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第一話 ジェノの宣告
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「モニターの前のニートの皆様、只今よりあなたたちの人権は無くなりました。速やかに……死ね!!」
そう告げるのは、人に楽と同時に毒を与える世界の女の子。ツインテールの黒髪に猫の目に似た線状の細孔から、全てを見透かす鮮紅色の光を放っている。
謎の動画はネットの海に波紋を呼ぶ。
『何これ?』
『今期のアニメでこんなのあったか?』
『ニート共、ざまぁwww』
『お前もだろ?』
『ソースは?』
そんなスレが自宅警備業務者たちの間で、早くも立ち上がった――――。
三日後、ニート10万人を越える死亡が確認がされた。家族と絶縁状態や孤立しているニートの安否は、正確には確認されてない。
死亡したニートはもっといるのだろう。
突然の事態にメディアは#響動_どよ_#めいた。
『相次ぐニートの死』
『猟奇的殺人事件!?』
『集団自殺か?』
そんな見出しのニュースやら記事が、世界方々を巡り歩く。「ニートがいなくなるは良いことだ」と、唱える学者や評論家たちに賛否両論のマスメディア。
誰も答えは分からない。答えなどあるわけない。
そもそもニートたちの突然死は何故起きたのか。ニートたちは、今、何をしているのだろうか……?
◇
モニターの中のとあるコミュニティーチャットサイト。このチャットのメンバーには、ある共通点がある。
「こんばんは。あの、ちょっといいですか?」
「こんばんわー 新人くん?」
「はい。えっと……その、最近のニュースってどう思いますか? 謎のニート大量死についてです」
「あー、ジェノちゃんのやつね??」
「……ジェノちゃん?」
「ほら、三日前に『ジェノの宣告』があったろ?」
「あの謎の動画ですか? ニートの人権が無くなったていう……」
「そうそう、あの女の子の名前がジェノちゃん。そして、ニート大量虐殺の犯人だよ。……おっと、ニートの死体については公開されてなかったか」
「えっ!? あの二次元の子が犯人? 虐殺?」
「あー、混乱しないで。冷静に」
「え、でも……。あの女の子が犯人ってどういうことですか?」
「ん??、そうだな。新人くん、明日って暇だよね?」
「え? そりゃ、暇ですよ。というか、ここのチャットの人たちは……」
「うん、全員、ニートだね」
「ですよね……。そんな、僕らに暇かどうか訊ねるのは愚問なんじゃ……」
「おやおや! このチャットも新人くんだけど、ニート歴もまだ浅いんだね」
「えっ? 何で分かったんですか? 察しの通り、三月に高校卒業と同時にニートになった新参者です」
「へぇー、まぁ、ニートになった理由は聞かないよ。なにせ、僕もニートだからね」
「……あの、それで明日って何かあるんですか?」
「明日さ、このチャットのオフ会を開こうと思ってね。詳細については、入会時に登録したメアドに送るよ。このログを見ている人にもね」
「はぁ……」
「乗り気じゃないね」
「そりゃ、ニートなのに外で集まり会話をするなんて……」
「ハハッ、それが出来なくてニートになる人も多いからね。まぁ、強制はしないよ。でも、来たらジェノちゃんやニュースについての情報を教えてあげるよ」
