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一章
二話 聖女の覚醒
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聖女の最有力候補━━だと“他国の人間が”思っているのは、シャルルリーゼ・ロッテンブルクで間違いない。しかし、彼女がカリスファル王国の中でもそう思われているかと言われると、そういう訳じゃない。田舎者はともかく、王都の人間はみんな知っている。シャルルには才能が一切ない事を。
聖女の能力は癒しと浄化。一代目の聖女は、光の魔法を人間達の中で最も得意としていたそうだ。そのせいか、聖女の子孫も光の魔法が得意な人間が多い。シャルルも、一応そうだった。シャルルも他の魔法と比べたら光の魔法が得意だ。でも、一番得意な光魔法ですら才能は下の中くらい。さっきの話でアールが触れた結晶は、触れた者の得意な魔法と魔力量を教えてくれるアイテムなんだけど、シャルルが触ると薄ぼんやり光るだけ。シャルルの両親が触ると、ちょっと目が痛いくらいに明るく光るんだけどね。ロッテンブルク家の他の人間も結晶をかなり強く光らせられる。それなのに、シャルルだけはダメだった。ちなみに、全く結晶が反応しなかったアールはどの魔法の適性もないってことだ。こういう人間はかなり珍しい。悪い意味でのレアだけどね。でも、レア度で言うならシャルルも同じようなものだ。シャルルの一族は皆光魔法が大の得意だから、1人だけ才能がないのは逆にすごい事だった。
さて、世間一般から残念な子と思われているシャルルだが、実はギルドの訓練生をやっている。訓練生というのは、ギルドが直々に作った未来のエリート戦闘職育成所のメンバーのことを指す。将来有望とされた若者はここにスカウトされるんだ。シャルルは才能なんてないって言ってただろ、だって?そう、その通り。シャルルは本当なら訓練生になんてなれない。でも聖女の子孫が戦闘訓練も受けないでふらふらしてるなんて、他の国に知れたらまずいだろう?人類の命運がかかっているのに舐めているのか!なんて、他の国たちから言われたら王様は困るんだ。だから形だけでもシャルルに訓練をさせている、って事。そんな理由で優秀な子供たちの中に放り込まれて、無能を晒すシャルルの気持ちは無視されてるというわけさ。王様というのは、たいていいつも弱者に対して酷だ。
「暴発させないでくださいね、シャルルリーゼ様」
噂をすれば、今日もシャルルは虐められているみたいだ。シャルルの家は偉いから皆敬語を使うけど、敬意を持っているかと言われればNOだ。だからこうやって、今から魔法の実践をするシャルルに嫌味を言う。気の弱いシャルルは何も言い返せない。
シャルルは先っぽに水晶玉がついた杖をぎゅっと握って祈った。どうか成功させてください、と。バカにされるのは慣れているけど、それでも悲しいから嫌だった。慣れれば嫌な事も平気になるなんて、そんなわけは無いからね。
さて、訓練の話に戻すよ。今回の実技は闇の魔法をかけられた液体の浄化となっている。闇の魔法をかけると、ただの水でも毒になる。術者の能力に応じて毒の強さは変わるけれどね。ちなみに、闇の水にもちゃんとした使い道がある。除草剤なんかに優秀なんだ。普通の毒物よりも闇の水は使い勝手が良いからこの国では闇の水が街中で売っていたりする。薬品系の毒物は雑草を枯らしたあとも土地に残り続けて大地を毒していくけれど、闇の水は除草した後に魔法が解ける。そうするとただの水に戻ってしまうから、土地へのダメージがほぼ無いってわけだ。
そんな便利グッズを聖水に変化させるのが今日の課題。聖水は闇の水の真逆だからね。水に光の魔法をたっぷり込めれば完成する。分かりやすいだろう?
