってサハギンの肉を食べると、ヘルフリートが隣の席に座った。

「サシャ! お前はアルテミシアでエドガーを軽々と倒したな。俺にも実力を示してくれないか? 魔王討伐は個人戦ではない。仲間との協力が不可欠だ。それにはお互いの実力を知らなければならない!」
「そうだね、ヘルフリート。俺も仲間の力が知りたい」

 ヘルフリートは静かにヘルムを被ると、タワーシールドを左手で構え。右手にロングソードを持った。シールドを体に密着させ、右手に持ったロングソードを掲げた。全身が頑丈そうな鎧で覆われており、一体この男とどう戦えば良いのかも分からない。これが王国から国防を任されている最強の男の構えか。ゲルストナーとは違った威圧感を感じる構えだ。ゲルストナーは防御の構えだが、ヘルフリートは一撃で敵を倒す攻撃の構え。

「聖戦士様と幻魔獣の召喚士様が戦うぞ!」
「俺はボリンガー様の勝利に百ゴールド賭けるぞ!」
「俺もボリンガー様の勝利に賭ける! 十五歳でフィッツ町を配下に入れた天才召喚士だからな! 相手が聖戦士様でも勝てるだろう!」

 どうやら賭けの対象になっているようだ。果たして俺はヘルフリートに勝てるのだろうか。最初から本気を出した方が良いだろう。手加減をして勝てる相手ではない。

 デュラハンの大剣を右手で持ち、左手には土の魔力を溜めた。剣に対してサンダーボルトのエンチャントを掛けると、アルベルトさんが嬉しそうにはしゃいだ。

「ボリンガー様が魔法を使った! しかもあれはただのサンダーではない!」

 左手を甲板に向けて、アースウォールを使える様に警戒しながら、右手に持った剣に爆発的な魔力を流し込む。空には雷雲が生まれ、剣に集まる雷の威力が増した。

「行くぞ! サシャ!」

 俺の準備が整った瞬間、ヘルフリートは一直線に俺の方に飛び込んできた。動きが早すぎて残像が発生している。ヘルフリートが一瞬で俺の間合いに入ると、俺の手から剣が消えていた。何が起こったんだ? ヘルフリートは目にも留まらぬ速度で剣を弾き飛ばしたのだ。手には強い痺れ残っている。

 まさか、動きすら見えないとは。これが聖戦士の力なのか? あまりにも実力が違いすぎる。ルナと同等、もしくはそれ以上の攻撃速度だ。俺の大剣を軽々と弾き飛ばす攻撃の強さ。信じられない……。

「サシャ! 剣を拾え!」

 まるで実力が違う。次はヘルフリートが動き出した瞬間に、グランドクロスを撃ち込む。再び大剣にエンチャントを掛けると、ヘルフリートが微笑んだ。

「行くぞ!」

 ヘルフリートは直線的に踏み込んできた。きっと俺の目の前まで一瞬で移動するつもりだろう。同じ手を喰らってたまるか。俺は瞬時に後退し、ヘルフリートが着地するであろう場所にグランドクロスを撃つ事にした。

 剣を振り下ろし、強烈な雷を纏う十字の光を放つと、ヘルフリートは防御が間に合わないと察したのか、直ぐに立ち止まり、左手に構えたタワーシールドに魔力を込めた。俺の勝利だ。スケルトンキングの固有魔法であるサンダーボルトと、魔族の戦士長、デュラハンの魔法、グランドクロスを融合させ、レベル90の冒険者である俺が最高の攻撃魔法へと作り変えたのだ。盾で防げる程の弱い攻撃ではない。

 ヘルフリートは左手で構えたシールドでグランドクロスを殴ると、十字の光は軌道が反れて、遥か彼方まで飛んで行った。まさか、俺の攻撃を盾で飛ばすとは。正面から攻撃を防ぐのではなく、攻撃の軌道を反らして身を守ったのだ。

 ヘルフリートは盾を投げ捨てると、両手でロングソードを構えて一直線に飛び込んできた。必殺技を使うか……。俺自身が編み出した攻撃魔法。瞬時に甲板に左手を付け、土の魔力を注いだ。

『アイアンメイデン!』

 無数の土の槍が甲板から伸びると、生き物の様にヘルフリートに襲いかかった。ヘルフリートは全身から魔力を集めて剣に注ぐと、剣を甲板に突き立てた。

『ショックウェーブ!』

 ヘルフリートが魔法を唱えると、半透明の魔力の衝撃波がヘルフリートを包む様に生まれ、無数の土の槍を吹き飛ばした。土の槍が一斉に砕けると、俺は自分の敗北を悟った。アイアンメイデンですら、剣を突き立てるだけで破壊してしまうのだ。あまりにも実力がかけ離れている。

 ヘルフリートは甲板から剣を抜くと、剣を頭上高く掲げ、振り下ろした。剣の先端からは青白い魔力の刃が生まれた。ルナのウィンドカッターの様な魔法だ。この攻撃なら何度も見てきた。ルナの強烈な攻撃を何度も受けてきたんだ。簡単に負けてたまるか。

 俺は全身から魔力を掻き集め、甲板に左手を付けて土の壁を作り出した。俺のアースウォールはルナのウィンドカッターでさえ防げるのだ。ヘルフリートの攻撃も確実に防げるだろう。まだ俺が勝てる可能性は残っている。

 ヘルフリートが作り出した魔力の刃は、大きな爆発音を轟かせて消滅した。何とか攻撃を防げたようだ。しかし、俺はヘルフリートに一度もダメージを与えていない。強力な魔法を次から次へと使わされているのは俺の方だ。魔力も徐々に減ってきた。戦闘を長引かせれば、確実に俺の方が不利になる。次の一撃で決めるしかない。

 俺は剣を鞘に仕舞うと、ガントレットに魔力を込めた。今日の魔力を全て使い果たす。両手をヘルフリートに向けて、巨大な炎の塊を作り上げた。

『ヘルファイア!』

 魔法を唱えた瞬間、炎の塊はアースウォールを突き破り、ヘルフリートに襲いかかった。防御が間に合わなかったヘルフリートは、ロングソードで炎を叩き切ろうと試みたが、強烈な炎には剣は通用せず、ヘルフリートの体は瞬く間に炎で包まれた。

 俺の勝利だ。俺は直ぐにヘルフリートに掛けた炎を解除すると、ヘルフリートは愕然とした表情で俺を見つめた。

「ボリンガー様の勝利だ! 聖戦士様を倒したぞ!」
「聖戦士様もありえない強さだったな。ボリンガー様の魔法を弾き飛ばすのだから」

 こうして俺とヘルフリートの打ち合いは終わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

処理中です...