「……それって、結局 強制なんじゃ?」
「いやいや、釣だと思って来ない人も多いし、忙しい人も結構多いと思うよ」
「ニートなのに?」
「ニートなのに!」
「…………」
「まぁ、新人くんは来てくれるかな?」
「…………」
「まぁ、いいや。来てくれたら歓迎するよ。あ、そうだ、僕の名前はアイゼン イツワ。まぁ、ネット上では『偽善愛』で通ってるよ」
「…………」
「落ちちゃった? まぁ、いいけど。明日を楽しみにしているよ」
その言葉を最後に、モニターに文字が浮かぶ事はなくなった――――。
◇
「……はぁー」
昨日と今日だけで、何回溜め息を付いたのだろうか? 溜め息を付くための呼吸がもったいないと思えるほどついている。
憎たらしい日射しを、直に浴びるのは一ヶ月ぶりの事。まだ、四月と肌寒い季節のはずが、今日は気温が高いらしい。
歩くのも疲れた。
混疑土で舗装された道路が硬くて、普段歩き慣れていない足の裏をじわじわ刺激している。
「はぁー……」
また、溜め息。
今の溜め息は、ここまでの疲労感から来るものなのか、今からの物怖じから来るものなのかは分からない。
僕、#伏見_フシミ_#ハルキは、とあるチャットサイトのオフ会へと向かっている。そもそも、そのサイトに入会したのも藁にもすがる思いだった。
謎の動画……『ジェノの宣告』があってから、僅か三日で、10万人を越える#同胞_ニート_#たちの死が確認された。確か、今朝のニュースでは12万人に増えていた。
兎に角、どうしょうもない状況に陥って、偶然見つけたのが、このチャットサイト。ニートである事が絶対の入会条件で、入会前に簡単なアンケートを受け、管理人の選別によって合否が決まる。
見事、入会し、ニュースの事を質問したら、突然のオフ会という流れになった。
「はぁ……」
本当に、オフ会があるのだろうか?
もし、本当に只の釣で、ネット上でバカにされてるなんて事はないんだろうか?
募る不安。
でも、後戻りもできやしない。
恒久不変の現状を打破するために、僕は賭けと同時に家を出たのだ――――。
どれぐらい時間が経ったのだろう? 日本列島を渡り歩いた伊能忠敬の気分だ。オフ会の会場は、一駅離れた街だった。
高校在学中は電車を利用していた。在学中は何とも思わなかった距離なのに、一ヶ月籠っていただけで、こんなにも遠くに感じるとは驚きだ。
そして、ようやく会場の前に到着した。
会場は至って普通の民家だ。6LDKか7LDKはありそうなニ階建ての住居に、ガーデニングが趣味なのか庭の至るところに花が植えられている。
あとは、白いワゴン車と黒の軽自動車が駐車されている。
「……ここだよね?」
ニートのオフ会で普通の民家。しかも、かなり綺麗で、ドラマの撮影でも使えそうな外観。
不安が更に募る。
「…………よし」
ボーッと突っ立っていてもしょうがない。
意を決して玄関に向かい、インターホンを押す。
ピーンポーンと#高音_たかね_#がする。
ドキドキしながら待つ間に、自分の服装を見直す。髪は、一ヶ月前の卒業式前に切ったきり、特に弄っていないから多少ボサついている。髭は ちゃんと剃ったから問題ない。
服装は黒いトレナーにジーパンと部屋着としては問題ないけど、外着としては どうなんだろうか? 髪は無造作ヘアーで、服装は……なんて誤魔化そう?
