SIX RULES

黒陽 光

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第二条:仕事は正確に、完璧に遂行せよ。

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 ときはまた暫くが過ぎ、その週の終わり、花の金曜日の夕刻頃。和葉が無事に自宅マンションへ帰宅するのを影ながら見届けたハリーは隣のマンションの駐車場にインプレッサを突っ込み、そして監視拠点である四階・402号室へと戻ってきた。
 アルマーニのスーツジャケットを雑に脱ぎ、ダイニング・テーブルの椅子の背もたれへと掛けて。そうしながら首元のネクタイとワイシャツの襟首を緩めれば、ベランダの傍へ歩きながらハリーは自前のスマートフォンを懐より取り出す。
 眼下に見える和葉の部屋に電灯が灯るのを見下ろしながら、ハリーがスマートフォンの画面をタップし、電話帳から相手を呼び出すと発信ボタンを押す。電話回線に接続を始めたスマートフォンを左耳に当てれば、スピーカーから聞こえる数度のコール音の後に、電話の相手が電話口に出る。
『はぁい、晴彦。何の御用かしら?』
 相手は、冴子だ。相変わらずの調子で電話に出る彼女に、何故だか妙な疲れを感じてハリーは小さく溜息をつく。
「定期連絡だ、本日も異常なし。実に平和極まりない一日だったよ」
『はいはい、ご苦労様っ♪』
「ホントだよ、冴子。あのじゃじゃ馬娘の相手、追加手当が欲しいぐらいだ」
 溜息交じりに、半分の冗談を織り交ぜた一言をハリーが言うと、電話の向こうで冴子が『ふふっ……』と微かに微笑む。
「というか、疑うようで悪いが……。彼女、本当に誰かに狙われてるのか?」
『……正直、答える術は持たないわ』と、冴子が苦々しく答える。
『これだけの長い間、全力の捜索にも関わらず事務次官が未だ見つからない以上、何者かに拉致されたのはほぼ確実だと思うんだけれど……』
 言い淀む冴子に「続けろ」とハリーが急かす。それに冴子は『……ええ、分かったわ』と頷いて、それから言葉を続けた。
『敵の正体は、未だ不明って感じなの』
「公安が総力を尽くしてもか?」
『ええ』冴子が参ったように頷く。『手掛かりが、まるでゼロ』
「ってことは、俺のこの仕事もいつまで続くか、まだ不明瞭ってことか」
『そうなるわね。晴彦、貴方には悪いけれど……』
「良いさ、別に気にしなくても。生憎と、こういうパターンは始めてじゃない。上手くやってみせるよ」
 それから数言を交わした後で、ハリーは冴子との定期連絡を終えた。
 通話を終えたスマートフォンの画面を落とし、そしてダイニング・テーブルの上に置く。そうしてハリーがとりあえずシャワーでも浴びようかと浴室に向かおうとした矢先、しかしテーブルの上で再びスマートフォンが激しく震え始めた。
「誰だ……?」
 着信だ。こんな時にタイミングの悪い奴め、と思いつつ、ハリーはテーブルの近くに戻りスマートフォンを取り直す。
 そんな間の悪い着信の相手は、意外にもミリィ・レイスだった。こんな時に何の用だと少しばかり怪訝に思いつつ、ハリーはその電話に出る。
「俺だ。どうしたミリィ、君から連絡を寄越すなんて珍しい」
『例の彼女のこと、あれから少し気になって、ちょくちょく調べてたんだ』
 こんな具合に、ミリィは挨拶もそこそこにいきなり彼女の本題に切り込んできた。
「例の……? ああ、園崎和葉のことか」
『うん』頷くミリィ。『そしたら、面白いことが分かってね。だから君にこうして、連絡を寄越したんだ』
「面白いこと……?」
 ミリィ・レイスの口から出てくる"面白いこと"という言葉は、大抵がハリーにとってロクでもないことになることを彼は実体験を伴う形で痛いぐらいに知っている。だからか、少しの疑念を抱きつつそう、ミリィの言葉を反芻するように訊き返した。
 すると、ミリィは『詳しいことは、直接会って話そう』と言う。どうやら、電話越しでは話しにくいことらしい。益々の嫌な予感を抱きつつ、それを断る理由もないハリーは「分かった」とミリィの提案を二つ返事で了承した。
『ありがとう、助かるよハリー。ただ、これだけは言っておこうか。
 ――――どうやら今回の案件、あの"スタビリティ"が関わっているらしいんだ』
 "スタビリティ"――――。
 聞き覚えのあるその言葉を耳にし、ハリーはこの先に物凄い暗雲が立ち込み始めたことを自ずと察してしまっていた。
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