「──世をあまねく照らす我らが太陽神よ」
シャルルが詠唱を始めた。詠唱の最初は家によって違ったりするんだけど、シャルルの詠唱はこの世界で最も人気があるスタイル。太陽の神様に祈りを捧げるものだ。
「光を我に与えたまえ、清めの力を与えたまえ」
長々と複雑な言葉が並んだ後この言葉でしめくくるのが王道だ。シャルルが古臭くてわかりづらい詠唱を終えたけれど、闇の水は全く反応を示さない──はずだった。うん、いつもなら確実にそうなる。魔法は失敗し、シャルルが笑われて終わるのがお決まりのパターンだからね。でも今回は違った。灰色に濁った液体は光を放って、濁りはみるみるうちに消えていく。そして、ぼんやりと光を放つ透明な液体に変わった。
「すごいな!」
沈黙の教室で最初に声を上げたのは、つんつんした黒髪の男の子。シャルルはその男の子のことを知らなかった。新入りだったから当たり前だけど。
「わ、わたし……」
口ごもるシャルルに少年は近づいて肩を叩く。
「魔法上手なんだね、凄いや」
首をぶんぶんと横に振るシャルルを見て首を傾げる少年。そして、2人をみて何かを考え込む先生。ひそひそ話をしている女子達と、少年を引き戻そうとしている男の子たち。残りの訓練生たちはざわざわしている。端的に言うとこの教室は今カオスだ。
この後考え事を終わらせた先生が訓練生たちを黙らせるまで5分かかって、それからしばらく魔法の授業が続いた。でも先生が「今日は解散」とかなんとか言ってすぐに帰って行ってしまったので訓練生はみんな、またザワザワしながら寮に帰ることになった。男子2人と話しながら男子寮に向かう黒髪の男の子を、シャルルは勇気を出して呼び止める。
「お名前を教えてください!」
少年はきょとんとした。そして、にっこりした。
「アール。アール・レモンド!」
「アールさん、と仰るんですね」
シャルルが呟く。そして、次の瞬間彼女は勢い良く頭を下げた。顔を上げると、驚いているアールに向かって笑ってみせる。
「ありがとうございました。褒めてくれたのはあなたが初めてです。本当に嬉しかった」
少年は状況をよく理解していないまま頷いた。シャルルは急に恥ずかしくなってもう一度だけお礼を言うと、そそくさと女子寮に戻るのだった。
その日の夜のことだ。ギルドの集会所に張り出された勇者候補、聖女候補の両方が突然に変更された。国内で勇者・聖女に最もふさわしいとされている者のランキングに、初めて大きな変化が起きたのだ。
勇者候補第1位 アール・レモンド
聖女候補第1位 シャルルリーゼ・ロッテンブルク
翌朝、それを知ったギルドの面々は揃って同じ反応をした。
「アールって誰だコイツ」「シャルルリーゼって、“あの”シャルルリーゼか?」
こうした経緯で一気に名の知れた2人が、これからどんなくせ者に絡まれるのかはまた次の話。
聖女の能力は癒しと浄化。一代目の聖女は、光の魔法を人間達の中で最も得意としていたそうだ。そのせいか、聖女の子孫も光の魔法が得意な人間が多い。シャルルも、一応そうだった。シャルルも他の魔法と比べたら光の魔法が得意だ。でも、一番得意な光魔法ですら才能は下の中くらい。さっきの話でアールが触れた結晶は、触れた者の得意な魔法と魔力量を教えてくれるアイテムなんだけど、シャルルが触ると薄ぼんやり光るだけ。シャルルの両親が触ると、ちょっと目が痛いくらいに明るく光るんだけどね。ロッテンブルク家の他の人間も結晶をかなり強く光らせられる。それなのに、シャルルだけはダメだった。ちなみに、全く結晶が反応しなかったアールはどの魔法の適性もないってことだ。こういう人間はかなり珍しい。悪い意味でのレアだけどね。でも、レア度で言うならシャルルも同じようなものだ。シャルルの一族は皆光魔法が大の得意だから、1人だけ才能がないのは逆にすごい事だった。
さて、世間一般から残念な子と思われているシャルルだが、実はギルドの訓練生をやっている。訓練生というのは、ギルドが直々に作った未来のエリート戦闘職育成所のメンバーのことを指す。将来有望とされた若者はここにスカウトされるんだ。シャルルは才能なんてないって言ってただろ、だって?そう、その通り。シャルルは本当なら訓練生になんてなれない。でも聖女の子孫が戦闘訓練も受けないでふらふらしてるなんて、他の国に知れたらまずいだろう?人類の命運がかかっているのに舐めているのか!なんて、他の国たちから言われたら王様は困るんだ。だから形だけでもシャルルに訓練をさせている、って事。そんな理由で優秀な子供たちの中に放り込まれて、無能を晒すシャルルの気持ちは無視されてるというわけさ。王様というのは、たいていいつも弱者に対して酷だ。
