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第四章 神の武と魔性と
故に装武奉る
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半ば砕けた大岩から立つ白い塵芥がもうもうと渦巻いているのを、破れた闇の隙間から射し込む月の光が照らし出 している。
大魔は巨大な鎌のような鉤爪を、何度も何度もその塵芥の中にいる億姫へと振るい、もどかし気に身体を揺すると、涎を垂れ流し赤い大きな口を開けて吠えあげた。
見えない壁が億姫を庇い大魔の鉤爪を阻んでいるのだ。
獲物を目の前にしての障壁に身もだえる大魔は、紅い靄のような物質化しつつある瘴気を色濃く纏い、グルグルと大岩のあたりを廻り始めた。
大魔の動きに合わせて赤黒い瘴気が巨大な渦を巻き始め、すっぽりと大岩を覆ったところで、おもむろに両の手の巨大な鉤爪を観えない壁に突き立て、口から黒いあぶくを吐き出しながらつんざくように吠えた。
その悍ましく凄まじい雄叫びに、土塀には亀裂がはしり砕ける散るものまである。
併せて赤黒い瘴気が竜巻となり辺りを走り、暗く重く立ち込めてゆく。
月女の破邪降魔の椿の花がポトリポトリと地面に落ちて散っていった。
瘴気と妖気が辺りをすっかり覆い尽くしてしまっている。
みしみしと音がし、大魔の前に立ちはだかっていた見えない壁は粉砕され、すっかりと消えてしまい、億姫を守る壁は最早無い。
直ぐ其処には、大の字になって大岩に張り付いている億姫の姿が在る。
目は閉じたままで体は動いていない。
大魔は怒号とも歓喜ともつかない叫びをあげながら、その兇刃ならぬ爪をふるった。
鉤爪はたやすく柔肌を抉り躰を切り刻んでしまうだろう。
ビシリッと鋭い音をあげて大きな閃光が走り、同時に大魔が大きな苦鳴をあげ大きく飛び下がった。
鉤爪がついていた手は肘ごと消し飛ばされて、しゅうしゅうと音を立て白い煙が立っている。
砂塵の中で億姫は、その瞳は閉じたまま言霊を紡いでいた。
「七神との約定今果たさん。我誓約に適いし者」
巨大な雷撃が大岩ごと億姫の躰を貫いた。
轟音と共に大岩は消し飛び雷光の中に億姫の姿が浮かび上がる。
青い雷は億姫の頭頂から喉、両肩、両腕、胸、腹、両の足の裏まで全ての経絡の霊力を呼び覚まし、眉間に至る。
眉間に光点が発現し、億姫の双眸が見開かれると、きらりと青光に輝いた。合わせて大剣が激しい雷光を迸らせる。雷光は龍の姿となって、大魔を睥睨しているようであった。
「故に装武奉る」
億姫の言上が高らかに響きわたると同時に大剣は光と化し億姫の体を覆い、龍の雷光がさらに覆い被さるように億姫の体に溶け込んでゆく。
億姫は目を閉じて力の奔流に身を任せた。
神拵えの武神具と宿る神の力を自身に重ね、己が肉も霊も全てをもって平安の為の武と為す技。
宿した力諸共己を武として神の如き力「神威」を振るう。
鬼神をも拉ぐと謳われた装武士の真骨頂である装武であった。
大魔が危険を察知したのか、巨体には似合わない素早さで億姫に踏み込み近づき、ひねり潰そうと巨岩のような拳を叩き付ける。
風に流される綿毛のようにふわりと大魔の拳圧を躱し、続けて鋭く切り込んでくる巨大な鉤爪を左手で難なく防いで、組打ちすると投げ飛ばし、右手で青い雷撃を摑むと光る大剣として握りしめた。
「覚悟っ」
億姫は大地を踏み抜く程の力をその脚に込め飛び出した。雷撃をその身に纏い青い流星となって宙に舞い瞬時に投げ飛ばした大魔を眼下に捕えた。
躰の中に霊力と神威を漲らせつつ、躰を大きく捻るとその勢いで回転しながら大魔の巨体へ雷の大剣を繰り出す。
七神の一、刀の武神である一之神が刀技であった。巨体の敵を相手取り切り伏せる撃剣である。