今更そんな事を考えても遅い。
既にガチャっと音を立てて扉は開いていた。
「いらっしゃい。キミは新人くん?」
爽やかな青年の声がした。
目の前に立つのは、四捨五入して170㎝の僕より、頭一つ分高い青年。茶髪混じりの髪をふんわりとセットし、無造作ヘアーの御手本を示された気分だ。
更に雑誌のモデルのような服を見事に着こなしてる。
『爽やかな美容師』
それが第一印象だ。もう少し、容姿に気を遣えば良かったと本当に後悔した。
「……え、えっと、アイゼンさん……ですか?」
#吃_ども_#りながらも何とか言えた。
「そうだよ、僕は#藍染_アイゼン_# イツワ。さぁ、上がって」
藍染さんに手招きされ、入ってすぐのLDKに案内される。まるでモデルルームをそのまま移して来たかのような部屋だ。
中央にある足の短い長方形のテーブルをコの字に囲むようソファーが置かれ、5人の先客が各々に着席していた。
「さて、皆さん、今日はお集まり頂きありがとうございます」
藍染さんが一礼しオフ会が始まった。
「そうだな??、簡単に自己紹介しましょうか。『おっさん』からお願いします」
「ワイか?」
そう言って、小太り、眼鏡、毛根が後退しつつある頭で、半袖のアニメのTシャツをズボンにインした男が立ち上がった。
一般的なヲタク+ニートのイメージを具現化したような人だ。
「#覚王山_カクオウザン_#トシヒコ、43歳、無職デュフ。32の時に強制脱サラにあってから、アニメだけが生き甲斐デュフ」
スゴい……。
ニートの理由まで、イメージのまんまだ。
「おっさん、ありがとう。じゃ次は……ん? 『チェリぽん』どうしたの?」
艶やかな茶髪のボブとスラッとした手足に、ほんのりピンク色のマスクをした華奢で綺麗な人が、マスクより濃いピンクのスマホを指差している。
「チャットを使っていいかって? ダメだよ、ちゃんと喋らなきゃ」
綺麗な人は酷く落ち込み、軽く涙目になった。
可哀想だから、使わせてあげなよ……って言いたかったけど――
「桜 マサキです。23歳、女装家 兼 レイヤーです……」
僕よりも低い声で そう語った。
モデルにしか見えないほど美人なのに、驚き……いや衝撃だ!! 所謂、男の娘の比なんてもんじゃない。
「皆、驚いてる……。だから、声出したくなかったのに……」
「ごめんね。でも、ちゃんと自己紹介しなきゃダメでしょ? チェリぽんは、結構有名なレイヤーだよ」
「チェリぽんって、あのチェリぽんデュフか!? この前、○ヴァのレイちゃんのコスで有名だった」
「そうです。それ、私です」
おっさんは興奮して立ち上がる。
藍染さんはそれを制し「次は『ロープさん』お願いします」と告げた。
キャラクターについて語り合い出そうとした二人は静かに席についた。
代わりに立ったのは、スキンヘッドでギロリとした眼光の持ち主。さらに黒金ジャージと、見るからにDQN。おまけに肌が褐色で体躯がよく、何処と無くゴリラに似てるな、と思ってしまいニヤついてしまいそうになる。
「#八草_ヤクサ_#ケンジ、30。職業はヒモだ。女に食わせてもらってる」
ドスの訊いた声でそれだけ言うと、すぐに着席した。
……座る前に、一瞬僕を睨んだ気がした。はっきり言って恐いし、出来れば関わりたくない。
「ロープさん、ありがとう。じゃ次は『ビッチ姉』よろしく」
「はぁ??い」
甲高い声で、レモン色に近い金髪に青いカラコン、谷間を強調した白く薄いブラウスの女性が立ち上がった。
「伊奈 ミサトで??す。元キャバ嬢で、今は男の子食べてま??す」
そう言って僕らの顔を順番にを見回す。
ペロリと唇を舐め、まるで狙いを定める蛇のように――
「はーい、ビッチ姉、ありがとう。じゃ次は『シマリスちゃん』お願い」
「は、はい……」
か細い声で返事をして、身長150㎝ぐらいの小柄な丸眼鏡の女の子が立ち上がる。
ボサボサと胸の辺りまで伸びた黒髪を、ソバージュパーマというやつなのか、特に縛ることもせず、灰色っぽいトレーナーにジーパンと、どこか親近感が沸く格好をしている。
「し、島氏永 リサです。え、えっと……19歳です。よ、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げて席についた。
