恋する狼と竜の卵

ミ度

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12.白儀について



 差し出された甘い紅茶に口をつけながら、フェンリルは魔術師のふたりをさりげなく観察した。取り繕っても狼の鼻は誤魔化せない。ふたりの匂いは濃密に混じり合っていた。
(コイツ……すました顔して、弟子と寝てやがんのか)
 事実を察しても、もちろん態度には出さない。他人の性事情に首を突っ込むべきではないし、相手が希代の魔術師ならば尚更だ。
「──対象を識別し、任意の場所へ転移させる術式は、極めて高度だと聞いている」
 意外にも会話の口火を切ったのは、無口なバアルだった。
 フェンリルも話に乗ることにした。
「だよなぁ……。あんなすげえ術式を使えるなら、ロスヴァイセで使ってくれりゃよかったのに」
「……流石に、ロスヴァイセからオウリュウまでとなると、術の精密さを欠いてしまう」
 と、コウゲツが苦笑する。
「もっと手助けできればよかったのだが……すまない」
「いいさ。終わってみりゃ、悪い仕事じゃなかったしな」
 そう返したフェンリルは、バアルの方へ顔を向けて、金色の目を優しく細めた。あの命懸けの旅があったからこそ、本当に欲しいものが手に入ったのだ。
 バアルはと言えば、彼の視線に気づいているだろうに、知らん顔をしている。しかし、耳が少し赤くなっている。
 可愛いヤツ……と内心ニヤつきながら、フェンリルはコウゲツへ向き直る。
「そうだ。あんたに悪魔祓いを依頼したいんだが……」
「君に憑いている夢魔のことか」
「おう、あんたなら朝飯前だろ?」
「そうだな……」
 コウゲツがフェンリルをまっすぐ見つめる。彼に見つめられると、魂を覗かれているような居心地の悪さをフェンリルは感じた。
「夢魔の本体は、すでに君から離れているようだ。今の君の魂に憑依しているのは、奴の残穢……それでも、君を殺せるくらいには強い」
 流石は七獄王の眷属、凶悪な置き土産である。
白儀ヒエロスガモスを一度行えば十分だろう」
「白儀?」
「力のある魔術師と性行為を介して魔力を浄化する方法だ」
「つまり……」
 フェンリルの表情が険しくなる。
「あんたとヤッて、夢魔を追い払うってことか?」
「……乱暴な言い方をすればそうなる。適任は、私かラザフォードだが、たしか彼女は国外へ出張中だったか……」
 突然、ガタンッと大きな音がした。今までコウゲツのとなりで物静かに話を聞いていた零が、急に椅子を倒す勢いで立ち上がったからだ。コウゲツを見つめる彼は、整った顔に厳しい表情を浮かべていた。彼から焦りと怒りのニオイをフェンリルは嗅ぎ取る。
「十夜さん……っ」
「落ち着け、零」
「嫌です。オレ以外と白儀なんてしないで。……それに、わざわざ貴方がやる必要はない。このふたり、恋人同士です」
「そうなのか?」
 コウゲツが目を見開き、確かめるようにフェンリルたちへ視線を送る。
「ああ、そうだ」
「……」
 バアルからの否定がない。それがフェンリルには嬉しい。
「……で、それが今の話にどう関係する?」
「あんたの恋人は、最強クラスの神性存在を魂に宿してる。だから、ヤレば夢魔の残穢くらい、簡単に祓えるんだよ」


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