巨体を縦に両断された大魔は斃れることもなく、上半身と下半身を赤黒い霧のような瘴気で繋いで億姫を噛み砕こうとガチンと牙を鳴らしたが、億姫の身の早さについて往けず空を切った。
大魔は悔し気に低く唸ると、二つにされた躰をくっ付け、見る見るうちに傷を塞ぎ元の通りに戻っていく。
「成程手強い。ならばっ」
億姫は青く輝く大剣を二本の剣に変化させ両手に持ち、風すらも追い付けない程の速さで地を駆け、空を飛ぶ。
一太刀浴びせる毎に、青く輝く雷撃の剣の軌跡が、蓮の華が開いたかのような紋様を闇に刻んでゆく。
妖魔の中には斬っても燃やしても斃れない厄介なものが時々いる。そのようなものを相手にするために生まれた刀技である。
魔滅の方陣を剣閃で描き妖魔を封殺する技であった。
「これでお終いです」
最後の核印を刻み込もうとしたその時、大魔は苦鳴と共に大きな口から赤黒い瘴気を大量に放出した。
赤黒い瘴気は意思を持った稲妻のように周囲のものを腐らせ壊しながら、億姫へと襲い掛かる。瘴気そのものが怒りに震えているようで全てを引き裂かんばかりの勢いであった。
「神居の山その構えにして神遊の大海その崩し也」
言霊を紡ぎ刃に霊力を更に重ねると、剣を真っ直ぐ大上段に構えると真っ向から切りかかった。極めれば山や海さえ砕け散ると言われている秘剣〝山海破〟である。
大魔は一声更に高い叫び声をあげた。体中から赤黒い瘴気が空に立ち昇って滴り、てらてらとぬめりうねる躰へと集まり、瘴気の雲が鎧と化して光の刃を受け止め阻む。
力が拮抗している。かなりの難敵である。億姫は大魔をはたと見据えると言った。
「この世にあってはならぬ魔障のもの。魔神であろうと必ずここで討ち果たします」
億姫は巨大な口を開けて迫りくる大魔を避けようともせず、逆に雷の剣を下段に構えて突進していった。
紙一重で大魔の鉤爪と巨大な咢を躱し、雷の大剣を大魔の口の中に刺し込み、余勢を駆って、剣を横立てに突き立てたまま真っ二つに裂いた。
大魔は巨大な鎌のような鉤爪を、何度も何度もその塵芥の中にいる億姫へと振るい、もどかし気に身体を揺すると、涎を垂れ流し赤い大きな口を開けて吠えあげた。
見えない壁が億姫を庇い大魔の鉤爪を阻んでいるのだ。
獲物を目の前にしての障壁に身もだえる大魔は、紅い靄のような物質化しつつある瘴気を色濃く纏い、グルグルと大岩のあたりを廻り始めた。
大魔の動きに合わせて赤黒い瘴気が巨大な渦を巻き始め、すっぽりと大岩を覆ったところで、おもむろに両の手の巨大な鉤爪を観えない壁に突き立て、口から黒いあぶくを吐き出しながらつんざくように吠えた。
その悍ましく凄まじい雄叫びに、土塀には亀裂がはしり砕ける散るものまである。
併せて赤黒い瘴気が竜巻となり辺りを走り、暗く重く立ち込めてゆく。
月女の破邪降魔の椿の花がポトリポトリと地面に落ちて散っていった。
瘴気と妖気が辺りをすっかり覆い尽くしてしまっている。
みしみしと音がし、大魔の前に立ちはだかっていた見えない壁は粉砕され、すっかりと消えてしまい、億姫を守る壁は最早無い。
直ぐ其処には、大の字になって大岩に張り付いている億姫の姿が在る。
目は閉じたままで体は動いていない。
大魔は怒号とも歓喜ともつかない叫びをあげながら、その兇刃ならぬ爪をふるった。
鉤爪はたやすく柔肌を抉り躰を切り刻んでしまうだろう。
ビシリッと鋭い音をあげて大きな閃光が走り、同時に大魔が大きな苦鳴をあげ大きく飛び下がった。
鉤爪がついていた手は肘ごと消し飛ばされて、しゅうしゅうと音を立て白い煙が立っている。
砂塵の中で億姫は、その瞳は閉じたまま言霊を紡いでいた。
「七神との約定今果たさん。我誓約に適いし者」
巨大な雷撃が大岩ごと億姫の躰を貫いた。