「シマリスちゃん、お疲れさま。じゃ、最後は新人くんね」
「はい」
出来るだけ元気に返事をして席を立つ。
「えっと、伏見 ハルキです。18です。えっと……よろしくお願いします」
結局、口ごもってしまった。
でも、ちゃんと言えたから良しとしよう。
「ねぇ、新人く??ん」
伊奈さんに呼ばれる。
「な、何ですか?」
「キミって童貞?」
「……え!?」
「コラコラ、ビッチ姉、新人くん誘惑しちゃダメだよ」
伊奈さんは「ちぇ??」と言ってそっぽを向く。
助かったような、勿体無い事をしたような……。
「よーし、皆終わったね。じゃ、一応僕もしとこうかな。藍染 イツワ。年齢は……う??ん、秘密。職業は管理人とハッカーをしてます」
皆に衝撃が走る。
「オイ、ハッカーってことは犯罪者か!?」
犯罪者のような顔つきの八草さんが、荒々しい声で息巻く。
藍染さんは「チッチッチ」と言いたげに人差し指を振る。
「ハッカーと言ってもホワイトハッカーだよ。テレビとかで聞いたことないかな? 一応、国家公務員に当たるんだけど。まぁ、元だけどね」
国家公務員という事で誰もが凄いんだと感じると同時に、何故辞めたのだろうと疑問が生まれる。
しかし、「僕については、これぐらいとして……」と切り出されてしまったので誰も聞くことが出来なかった。
「本題に入ろうか」
その一言で各々に緊張感が走る。
「まず、『ジェノの宣告』についてだ。昨日のチャットのログを見て貰えばわかるように、ニート大量虐殺の犯人……いや、主犯と呼んだ方がいいかな? とにかく、今世間を賑わせてるニュースに深く関与しているのは、あの動画の女の子だ」
揚々と解説する藍染さんの言葉を、誰もが上手く掴むことが出来ない。その証拠に、八草さんはテーブルを小突きだし、覚王山さんは眉根を寄せてる。
「早い話、ジェノちゃんはAI……つまり、人工知能だ」
人工知能……。
SF作品でよく聞く、人工知能でいいのだろうか?
現実離れしているようで、どうにも実感が沸かない。
「けど、彼女は、まだ未完成だよ。そこまで知識は深くない」
薄ら笑みを浮かべ、解説を続ける藍染さん。
どことなく、オモチャを自慢する子どものような#表情_かお_#をしている。
「彼女が、どう関与しているか、具体的に言うね。まず、彼女に、サーバーのアクセス記録……まぁ、簡単に言うと履歴を調べさせた。そして、そこからニートを割り出した。ここまではOK?」
皆が静かに頷く。
平日の昼間っから、アニメやゲームばかりしている履歴を見つけニートを特定したと言うことだろう。
「次に、特定したニートにランク付け……線引きをしたって言った方がいいかな? その越えてはいけないラインを越えたのが、今回の被害者だ」
何となくジェノについて分かってきた。
けど、まだ根本的な所が分からない。
「皆が今思うのは、どうやってニートを殺したか……だよね? 結論から言ってニートに直接手を下したのは人間だ。住む次元が違う彼女には出来ないからね」
と言うことは、10万を越す人間を殺した犯人がいるってわけだ。
10万人もの人間を短期間かつ証拠を残さず抹消するなんて可能なのだろうか……?
そう告げるのは、人に楽と同時に毒を与える世界の女の子。ツインテールの黒髪に猫の目に似た線状の細孔から、全てを見透かす鮮紅色の光を放っている。
謎の動画はネットの海に波紋を呼ぶ。
『何これ?』
『今期のアニメでこんなのあったか?』
『ニート共、ざまぁwww』
『お前もだろ?』
『ソースは?』
そんなスレが自宅警備業務者たちの間で、早くも立ち上がった――――。
三日後、ニート10万人を越える死亡が確認がされた。家族と絶縁状態や孤立しているニートの安否は、正確には確認されてない。
死亡したニートはもっといるのだろう。
突然の事態にメディアは#響動_どよ_#めいた。
『相次ぐニートの死』
『猟奇的殺人事件!?』
『集団自殺か?』
そんな見出しのニュースやら記事が、世界方々を巡り歩く。「ニートがいなくなるは良いことだ」と、唱える学者や評論家たちに賛否両論のマスメディア。
誰も答えは分からない。答えなどあるわけない。
そもそもニートたちの突然死は何故起きたのか。ニートたちは、今、何をしているのだろうか……?
