恋する狼と竜の卵

ミ度

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16.三人旅



 竜の子には既に名前が在った。
「お母さんにつけてもらったんだ」
 と、幼子は嬉しそうに語った。
 彼の名前は『アナト』というそうだ。


※※※


 フェンリルはここ数日間を多忙に過ごすことになった。旅支度の準備と零の戦闘訓練、そこへアナトの子守りが加わったのである。
 桁外れの魔力を内包するアナトは外の世界に出るにあたり、魔力のコントロールも学ばなければならないのだが、そこは魔術のエキスパートであるコウゲツに任せることができた。愛しの師匠がアナトにかかりきりなのが面白くないのだろう……訓練中もどことなく拗ねた態度をする零に『ガキ相手に嫉妬すんな』とからかったフェンリルだったが、夜になるとその言葉がブーメランとなって自身に突き刺さった。
 アナトは聞き分けがよく素直な性格だが、『バアルお兄ちゃんと同じベッドで寝る!』だけは絶対に譲らなかったのである。オイこらこっちは新婚だぞ察しろと幼子相手に言うわけにもいかず、フェンリルは健全な夜を過ごす羽目になったのである。
 そして、コウゲツの館で迎える最後の夜……。
「──……寝たか?」
 フェンリルは腕の中のバアルに息をひそめながら訊ねた。
「ああ」
 バアルも小声で返す。
 耳をすませば、くうくうとアナトの穏やかな寝息が聞こえる。バアルの腕の中で幸せな夢でも見ているのだろう。
「……っ、フェンリル……」
 耳朶や首筋を大きな舌で優しく撫でられて、バアルが身体を強張らせる。フェンリルからの情事の誘いである。
「よせ……アナトが起きる」
「今夜はさすがに起きねえと思うぜ。昼間たっぷり遊んでやったからな」
「だが……ぅ……」
 フェンリルは腰を前に突き出し、バアルの引き締まった尻の谷間に自身の屹立をグリグリと押しつける。布越しからでも分かる硬さと熱に、バアルがか細く呻く。
「お前に触りてえ……こんな風に思ってんのは、オレだけか?」
「……」
 バアルが顔をフェンリルへ向けた。薄闇の中で視線を交わらせたふたりは、そのまま舌を絡め合わせる。
「……このベッドでは、ダメだ……」
「ああ、分かってる。そいつを起こさないように、ゆっくり動けよ」
 もとからこの部屋にはふたつのベッドが用意されていた。ふたりは音を立てずにとなりのベッドへ移動する。
 服を脱ぎ捨て、抱き合いながらキスを再開する。仰向けに寝そべるフェンリルの身体の上に、バアルが身体を預けている。バアルはフェンリルの舌キスに応じつつ、時折その視線をとなりのベッドへ向ける。
「ガキが気になって仕方ないって感じだな」
「当たり前だ。眠っているとはいえ、幼子のいる部屋でこのようなこと……」
「小さなガキのいる夫婦なんてこんなもんだぜ? オレん家もそうだったし」
「……そうなのか?」
「おう」
 小振りな尻を両手で包んでぐにぐに揉みこんでやると、バアルが控え目に湿った息を漏らした。
「今夜はあんまり激しくしねえよ。お前がいつもの調子で本気で鳴いたら、さすがにあいつも起きちまいそうだし」
「んっ……ン、黙れ……それはお前が私の弱いところばかり……ぁうっ……」
「だって好きだろ? ここをオレにぐちゃぐちゃにされんの」
 バアルの肛門に潤滑油を絡めた指を咥えさせ、ぬぢぬぢと掻きほぐした。
「す、好きでは……」
「ああ、そうか、悪い。大好きの間違いだったな♡」
「んんひぃ……っ♡」
 バアルは素直になりきれない口をきゅっと結び、フェンリルの腕の中で彼から与えられる肛悦に身動ぐ。
「せっかくこの体勢なんだ。自分で挿れて、動いてみろよ」
 肛門がやわらかくほぐれた頃合いに、フェンリルがバアルに囁いた。
 バアルはしばらく戸惑う様子を見せたが、やがて上体を起こすと、フェンリルの下半身をまさぐりだした。そして、勃起済みのペニスを掴むと、ほぐれた肛門へ切っ先をあてがい、震える腰を落としていく。
「んぁ……あふぅ……うっ、ううぅ……!」
「……っ、お前ん中はやっぱ最高だな……♡」
 バアルが挿入の快美に震え、一方でフェンリルも肉壁のとろけるような熱さと締めつけに官能の息を吐き出す。
 フェンリルはバアルと両手を繋ぎ、「ほら、動け」とピストンを促した。
 おそるおそるバアルが腰を振りはじめる。
やはり、アナトが気になるのか、動きがいつもより控え目だ。緩やかな快感の中で、恥じらう伴侶の姿を見ながらじっくり肉壁の感触を味わうのも悪くないが……。
「……声、抑えとけよ」
「なに……はぁっう゛っっ……!」
 グンッと腰を前へ突き出した。その一撃を皮切りに熱烈な突き上げを開始する。相手を容赦なく絶頂へ導くピストンだ。ずちゅんっぬぢゅんっとペニスの先端で弱点の結腸を撫で穿たれて、バアルの美貌が淫悦でぐしゃりと歪む。
「お゛っ……んん゛っ……だめだ……それ強いぃ……ふぇ、ふぇんっ、りりゅ……あぐっ……ぉおっ……おっ、こ、声ぇ……出て、しまう……あっ、あなとが起きてしまうぅ……っ♡」
「まあ、起きたら起きたで、オレたちは愛し合ってるんだって教えてやりゃあいいさ♡」
「ンひっ♡ ぃい゛いぃ……ッ♡ いっ、ぃく……っ、わたし……もうイク……!」
 絶頂時にはパートナーに『イク』と伝えるのがセックスのマナーだ──そうフェンリルに教えられて以降、バアルはその教えを愚直に守っていた。絶頂間近の肛環が収縮し、肉壁が蠕動する。ぎゅうっと強く握り締めてくるバアルの手を、フェンリルも愛情を込めて握り返す。
「いいぞ、イケ……ッ! オレも、すぐイク……ッ」
「んぉっお゛ぉっ♡ おっお♡ ぉ……イ……イックゥ……ッ♡ ンッんン゛んんんーーーッ♡♡」
 グボンッと亀頭球を肛門に捩じ込んだ瞬間、バアルのペニスからビュルルルッと精液が迸った。フェンリルも伴侶のイキ顔を眺めながら射精した。