轟音と共に大岩は消し飛び雷光の中に億姫の姿が浮かび上がる。
青い雷は億姫の頭頂から喉、両肩、両腕、胸、腹、両の足の裏まで全ての経絡の霊力を呼び覚まし、眉間に至る。
眉間に光点が発現し、億姫の双眸が見開かれると、きらりと青光に輝いた。合わせて大剣が激しい雷光を迸らせる。雷光は龍の姿となって、大魔を睥睨しているようであった。
「故に装武奉る」
億姫の言上が高らかに響きわたると同時に大剣は光と化し億姫の体を覆い、龍の雷光がさらに覆い被さるように億姫の体に溶け込んでゆく。
億姫は目を閉じて力の奔流に身を任せた。
神拵えの武神具と宿る神の力を自身に重ね、己が肉も霊も全てをもって平安の為の武と為す技。
宿した力諸共己を武として神の如き力「神威」を振るう。
鬼神をも拉ぐと謳われた装武士の真骨頂である装武であった。
大魔が危険を察知したのか、巨体には似合わない素早さで億姫に踏み込み近づき、ひねり潰そうと巨岩のような拳を叩き付ける。
風に流される綿毛のようにふわりと大魔の拳圧を躱し、続けて鋭く切り込んでくる巨大な鉤爪を左手で難なく防いで、組打ちすると投げ飛ばし、右手で青い雷撃を摑むと光る大剣として握りしめた。
「覚悟っ」
億姫は大地を踏み抜く程の力をその脚に込め飛び出した。雷撃をその身に纏い青い流星となって宙に舞い瞬時に投げ飛ばした大魔を眼下に捕えた。
躰の中に霊力と神威を漲らせつつ、躰を大きく捻るとその勢いで回転しながら大魔の巨体へ雷の大剣を繰り出す。
七神の一、刀の武神である一之神が刀技であった。巨体の敵を相手取り切り伏せる撃剣である。
巨体を縦に両断された大魔は斃れることもなく、上半身と下半身を赤黒い霧のような瘴気で繋いで億姫を噛み砕こうとガチンと牙を鳴らしたが、億姫の身の早さについて往けず空を切った。
大魔は悔し気に低く唸ると、二つにされた躰をくっ付け、見る見るうちに傷を塞ぎ元の通りに戻っていく。
「成程手強い。ならばっ」
億姫は青く輝く大剣を二本の剣に変化させ両手に持ち、風すらも追い付けない程の速さで地を駆け、空を飛ぶ。
一太刀浴びせる毎に、青く輝く雷撃の剣の軌跡が、蓮の華が開いたかのような紋様を闇に刻んでゆく。
妖魔の中には斬っても燃やしても斃れない厄介なものが時々いる。そのようなものを相手にするために生まれた刀技である。
魔滅の方陣を剣閃で描き妖魔を封殺する技であった。
「これでお終いです」
最後の核印を刻み込もうとしたその時、大魔は苦鳴と共に大きな口から赤黒い瘴気を大量に放出した。
赤黒い瘴気は意思を持った稲妻のように周囲のものを腐らせ壊しながら、億姫へと襲い掛かる。瘴気そのものが怒りに震えているようで全てを引き裂かんばかりの勢いであった。
「神居の山その構えにして神遊の大海その崩し也」
言霊を紡ぎ刃に霊力を更に重ねると、剣を真っ直ぐ大上段に構えると真っ向から切りかかった。極めれば山や海さえ砕け散ると言われている秘剣〝山海破〟である。
大魔は一声更に高い叫び声をあげた。体中から赤黒い瘴気が空に立ち昇って滴り、てらてらとぬめりうねる躰へと集まり、瘴気の雲が鎧と化して光の刃を受け止め阻む。
力が拮抗している。かなりの難敵である。億姫は大魔をはたと見据えると言った。
「この世にあってはならぬ魔障のもの。魔神であろうと必ずここで討ち果たします」
億姫は巨大な口を開けて迫りくる大魔を避けようともせず、逆に雷の剣を下段に構えて突進していった。
紙一重で大魔の鉤爪と巨大な咢を躱し、雷の大剣を大魔の口の中に刺し込み、余勢を駆って、剣を横立てに突き立てたまま真っ二つに裂いた。
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