◇
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「こんばんは。あの、ちょっといいですか?」
「こんばんわー 新人くん?」
「はい。えっと……その、最近のニュースってどう思いますか? 謎のニート大量死についてです」
「あー、ジェノちゃんのやつね??」
「……ジェノちゃん?」
「ほら、三日前に『ジェノの宣告』があったろ?」
「あの謎の動画ですか? ニートの人権が無くなったていう……」
「そうそう、あの女の子の名前がジェノちゃん。そして、ニート大量虐殺の犯人だよ。……おっと、ニートの死体については公開されてなかったか」
「えっ!? あの二次元の子が犯人? 虐殺?」
「あー、混乱しないで。冷静に」
「え、でも……。あの女の子が犯人ってどういうことですか?」
「ん??、そうだな。新人くん、明日って暇だよね?」
「え? そりゃ、暇ですよ。というか、ここのチャットの人たちは……」
「うん、全員、ニートだね」
「ですよね……。そんな、僕らに暇かどうか訊ねるのは愚問なんじゃ……」
「おやおや! このチャットも新人くんだけど、ニート歴もまだ浅いんだね」
「えっ? 何で分かったんですか? 察しの通り、三月に高校卒業と同時にニートになった新参者です」
「へぇー、まぁ、ニートになった理由は聞かないよ。なにせ、僕もニートだからね」
「……あの、それで明日って何かあるんですか?」
「明日さ、このチャットのオフ会を開こうと思ってね。詳細については、入会時に登録したメアドに送るよ。このログを見ている人にもね」
「はぁ……」
「乗り気じゃないね」
「そりゃ、ニートなのに外で集まり会話をするなんて……」
「ハハッ、それが出来なくてニートになる人も多いからね。まぁ、強制はしないよ。でも、来たらジェノちゃんやニュースについての情報を教えてあげるよ」
「……それって、結局 強制なんじゃ?」
「いやいや、釣だと思って来ない人も多いし、忙しい人も結構多いと思うよ」
「ニートなのに?」
「ニートなのに!」
「…………」
「まぁ、新人くんは来てくれるかな?」
「…………」
「まぁ、いいや。来てくれたら歓迎するよ。あ、そうだ、僕の名前はアイゼン イツワ。まぁ、ネット上では『偽善愛』で通ってるよ」
「…………」
「落ちちゃった? まぁ、いいけど。明日を楽しみにしているよ」
その言葉を最後に、モニターに文字が浮かぶ事はなくなった――――。
◇
「……はぁー」
昨日と今日だけで、何回溜め息を付いたのだろうか? 溜め息を付くための呼吸がもったいないと思えるほどついている。
憎たらしい日射しを、直に浴びるのは一ヶ月ぶりの事。まだ、四月と肌寒い季節のはずが、今日は気温が高いらしい。
歩くのも疲れた。
混疑土で舗装された道路が硬くて、普段歩き慣れていない足の裏をじわじわ刺激している。
「はぁー……」
また、溜め息。
今の溜め息は、ここまでの疲労感から来るものなのか、今からの物怖じから来るものなのかは分からない。
僕、#伏見_フシミ_#ハルキは、とあるチャットサイトのオフ会へと向かっている。そもそも、そのサイトに入会したのも藁にもすがる思いだった。
謎の動画……『ジェノの宣告』があってから、僅か三日で、10万人を越える#同胞_ニート_#たちの死が確認された。確か、今朝のニュースでは12万人に増えていた。
兎に角、どうしょうもない状況に陥って、偶然見つけたのが、このチャットサイト。ニートである事が絶対の入会条件で、入会前に簡単なアンケートを受け、管理人の選別によって合否が決まる。
見事、入会し、ニュースの事を質問したら、突然のオフ会という流れになった。
「はぁ……」
本当に、オフ会があるのだろうか?
