鍵盤上の踊り場の上で

紗由紀

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Epilogue

変わらないままで

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「いやぁ、まさか気づくと思わなかったなぁー、意外と鋭いんですね、相原せーんせっ」
からかうようにそう言う澪を見て、僕の心は羞恥心が勝つ。
…本当は学生時代の澪が見えたようで、少し嬉しいのだけど。
「…その言い方やめろよ……」
「なんで?さっき湊斗言ったよね?『水瀬先生』って」
「…いや、あれは…一応そう言った方がいいかなって」
「だから私もいいですよね?相原せーんせっ」
「…恥ずかしいからやめろよ…」
久しぶりの再会。澪は、変わっていなかった。
まさかここでまた会うとは思っていなかったな。過去の僕に言ったら、驚くだろうか。
…僕と澪は、君が今通っている学校で教師としてお互いに働いているよ。
澪は変わってない。だから、安心して。
昔の僕が望んでいたこと。それは、叶っていたようだった。
澪も僕も変わらず、あのときのままで。
人は変わった方がいい、とも言うけれど。僕はそうであって欲しくないと願う。変わってしまったら、寂しいから。変わってしまったら、簡単には戻れないから。
隣にいる澪の体温が、温かく感じた。距離はまだ少しあって、体温なんて感じられないはずなのに。
それでも僕らは、あの日と同じように笑い合っていた。
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