鍵盤上の踊り場の上で

紗由紀

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第3章 Challenge

不思議

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「割といけるもんだね」
「水瀬はやっぱり上手くなったな」
「ありがとう!」
「後半になるとだんだん速くなる癖を除き」
「…その点に関してはすいません」
随所随所止まりながら進めていくと思ったら、案外楽譜のページは進んでいた。そのことに驚いてはいたが、そのままでは何も進まない。僕らは、お互いの良い点と懸念点を話し合う。
「Aは時々ズレてたよな」
「たしかに。あと、ここはお互い音ミス多かったよね」
「そうだな。要練習っと。あと、Bは──」
1人で演奏するときよりも、かなり心強い。恐らく、「2人で弾く」ということもあるのだが、やはり「水瀬と弾く」ということが1番大きい気がする。
隣にいる水瀬のことを見た。不意に水瀬もこちらを見る。
「どうしたの?」
「…水瀬と連弾してることが不思議だなって思って」
「なんで?」
不思議そうに水瀬は僕を見た。僕は言葉を続ける。
「…僕らは、2ヶ月前まで名前も顔も知らなかったのに、この音楽室で出会って、ピアノを弾いて…上手く表現できないけど、凄いよな」
「…ふふっ、相原くんって意外とロマンチストだね」
「そうか?」
そんなつもりは全く無かったのだが。水瀬は僕の反応を見て楽しそうに笑った。すぐにからかわれたのだと気づいた。またやられた。
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