もし、本当に只の釣で、ネット上でバカにされてるなんて事はないんだろうか?
募る不安。
でも、後戻りもできやしない。
恒久不変の現状を打破するために、僕は賭けと同時に家を出たのだ――――。
どれぐらい時間が経ったのだろう? 日本列島を渡り歩いた伊能忠敬の気分だ。オフ会の会場は、一駅離れた街だった。
高校在学中は電車を利用していた。在学中は何とも思わなかった距離なのに、一ヶ月籠っていただけで、こんなにも遠くに感じるとは驚きだ。
そして、ようやく会場の前に到着した。
会場は至って普通の民家だ。6LDKか7LDKはありそうなニ階建ての住居に、ガーデニングが趣味なのか庭の至るところに花が植えられている。
あとは、白いワゴン車と黒の軽自動車が駐車されている。
「……ここだよね?」
ニートのオフ会で普通の民家。しかも、かなり綺麗で、ドラマの撮影でも使えそうな外観。
不安が更に募る。
「…………よし」
ボーッと突っ立っていてもしょうがない。
意を決して玄関に向かい、インターホンを押す。
ピーンポーンと#高音_たかね_#がする。
ドキドキしながら待つ間に、自分の服装を見直す。髪は、一ヶ月前の卒業式前に切ったきり、特に弄っていないから多少ボサついている。髭は ちゃんと剃ったから問題ない。
服装は黒いトレナーにジーパンと部屋着としては問題ないけど、外着としては どうなんだろうか? 髪は無造作ヘアーで、服装は……なんて誤魔化そう?
今更そんな事を考えても遅い。
既にガチャっと音を立てて扉は開いていた。
「いらっしゃい。キミは新人くん?」
爽やかな青年の声がした。
目の前に立つのは、四捨五入して170㎝の僕より、頭一つ分高い青年。茶髪混じりの髪をふんわりとセットし、無造作ヘアーの御手本を示された気分だ。
更に雑誌のモデルのような服を見事に着こなしてる。
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それが第一印象だ。もう少し、容姿に気を遣えば良かったと本当に後悔した。
「……え、えっと、アイゼンさん……ですか?」
#吃_ども_#りながらも何とか言えた。
「そうだよ、僕は#藍染_アイゼン_# イツワ。さぁ、上がって」
藍染さんに手招きされ、入ってすぐのLDKに案内される。まるでモデルルームをそのまま移して来たかのような部屋だ。
中央にある足の短い長方形のテーブルをコの字に囲むようソファーが置かれ、5人の先客が各々に着席していた。
「さて、皆さん、今日はお集まり頂きありがとうございます」
藍染さんが一礼しオフ会が始まった。
「そうだな??、簡単に自己紹介しましょうか。『おっさん』からお願いします」
「ワイか?」
そう言って、小太り、眼鏡、毛根が後退しつつある頭で、半袖のアニメのTシャツをズボンにインした男が立ち上がった。
一般的なヲタク+ニートのイメージを具現化したような人だ。
「#覚王山_カクオウザン_#トシヒコ、43歳、無職デュフ。32の時に強制脱サラにあってから、アニメだけが生き甲斐デュフ」
スゴい……。
ニートの理由まで、イメージのまんまだ。
「おっさん、ありがとう。じゃ次は……ん? 『チェリぽん』どうしたの?」
艶やかな茶髪のボブとスラッとした手足に、ほんのりピンク色のマスクをした華奢で綺麗な人が、マスクより濃いピンクのスマホを指差している。
「チャットを使っていいかって? ダメだよ、ちゃんと喋らなきゃ」
綺麗な人は酷く落ち込み、軽く涙目になった。
可哀想だから、使わせてあげなよ……って言いたかったけど――
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僕よりも低い声で そう語った。
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おっさんは興奮して立ち上がる。
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キャラクターについて語り合い出そうとした二人は静かに席についた。
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「#八草_ヤクサ_#ケンジ、30。職業はヒモだ。女に食わせてもらってる」
ドスの訊いた声でそれだけ言うと、すぐに着席した。
……座る前に、一瞬僕を睨んだ気がした。はっきり言って恐いし、出来れば関わりたくない。
「ロープさん、ありがとう。じゃ次は『ビッチ姉』よろしく」