「暴発させないでくださいね、シャルルリーゼ様」
噂をすれば、今日もシャルルは虐められているみたいだ。シャルルの家は偉いから皆敬語を使うけど、敬意を持っているかと言われればNOだ。だからこうやって、今から魔法の実践をするシャルルに嫌味を言う。気の弱いシャルルは何も言い返せない。
シャルルは先っぽに水晶玉がついた杖をぎゅっと握って祈った。どうか成功させてください、と。バカにされるのは慣れているけど、それでも悲しいから嫌だった。慣れれば嫌な事も平気になるなんて、そんなわけは無いからね。
さて、訓練の話に戻すよ。今回の実技は闇の魔法をかけられた液体の浄化となっている。闇の魔法をかけると、ただの水でも毒になる。術者の能力に応じて毒の強さは変わるけれどね。ちなみに、闇の水にもちゃんとした使い道がある。除草剤なんかに優秀なんだ。普通の毒物よりも闇の水は使い勝手が良いからこの国では闇の水が街中で売っていたりする。薬品系の毒物は雑草を枯らしたあとも土地に残り続けて大地を毒していくけれど、闇の水は除草した後に魔法が解ける。そうするとただの水に戻ってしまうから、土地へのダメージがほぼ無いってわけだ。
そんな便利グッズを聖水に変化させるのが今日の課題。聖水は闇の水の真逆だからね。水に光の魔法をたっぷり込めれば完成する。分かりやすいだろう?
「──世をあまねく照らす我らが太陽神よ」
シャルルが詠唱を始めた。詠唱の最初は家によって違ったりするんだけど、シャルルの詠唱はこの世界で最も人気があるスタイル。太陽の神様に祈りを捧げるものだ。
「光を我に与えたまえ、清めの力を与えたまえ」
長々と複雑な言葉が並んだ後この言葉でしめくくるのが王道だ。シャルルが古臭くてわかりづらい詠唱を終えたけれど、闇の水は全く反応を示さない──はずだった。うん、いつもなら確実にそうなる。魔法は失敗し、シャルルが笑われて終わるのがお決まりのパターンだからね。でも今回は違った。灰色に濁った液体は光を放って、濁りはみるみるうちに消えていく。そして、ぼんやりと光を放つ透明な液体に変わった。
「すごいな!」
沈黙の教室で最初に声を上げたのは、つんつんした黒髪の男の子。シャルルはその男の子のことを知らなかった。新入りだったから当たり前だけど。
「わ、わたし……」
口ごもるシャルルに少年は近づいて肩を叩く。
「魔法上手なんだね、凄いや」
首をぶんぶんと横に振るシャルルを見て首を傾げる少年。そして、2人をみて何かを考え込む先生。ひそひそ話をしている女子達と、少年を引き戻そうとしている男の子たち。残りの訓練生たちはざわざわしている。端的に言うとこの教室は今カオスだ。
この後考え事を終わらせた先生が訓練生たちを黙らせるまで5分かかって、それからしばらく魔法の授業が続いた。でも先生が「今日は解散」とかなんとか言ってすぐに帰って行ってしまったので訓練生はみんな、またザワザワしながら寮に帰ることになった。男子2人と話しながら男子寮に向かう黒髪の男の子を、シャルルは勇気を出して呼び止める。
「お名前を教えてください!」
少年はきょとんとした。そして、にっこりした。
「アール。アール・レモンド!」
「アールさん、と仰るんですね」
シャルルが呟く。そして、次の瞬間彼女は勢い良く頭を下げた。顔を上げると、驚いているアールに向かって笑ってみせる。
「ありがとうございました。褒めてくれたのはあなたが初めてです。本当に嬉しかった」
少年は状況をよく理解していないまま頷いた。シャルルは急に恥ずかしくなってもう一度だけお礼を言うと、そそくさと女子寮に戻るのだった。
その日の夜のことだ。ギルドの集会所に張り出された勇者候補、聖女候補の両方が突然に変更された。国内で勇者・聖女に最もふさわしいとされている者のランキングに、初めて大きな変化が起きたのだ。
勇者候補第1位 アール・レモンド
聖女候補第1位 シャルルリーゼ・ロッテンブルク
翌朝、それを知ったギルドの面々は揃って同じ反応をした。
「アールって誰だコイツ」「シャルルリーゼって、“あの”シャルルリーゼか?」
こうした経緯で一気に名の知れた2人が、これからどんなくせ者に絡まれるのかはまた次の話。
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