※※※


 翌朝、三人が出発する直前、コウゲツがアナトの左手首に金の腕輪をつけた。腕輪の中央には美しい翡翠が嵌め込まれている。
「この腕輪には魔力を抑制する力がある。今までの訓練で魔力のコントロールはだいぶ習得できているから、これは万が一の保険だと思ってくれ」
 そう言うと、コウゲツはアナトの頭を優しく撫でた。
 撫でられたアナトは人懐っこく笑った。
「ありがとう、トウヤお兄ちゃん!」
 魔術師は照れ隠しのように軽く咳払いをしてから、フェンリルとバアルの方へ向き直る。
「この子を頼む」
「お前らもしっかりな」
 フェンリルが視線だけ零に向ける。
 零も真剣な表情で頷いた。
「オウリュウは治安のいい国だが、街では人も多い。アナトはふたりとはぐれないように手を繋いでいろ」
「分かった!」
 早速アナトがバアルの手を握ったので、フェンリルが呆れた顔をする。
「おい、街はだいぶ先だし、しばらく森の中を歩くことになるんだ。別に今から繋がなくてもいいんだぞ」
「いや、そうとも限らない」
「あ?」
「三人とも、後ろを見てみろ」
 コウゲツに言われるまま振り向くと、周りの光景が一変する。
 三人は人々の行き交う賑やかな街中に立っていた。
「…………マジか」
「……」
「わあっ、すごいすごい! 人がいっぱいいる!」
 三者三様の反応だが、共通してるのは大なり小なり驚いている点である。さっきまで静かな森の中にいたのに、背後を振り向いた途端に街中にいれば当たり前だ。
「あいつの転移魔法、デカい術式のくせに予備現象がまったくねえからビビるわ」
「よびげんしょう?」
「魔法が発動する前に、周りがこう……ファ~って光ったり、空中に魔法陣が浮かんだりとか……そういうヤツだ」
「へ~!」
 そう返事したアナトだが、彼の関心はすでに街や人々の方に移っていた。幼い彼の目には、何もかもが新鮮に映るのだろう。その気持ちが分からなくもないフェンリルだ。
 バアルへ顔を向ける。視線に気づいた彼がこちらを見上げる。
「なんだ」
「……いや、悪くねえ景色だと思ってよ」
 バアルに恋をして、そして彼と番になって、見える世界が鮮やかさを増していく。
「とりあえずテキトーに歩こうぜ」
 三人は歩きだした。


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