「はぁ??い」
甲高い声で、レモン色に近い金髪に青いカラコン、谷間を強調した白く薄いブラウスの女性が立ち上がった。
「伊奈 ミサトで??す。元キャバ嬢で、今は男の子食べてま??す」
そう言って僕らの顔を順番にを見回す。
ペロリと唇を舐め、まるで狙いを定める蛇のように――
「はーい、ビッチ姉、ありがとう。じゃ次は『シマリスちゃん』お願い」
「は、はい……」
か細い声で返事をして、身長150㎝ぐらいの小柄な丸眼鏡の女の子が立ち上がる。
ボサボサと胸の辺りまで伸びた黒髪を、ソバージュパーマというやつなのか、特に縛ることもせず、灰色っぽいトレーナーにジーパンと、どこか親近感が沸く格好をしている。
「し、島氏永 リサです。え、えっと……19歳です。よ、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げて席についた。
「シマリスちゃん、お疲れさま。じゃ、最後は新人くんね」
「はい」
出来るだけ元気に返事をして席を立つ。
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伊奈さんは「ちぇ??」と言ってそっぽを向く。
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皆に衝撃が走る。
「オイ、ハッカーってことは犯罪者か!?」
犯罪者のような顔つきの八草さんが、荒々しい声で息巻く。
藍染さんは「チッチッチ」と言いたげに人差し指を振る。
「ハッカーと言ってもホワイトハッカーだよ。テレビとかで聞いたことないかな? 一応、国家公務員に当たるんだけど。まぁ、元だけどね」
国家公務員という事で誰もが凄いんだと感じると同時に、何故辞めたのだろうと疑問が生まれる。
しかし、「僕については、これぐらいとして……」と切り出されてしまったので誰も聞くことが出来なかった。
「本題に入ろうか」
その一言で各々に緊張感が走る。
「まず、『ジェノの宣告』についてだ。昨日のチャットのログを見て貰えばわかるように、ニート大量虐殺の犯人……いや、主犯と呼んだ方がいいかな? とにかく、今世間を賑わせてるニュースに深く関与しているのは、あの動画の女の子だ」
揚々と解説する藍染さんの言葉を、誰もが上手く掴むことが出来ない。その証拠に、八草さんはテーブルを小突きだし、覚王山さんは眉根を寄せてる。
「早い話、ジェノちゃんはAI……つまり、人工知能だ」
人工知能……。
SF作品でよく聞く、人工知能でいいのだろうか?
現実離れしているようで、どうにも実感が沸かない。
「けど、彼女は、まだ未完成だよ。そこまで知識は深くない」
薄ら笑みを浮かべ、解説を続ける藍染さん。
どことなく、オモチャを自慢する子どものような#表情_かお_#をしている。
「彼女が、どう関与しているか、具体的に言うね。まず、彼女に、サーバーのアクセス記録……まぁ、簡単に言うと履歴を調べさせた。そして、そこからニートを割り出した。ここまではOK?」
皆が静かに頷く。
平日の昼間っから、アニメやゲームばかりしている履歴を見つけニートを特定したと言うことだろう。
「次に、特定したニートにランク付け……線引きをしたって言った方がいいかな? その越えてはいけないラインを越えたのが、今回の被害者だ」
何となくジェノについて分かってきた。
けど、まだ根本的な所が分からない。
「皆が今思うのは、どうやってニートを殺したか……だよね? 結論から言ってニートに直接手を下したのは人間だ。住む次元が違う彼女には出来ないからね」
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信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
上司、快楽に沈むまで
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BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
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ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
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